風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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混沌を極める2学期

二十話

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生徒会室での正木の姿がなかなか頭から離れず、姫川は思い足取りで寮への道を歩いた。
皆を先に帰し、一旦資料を風紀委員室まで持って行き寮に帰るところだった。
自分と決して目を合わせようとしない正木を思い出し、口から溜息が漏れる。
まるで以前の正木に戻ってしまったかのような態度に姫川は少なからずショックを受けていた。しかもその理由に検討がつかないのがより一層姫川を不安にさせた。
気づいたら、ボーッと立ち止まっていた様で、姫川は軽く首を振ると歩き出そうとする。
その時、
「大丈夫?」
後ろから突然声が上がり、姫川の肩が大袈裟なくらい跳ねた。
「ははっ、ごめん。急に話しかけたからびっくりしたよね。でもまさかそんな反応を姫川がするとは思わなかったな。」
そう笑って話しかけてくる人物を姫川は恨めしそうに睨んだ。
「こんな暗がりでいきなり話しかけられたら、普通驚くだろう。」
笑っている伊東にそう冷静に返せば、そうだね。と柔らかい返事が返ってきた。
「そうだね。でも、姫川に関しては何も怖いものなんてなさそうな顔をしているからさ。」
「・・・。」
しれっと失礼な事ばかり言う目の前の男に姫川は無言で返す。
「えっ?怒った?ごめんって。」
姫川の鋭い視線を受け、伊東が焦ったように謝る。その姿に呆れたような顔をすると姫川は口を開いた。
「もういい。それで?何か話でもあったのか?」
「いや、なんか暗がりに1人でボーッと立ってたから、何か悩みでもあるのかなと思って。」
途端に正木の顔が姫川の頭に浮かび、動揺しそうになる。しかし、それを悟られない様冷静に言葉を返そうとした時、
「この間から、あいつ変なんだよね。」
と伊東が唐突に喋った。
それが正木の事であると気づいた姫川は黙って伊東の話を聞く。
「少し前から機嫌は悪かったんだけど・・・この前1人になりたいって生徒会室を飛び出して行ったのを柏木が追いかけてから何か話したのかな?あの日から正木が益々イライラしているというか・・・」
柏木という単語が出たことで姫川は目を見開いた。その姫川の反応を伊東は冷静に観察しているようだった。
「やっぱり。」
そして確信を得たように1人呟いた。その呟きに姫川は首を傾げる。
「姫川、柏木と何かあっただろ?」
「っ!?」
まさかそんな事を言われると思ってなくて姫川は驚きの余り言葉が詰まる。
「おかしいと思ってたんだ。夏休みの前あたりから、姫川の柏木への反応が変わって来てたから。」
伊東の観察眼に姫川は思わず舌を巻く。
「後、今日の会議で柏木の姫川を見る目にとても悪意を感じた。なぁ、大丈夫なのか?あいつに何かされてるのか?」
先程の姫川を揶揄うような口調とは違い本当に心配してくれていると分かる伊東の態度に姫川は戸惑う。そしてそう言えば柏木が転校して間もない頃から伊東は柏木に懐疑的な感情を抱いていた事を思い出した。あの頃から柏木を疑っていたとは、牧瀬の言うとおり伊東は本当に人を見る目がある様だった。
「生徒会にもそうやって思ってくれる奴が居てくれて嬉しいよ。」
姫川のその言葉に伊東が苦々しい顔をする。
「生徒会の他の連中は柏木の事を疑ってさえいないよ。でも、最近の柏木はなんか雰囲気がヤバいよ。俺も出来るだけ関わりたくないけど、でももし姫川が悩んでるんだったら、俺は力になりたいよ。本当にしんどい時に姫川は俺を助けてくれたから。」
その言葉に姫川は双眸を細めた。そして、
「ありがとう。」
と素直に礼を言った。
「でも、今回正木がどうしてあんなにイライラしているのか俺自身、全然検討がつかないんだ。だから、また何かあったらその時相談させてもらうよ。」
姫川の言葉に伊東は顔を歪ませる。それは姫川が自分に相談してくる事はきっとないだろうということが分かってしまったからだ。

その後適当に二言三言交わして姫川と別れた。
姫川と別れた後、伊東はどうしようもなくイライラしていた。
ここ最近の正木の機嫌の悪さの原因はおそらく姫川で、そしてその気持ちを煽るような事を柏木が言った事は伊東にも何となく予想はついていた。
でも、どうして正木は姫川を信じてやらないのだろうと思う。あんなに大切に、好きな感情を周りに隠そうともせず伝えているくせに、肝心な時には信じない。
そんな正木に伊東は憤らずにはいられなかった。
好きなら、そいつのことを無条件に信じてやれよ!
伊東は近くに落ちていた石を思いっきり蹴飛ばした。
「くそっ!」
最後自分に礼を言う姫川の寂しそうな顔が伊東の頭にこびりついて離れなかった。
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