風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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混沌を極める2学期

二十一話

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瀬戸田は緊張していた。
今日は柏木が部屋に戻ってきたら、自分が今までされて来たことを洗いざらい柏木に報告しようと決めていた。
最初は、柏木を傷つけない為に、何より自分が柏木に嫌われないために、ずっと黙っていようと思っていたが、先日姫川と話したことで瀬戸田は気持ちを切り替えていた。
今日は絶対に葵くんに言って、あいつらの暴力を終わらせるんだ。
瀬戸田にとって本当のことを伝えるのは勇気がいるし、怖いことだったけど、たった数回話をしただけの姫川が自分のことを気にかけそう助言してくれたのがとても嬉しかったのだ。
瀬戸田は自室の2段ベッドの下側に座ってジッと柏木が帰ってくるのを待っていた。

外も暗くなり始め、少しお腹が空いて来た頃、カチャッと自室のドアを開く音がした。
その音に瀬戸田の心臓が激しく跳ねた。
「ただいま。あぁ、疲れた~。」
柏木がそう言いながら部屋に入ってきた。夜といえどもまだ外は暑くしっとりと汗ばんだ顔を手で仰ぎながら瀬戸田の方までやって来た。
「お疲れ様。遅かったね。」
「今日も文化祭の企画書の選定だよ。毎日書類との睨めっこで流石に俺の集中力も限界だわ。」
いつものように他愛のない会話をする2人だが、瀬戸田の顔は心なしか強張っていた。
それを知ってか知らずか、柏木が口を開く。
「あれっ?まだご飯食べてないの?一緒に食べる約束してたっけ?」
首を傾げる柏木に瀬戸田が言いにくそうに小さく呟いた。
「いや、実は少し話したいことがあって、葵くんが帰ってくるのを待ってたんだ。」
「話したいこと?」
「う、うん・・・ずっと葵くんに迷惑かけたくなくて言えなかったんだけど実は、あの・・・」

緊張でうまく言葉を紡げなくて、どこまで柏木に伝わっているか不安になりながらも、瀬戸田は自分が今まで受けていた行為を一生懸命伝えた。
しかし、
「・・・。」
柏木からは特に言葉を返されることはなく、無言の時間が続いた。
目を見て柏木と話すことが出来ず、俯いて話していた瀬戸田だったが、柏木がずっと無言なのが無性に不安になりパッと顔を上げた。
そして瀬戸田はその柏木の顔を見て目を見開いた。
そこには凄く苦しそうな、悲しそうな顔をした柏木が瀬戸田を見つめたまま立っていた。
そして柏木はいつもの明るい様子が嘘のように静かに口を開いた。
「やっと話してくれたんだね・・・でも、その話は史人の口から1番に聞きたかったな。」
柏木の言っている意味が分からなくて瀬戸田は首を傾げる。
「な、何?どう言う意味?」
混乱している瀬戸田の言葉を聞かず、柏木はそのまま言葉を続ける。
「どうして今まで話してくれなかったんだよ。史人が傷ついてるなら俺だって直ぐに力になりたかったのに。どうして1番に話してくれなかったんだよ・・・俺ってそんなに史人にとって頼りないのか?」
「ち、違うよ!ただ僕は葵くんに迷惑をかけたくなくて・・・でも、直ぐには話せなかったけど葵くんに1番に相談したよ。」
瀬戸田が必死でそう説明するが、柏木は冷たい目で瀬戸田を一瞥する。
その目に何故か瀬戸田は背筋が凍りつきそうになった。
「嘘つくなよ。俺より先に姫ちゃんに相談しただろ?」
柏木のその言葉に瀬戸田は時が止まったように体を硬直させた。
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