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第二話 お断り致します。

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 そう訊ねると、アルス様は気まずそうに目を逸らされました。

「あの・・・・・・」

 ご返答を頂けなかったので、更にお声掛け致しますと、アルス様はぐっと唇を噛み締められた後、お答え下さいました。

「はい。間違いなく。マリア様に聖女へ復帰頂くことを陛下はお望みです」

「・・・・・・左様でございますか」

「お戻り頂けますか?」

 僅かに逡巡しましたが、しっかり考えるよりも先に声が出てしまいました。

「申し訳ありませんが、謹んでお断り致します」

 どうにも、国を追われた時のことを思い出すと、戻る気にはなれないんですよねぇ。
 いえ、別に恨み辛みはありませんよ?
 ただ自由気ままな今の生活に慣れてしまうと、時間ぎっちぎちの聖女のお仕事に戻りたいとは思えません。
 なので、お断り申し上げますと、アルス様は苦々しそうに、言いたくなさそうなお顔でおっしゃいました。

「マリア様。申し上げたくはなかったのですが、これは陛下のご命令です」

「あー・・・・・・なるほど。私に拒否権はないと?」

 アルス様がこくりと頷かれます。
 王命である以上、彼らは私をタンジェラ王国へと連れて行かなくてはいけないのでしょう。
 でなければ、彼らは罰を受けてしまうかもしれません。
 それを思うと、望み通りにして差し上げたいという気持ちが少し沸き上がってきます。ですけれど──

 生憎、私は十年前の私ではないのです。
 心も、体も──。いえ、体は十年前のままなのですが、返ってそれが問題なのです。
 この身の秘密がバレてしまえば、大変なことになってしまうかもしれません。それは何としてでも避けなければいけないことです。
 私がタンジェラ王国以外の国に行かず、このトライアの森で暮らしているのもそのためなのですから。
 だから、彼らにはどうにか諦めて頂かなくてはなりません。
 勿論、力ずくではなく、言葉で、です。
 こう言ってはなんですが、彼らを言い負かして、追い返すことが出来れば、一安心でしょう。

「そうですか・・・・・・時に、グレヒト王太子殿下はお元気でいらっしゃいますか? 私への追放令を解くとおっしゃられた陛下のご判断をグレヒト殿下はどうお考えでしょうか?」

 私を追放することをお決めになられたのは国王陛下ですが、そうなるよう希望し、差し向けられたのはグレヒト殿下です。
 なのに、此度の撤回。グレヒト殿下が黙っておられるとは思えません。
 そもそも、タンジェラ王国を離れて久しいので、今のタンジェラ王国がどうなっているかが分かりません。
 少なくとも、追放された十年前は私を戻すなど決してあり得ないといった空気でした。

 追放された時のことを思い出します。
 私が何をしたのかというと、別に何もしていません。追放された理由も冤罪ですし。
 強いて理由を上げるなら、十も歳の離れた年増女はグレヒト殿下の好みではなかったのでしょう。

 私はタンジェラ王国にいた時、聖女という大切な職務を与えられておりました。
 その希少性からか、私は王太子であらせられるグレヒト殿下の婚約者に選ばれたのです。

 それがどうして現在に至るのか──話せば長くなりますが。
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