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第四話 回想 影が射す
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「聖女マリア。俺はレアラと結婚する。そのためにはお前との関係は障害でしかない。よって、婚約は解消させてもらう」
珍しく教会にいらっしゃったグレヒト殿下は、挨拶もそこそこにそうおっしゃいました。
「まぁ・・・・・・その、レアラ様がどなたかお訊きしてもよろしいでしょうか?」
グレヒト殿下のお話はあまりにも突然で、私はそのレアラ様という方を存じ上げなかったため、ついそうお訊ねしてしまいました。お話からして、グレヒト殿下が好意を寄せている方、というのは分かりました。
「レアラはドリイータ公爵家の令嬢で、俺の学友であり、将来を共にしたいと思っている女だ」
「まぁ!」
よくよく考えればおかしなお話でしたが、その時は素敵な青春を送っていらっしゃるのだと微笑ましい気持ちになりました。私はお勉強は教会で習いましたから、学園には通っていなかったので、学園生活などに憧れがあったのです。
「グレヒト殿下はレアラ様がお好きなのですね」
「そうだ。愛している。そんなレアラを側妃にする訳にはいかない。正統な妃──正妃として迎えるつもりだ。当然、身を引くよな?」
「それは──」
そこまで言われて、ようやく婚約解消のお話について真剣に考えた私は、言葉に詰まってしまいました。
きっと、グレヒト殿下がお見初めになられたレアラ様という方は素敵なご令嬢なのでしょう。ご学友なのでしたら、同い年でしょうか?
グレヒト様は学園の中等部に入学された頃から、よく私の年齢を気にしている節の言動が多くなられました。
元より、十歳も歳が離れておりました故、このようなおばさんと婚約なんて嫌だったのでしょう。幼い頃はともかく、今はもうすっかりお年頃ですし。
まぁ、共に人生を歩いてゆくのでしたら、歳の近い若くて可愛らしい子がいいと思うのは仕方がありません。
とは言え、私が合意したとしても、グレヒト殿下の一任で解消出来る婚約ではないことも確かです。
「そのお話は陛下にはもうされたのですか?」
そうお訊ね致しますと、グレヒト殿下はよりいっそう険しいお顔をされて、低いお声でご説明下さいました。
「話したに決まっているだろう。この婚約は父上が決めたものだぞ? お前、まさか俺を馬鹿にしているのか?」
「いえ! そんな滅相もございません。お気を悪くされたのなら謝罪致します。どうぞ、ご容赦を」
ご様子からして、陛下とのお話は決裂で終わってしまったのでしょう。グレヒト様はお話を続けられます。
「これから話すところだったんだ。ったく、話の腰を折るな──で、陛下にお前との婚約を解消したいと言ったが、反対された。王侯貴族と教会の繋がりをより強固にし、国を割るようなことがないようにと」
教会は一種の不可侵領域であり、王国内では独立した面があります。
そうですね。国に於いて一番偉いお方は国王陛下ですが、教会に於いて一番偉いお方は教皇様です。そして、場合によっては教会の方々は国王陛下よりも教皇様の命を優先される程、とても強い力をお持ちになっている方です。
国教の神様を奉っておりますので、タンジェラ王国国民にも絶大な影響力を持っています。
それを考えれば、国王陛下のおっしゃるように、王族と教会が国を分断してしまうこともあるかもしれません。なるほど、そういったことも見据えた末の婚約だったのですね。でしたら、尚のこと解消は難しいのではないでしょうか?
「父上が心配性過ぎる! 王族は磐石だし、国教教会とはいえ、国の根幹を揺るがすなど出来る筈がない! 確かに教会の求心力は評価に値するが、何も王太子でなくてもいいだろう。行き遅れの年増女なのだから、有力貴族の後妻にでも納めれば十分だろうに」
「グレヒト殿下、どんなに頑強に見える岩でも脆い部分は必ずあります。磐石と思わずに、その時打てる最善手を打つのが陛下のお仕事なのですよ」
やはり、こういったところはまだ幼く、お勉強中なのでしょう。グレヒト様には少し、驕ったところが見受けられました。
ところで、後妻とは細君を亡くされた方の後添いとなるということですよね?
なるほど。もしもグレヒト殿下との婚約が解消になれば、そのようなことも有り得るのですね。
タンジェラ王国の女性の結婚適齢期は成人前。ですが、私は成人した年に殿下と婚約をしましたから、現状確かに行き遅れになっていますね。
「そんなことお前に言われずとも分かっている! とにかくだ! 婚約を解消するために、何か策を出せ!」
「ええ!? 急に申されましても、どうしたら──」
突然の要求に困っていると、教会の方が私を呼びにいらっしゃいました。
「聖女様! 王都近郊の上空にて、有翼魔物が確認されました! 出動願います!」
「! 分かりました。すぐに参ります! 殿下、申し訳ございません。どうか、その件は陛下とより深くお話し合い下さいませ。私にはそれしか申し上げられません。では、失礼致します!」
「あっ、おい!」
グレヒト殿下が呼び止められる声が聞こえましたが、緊急事態でしたので、失礼ながら私は振り返ることなく、魔物が確認された現場へと向かいました。
「俺が話している途中で抜けるとは、何て女だ! わざわざ教会まで出向いて来てやったんだぞ!? ん? 教会? そうか、ここはあいつの職場だったな──」
帰ってきた時に、大変なことになっているとは思いもせずに。
珍しく教会にいらっしゃったグレヒト殿下は、挨拶もそこそこにそうおっしゃいました。
「まぁ・・・・・・その、レアラ様がどなたかお訊きしてもよろしいでしょうか?」
グレヒト殿下のお話はあまりにも突然で、私はそのレアラ様という方を存じ上げなかったため、ついそうお訊ねしてしまいました。お話からして、グレヒト殿下が好意を寄せている方、というのは分かりました。
「レアラはドリイータ公爵家の令嬢で、俺の学友であり、将来を共にしたいと思っている女だ」
「まぁ!」
よくよく考えればおかしなお話でしたが、その時は素敵な青春を送っていらっしゃるのだと微笑ましい気持ちになりました。私はお勉強は教会で習いましたから、学園には通っていなかったので、学園生活などに憧れがあったのです。
「グレヒト殿下はレアラ様がお好きなのですね」
「そうだ。愛している。そんなレアラを側妃にする訳にはいかない。正統な妃──正妃として迎えるつもりだ。当然、身を引くよな?」
「それは──」
そこまで言われて、ようやく婚約解消のお話について真剣に考えた私は、言葉に詰まってしまいました。
きっと、グレヒト殿下がお見初めになられたレアラ様という方は素敵なご令嬢なのでしょう。ご学友なのでしたら、同い年でしょうか?
グレヒト様は学園の中等部に入学された頃から、よく私の年齢を気にしている節の言動が多くなられました。
元より、十歳も歳が離れておりました故、このようなおばさんと婚約なんて嫌だったのでしょう。幼い頃はともかく、今はもうすっかりお年頃ですし。
まぁ、共に人生を歩いてゆくのでしたら、歳の近い若くて可愛らしい子がいいと思うのは仕方がありません。
とは言え、私が合意したとしても、グレヒト殿下の一任で解消出来る婚約ではないことも確かです。
「そのお話は陛下にはもうされたのですか?」
そうお訊ね致しますと、グレヒト殿下はよりいっそう険しいお顔をされて、低いお声でご説明下さいました。
「話したに決まっているだろう。この婚約は父上が決めたものだぞ? お前、まさか俺を馬鹿にしているのか?」
「いえ! そんな滅相もございません。お気を悪くされたのなら謝罪致します。どうぞ、ご容赦を」
ご様子からして、陛下とのお話は決裂で終わってしまったのでしょう。グレヒト様はお話を続けられます。
「これから話すところだったんだ。ったく、話の腰を折るな──で、陛下にお前との婚約を解消したいと言ったが、反対された。王侯貴族と教会の繋がりをより強固にし、国を割るようなことがないようにと」
教会は一種の不可侵領域であり、王国内では独立した面があります。
そうですね。国に於いて一番偉いお方は国王陛下ですが、教会に於いて一番偉いお方は教皇様です。そして、場合によっては教会の方々は国王陛下よりも教皇様の命を優先される程、とても強い力をお持ちになっている方です。
国教の神様を奉っておりますので、タンジェラ王国国民にも絶大な影響力を持っています。
それを考えれば、国王陛下のおっしゃるように、王族と教会が国を分断してしまうこともあるかもしれません。なるほど、そういったことも見据えた末の婚約だったのですね。でしたら、尚のこと解消は難しいのではないでしょうか?
「父上が心配性過ぎる! 王族は磐石だし、国教教会とはいえ、国の根幹を揺るがすなど出来る筈がない! 確かに教会の求心力は評価に値するが、何も王太子でなくてもいいだろう。行き遅れの年増女なのだから、有力貴族の後妻にでも納めれば十分だろうに」
「グレヒト殿下、どんなに頑強に見える岩でも脆い部分は必ずあります。磐石と思わずに、その時打てる最善手を打つのが陛下のお仕事なのですよ」
やはり、こういったところはまだ幼く、お勉強中なのでしょう。グレヒト様には少し、驕ったところが見受けられました。
ところで、後妻とは細君を亡くされた方の後添いとなるということですよね?
なるほど。もしもグレヒト殿下との婚約が解消になれば、そのようなことも有り得るのですね。
タンジェラ王国の女性の結婚適齢期は成人前。ですが、私は成人した年に殿下と婚約をしましたから、現状確かに行き遅れになっていますね。
「そんなことお前に言われずとも分かっている! とにかくだ! 婚約を解消するために、何か策を出せ!」
「ええ!? 急に申されましても、どうしたら──」
突然の要求に困っていると、教会の方が私を呼びにいらっしゃいました。
「聖女様! 王都近郊の上空にて、有翼魔物が確認されました! 出動願います!」
「! 分かりました。すぐに参ります! 殿下、申し訳ございません。どうか、その件は陛下とより深くお話し合い下さいませ。私にはそれしか申し上げられません。では、失礼致します!」
「あっ、おい!」
グレヒト殿下が呼び止められる声が聞こえましたが、緊急事態でしたので、失礼ながら私は振り返ることなく、魔物が確認された現場へと向かいました。
「俺が話している途中で抜けるとは、何て女だ! わざわざ教会まで出向いて来てやったんだぞ!? ん? 教会? そうか、ここはあいつの職場だったな──」
帰ってきた時に、大変なことになっているとは思いもせずに。
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