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第五話 回想 冤罪追放
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その日お会いした魔物さんは、お話が通じる方々で、たまたま知らずにタンジェラ王国の上空を飛んでいらっしゃったようで、事情を説明して進路を変更して頂くことでお話が落ち着きました。
なので、そこまで労することなく、教会へと戻れました。ですが、戻った教会は大変なことになっていたのです。
「ただいま帰りました」
私が戻ったことを告げると、教会内は騒々しく、神官の方々が右へ左へとバタバタと走り回っていらっしゃいました。普段はしずしずと背筋を伸ばして悠然と歩いている神官さんたちを見て、私は何があったのでしょうか? と少し心細い気持ちになりました。
行く人行く人、皆さんお忙しそうで、どなたに事情を窺ったらよいのか迷っていると、一人の見習い神官の格好をした少女がパタパタと駆け寄って来ました。
私のお手伝いをしてくれているフィーアちゃんという女の子です。
くりくりとした丸い瞳をくるくる回して、来てくれたフィーアちゃんに私はお話を訊きました。
「聖女様!」
「フィーアちゃん、何があったのですか?」
「それが──グレヒト殿下がいきなり教会中を荒らし回って──せ、聖女様が魔族と癒着していると主張しているのです!」
「──はい?」
思わず、ポカンとしてしまいましたが、背後から掛かったお声で我に返りました。
「戻ったのか? 聖女マリア、これはどういうことか説明して貰おうか!」
胸を張って堂々と立っているグレヒト殿下がいらっしゃいました。
「グレヒト殿下。申し訳ありませんが、先に何があったのかをご説明頂けませんか?」
何の説明を求められているのか分からず、首を傾げてお訊ねしますと、グレヒト殿下はお鼻をふんっと鳴らしてから、ご説明下さいました。
「今更しらばくれても無駄だ! お前が魔族と密通していたことは分かっている!」
「何のことでしょうか? そのような心当たり、全くありませんが」
お話の出来る魔族の方々とは、事を穏便に済ませるために時間を掛けて交渉するそとはあります。
ですが、それは問題の平和的な解決のためです。
間違っても、密通などと呼ばれる行為はしておりません。
「惚けるな。お前は密かに魔族共から希少品等を受け取り、聖女という立場を利用し、奴等の利益になるよう便宜を図っていただろう!」
「はい!? いえ、そのようなことは──魔族の方から何かを貰ったことなど誓ってありません!」
何故、そのようなことをグレヒト殿下が言い出したのか、この時はさっぱり分かりませんでした。
ただ、とにかく潔白である以上、疑いは晴らさなくてはいけません。
そこでふと、グレヒト殿下がこのようなことを言い出したのには、それなりの根拠があってのことだと思い、私は言いました。
「何故、グレヒト殿下はそうお思いになられたのですか?」
すると、グレヒト殿下は不敵に微笑まれて、内ポケットから取り出したある物を見せてこられました。
「この邪眼石がお前の部屋から出てきた! これこそ、お前が魔族と繋がっていた動かぬ証拠だ! 言い逃れは出来ないぞ」
「邪眼石? 何故、そんな物が私の部屋から?」
邪眼石とは、魔族が有する宝石の一つです。
ゴルゴーンさんなどの邪眼を持つ魔族さんが亡くなると、骨と共に瞳だけは残り続けます。そして、何百年もの時を掛けて結晶化したものが邪眼石です。そのため、ほとんどは形見として一族の子孫が保存されるので、人が手に入れることはほぼ不可能とされています。それが何故、私のお部屋から出てきたのでしょうか?
「お前が私欲のために魔族から受け取ったんだろう。お前たち、聖女マリア──いや、反逆者のマリア・フィリスを拘束しろ。聖女といえど、所詮は裏切り者。手心は加えるなよ」
グレヒト殿下の言葉に従って、衛兵さん達が私の首下で二本の槍が交差し、動きを制限されました。
「聖女マリア──いえ、マリア・フィリス。ご同行願います」
「これは何かの間違いです」
私は最後までそう主張しましたが、物的証拠を以ての王子の命だったため、私は捕らえられ、牢へ収監されてしまいました。
その後、国王陛下の前へ連れ出され、その場でも弁明しましたが、何故か更なる余罪が付くだけで、容疑を晴らすことは出来ず、私は追放を命じられました。
その時のお話については、あまり殿下は関係ありませんので、また機会のある時に。
追放前に殿下との婚約は破棄となりました。
その時には流石にグレヒト殿下が仕掛けられたことだと気づいておりましたが、もうどうすることも出来ません。
最後まで聖女のお仕事を遂行出来なかったのは心残りでしたが、私はタンジェラ王国を去りました。
なので、今更私が戻ることをグレヒト殿下が賛成なさるとは思えないのです。
なので、そこまで労することなく、教会へと戻れました。ですが、戻った教会は大変なことになっていたのです。
「ただいま帰りました」
私が戻ったことを告げると、教会内は騒々しく、神官の方々が右へ左へとバタバタと走り回っていらっしゃいました。普段はしずしずと背筋を伸ばして悠然と歩いている神官さんたちを見て、私は何があったのでしょうか? と少し心細い気持ちになりました。
行く人行く人、皆さんお忙しそうで、どなたに事情を窺ったらよいのか迷っていると、一人の見習い神官の格好をした少女がパタパタと駆け寄って来ました。
私のお手伝いをしてくれているフィーアちゃんという女の子です。
くりくりとした丸い瞳をくるくる回して、来てくれたフィーアちゃんに私はお話を訊きました。
「聖女様!」
「フィーアちゃん、何があったのですか?」
「それが──グレヒト殿下がいきなり教会中を荒らし回って──せ、聖女様が魔族と癒着していると主張しているのです!」
「──はい?」
思わず、ポカンとしてしまいましたが、背後から掛かったお声で我に返りました。
「戻ったのか? 聖女マリア、これはどういうことか説明して貰おうか!」
胸を張って堂々と立っているグレヒト殿下がいらっしゃいました。
「グレヒト殿下。申し訳ありませんが、先に何があったのかをご説明頂けませんか?」
何の説明を求められているのか分からず、首を傾げてお訊ねしますと、グレヒト殿下はお鼻をふんっと鳴らしてから、ご説明下さいました。
「今更しらばくれても無駄だ! お前が魔族と密通していたことは分かっている!」
「何のことでしょうか? そのような心当たり、全くありませんが」
お話の出来る魔族の方々とは、事を穏便に済ませるために時間を掛けて交渉するそとはあります。
ですが、それは問題の平和的な解決のためです。
間違っても、密通などと呼ばれる行為はしておりません。
「惚けるな。お前は密かに魔族共から希少品等を受け取り、聖女という立場を利用し、奴等の利益になるよう便宜を図っていただろう!」
「はい!? いえ、そのようなことは──魔族の方から何かを貰ったことなど誓ってありません!」
何故、そのようなことをグレヒト殿下が言い出したのか、この時はさっぱり分かりませんでした。
ただ、とにかく潔白である以上、疑いは晴らさなくてはいけません。
そこでふと、グレヒト殿下がこのようなことを言い出したのには、それなりの根拠があってのことだと思い、私は言いました。
「何故、グレヒト殿下はそうお思いになられたのですか?」
すると、グレヒト殿下は不敵に微笑まれて、内ポケットから取り出したある物を見せてこられました。
「この邪眼石がお前の部屋から出てきた! これこそ、お前が魔族と繋がっていた動かぬ証拠だ! 言い逃れは出来ないぞ」
「邪眼石? 何故、そんな物が私の部屋から?」
邪眼石とは、魔族が有する宝石の一つです。
ゴルゴーンさんなどの邪眼を持つ魔族さんが亡くなると、骨と共に瞳だけは残り続けます。そして、何百年もの時を掛けて結晶化したものが邪眼石です。そのため、ほとんどは形見として一族の子孫が保存されるので、人が手に入れることはほぼ不可能とされています。それが何故、私のお部屋から出てきたのでしょうか?
「お前が私欲のために魔族から受け取ったんだろう。お前たち、聖女マリア──いや、反逆者のマリア・フィリスを拘束しろ。聖女といえど、所詮は裏切り者。手心は加えるなよ」
グレヒト殿下の言葉に従って、衛兵さん達が私の首下で二本の槍が交差し、動きを制限されました。
「聖女マリア──いえ、マリア・フィリス。ご同行願います」
「これは何かの間違いです」
私は最後までそう主張しましたが、物的証拠を以ての王子の命だったため、私は捕らえられ、牢へ収監されてしまいました。
その後、国王陛下の前へ連れ出され、その場でも弁明しましたが、何故か更なる余罪が付くだけで、容疑を晴らすことは出来ず、私は追放を命じられました。
その時のお話については、あまり殿下は関係ありませんので、また機会のある時に。
追放前に殿下との婚約は破棄となりました。
その時には流石にグレヒト殿下が仕掛けられたことだと気づいておりましたが、もうどうすることも出来ません。
最後まで聖女のお仕事を遂行出来なかったのは心残りでしたが、私はタンジェラ王国を去りました。
なので、今更私が戻ることをグレヒト殿下が賛成なさるとは思えないのです。
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