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第十三話 日常会話は非日常
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「アレ──レクス様はお昼はどうされるのですか?」
つい、いつものように名前で呼ぼうとして、一度閉口してから、愛称で呼んで訊ねた。
「俺も弁当派ではないからな。普段から昼食は購買部で買ってるから、そっちに行こうかと」
「そうなんですか。私、購買部って利用したことないんですよね。どんな感じですか?」
「どんなって、別に普通だ。包装されたパンや弁当が箱の中に並べられて、好きなものを買うだけだ」
「じゃあ、レクス様はお弁当を?」
ぼんやりと購買部のイメージを脳内で作り出しながら、何となく背の高いアレックスはパンよりも量のあるお弁当を食べるだろうと、お弁当を買っている姿を想像した。
「いや、普段はパンだ。昼休憩にも色々作業しているからな。パンだと片手しか使わないから食べやすい」
「それで足りるんですか? レクス様だってまだまだ育ち盛りでしょう? 同級生の男子たちはかなりの量を食べているように見えますが」
レティシアは昼食は一人か、マーサなどの少人数の友人たちと取ることがほとんどだが、いつも食堂を利用しているため、目端に映る男子生徒が食べている量くらいは知っている。それを思い出してパンだけで満足いくのだろうかと思った。
「割りと腹に貯まるぞ。パンといっても多種多様だからな。俺は肉やフライを挟んだものをよく食べているが、二つでもここの定食一食分を食べるのと同じくらい腹が膨れると思うぞ」
「かなりボリュームがあるのですね」
「ああ。味もなかなかいいぞ。ただ、ここからだと少し距離があるが」
王立学園の敷地は広い。そのため、食堂や購買部のような飲食のための場所は密集しないように、それぞれ距離をおいて配置されている。レティシアが購買部を利用したことがないのも、第一食堂に比べて、購買部がレティシアのクラスから遠いからだった。
「では、今日はこちらで昼食を取られてはいかがでしょう? よろしかったら、ご一緒しませんか」
「いいのか?」
予想外の申し出だったのか、アレックスはポカンと目を丸くした。
「せっかくですし、はい。それに昨日聞いたのですが、恋人というのは一緒にお昼を食べるそうですよ」
昨日ヘンゼルから聞いたことを思い出し、レティシアは付け足すように言った。
出来る範囲で恋人として過ごすと決めた以上、今が実践のチャンスだと思ったのだ。
「そういうものなのか。それもロッシー・クレアランブルの入れ知恵か?」
「いえ。昨日、アレックス様と別れたあの後に、中庭でヘンゼル様とお会いしまして、少しお話したんです」
「ランジュバル伯爵か」
アレックスも中庭のエルツィア・リーフディウスの大樹のことは当然知っている。ヘンゼルとエルツィアが正しく想い合った恋人同士であったことも。
ロッシーの恋愛指南とやらより、ヘンゼルから聞いたという話の方が健全で真っ当だろうと思ったアレックスは、恋人っぽいことをするために食堂で昼食を取ることにした。
「じゃあ、注文してくる」
「あ、私も行きます」
立ち上がったアレックスに、レティシアも着いていこうとしたが、手で制された。
「追加注文か?」
「はい」
「なら、ついでに俺が取ってきてやる。何が欲しいんだ?」
「よろしいのですか? では、ポトフのおかわりを」
レティシアは居住まいを正してから、アレックスに欲しいメニューを伝えた。
ロッシーたちと話し合っていた最中にポトフが冷めてしまい、もう一度熱々のを食べたいというのもあるが、このままだと後から食べ出したアレックスより大分早く食事を済ませてしまい、アレックスが食べ終わるまで手持ち無沙汰になると思ったからだ。
「分かった。少し待っていろ」
「ありがとうございます」
配膳口へ向かったアレックスを待っている間、レティシアは葉野菜が僅かばかりに残ったサラダをつつきながら物思いに耽った。
(昨日は恋人になって、今日は愛称で呼んで、呼ばれて・・・・・・目まぐるしいというか、忙しないというか──)
何と言うか、激動だった。
少なくとも一昨日──いや、昨日の昼休み前まではこんなことになるなどと欠片も思ってなかったのだから。
恋愛感情などないのだから、恋人になったところでアレックスに向ける感情は変わらない。ただ、状況が変わったことで、アレックスと今までならしなかったような普通の会話をしていることが不思議だった。
上辺の関係性が変わった。呼び方が変わった。一緒に昼食など、昨日まではあり得なかった。
(非日常的と言いますか、現実感がないといいますか──まぁ、昨日の今日ですし。それにしても、案外普通の会話も出来るものですねぇ)
別にアレックスが年がら年中怒り狂っていて、話の通じない人物とまでは思っていないが、それでもアレックスとの日常会話が成り立っているのが意外だった。
今までの二人の会話と言えば、ほとんどがロッシーとキャサリンについてだ。
あいつらはどこにいる? とか、あいつらは何とかならないのか? とか、そういう話ばっかりだった。そもそも共通の話題もないし、アレックスと共に行動する時はロッシーとキャサリン絡みなのだから、当然と言えば当然だが。
(ロッシー様たちを別れさせることに成功したところで、マイナスがなくなるだけですけど、こうやってアレックス様とお話することで苦手意識が薄れるなら、悪いことでもないかもですね)
そう思いかけたものの、そもそもロッシーたちの関係が解消されればアレックスと接する機会もほとんどなくなるから別に苦手意識を改善する必要性は特にないことに気づいたのは、レティシアの倍はありそうなランチの盛られたトレイを持ってアレックスが戻ってきた時だった。
つい、いつものように名前で呼ぼうとして、一度閉口してから、愛称で呼んで訊ねた。
「俺も弁当派ではないからな。普段から昼食は購買部で買ってるから、そっちに行こうかと」
「そうなんですか。私、購買部って利用したことないんですよね。どんな感じですか?」
「どんなって、別に普通だ。包装されたパンや弁当が箱の中に並べられて、好きなものを買うだけだ」
「じゃあ、レクス様はお弁当を?」
ぼんやりと購買部のイメージを脳内で作り出しながら、何となく背の高いアレックスはパンよりも量のあるお弁当を食べるだろうと、お弁当を買っている姿を想像した。
「いや、普段はパンだ。昼休憩にも色々作業しているからな。パンだと片手しか使わないから食べやすい」
「それで足りるんですか? レクス様だってまだまだ育ち盛りでしょう? 同級生の男子たちはかなりの量を食べているように見えますが」
レティシアは昼食は一人か、マーサなどの少人数の友人たちと取ることがほとんどだが、いつも食堂を利用しているため、目端に映る男子生徒が食べている量くらいは知っている。それを思い出してパンだけで満足いくのだろうかと思った。
「割りと腹に貯まるぞ。パンといっても多種多様だからな。俺は肉やフライを挟んだものをよく食べているが、二つでもここの定食一食分を食べるのと同じくらい腹が膨れると思うぞ」
「かなりボリュームがあるのですね」
「ああ。味もなかなかいいぞ。ただ、ここからだと少し距離があるが」
王立学園の敷地は広い。そのため、食堂や購買部のような飲食のための場所は密集しないように、それぞれ距離をおいて配置されている。レティシアが購買部を利用したことがないのも、第一食堂に比べて、購買部がレティシアのクラスから遠いからだった。
「では、今日はこちらで昼食を取られてはいかがでしょう? よろしかったら、ご一緒しませんか」
「いいのか?」
予想外の申し出だったのか、アレックスはポカンと目を丸くした。
「せっかくですし、はい。それに昨日聞いたのですが、恋人というのは一緒にお昼を食べるそうですよ」
昨日ヘンゼルから聞いたことを思い出し、レティシアは付け足すように言った。
出来る範囲で恋人として過ごすと決めた以上、今が実践のチャンスだと思ったのだ。
「そういうものなのか。それもロッシー・クレアランブルの入れ知恵か?」
「いえ。昨日、アレックス様と別れたあの後に、中庭でヘンゼル様とお会いしまして、少しお話したんです」
「ランジュバル伯爵か」
アレックスも中庭のエルツィア・リーフディウスの大樹のことは当然知っている。ヘンゼルとエルツィアが正しく想い合った恋人同士であったことも。
ロッシーの恋愛指南とやらより、ヘンゼルから聞いたという話の方が健全で真っ当だろうと思ったアレックスは、恋人っぽいことをするために食堂で昼食を取ることにした。
「じゃあ、注文してくる」
「あ、私も行きます」
立ち上がったアレックスに、レティシアも着いていこうとしたが、手で制された。
「追加注文か?」
「はい」
「なら、ついでに俺が取ってきてやる。何が欲しいんだ?」
「よろしいのですか? では、ポトフのおかわりを」
レティシアは居住まいを正してから、アレックスに欲しいメニューを伝えた。
ロッシーたちと話し合っていた最中にポトフが冷めてしまい、もう一度熱々のを食べたいというのもあるが、このままだと後から食べ出したアレックスより大分早く食事を済ませてしまい、アレックスが食べ終わるまで手持ち無沙汰になると思ったからだ。
「分かった。少し待っていろ」
「ありがとうございます」
配膳口へ向かったアレックスを待っている間、レティシアは葉野菜が僅かばかりに残ったサラダをつつきながら物思いに耽った。
(昨日は恋人になって、今日は愛称で呼んで、呼ばれて・・・・・・目まぐるしいというか、忙しないというか──)
何と言うか、激動だった。
少なくとも一昨日──いや、昨日の昼休み前まではこんなことになるなどと欠片も思ってなかったのだから。
恋愛感情などないのだから、恋人になったところでアレックスに向ける感情は変わらない。ただ、状況が変わったことで、アレックスと今までならしなかったような普通の会話をしていることが不思議だった。
上辺の関係性が変わった。呼び方が変わった。一緒に昼食など、昨日まではあり得なかった。
(非日常的と言いますか、現実感がないといいますか──まぁ、昨日の今日ですし。それにしても、案外普通の会話も出来るものですねぇ)
別にアレックスが年がら年中怒り狂っていて、話の通じない人物とまでは思っていないが、それでもアレックスとの日常会話が成り立っているのが意外だった。
今までの二人の会話と言えば、ほとんどがロッシーとキャサリンについてだ。
あいつらはどこにいる? とか、あいつらは何とかならないのか? とか、そういう話ばっかりだった。そもそも共通の話題もないし、アレックスと共に行動する時はロッシーとキャサリン絡みなのだから、当然と言えば当然だが。
(ロッシー様たちを別れさせることに成功したところで、マイナスがなくなるだけですけど、こうやってアレックス様とお話することで苦手意識が薄れるなら、悪いことでもないかもですね)
そう思いかけたものの、そもそもロッシーたちの関係が解消されればアレックスと接する機会もほとんどなくなるから別に苦手意識を改善する必要性は特にないことに気づいたのは、レティシアの倍はありそうなランチの盛られたトレイを持ってアレックスが戻ってきた時だった。
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