散らない春のアルメリア~婚約破棄を決めた婚約者が物凄い誤解をしてました~

夢草 蝶

文字の大きさ
4 / 33
本編

第四話 アルメリアの真実

しおりを挟む
「……は? 何を言っている? お前はアルメリア・ツルーネだろう?」

「ええ、そうですね」

 ぽかんと開かれた口から紡がれた質問に、私はこくりと頷きました。

「この国にツルーネという名の貴族はツルーネ男爵しかいない。くだらない嘘をついて誤魔化そうとしているのか?」

「そんなことしません。確かに私はツルーネ男爵家の娘です。ですが、ではないと申し上げているのです」

「何が違うんですか? わけのわからないことを仰らないで!」

 まぁ、わかりにくいですよね。
 とはいえ、一文で説明するとそうとしか言えないのです。
 私とツルーネ男爵家の関係、そしてライラックとの関係、古きしきたり……それらを説明するには、何から話せばいいのやら。
 しばらく思案してから、私は一つの事実を告げました。

「私は、シアーガーデン公爵の娘です」

「………………は?」

「………………え?」

 グジル様とリマリーさんが古代の焼き物のように目と口を丸くして固まってしまわれました。
 無理もありません。お二人にとっては初めて知ることのようでしたから。男爵令嬢だと思っていた相手が公爵令嬢だった、なんて子猫と思って育てたら虎だったくらいの衝撃でしょう。

「な、何を言ってるんだ、アルメリア。おかしくなったのか?」

「そうですよ。いくら婚約破棄が嫌だからって、そんな嘘をつくなんて──」

「嘘じゃない」

 そう遮ったのはライラックでした。私に喋らせてってお願いしましたのに、我慢出来ない子ですね。

「ライラック」

 お願いを忘れたの? と言うように横目に視線を向ければ、「俺が説明した方が早いだろ」と返されました。まぁ、確かに。

「アルメリアが言ったことは本当だ。アルメリアは紛れもないシアーガーデン公爵の娘であり、俺の双子の姉だ。だから、俺とアルメリアが男女の仲であるなんて有り得ない。次、言ったら消す」

「「ひっ」」

 ライラックの殺意すら籠った最後の言葉に、お二人は身を震わせました。
 まださっき疑われたこと根に持ってますね。地雷だから仕方ありませんけど。
 蛇に睨まれた蛙のように震えていたグジル様でしたが、やはりなかなか信じることは出来ずに反論をされました。

「お、おかしいじゃないか。アルメリアが本当に公爵令嬢なら、何故アルメリア・シアーガーデンではなく、アルメリア・ツルーネと名乗っている? それに婚約の際に同席したのだってツルーネ男爵夫妻じゃないか!」

「それはごもっとも──と言いたいところですけど、その婚約を結ぶ席でそのことについてご説明したはずなんですけど」

「そんな覚えはない!」

 やはり、話を聞いていらっしゃらなかったようです。結構丁寧に説明したのでそこそこ時間を掛けたはずですが、少しも覚えていないとはその時グジル様は何を考えてらしたのでしょう。
 いえ、今になってはそこは大切ではありませんね。

「なんなんですか、一体! お二人でグルになって私たちを謀っているのですか?」

「そんなことしませんよ」

「なら、なんで貴女はアルメリア・ツルーネなんですか!?」

 リマリーさんは酷く取り乱した様子で髪を振り乱して叫んでいます。ああ、せっかく綺麗に纏めていた髪がぐちゃぐちゃです。
 ──なんで、ですか。
 その理由に思いを馳せて、私は目を伏せました。
 ライラックも苦々しい表情をしています。
 だって、それは私たち姉弟を引き裂いたものですから。

「しきたり、だったんですよ」

 たった四文字の言葉。
 それこそが、私がアルメリア・シアーガーデンになれなかった理由。血の繋がった家族から私を切り離した刃でした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?

しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。 そんな小説みたいなことが本当に起こった。 婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。 婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。 仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。 これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。 辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。

誰にも口外できない方法で父の借金を返済した令嬢にも諦めた幸せは訪れる

しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ジュゼットは、兄から父が背負った借金の金額を聞いて絶望した。 しかも返済期日が迫っており、家族全員が危険な仕事や売られることを覚悟しなければならない。 そんな時、借金を払う代わりに仕事を依頼したいと声をかけられた。 ジュゼットは自分と家族の将来のためにその依頼を受けたが、当然口外できないようなことだった。 その仕事を終えて実家に帰るジュゼットは、もう幸せな結婚は望めないために一人で生きていく決心をしていたけれど求婚してくれる人がいたというお話です。

誤解されて1年間妻と会うことを禁止された。

しゃーりん
恋愛
3か月前、ようやく愛する人アイリーンと結婚できたジョルジュ。 幸せ真っただ中だったが、ある理由により友人に唆されて高級娼館に行くことになる。 その現場を妻アイリーンに見られていることを知らずに。 実家に帰ったまま戻ってこない妻を迎えに行くと、会わせてもらえない。 やがて、娼館に行ったことがアイリーンにバレていることを知った。 妻の家族には娼館に行った経緯と理由を纏めてこいと言われ、それを見てアイリーンがどう判断するかは1年後に決まると言われた。つまり1年間会えないということ。 絶望しながらも思い出しながら経緯を書き記すと疑問点が浮かぶ。 なんでこんなことになったのかと原因を調べていくうちに自分たち夫婦に対する嫌がらせと離婚させることが目的だったとわかるお話です。

侍女から第2夫人、そして……

しゃーりん
恋愛
公爵家の2歳のお嬢様の侍女をしているルイーズは、酔って夢だと思い込んでお嬢様の父親であるガレントと関係を持ってしまう。 翌朝、現実だったと知った2人は親たちの話し合いの結果、ガレントの第2夫人になることに決まった。 ガレントの正妻セルフィが病弱でもう子供を望めないからだった。 一日で侍女から第2夫人になってしまったルイーズ。 正妻セルフィからは、娘を義母として可愛がり、夫を好きになってほしいと頼まれる。 セルフィの残り時間は少なく、ルイーズがやがて正妻になるというお話です。

夢を現実にしないための正しいマニュアル

しゃーりん
恋愛
娘が処刑される夢を見た。 現在、娘はまだ6歳。それは本当に9年後に起こる出来事? 処刑される未来を変えるため、過去にも起きた夢の出来事を参考にして、変えてはいけないことと変えるべきことを調べ始める。 婚約者になる王子の周囲を変え、貴族の平民に対する接し方のマニュアルを作り、娘の未来のために頑張るお話。

後妻の条件を出したら……

しゃーりん
恋愛
妻と離婚した伯爵令息アークライトは、友人に聞かれて自分が後妻に望む条件をいくつか挙げた。 格上の貴族から厄介な女性を押しつけられることを危惧し、友人の勧めで伯爵令嬢マデリーンと結婚することになった。 だがこのマデリーン、アークライトの出した条件にそれほどズレてはいないが、貴族令嬢としての教育を受けていないという驚きの事実が発覚したのだ。 しかし、明るく真面目なマデリーンをアークライトはすぐに好きになるというお話です。

逃げた先で見つけた幸せはずっと一緒に。

しゃーりん
恋愛
侯爵家の跡継ぎにも関わらず幼いころから虐げられてきたローレンス。 父の望む相手と結婚したものの妻は義弟の恋人で、妻に子供ができればローレンスは用済みになると知り、家出をする。 旅先で出会ったメロディーナ。嫁ぎ先に向かっているという彼女と一晩を過ごした。 陰からメロディーナを見守ろうと、彼女の嫁ぎ先の近くに住むことにする。 やがて夫を亡くした彼女が嫁ぎ先から追い出された。近くに住んでいたことを気持ち悪く思われることを恐れて記憶喪失と偽って彼女と結婚する。 平民として幸せに暮らしていたが貴族の知り合いに見つかり、妻だった義弟の恋人が子供を産んでいたと知る。 その子供は誰の子か。ローレンスの子でなければ乗っ取りなのではないかと言われたが、ローレンスは乗っ取りを承知で家出したため戻る気はない。 しかし、乗っ取りが暴かれて侯爵家に戻るように言われるお話です。

振られたから諦めるつもりだったのに…

しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ヴィッテは公爵令息ディートに告白して振られた。 自分の意に沿わない婚約を結ぶ前のダメ元での告白だった。 その後、相手しか得のない婚約を結ぶことになった。 一方、ディートは告白からヴィッテを目で追うようになって…   婚約を解消したいヴィッテとヴィッテが気になりだしたディートのお話です。

処理中です...