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本編
第六話 それはこちらから
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「せ、清算……?」
グジル様が恐々と聞き返されました。
「そ。不貞、名誉毀損、契約不履行、あとはそうだな──不敬罪もあるな。王宮で騒いだことは公爵家は関係ないから陛下とご采配にお任せするが──貴様らはそれだけのことを俺の姉──シアーガーデン公爵家の娘、アルメリアに行った。ただで済まされるはずがないだろう」
ライラックの言う通りです。
心理上かつ、便宜上アルメリア・ツルーネを名乗っておりますが、私がシアーガーデン公爵家の娘であることは揺るぎない事実です。
貴族の序列は絶対的であり、爵位が下の者が上の者に逆らうことは許されません。
強固な上下関係にライラックが挙げた罪状を加味すると──まぁ、穏便には済みませんよね。
この国の貴族社会では子は親の所有物と考えが強く、いいイメージではないでしょうが、それは言い換えれば決して他者に害されてはならない、守らなくてはならないものということです。
シアーガーデンの両親も私を大切にしてくださってますので、ライラック経由でこのことが伝わればお父様が出て来られるでしょう。
そうなれば、清算どころではありません。
制裁、の二文字が頭に浮かびました。
「そんなっ! 私たちはアルメリアさんがシアーガーデン公爵家の令嬢だなんて知らなかったんですよ?」
「……さっきから思っていたが、お前はアルメリアを「アルメリアさん」と呼んでいい立場にない。アルメリアの素性を知ってなお、呼び方を変えないのは反省の色なしと見ていいな?」
「っ、わ、私たちはアルメリア様がシアーガーデン公爵家の令嬢とは知らなかったんです……」
ライラックに睨み下ろされて、アルメリアさんは摺り足で後退りながら小声で言い直しました。
貴族を取り纏める次期筆頭公爵として教育されているためが、ライラックは結構礼儀作法や言葉遣いにうるさいんですよね。私もライラック以外には敬語を使ってしまうので、よくへりくだり過ぎだとお小言をいただきます。
「リマリーの言う通りだ。俺たちは知らなかった! もし、知っていたら……」
「どうなさったのですか? リマリーさんと今のような関係にならず、私の婚約者のまま、私と結婚していたのですか?」
「グジル様……?」
「……そんなことはない! 俺にはリマリーだけだ!」
少し返答に間が開いたグジル様をリマリーさんが不信な目で見ています。
即答出来なかった時点で、グジル様の心の中で何か揺らぎがあったのでしょう。婚約破棄をすると言われた私ですらわかるのですから、恋人であるリマリーさんならもっとグジル様の内心が見えていることでしょう。私はからきしでしたが、得てして女性というのは異性の心の機微に鋭いものですから。
「それは良かった。陛下の御前であんなに盛大にリマリーさんとの愛を叫ばれましたのに、たかが私が公爵家の娘と知っただけで心変わりなんて起こしませんよね?」
「も、もちろんだ! そんなことは有り得ない」
今度は早かったですね。
先程のでリマリーさんから不信感を買ってしまったことが効いているのでしょう。そこへこう言えば、グジル様が頷くしかないことは想定済みです。
──良かった。ちゃんと頷いてくださって。
隣のライラックへ視線を向けると、私の考えなんてお見通しのようで、言葉のないまま頷いて賛同を示してくれました。
本来であれば、これは王宮ですることではありません。ですが、ここまで来てしまったらこのまま走り抜けてしまった方が後が楽です。
目撃者も多くいらっしゃいますし、ここで撤退したら後日質問状がツルーネ男爵家とシアーガーデン公爵家のポストから溢れ返ってしまうでしょう。ならば、結末までご覧にいれた方が手間が省けます。
「そうですか。ならば、仕方ありませんね」
姿勢は美しく、声音は落ち着いて。
私とてシアーガーデン公爵家の娘です。
受けた非礼は、きっちり、しっかりお返しさせていただきます。
「グジル様、婚約を破棄致しましょう」
改めて、こちらから婚約破棄を申し入れました。
不義を結ばれたあげく、その相手の方から婚約破棄をされたらこちらの面目が丸潰れになってしまいます。そこは絶対に譲れませんでした。
「は……」
「理由はグジル様の不貞の発覚、で問題ないでしょう? 後日、シアーガーデン公爵家を通して正式にホータラン侯爵家に申し込ませていただきますね。応じていただければ私はそれで結構ですので、諸々の清算はシアーガーデン公爵家に」
「婚約破棄だけで済ませる気か? 相変わらず甘いな、アルメリアは」
「そう? だって私があれこれしなくても、お父様とライラックが容赦しないでしょ?」
「当たり前だ」
でしたら、私としてはそれで十分です。
報いは必ず受けられるでしょうし、そこへ私が加わっても誤差の範囲でしかありません。水差しにスプーン一杯分の水を足すかどうかの違いです。それなら早々にグラスに注いでしまった方がいいでしょう。
「待て、待ってくれ、アルメリア! その話は一旦なかったことに──」
「なっ、どういうことですか、グジル様!? まさか、私と別れてアルメリアさんとやり直す気ですか!?」
「違う! 違うが──状況が変わったんだ、わかるだろう!?」
「何をわかれと仰るんです!? アルメリアさんが婚約破棄するって言ってるんですから、すればいいじゃないですか! そうしたら私たちの間に障害はなくなるんですよ!?」
「だから、それは──」
婚約破棄について一旦保留を望もうとされたグジル様に対し、リマリーさんが目をつり上げて掴み掛かりました。
貴族社会の構造とグジル様たちの様子から察するに、侯爵夫妻さえその気にさせてしまえば侯爵家から男爵家へ婚約破棄することは容易いとでも思われていたのでしょう。
グジル様は婚約破棄となった際に自分がどれだけ不利な立場に立たされるかを想像されているようです。一方でリマリーさんはとにかくグジル様と結ばれたいご様子。
状況の変化でグジル様の優先順位に変動が起きたため、リマリーさんと噛み合わなくなってしまったようです。
そこから、お二人の激しい言い争いが始まってしまいました。
グジル様が恐々と聞き返されました。
「そ。不貞、名誉毀損、契約不履行、あとはそうだな──不敬罪もあるな。王宮で騒いだことは公爵家は関係ないから陛下とご采配にお任せするが──貴様らはそれだけのことを俺の姉──シアーガーデン公爵家の娘、アルメリアに行った。ただで済まされるはずがないだろう」
ライラックの言う通りです。
心理上かつ、便宜上アルメリア・ツルーネを名乗っておりますが、私がシアーガーデン公爵家の娘であることは揺るぎない事実です。
貴族の序列は絶対的であり、爵位が下の者が上の者に逆らうことは許されません。
強固な上下関係にライラックが挙げた罪状を加味すると──まぁ、穏便には済みませんよね。
この国の貴族社会では子は親の所有物と考えが強く、いいイメージではないでしょうが、それは言い換えれば決して他者に害されてはならない、守らなくてはならないものということです。
シアーガーデンの両親も私を大切にしてくださってますので、ライラック経由でこのことが伝わればお父様が出て来られるでしょう。
そうなれば、清算どころではありません。
制裁、の二文字が頭に浮かびました。
「そんなっ! 私たちはアルメリアさんがシアーガーデン公爵家の令嬢だなんて知らなかったんですよ?」
「……さっきから思っていたが、お前はアルメリアを「アルメリアさん」と呼んでいい立場にない。アルメリアの素性を知ってなお、呼び方を変えないのは反省の色なしと見ていいな?」
「っ、わ、私たちはアルメリア様がシアーガーデン公爵家の令嬢とは知らなかったんです……」
ライラックに睨み下ろされて、アルメリアさんは摺り足で後退りながら小声で言い直しました。
貴族を取り纏める次期筆頭公爵として教育されているためが、ライラックは結構礼儀作法や言葉遣いにうるさいんですよね。私もライラック以外には敬語を使ってしまうので、よくへりくだり過ぎだとお小言をいただきます。
「リマリーの言う通りだ。俺たちは知らなかった! もし、知っていたら……」
「どうなさったのですか? リマリーさんと今のような関係にならず、私の婚約者のまま、私と結婚していたのですか?」
「グジル様……?」
「……そんなことはない! 俺にはリマリーだけだ!」
少し返答に間が開いたグジル様をリマリーさんが不信な目で見ています。
即答出来なかった時点で、グジル様の心の中で何か揺らぎがあったのでしょう。婚約破棄をすると言われた私ですらわかるのですから、恋人であるリマリーさんならもっとグジル様の内心が見えていることでしょう。私はからきしでしたが、得てして女性というのは異性の心の機微に鋭いものですから。
「それは良かった。陛下の御前であんなに盛大にリマリーさんとの愛を叫ばれましたのに、たかが私が公爵家の娘と知っただけで心変わりなんて起こしませんよね?」
「も、もちろんだ! そんなことは有り得ない」
今度は早かったですね。
先程のでリマリーさんから不信感を買ってしまったことが効いているのでしょう。そこへこう言えば、グジル様が頷くしかないことは想定済みです。
──良かった。ちゃんと頷いてくださって。
隣のライラックへ視線を向けると、私の考えなんてお見通しのようで、言葉のないまま頷いて賛同を示してくれました。
本来であれば、これは王宮ですることではありません。ですが、ここまで来てしまったらこのまま走り抜けてしまった方が後が楽です。
目撃者も多くいらっしゃいますし、ここで撤退したら後日質問状がツルーネ男爵家とシアーガーデン公爵家のポストから溢れ返ってしまうでしょう。ならば、結末までご覧にいれた方が手間が省けます。
「そうですか。ならば、仕方ありませんね」
姿勢は美しく、声音は落ち着いて。
私とてシアーガーデン公爵家の娘です。
受けた非礼は、きっちり、しっかりお返しさせていただきます。
「グジル様、婚約を破棄致しましょう」
改めて、こちらから婚約破棄を申し入れました。
不義を結ばれたあげく、その相手の方から婚約破棄をされたらこちらの面目が丸潰れになってしまいます。そこは絶対に譲れませんでした。
「は……」
「理由はグジル様の不貞の発覚、で問題ないでしょう? 後日、シアーガーデン公爵家を通して正式にホータラン侯爵家に申し込ませていただきますね。応じていただければ私はそれで結構ですので、諸々の清算はシアーガーデン公爵家に」
「婚約破棄だけで済ませる気か? 相変わらず甘いな、アルメリアは」
「そう? だって私があれこれしなくても、お父様とライラックが容赦しないでしょ?」
「当たり前だ」
でしたら、私としてはそれで十分です。
報いは必ず受けられるでしょうし、そこへ私が加わっても誤差の範囲でしかありません。水差しにスプーン一杯分の水を足すかどうかの違いです。それなら早々にグラスに注いでしまった方がいいでしょう。
「待て、待ってくれ、アルメリア! その話は一旦なかったことに──」
「なっ、どういうことですか、グジル様!? まさか、私と別れてアルメリアさんとやり直す気ですか!?」
「違う! 違うが──状況が変わったんだ、わかるだろう!?」
「何をわかれと仰るんです!? アルメリアさんが婚約破棄するって言ってるんですから、すればいいじゃないですか! そうしたら私たちの間に障害はなくなるんですよ!?」
「だから、それは──」
婚約破棄について一旦保留を望もうとされたグジル様に対し、リマリーさんが目をつり上げて掴み掛かりました。
貴族社会の構造とグジル様たちの様子から察するに、侯爵夫妻さえその気にさせてしまえば侯爵家から男爵家へ婚約破棄することは容易いとでも思われていたのでしょう。
グジル様は婚約破棄となった際に自分がどれだけ不利な立場に立たされるかを想像されているようです。一方でリマリーさんはとにかくグジル様と結ばれたいご様子。
状況の変化でグジル様の優先順位に変動が起きたため、リマリーさんと噛み合わなくなってしまったようです。
そこから、お二人の激しい言い争いが始まってしまいました。
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