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本編
第七話 終わりの一声
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「違うと仰るなら、私と婚約すると宣言してください! 今! この場で!」
「無茶を言わないでくれ!」
「なんでですか! 元々そのつもりだったでしょう!?」
「今そんなことをしたら、更にシアーガーデン公爵家の怒りを買うだろう!」
向かい合って激しく言い合うお二人の声は、パーティー会場中に響いてました。
遠くにいらっしゃる方々は、先程まで青い顔や固い表情をされていましたが、今はお二人の様子を見て口元を隠して忍び笑いをされている方がちらほらといらっしゃいました。
グジル様とリマリーさんの一対一なら、純粋な痴話喧嘩ですからねぇ。人は対岸の火事の痴話喧嘩が好きだとツルーネの方のお母様が仰ってました。
どちらにしろ王宮ですることではありませんね。
「嫌です! 私はずっと日影の存在に甘んじてきました。今日ようやく、その苦痛の日々から解放されると思っていたんですよ? なのに、それをどうしてシアーガーデン公爵家ごときに邪魔されないといけないんですか!?」
悲しいのか腹立たしいのか、リマリーさんは真っ赤なお顔だ怒りながら涙を溢しています。
とはいえ、今の台詞は聞き捨てなりませんね。
「ごとき……?」
隣を見れば案の定、ライラックが静かに怒りを再充填していました。
それだけではありません。遠くからもリマリーさんを避難する声が聞こえました。当然です。筆頭公爵は貴族会の総意で決められるものであり、シアーガーデン公爵家はいわば、皆様が選んでくださった貴族の代表者です。ごとき、などと呼ばわれば不興を買うことは間違いありません。
「リマリーさん、婚約発表は諦めてください。グジル様とは婚約破棄致しますが、今日はまだグジル様は私の婚約者です。婚約中に別の方との婚約発表なんてされたら、公爵家としても困りますし、貴女方にとっても良いことはひとつもありませんよ?」
「だから何!? そもそも貴女のせいじゃない! 男爵令嬢だから簡単に婚約破棄してくれると思ったのに、公爵令嬢だったなんて聞いてません! この詐欺師! 驕傲女!」
「詐欺師!? きょうごうおんなっ!?」
今日はどれだけの罵倒の言葉を浴びるのでしょう。正直、今までそんな言葉を掛けてくる方はいらっしゃらなかったので、初めての体験でした。出来れば一生体験したくはありませんでしたけど……。
「アルメリアを自分より格下だから言うことをきかせられると思っていたのなら、驕傲なのは貴様だ。リマリー・ラムヘッド、だったか。貴様の父親、ラムヘッド子爵にも清算をしてもらうために送り届けをしておくぞ。今日のことを詳細に綴った手紙を添えてな。そうなればアルメリアとそこの馬鹿者の婚約破棄が成立しても新しい婚約どころじゃなくなるだろうな」
先程、グジル様の胸ぐらを掴んだ時と同じ顔で、ライラックはリマリーさんの自分に跳ね返ってくる発言を指摘しつつ、シアーガーデン公爵家が今後ラムヘッド子爵家へ行う処置について説明しました。
今日の王宮のパーティーの主旨は未来を担う若き紳士淑女の交流会、というものでした。
なので、招待客は十代の方々がほとんどで大人の姿は僅かです。
ここにはツルーネ男爵家の両親も、シアーガーデン公爵家の両親もおりませんし、グジル様やリマリーさんのご両親の姿もありません。それも組み込んでの婚約破棄宣言だったのでしょう。
「そんな──私はっ、なんで!?」
「自分の置かれた状況が理解出来ないのか? なら、自分の胸に手を当てて考えればいい」
現実が受け入れられないのか、リマリーさんはいやいやをするように何度も頭を振り回しました。明らかに恋人が正常な状態には見えないのに、本人もいっぱいいっぱいなのかグジル様は気にした様子はありません。
「アルメリア、頼む! 俺の話を聞いてくれ。二人で話したいんだ」
グジル様がこちらへ近づいてこられます。腕か肩を掴もうとされたのか、手がこちらへと伸びてきました。
しかし、その五指のどれも私に触れることはありませんでした。ライラックが私の腕を引いて後ろへ下がらせたからです。
「きゃっ! ……ライラック」
助けてくれたのでしょうが、驚いてつい責めるような声が出てしまいました。
「アルメリアに触れるな」
ライラックは気にした様子はなく、真っ直ぐにグジル様を見据え、警告しました。
「グジル様、いくらまだ婚約者といえど、婚約破棄を予定している方と二人きりになることはご遠慮します」
私も続け様にお断りをしました。
そもそも、グジル様は何故二人で話したいなどと仰られたのでしょう? ライラックがいると話しづらいと思われたのでしょうか? 私だけなら、説得出来る自信があったのでしょうか?
──どうしてこう、双子なのにライラックと違って私は侮られてしまうのでしょう。
別に気が弱いとは思いませんし、意思表示も結構はっきりしてると思いますのに。
対外的に自身がどう見られているを考えて気が沈み、頬に手を当てて溜息をつきました。
「そんなこと言わないでくれ。なぁ、アルメリア!」
「グジル様! その女に近づかないで!」
「リマリー!? 放してくれ!」
引き下がらないグジル様の背後から、行かせないと言わんばかりにリマリーさんが抱きつかれました。
無理矢理くっつけた同極の磁石のように、前へ進もうとするグジル様と後ろへ下がろうとするリマリーさんの力は反発しあって、その足元が拙いダンスを踊るようにステップを踏んでいます。
「見苦しさもここまで極まるといっそ滑稽だな」
そう言いつつ、ライラックの目は全く笑っていません。
とにかく、このお二人をどうするかです。流石にこの状態のお二人を会場に野放しにしておくわけにもまいりませんし、パーティーの目的上、ライラックは中座するわけにはいきません。かといって私の力ではお二人を会場の外へ連れ出すことは出来ませんし、退場を願っても素直に聞き入れてくださるとは考えにくいです。
仕方ありません。ここは廊下で待機されている近衛の方にお願いしましょう。
そのために少しこの場から離れることをライラックに伝えようとした時でした。
命綱を切り落とすような鋭いお声が頭上からしたのは。
「もう良い」
会場内の視線が一斉にそちらへ向きました。
声の主は、このパーティーの主催者にして観覧者。
この場の誰もがそのお言葉を無視出来ないお方。
偉大な我らの国王陛下であらせられます。
「無茶を言わないでくれ!」
「なんでですか! 元々そのつもりだったでしょう!?」
「今そんなことをしたら、更にシアーガーデン公爵家の怒りを買うだろう!」
向かい合って激しく言い合うお二人の声は、パーティー会場中に響いてました。
遠くにいらっしゃる方々は、先程まで青い顔や固い表情をされていましたが、今はお二人の様子を見て口元を隠して忍び笑いをされている方がちらほらといらっしゃいました。
グジル様とリマリーさんの一対一なら、純粋な痴話喧嘩ですからねぇ。人は対岸の火事の痴話喧嘩が好きだとツルーネの方のお母様が仰ってました。
どちらにしろ王宮ですることではありませんね。
「嫌です! 私はずっと日影の存在に甘んじてきました。今日ようやく、その苦痛の日々から解放されると思っていたんですよ? なのに、それをどうしてシアーガーデン公爵家ごときに邪魔されないといけないんですか!?」
悲しいのか腹立たしいのか、リマリーさんは真っ赤なお顔だ怒りながら涙を溢しています。
とはいえ、今の台詞は聞き捨てなりませんね。
「ごとき……?」
隣を見れば案の定、ライラックが静かに怒りを再充填していました。
それだけではありません。遠くからもリマリーさんを避難する声が聞こえました。当然です。筆頭公爵は貴族会の総意で決められるものであり、シアーガーデン公爵家はいわば、皆様が選んでくださった貴族の代表者です。ごとき、などと呼ばわれば不興を買うことは間違いありません。
「リマリーさん、婚約発表は諦めてください。グジル様とは婚約破棄致しますが、今日はまだグジル様は私の婚約者です。婚約中に別の方との婚約発表なんてされたら、公爵家としても困りますし、貴女方にとっても良いことはひとつもありませんよ?」
「だから何!? そもそも貴女のせいじゃない! 男爵令嬢だから簡単に婚約破棄してくれると思ったのに、公爵令嬢だったなんて聞いてません! この詐欺師! 驕傲女!」
「詐欺師!? きょうごうおんなっ!?」
今日はどれだけの罵倒の言葉を浴びるのでしょう。正直、今までそんな言葉を掛けてくる方はいらっしゃらなかったので、初めての体験でした。出来れば一生体験したくはありませんでしたけど……。
「アルメリアを自分より格下だから言うことをきかせられると思っていたのなら、驕傲なのは貴様だ。リマリー・ラムヘッド、だったか。貴様の父親、ラムヘッド子爵にも清算をしてもらうために送り届けをしておくぞ。今日のことを詳細に綴った手紙を添えてな。そうなればアルメリアとそこの馬鹿者の婚約破棄が成立しても新しい婚約どころじゃなくなるだろうな」
先程、グジル様の胸ぐらを掴んだ時と同じ顔で、ライラックはリマリーさんの自分に跳ね返ってくる発言を指摘しつつ、シアーガーデン公爵家が今後ラムヘッド子爵家へ行う処置について説明しました。
今日の王宮のパーティーの主旨は未来を担う若き紳士淑女の交流会、というものでした。
なので、招待客は十代の方々がほとんどで大人の姿は僅かです。
ここにはツルーネ男爵家の両親も、シアーガーデン公爵家の両親もおりませんし、グジル様やリマリーさんのご両親の姿もありません。それも組み込んでの婚約破棄宣言だったのでしょう。
「そんな──私はっ、なんで!?」
「自分の置かれた状況が理解出来ないのか? なら、自分の胸に手を当てて考えればいい」
現実が受け入れられないのか、リマリーさんはいやいやをするように何度も頭を振り回しました。明らかに恋人が正常な状態には見えないのに、本人もいっぱいいっぱいなのかグジル様は気にした様子はありません。
「アルメリア、頼む! 俺の話を聞いてくれ。二人で話したいんだ」
グジル様がこちらへ近づいてこられます。腕か肩を掴もうとされたのか、手がこちらへと伸びてきました。
しかし、その五指のどれも私に触れることはありませんでした。ライラックが私の腕を引いて後ろへ下がらせたからです。
「きゃっ! ……ライラック」
助けてくれたのでしょうが、驚いてつい責めるような声が出てしまいました。
「アルメリアに触れるな」
ライラックは気にした様子はなく、真っ直ぐにグジル様を見据え、警告しました。
「グジル様、いくらまだ婚約者といえど、婚約破棄を予定している方と二人きりになることはご遠慮します」
私も続け様にお断りをしました。
そもそも、グジル様は何故二人で話したいなどと仰られたのでしょう? ライラックがいると話しづらいと思われたのでしょうか? 私だけなら、説得出来る自信があったのでしょうか?
──どうしてこう、双子なのにライラックと違って私は侮られてしまうのでしょう。
別に気が弱いとは思いませんし、意思表示も結構はっきりしてると思いますのに。
対外的に自身がどう見られているを考えて気が沈み、頬に手を当てて溜息をつきました。
「そんなこと言わないでくれ。なぁ、アルメリア!」
「グジル様! その女に近づかないで!」
「リマリー!? 放してくれ!」
引き下がらないグジル様の背後から、行かせないと言わんばかりにリマリーさんが抱きつかれました。
無理矢理くっつけた同極の磁石のように、前へ進もうとするグジル様と後ろへ下がろうとするリマリーさんの力は反発しあって、その足元が拙いダンスを踊るようにステップを踏んでいます。
「見苦しさもここまで極まるといっそ滑稽だな」
そう言いつつ、ライラックの目は全く笑っていません。
とにかく、このお二人をどうするかです。流石にこの状態のお二人を会場に野放しにしておくわけにもまいりませんし、パーティーの目的上、ライラックは中座するわけにはいきません。かといって私の力ではお二人を会場の外へ連れ出すことは出来ませんし、退場を願っても素直に聞き入れてくださるとは考えにくいです。
仕方ありません。ここは廊下で待機されている近衛の方にお願いしましょう。
そのために少しこの場から離れることをライラックに伝えようとした時でした。
命綱を切り落とすような鋭いお声が頭上からしたのは。
「もう良い」
会場内の視線が一斉にそちらへ向きました。
声の主は、このパーティーの主催者にして観覧者。
この場の誰もがそのお言葉を無視出来ないお方。
偉大な我らの国王陛下であらせられます。
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