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本編
第八話 そして扉は閉められる
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最初に招待客の挨拶を受けて以降、口を閉ざされていた陛下が初めてお言葉を口にされました。
陛下も一連の出来事をご覧になられていらっしゃったとは思いますが、遠目にもその瞳は凪いでいるように見えました。
静かで落ち着きを纏っていらっしゃる陛下は、玉座からこちらに向けてお言葉を掛けられました。
「もう、これ以上は十分だろう。グジル、リマリー、お前たちは随分熱に浮かされているようだな。今日は帰りなさい」
それは、退場を促す命令でした。
「陛下! 俺、いえ、私はアルメリアと──」
「口を慎め、グジル・ホータラン。陛下のお心遣いを無下にする気か?」
陛下に言われてもなお、食い下がろうとされるグジル様をライラックがぴしゃりと咎めます。
「──ッ、このまま帰れるわけ──そうだ、アルメリア。婚約破棄の白紙──いや、せめて保留だけでも約束してくれ! そうしたら今日は帰るから──」
「お断り致します。もう決めたことですので」
「ここまで来て保身か。陛下のお言葉を無視するとは不届きにもほどがある」
ライラックの言う通り、陛下のお言葉に背いてまで食い下がるのは貴族としてあるまじき姿です。
私たちは皆、物心つく前から陛下への忠誠心を刻まれて育ってきました。特にライラックはシアーガーデンの両親の教育が行き届いているので、今のグジル様を視界に入れるのも嫌でしょうね。
なんだかライラックが気の毒に思えて、私は慰めるようにライラックの腕を撫で擦りました。
双子でも男女の差があるので、ライラックの腕は私のものより太くてがっしりとしています。
何度か擦ると、ライラックがもういいと言うように私の手を自分の手で覆って止めました。
顔を見ると穏やかな表情になっていたので、無駄な気遣いにならずほっとしました。
「陛下、発言をしてもよろしいでしょうか?」
「なんだ? アルメリア」
「ひとつ、お願いがございます。陛下の仰る通り、こちらのお二人はどうやら熱のあるご様子。近衛の方に馬車までの付き添いをお願いしてもよろしいでしょうか?」
元よりそのつもりでしたが、近衛は陛下直下の兵士。陛下にお言葉をいただいている今、一応お話を通しておいた方がいいでしょう。
「ああ、構わぬ。近衛よ! グジルとリマリーの見送りを頼む!」
陛下が命令を下されると、会場の扉が開き、熊の毛皮の帽子を被った近四人衛兵が入っていました。
兵たちは軍靴を鳴らしてグジル様とリマリーさんと取り囲むと、二人一組になってそれぞれを挟むように立ち、腕を掴んで引き摺って行かれました。
「離せ! 話はまだ終わってな──アルメリア! 止めてくれ!」
「嫌! 触らないで! 私はグジル様と婚約するんだから! 邪魔しないでよぉおおおおおお──!」
意に沿わない退場を強制されたお二人は大声を上げながら抵抗されていましたが、屈強な兵士に敵うはずもなく会場の外へ連れていかれました。ぱたんと扉が閉められ、声も遠ざかっていきます。
会場に暴風をもたらしたお二人の退場によって、辺りは水を打ったように静まり返りました。
──とりあえず、この場は収まりましたね……。
この後、婚約破棄の手続きのためにシアーガーデンの両親の元へ行ったりしなくてはなりませんけど、一段落は着いたと見ていいでしょう。
一気に気が抜けて、どっと疲れがきました。本当は今にでも隣のライラックの肩に凭れ掛かりたかったのですが、人前でそんなはしたない真似は出来ないとぐっと堪え、手を握るだけに留めました。
ライラックは不機嫌な顔でグジル様たちが去った扉を睨んでいましたが、私が手に触れると握り返してくれました。
私たちは体温も似ていて、こうして手を繋いでいると昔からとても安心出来ました。他の双子の方もそうなのでしょうか?
ライラックも国王陛下も予期せぬ事態に見舞われた私を気遣ってくれたのか、私が落ち着くまでの間、何も言わずに待ってくれました。
陛下も一連の出来事をご覧になられていらっしゃったとは思いますが、遠目にもその瞳は凪いでいるように見えました。
静かで落ち着きを纏っていらっしゃる陛下は、玉座からこちらに向けてお言葉を掛けられました。
「もう、これ以上は十分だろう。グジル、リマリー、お前たちは随分熱に浮かされているようだな。今日は帰りなさい」
それは、退場を促す命令でした。
「陛下! 俺、いえ、私はアルメリアと──」
「口を慎め、グジル・ホータラン。陛下のお心遣いを無下にする気か?」
陛下に言われてもなお、食い下がろうとされるグジル様をライラックがぴしゃりと咎めます。
「──ッ、このまま帰れるわけ──そうだ、アルメリア。婚約破棄の白紙──いや、せめて保留だけでも約束してくれ! そうしたら今日は帰るから──」
「お断り致します。もう決めたことですので」
「ここまで来て保身か。陛下のお言葉を無視するとは不届きにもほどがある」
ライラックの言う通り、陛下のお言葉に背いてまで食い下がるのは貴族としてあるまじき姿です。
私たちは皆、物心つく前から陛下への忠誠心を刻まれて育ってきました。特にライラックはシアーガーデンの両親の教育が行き届いているので、今のグジル様を視界に入れるのも嫌でしょうね。
なんだかライラックが気の毒に思えて、私は慰めるようにライラックの腕を撫で擦りました。
双子でも男女の差があるので、ライラックの腕は私のものより太くてがっしりとしています。
何度か擦ると、ライラックがもういいと言うように私の手を自分の手で覆って止めました。
顔を見ると穏やかな表情になっていたので、無駄な気遣いにならずほっとしました。
「陛下、発言をしてもよろしいでしょうか?」
「なんだ? アルメリア」
「ひとつ、お願いがございます。陛下の仰る通り、こちらのお二人はどうやら熱のあるご様子。近衛の方に馬車までの付き添いをお願いしてもよろしいでしょうか?」
元よりそのつもりでしたが、近衛は陛下直下の兵士。陛下にお言葉をいただいている今、一応お話を通しておいた方がいいでしょう。
「ああ、構わぬ。近衛よ! グジルとリマリーの見送りを頼む!」
陛下が命令を下されると、会場の扉が開き、熊の毛皮の帽子を被った近四人衛兵が入っていました。
兵たちは軍靴を鳴らしてグジル様とリマリーさんと取り囲むと、二人一組になってそれぞれを挟むように立ち、腕を掴んで引き摺って行かれました。
「離せ! 話はまだ終わってな──アルメリア! 止めてくれ!」
「嫌! 触らないで! 私はグジル様と婚約するんだから! 邪魔しないでよぉおおおおおお──!」
意に沿わない退場を強制されたお二人は大声を上げながら抵抗されていましたが、屈強な兵士に敵うはずもなく会場の外へ連れていかれました。ぱたんと扉が閉められ、声も遠ざかっていきます。
会場に暴風をもたらしたお二人の退場によって、辺りは水を打ったように静まり返りました。
──とりあえず、この場は収まりましたね……。
この後、婚約破棄の手続きのためにシアーガーデンの両親の元へ行ったりしなくてはなりませんけど、一段落は着いたと見ていいでしょう。
一気に気が抜けて、どっと疲れがきました。本当は今にでも隣のライラックの肩に凭れ掛かりたかったのですが、人前でそんなはしたない真似は出来ないとぐっと堪え、手を握るだけに留めました。
ライラックは不機嫌な顔でグジル様たちが去った扉を睨んでいましたが、私が手に触れると握り返してくれました。
私たちは体温も似ていて、こうして手を繋いでいると昔からとても安心出来ました。他の双子の方もそうなのでしょうか?
ライラックも国王陛下も予期せぬ事態に見舞われた私を気遣ってくれたのか、私が落ち着くまでの間、何も言わずに待ってくれました。
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