散らない春のアルメリア~婚約破棄を決めた婚約者が物凄い誤解をしてました~

夢草 蝶

文字の大きさ
8 / 33
本編

第八話 そして扉は閉められる

しおりを挟む
 最初に招待客の挨拶を受けて以降、口を閉ざされていた陛下が初めてお言葉を口にされました。
 陛下も一連の出来事をご覧になられていらっしゃったとは思いますが、遠目にもその瞳は凪いでいるように見えました。
 静かで落ち着きを纏っていらっしゃる陛下は、玉座からこちらに向けてお言葉を掛けられました。

「もう、これ以上は十分だろう。グジル、リマリー、お前たちは随分熱に浮かされているようだな。今日は帰りなさい」

 それは、退場を促す命令でした。

「陛下! 俺、いえ、私はアルメリアと──」

「口を慎め、グジル・ホータラン。陛下のお心遣いを無下にする気か?」

 陛下に言われてもなお、食い下がろうとされるグジル様をライラックがぴしゃりと咎めます。

「──ッ、このまま帰れるわけ──そうだ、アルメリア。婚約破棄の白紙──いや、せめて保留だけでも約束してくれ! そうしたら今日は帰るから──」

「お断り致します。もう決めたことですので」

「ここまで来て保身か。陛下のお言葉を無視するとは不届きにもほどがある」

 ライラックの言う通り、陛下のお言葉に背いてまで食い下がるのは貴族としてあるまじき姿です。
 私たちは皆、物心つく前から陛下への忠誠心を刻まれて育ってきました。特にライラックはシアーガーデンの両親の教育が行き届いているので、今のグジル様を視界に入れるのも嫌でしょうね。
 なんだかライラックが気の毒に思えて、私は慰めるようにライラックの腕を撫で擦りました。
 双子でも男女の差があるので、ライラックの腕は私のものより太くてがっしりとしています。
 何度か擦ると、ライラックがもういいと言うように私の手を自分の手で覆って止めました。
 顔を見ると穏やかな表情になっていたので、無駄な気遣いにならずほっとしました。

「陛下、発言をしてもよろしいでしょうか?」

「なんだ? アルメリア」

「ひとつ、お願いがございます。陛下の仰る通り、こちらのお二人はどうやら熱のあるご様子。近衛の方に馬車までの付き添いをお願いしてもよろしいでしょうか?」

 元よりそのつもりでしたが、近衛は陛下直下の兵士。陛下にお言葉をいただいている今、一応お話を通しておいた方がいいでしょう。

「ああ、構わぬ。近衛よ! グジルとリマリーの見送りを頼む!」

 陛下が命令を下されると、会場の扉が開き、熊の毛皮の帽子を被った近四人衛兵が入っていました。
 兵たちは軍靴を鳴らしてグジル様とリマリーさんと取り囲むと、二人一組になってそれぞれを挟むように立ち、腕を掴んで引き摺って行かれました。

「離せ! 話はまだ終わってな──アルメリア! 止めてくれ!」

「嫌! 触らないで! 私はグジル様と婚約するんだから! 邪魔しないでよぉおおおおおお──!」

 意に沿わない退場を強制されたお二人は大声を上げながら抵抗されていましたが、屈強な兵士に敵うはずもなく会場の外へ連れていかれました。ぱたんと扉が閉められ、声も遠ざかっていきます。
 会場に暴風をもたらしたお二人の退場によって、辺りは水を打ったように静まり返りました。
 ──とりあえず、この場は収まりましたね……。
 この後、婚約破棄の手続きのためにシアーガーデンの両親の元へ行ったりしなくてはなりませんけど、一段落は着いたと見ていいでしょう。
 一気に気が抜けて、どっと疲れがきました。本当は今にでも隣のライラックの肩に凭れ掛かりたかったのですが、人前でそんなはしたない真似は出来ないとぐっと堪え、手を握るだけに留めました。
 ライラックは不機嫌な顔でグジル様たちが去った扉を睨んでいましたが、私が手に触れると握り返してくれました。
 私たちは体温も似ていて、こうして手を繋いでいると昔からとても安心出来ました。他の双子の方もそうなのでしょうか?
 ライラックも国王陛下も予期せぬ事態に見舞われた私を気遣ってくれたのか、私が落ち着くまでの間、何も言わずに待ってくれました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女神様、もっと早く祝福が欲しかった。

しゃーりん
ファンタジー
アルーサル王国には、女神様からの祝福を授かる者がいる。…ごくたまに。 今回、授かったのは6歳の王女であり、血縁の判定ができる魔力だった。 女神様は国に役立つ魔力を授けてくれる。ということは、血縁が乱れてるってことか? 一人の倫理観が異常な男によって、国中の貴族が混乱するお話です。ご注意下さい。

王家の面子のために私を振り回さないで下さい。

しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。 愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。 自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。 国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。 実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。 ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。

居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。 父親は怒り、修道院に入れようとする。 そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。 学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。 ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。

誤解されて1年間妻と会うことを禁止された。

しゃーりん
恋愛
3か月前、ようやく愛する人アイリーンと結婚できたジョルジュ。 幸せ真っただ中だったが、ある理由により友人に唆されて高級娼館に行くことになる。 その現場を妻アイリーンに見られていることを知らずに。 実家に帰ったまま戻ってこない妻を迎えに行くと、会わせてもらえない。 やがて、娼館に行ったことがアイリーンにバレていることを知った。 妻の家族には娼館に行った経緯と理由を纏めてこいと言われ、それを見てアイリーンがどう判断するかは1年後に決まると言われた。つまり1年間会えないということ。 絶望しながらも思い出しながら経緯を書き記すと疑問点が浮かぶ。 なんでこんなことになったのかと原因を調べていくうちに自分たち夫婦に対する嫌がらせと離婚させることが目的だったとわかるお話です。

聖女と呼ばれることになった侯爵令嬢はご立腹です!

しゃーりん
恋愛
ちょっとした治癒魔法が使える程度であった侯爵令嬢が、ある事件によって聖女級の治癒力が使えるようになってしまった。 大好きな婚約者と別れて王太子と結婚?! とんでもないとご立腹の令嬢のお話です。

家族の靴を磨いていた私が、実は【神の加護を磨き上げた聖女】だった件。隣国の冷徹皇帝に「君の献身は世界を救う」と誘拐、24 執着されています

唯崎りいち
恋愛
「お前は一生、靴でも磨いていろ」 家族に虐げられ、靴を磨き続けた私。 実はその靴、磨くたびに『神の加護』が宿る聖具になっていました。 噂を聞きつけた隣国の冷徹皇帝に、出会い頭にさらわれて―― 「君は俺のものだ。24時間、指一本触れさせない」 靴を履かせてもらえず、移動は常に皇帝の腕の中!? 磨き上げた加護のせいで、皇帝の執着が神レベルに育ってしまう溺愛物語。

夢を現実にしないための正しいマニュアル

しゃーりん
恋愛
娘が処刑される夢を見た。 現在、娘はまだ6歳。それは本当に9年後に起こる出来事? 処刑される未来を変えるため、過去にも起きた夢の出来事を参考にして、変えてはいけないことと変えるべきことを調べ始める。 婚約者になる王子の周囲を変え、貴族の平民に対する接し方のマニュアルを作り、娘の未来のために頑張るお話。

貧乏伯爵令嬢は従姉に代わって公爵令嬢として結婚します。

しゃーりん
恋愛
貧乏伯爵令嬢ソレーユは伯父であるタフレット公爵の温情により、公爵家から学園に通っていた。 ソレーユは結婚を諦めて王宮で侍女になるために学園を卒業することは必須であった。 同い年の従姉であるローザリンデは、王宮で侍女になるよりも公爵家に嫁ぐ自分の侍女になればいいと嫌がらせのように侍女の仕事を与えようとする。 しかし、家族や人前では従妹に優しい令嬢を演じているため、横暴なことはしてこなかった。 だが、侍女になるつもりのソレーユに王太子の側妃になる話が上がったことを知ったローザリンデは自分よりも上の立場になるソレーユが許せなくて。 立場を入れ替えようと画策したローザリンデよりソレーユの方が幸せになるお話です。

処理中です...