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本編
第九話 陛下からの申し出
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「陛下、お騒がせして申し訳ありませんでした」
「アルメリアが謝ることはない。悪いのはあの馬鹿者共だ。陛下、あの二人が王宮で騒いだことに対して処罰を下されると思いますが、あの二人の処遇についてはまず、シアーガーデン公爵家で決めさせていただきます」
「ライラック!? 陛下に対して何を──」
双子の弟の王に対するものとは思えない物言いに、私は心臓が飛び出しそうなほど驚きました。
順序を考えれば、あのお二人の処遇を決めるのは陛下が先です。それをお願いどころか、断言するような言い方をするなんて──。
不遜とも取れる言葉に対し、どのような返答がなされるのかを固唾を飲んで待っていると、陛下は気にしたご様子もなく鷹揚に頷かれました。
「良い。好きにせよ」
「よろしいのですか!?」
「アルメリア、そもそも陛下は最初からそのおつもりだ」
「そうなの!?」
「ああ、でなければあいつらを話が通じなくなるまで放置せずに、早々に近衛に摘まみ出させている」
「それは確かに……」
ライラックの説明に納得していると、陛下は玉座に背を預け、微かな苦笑を浮かべながら仰いました。
「今回は子供らがこの場でどのように動くかを見たかったから、しばし静観させてもらった。まさかここまでの珍事が見れるとは余も想定外だったわ。それに、中途半端に止めに入れば後々ライラックに恨まれそうだしのう」
「まさか。敬愛する陛下に対してそのような気持ちを抱くなど有り得ません」
「それはお前の『春』の安寧が守られている限りは、だろう?」
「当然です。ですので、私はあの者たちを許しません。必ずや鉄槌を下します」
ホーランド侯爵家とラムヘッド子爵家への制裁を表明するライラックの眼光は、磨き上げられた剣のようでした。
正直、私から見ても怒るライラックは迫力満点でしたが、陛下は毛を逆立てる子猫をご覧になるような目で、肩を跳ねながら笑っておられます。
「ハッハッハッハッハ! 相変わらず気が強いのう。良い良い、それでこそシアーガーデンの跡目だ。そうそう、ところでアルメリア」
「はい」
ライラックの隣にいた私に目が留まられたのか、お声掛けをいただき、私は返事をしました。
「そなたはグジルとの婚約を破棄するようだな」
「……はい。こうなってしまっては、そうする他ないかと。ことが落ち着きましたら、陛下には改めてご報告に上がらせていただきます」
公爵家の婚姻は貴族の中でも大きな影響力を持ちます。何せ王家に次ぐ立場にあるのですから、婚姻一つにも内政の勢力図が大きく変わってしまいます。
王家にとっても無関係ではありませんので、婚約破棄が成立したらお父様と登城することになるでしょう。
「うむ。公爵ならそつなく済ませるだろう。待っておるぞ。時に、アルメリア。気が早いようだが、次の婚約については考えておるか?」
「いえ。今日のことはまだ両親すら知りませんし、私もまだそう早く考えを切り換えることは難しいです。それに、次のお相手も簡単には見つからないでしょうし──」
グジル様との婚約破棄が成立したとして、次の婚約者はしばらく見つからないでしょう。
シアーガーデンのお父様もお母様も相手選びにはグジル様の時以上に慎重になられるでしょうし、ライラックだって色々口を出してきそうです。
最初の婚約者選びの時、一番注文が多かったのはライラックでした。やれここがダメだ、ここが気に食わないと──口を開く度に私の婚約者へ求める条件が増え続け、最終的には当主としての勉強が忙しくなってきた隙を見て決めたのでしたよね。
立場上結婚しないという道はありませんが、次の婚約は時間を要するでしょう。
「そのことでアルメリアに訊きたいことがあってな?」
「なんでしょう?」
「陛下? 何を仰るおつもりで──」
陛下のお考えがわからず、ライラックも訝しげに顔を顰めています。
どんなお話しをされるのか、少し緊張しながら拝聴しました。
「新たな婚約者のことだが──余の倅と縁談する気はないか?」
「せが……れ……?」
「は!!? 陛下、一体何を──」
「すまない! 遅れた!」
陛下のお言葉がすんなりと頭に入ってこず、ただひたすら脳内で反芻していると会場の扉が勢いよく開かれ、一人の男性が駆け込んで来られました。
そちらへ一気に注目が集まります。
その方は大勢の視線を浴びることは慣れていらっしゃるでしょうけれど、今しがたの陛下のお言葉によって向けられる視線がいつものものとは違うことに気づいかれたのでしょう。
会場を見渡されながら目を瞬かせていらっしゃいます。
「おお、丁度いいところに来たな」
「──何かあったんですか?」
まだ何もご存じない王太子殿下は、首を傾げられました。
「アルメリアが謝ることはない。悪いのはあの馬鹿者共だ。陛下、あの二人が王宮で騒いだことに対して処罰を下されると思いますが、あの二人の処遇についてはまず、シアーガーデン公爵家で決めさせていただきます」
「ライラック!? 陛下に対して何を──」
双子の弟の王に対するものとは思えない物言いに、私は心臓が飛び出しそうなほど驚きました。
順序を考えれば、あのお二人の処遇を決めるのは陛下が先です。それをお願いどころか、断言するような言い方をするなんて──。
不遜とも取れる言葉に対し、どのような返答がなされるのかを固唾を飲んで待っていると、陛下は気にしたご様子もなく鷹揚に頷かれました。
「良い。好きにせよ」
「よろしいのですか!?」
「アルメリア、そもそも陛下は最初からそのおつもりだ」
「そうなの!?」
「ああ、でなければあいつらを話が通じなくなるまで放置せずに、早々に近衛に摘まみ出させている」
「それは確かに……」
ライラックの説明に納得していると、陛下は玉座に背を預け、微かな苦笑を浮かべながら仰いました。
「今回は子供らがこの場でどのように動くかを見たかったから、しばし静観させてもらった。まさかここまでの珍事が見れるとは余も想定外だったわ。それに、中途半端に止めに入れば後々ライラックに恨まれそうだしのう」
「まさか。敬愛する陛下に対してそのような気持ちを抱くなど有り得ません」
「それはお前の『春』の安寧が守られている限りは、だろう?」
「当然です。ですので、私はあの者たちを許しません。必ずや鉄槌を下します」
ホーランド侯爵家とラムヘッド子爵家への制裁を表明するライラックの眼光は、磨き上げられた剣のようでした。
正直、私から見ても怒るライラックは迫力満点でしたが、陛下は毛を逆立てる子猫をご覧になるような目で、肩を跳ねながら笑っておられます。
「ハッハッハッハッハ! 相変わらず気が強いのう。良い良い、それでこそシアーガーデンの跡目だ。そうそう、ところでアルメリア」
「はい」
ライラックの隣にいた私に目が留まられたのか、お声掛けをいただき、私は返事をしました。
「そなたはグジルとの婚約を破棄するようだな」
「……はい。こうなってしまっては、そうする他ないかと。ことが落ち着きましたら、陛下には改めてご報告に上がらせていただきます」
公爵家の婚姻は貴族の中でも大きな影響力を持ちます。何せ王家に次ぐ立場にあるのですから、婚姻一つにも内政の勢力図が大きく変わってしまいます。
王家にとっても無関係ではありませんので、婚約破棄が成立したらお父様と登城することになるでしょう。
「うむ。公爵ならそつなく済ませるだろう。待っておるぞ。時に、アルメリア。気が早いようだが、次の婚約については考えておるか?」
「いえ。今日のことはまだ両親すら知りませんし、私もまだそう早く考えを切り換えることは難しいです。それに、次のお相手も簡単には見つからないでしょうし──」
グジル様との婚約破棄が成立したとして、次の婚約者はしばらく見つからないでしょう。
シアーガーデンのお父様もお母様も相手選びにはグジル様の時以上に慎重になられるでしょうし、ライラックだって色々口を出してきそうです。
最初の婚約者選びの時、一番注文が多かったのはライラックでした。やれここがダメだ、ここが気に食わないと──口を開く度に私の婚約者へ求める条件が増え続け、最終的には当主としての勉強が忙しくなってきた隙を見て決めたのでしたよね。
立場上結婚しないという道はありませんが、次の婚約は時間を要するでしょう。
「そのことでアルメリアに訊きたいことがあってな?」
「なんでしょう?」
「陛下? 何を仰るおつもりで──」
陛下のお考えがわからず、ライラックも訝しげに顔を顰めています。
どんなお話しをされるのか、少し緊張しながら拝聴しました。
「新たな婚約者のことだが──余の倅と縁談する気はないか?」
「せが……れ……?」
「は!!? 陛下、一体何を──」
「すまない! 遅れた!」
陛下のお言葉がすんなりと頭に入ってこず、ただひたすら脳内で反芻していると会場の扉が勢いよく開かれ、一人の男性が駆け込んで来られました。
そちらへ一気に注目が集まります。
その方は大勢の視線を浴びることは慣れていらっしゃるでしょうけれど、今しがたの陛下のお言葉によって向けられる視線がいつものものとは違うことに気づいかれたのでしょう。
会場を見渡されながら目を瞬かせていらっしゃいます。
「おお、丁度いいところに来たな」
「──何かあったんですか?」
まだ何もご存じない王太子殿下は、首を傾げられました。
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