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本編
第十話 気が休まらない
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「えーと、本日はお日柄もよく──って、これは俺の台詞じゃないかな? まぁ、よろしく」
「よ、よろしくお願いいたします!!!」
緊張に声を裏返しながら、頭を深々と下げて挨拶をいたします。
直角に曲げた頭を真っ直ぐに戻し、お相手と目を合わせるとするりと避けられました。
いえ、正確には隣へと視線を奪われてしまいました。
「──で。なんでライラックがいるんだ?」
半ば呆れたように、お相手が訊ねられました。
私の隣にいるライラックは、腕を組んで眉間に皺を寄せ、口を引き結んでいます。
同行は断ったのですけれど、聞いてくれなかったんですよね……。
「俺は監督役だ。お前がアルメリアに不埒な真似をしないか目を光らせにきた」
「こら、ライラック! 殿下になんてこと仰るの!? 申し訳ありません、アクシズ殿下!」
あまりの不敬に思わずライラックの腕をぺちりと叩いて、挨拶の時以上に深々と頭を下げました。
「アルメリア、そう易々と頭を下げるな」
「ライラックがとんでもないこと言うからでしょ!」
ライラックが肩を掴んで元の姿勢に戻そうとしてきますが、私は頑として力を緩めませんでした。
このやり取りをご覧になって、お相手──王太子であらせられるアクシズ殿下は肩を竦めて苦笑なさいました。
「構わない。他に人目もないし、ライラックは私的な場ではわりといつもこうだしな。いちいち目くじらを立てていたら目つきが悪くなる」
「ライラック……?」
「俺だってアクシズ王太子殿下には敬意と忠義を以て接しているぞ。ただ、幼なじみのアクシズは別だし、今日はそれに加えてアルメリアをかっ攫って俺の義兄になるかもしれないアクシズだ。敬う気は一切ない!」
「そんなことを堂々と断言しないのっ!」
「そういうとこほんと、昔から変わらないよな。お前は」
「それはお互い様だろう」
王太子殿下と弟の気安いやり取りを間近で目撃して、血の気が引き過ぎたのか頭がくらくらしてきました。
ライラックとアクシズ殿下が幼なじみというのはライラックから聞いて存じ上げておりましたが、まさかこんなに馴れ馴れしく接しているなんて想定外です。
「アルメリアだってそんなにカチンコチンになることないぞ。王太子といっても、中身は俺と同じ十代の小僧だ。いつも俺と話しているように話せばいい」
「無茶言わないで……」
事も無げに言ってのけられた言葉に、私は頭を抱えました。
ええ、本当に無茶です。ライラックにとっては勝手知ったるお相手なのでしょうけど、私にとってはこうして面と向かってお話ししたことなんて数回しかない王太子殿下です。
公爵家で育ったライラックはお父様に連れられて登城する機会が多く、アクシズ殿下とは何度もお会いしたことがありますが、私はそういった機会はほとんどなくほぼ初対面と言ってもいい関係です。
そんなお方と今日は二人きり──のはずでしたが、ライラックが無理矢理着いてきました──で、しかも縁談だなんて!
一ヶ月前の私に貴女は近々アクシズ殿下と縁談をしますよと伝えても、絶対に信じないでしょう。
ええ、その通り。
今日私は、あの王宮のパーティーで陛下から勧められた縁談のために登城し、こうしてアクシズ殿下とお会いしているのです。
「よ、よろしくお願いいたします!!!」
緊張に声を裏返しながら、頭を深々と下げて挨拶をいたします。
直角に曲げた頭を真っ直ぐに戻し、お相手と目を合わせるとするりと避けられました。
いえ、正確には隣へと視線を奪われてしまいました。
「──で。なんでライラックがいるんだ?」
半ば呆れたように、お相手が訊ねられました。
私の隣にいるライラックは、腕を組んで眉間に皺を寄せ、口を引き結んでいます。
同行は断ったのですけれど、聞いてくれなかったんですよね……。
「俺は監督役だ。お前がアルメリアに不埒な真似をしないか目を光らせにきた」
「こら、ライラック! 殿下になんてこと仰るの!? 申し訳ありません、アクシズ殿下!」
あまりの不敬に思わずライラックの腕をぺちりと叩いて、挨拶の時以上に深々と頭を下げました。
「アルメリア、そう易々と頭を下げるな」
「ライラックがとんでもないこと言うからでしょ!」
ライラックが肩を掴んで元の姿勢に戻そうとしてきますが、私は頑として力を緩めませんでした。
このやり取りをご覧になって、お相手──王太子であらせられるアクシズ殿下は肩を竦めて苦笑なさいました。
「構わない。他に人目もないし、ライラックは私的な場ではわりといつもこうだしな。いちいち目くじらを立てていたら目つきが悪くなる」
「ライラック……?」
「俺だってアクシズ王太子殿下には敬意と忠義を以て接しているぞ。ただ、幼なじみのアクシズは別だし、今日はそれに加えてアルメリアをかっ攫って俺の義兄になるかもしれないアクシズだ。敬う気は一切ない!」
「そんなことを堂々と断言しないのっ!」
「そういうとこほんと、昔から変わらないよな。お前は」
「それはお互い様だろう」
王太子殿下と弟の気安いやり取りを間近で目撃して、血の気が引き過ぎたのか頭がくらくらしてきました。
ライラックとアクシズ殿下が幼なじみというのはライラックから聞いて存じ上げておりましたが、まさかこんなに馴れ馴れしく接しているなんて想定外です。
「アルメリアだってそんなにカチンコチンになることないぞ。王太子といっても、中身は俺と同じ十代の小僧だ。いつも俺と話しているように話せばいい」
「無茶言わないで……」
事も無げに言ってのけられた言葉に、私は頭を抱えました。
ええ、本当に無茶です。ライラックにとっては勝手知ったるお相手なのでしょうけど、私にとってはこうして面と向かってお話ししたことなんて数回しかない王太子殿下です。
公爵家で育ったライラックはお父様に連れられて登城する機会が多く、アクシズ殿下とは何度もお会いしたことがありますが、私はそういった機会はほとんどなくほぼ初対面と言ってもいい関係です。
そんなお方と今日は二人きり──のはずでしたが、ライラックが無理矢理着いてきました──で、しかも縁談だなんて!
一ヶ月前の私に貴女は近々アクシズ殿下と縁談をしますよと伝えても、絶対に信じないでしょう。
ええ、その通り。
今日私は、あの王宮のパーティーで陛下から勧められた縁談のために登城し、こうしてアクシズ殿下とお会いしているのです。
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