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本編
第二十一話 愛の熱量
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「リマリーさん……」
何故ここに? という疑問と共に、どうやって王宮に入ったのでしょうか? という疑問が湧きましたが、答えは最初から提示されてました。
リマリーさん、使用人の格好をされていらっしゃいます……。グジル様とリマリーさんを交互に見て、思ったことは──。
「似た者同士……」
うんざりした声でライラックが代弁してくれました。はい、発想が全く同じですね……。
「おい、ラムヘッド。アルメリアに会いに来たそこの馬鹿者はともかく、何故お前までここにいる?」
「お父様にグジル様と会うことを禁じられて、ずっとお会い出来ていなかったから……どうしてもお会いしたくて……」
「なんでグジルが王宮にいるとわかったんだ?」
「女の勘ですわ……」
「女の勘、すご……」
アクシズ殿下がぽつりと呟かれましたが、概ね同意です。私も同じ女性ですが、リマリーさんほど勘がいい自信はありません。お二人の関係にも全く気づいておりませんでしたし。
あと、やっていることの善悪は置いておいて、行動力が凄いです。
ライラックの質問に魂が抜けたように答えていらしたリマリーさんですが、ゆらりとグジル様の方へ向き直ると唇を薄く開いて問われました。
「グジル様、先程のお言葉はどういうことですか……? アルメリアさんを、妻にって──グジル様は私と結婚してくださるのでしょう?」
「リマリー……聞いてくれ。このままだと、俺は侯爵になれない。父上の跡を継ぐには、アルメリアと結婚するしかないんだ。わかってくれ」
「わかりません。侯爵になれないから、なんだというのです? 私はグジル様が侯爵でなくとも愛しています。グジル様は私を愛していないのですか?」
「愛しているとも! だからこそ、君を幸せにするためにも侯爵にならなくてはならないんだ!」
「この状況でそれ言える胆力がいっそ凄い」
「こういうのって、ライラックっぽく言ったら舐め腐ってるって表現が正しいのでしょうか?」
「違う。あれは脳味噌が腐れてるって言うんだ」
「なるほど」
この期に及んでそう仰るであれば、お二人のお気持ち自体は本物なのでしょう。
とはいえ、それを見せつけられた私の立場からすれば、ふざけないでいただきたいの一言に尽きます。
それに、何なのでしょう。このもやもやした感じは。グジル様のお言葉を聞いていると、何か、物凄い中途半端な気持ち悪さを感じるのですが、それをうまく言語化できません。
「グジル様がいれば私は幸せです! 私にとっての不幸は、グジル様の妻になれないことですわ! その上、他の女がその座に納まるなんて許せません! グジル様の妻になれるのは私だけです! アルメリアさんなんて全くふさわしくありません!」
「当たり前だ。わかっているじゃないか」
「多分、ライラックが思ってる意味でリマリーさんは仰ってないと思うけど、まぁ、ふさわしいとか言われても困るしね……」
「グジル様、私は愛のためなら全てを捨てる覚悟はできております。だから、私と結婚しましょう。この愛を貫きましょう!」
リマリーさんがグジル様の腕に縋りつき、全身全霊で愛を叫んでおります。
その声は必死で、心の底から放たれた言葉なのでしょう。もし、お二人の関係が不義の上に成り立ってなかったら応援したくなるくらいのいじらしさでした。
「リマリー……俺は……」
なりふり構わないリマリーさんに反し、グジル様ははっきりされないご様子。本当に何なのでしょう。確かにグジル様からリマリーさんへの愛、のようなものはあると感じられるのですが、リマリーさんのものと比べると、こう、熱? が違うような──
「どうした? 愛した女が全てを捨てる覚悟まで決めてるんだぞ。貴様が愛をとれば貴様らは一緒になれる。何故、その手を取らない?」
ライラックが敵の急所を見つけたような顔で口角を上げ、問いかけました。
「愛を貫くために一度は婚約破棄を決めたんだろ? 今更、何を躊躇してるんだ?」
続けてアクシズ殿下が問います。
ライラックとアクシズ殿下の間で、何らかの連携が組まれたようです。ですが、お二人はグジル様から何を引き出したいのでしょう?
「──っ、だから! 俺は侯爵になってリマリーを幸せに──」
「貴様が侯爵でなくても、その女は幸せだとさっき言っていたぞ。むしろ、侯爵になれば貴様らの結婚は絶対に認められない。それが不幸ではないのか?」
「──侯爵になる道を諦めれば、今までのような生活はできなくなる。リマリーにだって苦労をかけることになる──だから──」
「全く苦痛のない人生なんてない。それでも生きてる限り、人間は環境に順応する生き物だ。最初は苦労しても、いつかは慣れる。愛という拠り所があれば乗り越えられないものじゃないだろう。愛しているんだろ? 彼女のことを」
「当然だ! だから──だから──」
何かから逃れるように、グジル様は必死に言葉を繋ごうとされていますが、続く言葉が見つからないようで、どんどん声が弱々しくなっていきました。
「グジル様? どうして──」
同じ覚悟を決めてくれないのかと問わんばかりに、リマリーさんがグジル様を見上げています。
その視線に堪えられないように、グジル様はリマリーさんからお顔を背けられました。
ここでようやく、ずっとグジル様に感じていた中途半端な感覚とライラックとアクシズ殿下が何の言葉を引き出そうとしていたのかに気づき、私は今一番グジル様の琴線に触れる言葉を口にしました。
「グジル様、愛のためなら爵位なんて捨てられますでしょう?」
瞬間、熱せられた薪が爆ぜるように、グジル様は怒声を轟かせました。
「捨てられるわけがないだろうッッッッッ!!!!!」
何故ここに? という疑問と共に、どうやって王宮に入ったのでしょうか? という疑問が湧きましたが、答えは最初から提示されてました。
リマリーさん、使用人の格好をされていらっしゃいます……。グジル様とリマリーさんを交互に見て、思ったことは──。
「似た者同士……」
うんざりした声でライラックが代弁してくれました。はい、発想が全く同じですね……。
「おい、ラムヘッド。アルメリアに会いに来たそこの馬鹿者はともかく、何故お前までここにいる?」
「お父様にグジル様と会うことを禁じられて、ずっとお会い出来ていなかったから……どうしてもお会いしたくて……」
「なんでグジルが王宮にいるとわかったんだ?」
「女の勘ですわ……」
「女の勘、すご……」
アクシズ殿下がぽつりと呟かれましたが、概ね同意です。私も同じ女性ですが、リマリーさんほど勘がいい自信はありません。お二人の関係にも全く気づいておりませんでしたし。
あと、やっていることの善悪は置いておいて、行動力が凄いです。
ライラックの質問に魂が抜けたように答えていらしたリマリーさんですが、ゆらりとグジル様の方へ向き直ると唇を薄く開いて問われました。
「グジル様、先程のお言葉はどういうことですか……? アルメリアさんを、妻にって──グジル様は私と結婚してくださるのでしょう?」
「リマリー……聞いてくれ。このままだと、俺は侯爵になれない。父上の跡を継ぐには、アルメリアと結婚するしかないんだ。わかってくれ」
「わかりません。侯爵になれないから、なんだというのです? 私はグジル様が侯爵でなくとも愛しています。グジル様は私を愛していないのですか?」
「愛しているとも! だからこそ、君を幸せにするためにも侯爵にならなくてはならないんだ!」
「この状況でそれ言える胆力がいっそ凄い」
「こういうのって、ライラックっぽく言ったら舐め腐ってるって表現が正しいのでしょうか?」
「違う。あれは脳味噌が腐れてるって言うんだ」
「なるほど」
この期に及んでそう仰るであれば、お二人のお気持ち自体は本物なのでしょう。
とはいえ、それを見せつけられた私の立場からすれば、ふざけないでいただきたいの一言に尽きます。
それに、何なのでしょう。このもやもやした感じは。グジル様のお言葉を聞いていると、何か、物凄い中途半端な気持ち悪さを感じるのですが、それをうまく言語化できません。
「グジル様がいれば私は幸せです! 私にとっての不幸は、グジル様の妻になれないことですわ! その上、他の女がその座に納まるなんて許せません! グジル様の妻になれるのは私だけです! アルメリアさんなんて全くふさわしくありません!」
「当たり前だ。わかっているじゃないか」
「多分、ライラックが思ってる意味でリマリーさんは仰ってないと思うけど、まぁ、ふさわしいとか言われても困るしね……」
「グジル様、私は愛のためなら全てを捨てる覚悟はできております。だから、私と結婚しましょう。この愛を貫きましょう!」
リマリーさんがグジル様の腕に縋りつき、全身全霊で愛を叫んでおります。
その声は必死で、心の底から放たれた言葉なのでしょう。もし、お二人の関係が不義の上に成り立ってなかったら応援したくなるくらいのいじらしさでした。
「リマリー……俺は……」
なりふり構わないリマリーさんに反し、グジル様ははっきりされないご様子。本当に何なのでしょう。確かにグジル様からリマリーさんへの愛、のようなものはあると感じられるのですが、リマリーさんのものと比べると、こう、熱? が違うような──
「どうした? 愛した女が全てを捨てる覚悟まで決めてるんだぞ。貴様が愛をとれば貴様らは一緒になれる。何故、その手を取らない?」
ライラックが敵の急所を見つけたような顔で口角を上げ、問いかけました。
「愛を貫くために一度は婚約破棄を決めたんだろ? 今更、何を躊躇してるんだ?」
続けてアクシズ殿下が問います。
ライラックとアクシズ殿下の間で、何らかの連携が組まれたようです。ですが、お二人はグジル様から何を引き出したいのでしょう?
「──っ、だから! 俺は侯爵になってリマリーを幸せに──」
「貴様が侯爵でなくても、その女は幸せだとさっき言っていたぞ。むしろ、侯爵になれば貴様らの結婚は絶対に認められない。それが不幸ではないのか?」
「──侯爵になる道を諦めれば、今までのような生活はできなくなる。リマリーにだって苦労をかけることになる──だから──」
「全く苦痛のない人生なんてない。それでも生きてる限り、人間は環境に順応する生き物だ。最初は苦労しても、いつかは慣れる。愛という拠り所があれば乗り越えられないものじゃないだろう。愛しているんだろ? 彼女のことを」
「当然だ! だから──だから──」
何かから逃れるように、グジル様は必死に言葉を繋ごうとされていますが、続く言葉が見つからないようで、どんどん声が弱々しくなっていきました。
「グジル様? どうして──」
同じ覚悟を決めてくれないのかと問わんばかりに、リマリーさんがグジル様を見上げています。
その視線に堪えられないように、グジル様はリマリーさんからお顔を背けられました。
ここでようやく、ずっとグジル様に感じていた中途半端な感覚とライラックとアクシズ殿下が何の言葉を引き出そうとしていたのかに気づき、私は今一番グジル様の琴線に触れる言葉を口にしました。
「グジル様、愛のためなら爵位なんて捨てられますでしょう?」
瞬間、熱せられた薪が爆ぜるように、グジル様は怒声を轟かせました。
「捨てられるわけがないだろうッッッッッ!!!!!」
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