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本編
第二十五話 遠からず咲く花
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「あ」
言葉にするつもりはなかったのか、アクシズ殿下が失言を誤魔化すように口元を押さえられました。
「アクシズ殿下、私怨とはどういう意味なのでしょうか?」
「ああ、いや、今のは忘れ──いたっ、ライラック……」
「ん」
気になって私がお訊ねしたものの、忘れてと返されようとしたアクシズ殿下の脛をライラックが蹴って、言えと促すように顎をしゃくりました。
アクシズ殿下はライラックのふてぶてしい態度に引き攣った笑みを浮かべられましたが、やがて観念されたようにお話ししてくださいました。
「あー……あの時のグジルさ、アルメリアのこと自分のものみたいに言ったからさ、そのことが癪に触ったっていうか、なんていうか……」
「グジル様の言動にご立腹された、という事でしょうか?」
確かにアクシズ殿下のようなお立場の方から見れば、グジル様の振る舞いは気分のいいものではありせんよね。
ライラックも凄い腹を立ててましたし、まぁ、ライラックの場合は私にそういう言動を向けられたというのが理由の半分ですけれど、アクシズ殿下は純粋に──。
「……いや、グジルの言葉そのものより、それをアルメリアに言ったことに対して、かな……」
「──え?」
それは、どういう意味でしょう?
ライラックが私に向けられた言葉に怒ったりするのは、私を大切に思ってくれているからです。純然たる家族へ対する愛情から発露するものです。
では、アクシズ殿下は? ライラックと同じように考えると──アクシズ殿下は私を思って、怒ってくださった……?
気まずそうに視線を逸らしていらっしゃるアクシズ殿下の湿布の貼られていない頬は、薄く色づいてました。
その春の花にも似た色にどんな意味があるかを想像して、私の頬までじわじわと熱を持ってゆきました。
それは、もしかしたら──。
様子を窺うようにそろりとこちらへ視線を向けられたアクシズ殿下が、私の頬の色に気づいたようで更に頬の赤みが増しました。つられて、私も。
アクシズ殿下と私の唇が同時に動いて、何か、言葉を紡ごうとして。
「こほん」
「「! ライラック!」」
薄い膜を破るような咳払いに、私たちは同時に肩を跳ね上げてライラックの方を見ました。
ライラックはつまらなそうな顔で面白くなさそうに、けれど柔らかい声で言いました。
「どうやら縁談の方はうまく纏まりそうだな。何よりだ」
「えっと……」
「それはまぁ──てゆうか、何よりって顔してないぞ」
「陛下のご意向に沿うことはシアーガーデン公爵家としては喜ばしいことだが、俺個人としては面白くない! 婚約してもまだまだアルメリアはやらんからな!」
「えぇ……お前は一体、どういう立ち位置なの?」
「アルメリアの唯一無二の双子の弟だが?」
自信満々の笑顔で答えたライラックに、私もアクシズ殿下も苦笑いを浮かべ、次第に声を上げて笑い出しました。なんだか、いつも通りが戻ってきた感じがします。
さっきの妙に熱っぽい空気は雨音に溶けて、なんだかそれが残念な気もしますが、綻んだ花が必ず咲くというのなら、今は焦ることもないかもしれません。
頬を染めた色と同じ花が咲いた時、今度こそ。
そしてそれは、そう遠い未来のことではない予感がいたしました。
言葉にするつもりはなかったのか、アクシズ殿下が失言を誤魔化すように口元を押さえられました。
「アクシズ殿下、私怨とはどういう意味なのでしょうか?」
「ああ、いや、今のは忘れ──いたっ、ライラック……」
「ん」
気になって私がお訊ねしたものの、忘れてと返されようとしたアクシズ殿下の脛をライラックが蹴って、言えと促すように顎をしゃくりました。
アクシズ殿下はライラックのふてぶてしい態度に引き攣った笑みを浮かべられましたが、やがて観念されたようにお話ししてくださいました。
「あー……あの時のグジルさ、アルメリアのこと自分のものみたいに言ったからさ、そのことが癪に触ったっていうか、なんていうか……」
「グジル様の言動にご立腹された、という事でしょうか?」
確かにアクシズ殿下のようなお立場の方から見れば、グジル様の振る舞いは気分のいいものではありせんよね。
ライラックも凄い腹を立ててましたし、まぁ、ライラックの場合は私にそういう言動を向けられたというのが理由の半分ですけれど、アクシズ殿下は純粋に──。
「……いや、グジルの言葉そのものより、それをアルメリアに言ったことに対して、かな……」
「──え?」
それは、どういう意味でしょう?
ライラックが私に向けられた言葉に怒ったりするのは、私を大切に思ってくれているからです。純然たる家族へ対する愛情から発露するものです。
では、アクシズ殿下は? ライラックと同じように考えると──アクシズ殿下は私を思って、怒ってくださった……?
気まずそうに視線を逸らしていらっしゃるアクシズ殿下の湿布の貼られていない頬は、薄く色づいてました。
その春の花にも似た色にどんな意味があるかを想像して、私の頬までじわじわと熱を持ってゆきました。
それは、もしかしたら──。
様子を窺うようにそろりとこちらへ視線を向けられたアクシズ殿下が、私の頬の色に気づいたようで更に頬の赤みが増しました。つられて、私も。
アクシズ殿下と私の唇が同時に動いて、何か、言葉を紡ごうとして。
「こほん」
「「! ライラック!」」
薄い膜を破るような咳払いに、私たちは同時に肩を跳ね上げてライラックの方を見ました。
ライラックはつまらなそうな顔で面白くなさそうに、けれど柔らかい声で言いました。
「どうやら縁談の方はうまく纏まりそうだな。何よりだ」
「えっと……」
「それはまぁ──てゆうか、何よりって顔してないぞ」
「陛下のご意向に沿うことはシアーガーデン公爵家としては喜ばしいことだが、俺個人としては面白くない! 婚約してもまだまだアルメリアはやらんからな!」
「えぇ……お前は一体、どういう立ち位置なの?」
「アルメリアの唯一無二の双子の弟だが?」
自信満々の笑顔で答えたライラックに、私もアクシズ殿下も苦笑いを浮かべ、次第に声を上げて笑い出しました。なんだか、いつも通りが戻ってきた感じがします。
さっきの妙に熱っぽい空気は雨音に溶けて、なんだかそれが残念な気もしますが、綻んだ花が必ず咲くというのなら、今は焦ることもないかもしれません。
頬を染めた色と同じ花が咲いた時、今度こそ。
そしてそれは、そう遠い未来のことではない予感がいたしました。
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