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本編
第二十六話 次への期待
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降り続けた雨は止むことなく、今日の縁談は雨模様で終了いたしました。
あの後、私はライラックとアクシズ殿下とは別々にドレスルームへ通され、そこで用意された代えのドレスに着替えてから警務塔の聴取室へ案内されました。
目的は王宮への侵入罪と王族に対する暴行罪を立証する証言のためです。
気を使ってくださったのか、私の担当者は物腰の柔らかな女性で、そのおかげか落ち着いて私の見たまま、ありのままの出来事をお話しすることが出来ました。
一部始終を見ていた私が一番時間が掛かったようで、聴取室から出るとすでに聴取を終えたライラックとアクシズ殿下が待っていてくださいました。
王太子が殴られた、という一大事はすぐに陛下のお耳にも入ったらしく、アクシズ殿下はそのおみ足で直接事情を説明しに行かれることになり、その場でお別れすることになりました。
「父上も案外せっかちだな。少しは可愛い息子を休ませてくれてもいいのに。見送りが出来なくてごめんな?」
「陛下のご命令であれば仕方ないだろう」
「お気になさらないでください。本来であれば私も共にご説明に上がるべきですのに、アクシズ殿下お一人にお任せしてしまい、申し訳ありません」
「あんなことがあった後で父上の顔なんて見たら、余計心労が溜まるぞ。今日はシアーガーデン公爵家の方へ帰るんだっけ?」
「はい。元々、縁談のご報告を兼ねて顔を見せる予定だったのですけど、色々ありすぎましたから恐らく今日は泊まりになると思います」
そして始まるであろう婚約破棄の時のような両親の百面相を拝見することになるのでしょうね……。またシアーガーデンの両親とツルーネの両親の二連続で……いっそ、ご報告する前にツルーネの両親にシアーガーデン公爵家へ来ていただいた方が良いでしょうか?
「そうか。なら、ライラックが一緒か。それなら安心だ。ライラック、今日はアルメリアを労ってやってくれ」
「アクシズに言われずともそのつもりだし、そもそも俺はいつもアルメリアを労っているぞ」
「はいはい。シスターファーストで結構結構」
「違う。アルメリアファーストだ」
「ライラックのシスターは私だけなんだから、シスターファーストであってるんじゃないの?」
「全然違う」
ライラックのこの細かいこだわりはなんなのでしょうか……。
そんな他愛ないやり取りをしていると、政務官の格好をされた男性が会釈をしてこちらへいらっしゃいました。
「アクシズ殿下、陛下がお待ちです。そろそろ移動を」
「わかってる。じゃあ二人とも、またな」
「ああ」
「はい。アクシズ殿下、本日はありがとうございました」
「そうだ、アルメリア」
手を振りながら、背中を向けられたアクシズ殿下が何かを思い出されたように振り返られました。
「どうかされましたか?」
「近いうちに今日の縁談の続きの場を用意するよ。花園でのこと覚えてるか? 楽しみにしてる」
「花園──?」
何のことかすぐに思い出せず、記憶を掘り起こしていると、アクシズ殿下が悪戯っ子のようにニッと笑われて、口を動かされました。
──あ、く、し、ず。
はっきりとした動きだったので、声が無くともアクシズ殿下がなんと仰ったのかわかりました。
それが、どういう意味なのかも。
──俺のこともアクシズでいいぞ?
そうでした。アクシズ殿下をお名前でお呼びするお約束をしていたのでした!
え!? つ、次にお会いした時に? それは、些か早すぎではないでしょうか?
「あ、アクシズ殿下! それは──」
「じゃあな。風邪引くなよ~」
「アクシズ殿下ー!」
もうしばしの猶予のお願いをする前に、アクシズ殿下は笑顔で去ってしまわれました。
「アルメリア、俺たちも帰ろう」
ライラックが私の手をくいくいと引いて、出口の方へ連れて行こうとしておりますが、私の足はすぐには動きませんでした。代わりに口が動きます。
「ライラック……」
「何?」
「どうしたら、ライラックみたいな鋼の心臓を手に入れられるの?」
「……は?」
ライラックはしばらくぽかんとした顔をした後、「俺の心臓はアルメリアと同じ血と肉でできてるぞ」と至極真面目に答えました。
あの後、私はライラックとアクシズ殿下とは別々にドレスルームへ通され、そこで用意された代えのドレスに着替えてから警務塔の聴取室へ案内されました。
目的は王宮への侵入罪と王族に対する暴行罪を立証する証言のためです。
気を使ってくださったのか、私の担当者は物腰の柔らかな女性で、そのおかげか落ち着いて私の見たまま、ありのままの出来事をお話しすることが出来ました。
一部始終を見ていた私が一番時間が掛かったようで、聴取室から出るとすでに聴取を終えたライラックとアクシズ殿下が待っていてくださいました。
王太子が殴られた、という一大事はすぐに陛下のお耳にも入ったらしく、アクシズ殿下はそのおみ足で直接事情を説明しに行かれることになり、その場でお別れすることになりました。
「父上も案外せっかちだな。少しは可愛い息子を休ませてくれてもいいのに。見送りが出来なくてごめんな?」
「陛下のご命令であれば仕方ないだろう」
「お気になさらないでください。本来であれば私も共にご説明に上がるべきですのに、アクシズ殿下お一人にお任せしてしまい、申し訳ありません」
「あんなことがあった後で父上の顔なんて見たら、余計心労が溜まるぞ。今日はシアーガーデン公爵家の方へ帰るんだっけ?」
「はい。元々、縁談のご報告を兼ねて顔を見せる予定だったのですけど、色々ありすぎましたから恐らく今日は泊まりになると思います」
そして始まるであろう婚約破棄の時のような両親の百面相を拝見することになるのでしょうね……。またシアーガーデンの両親とツルーネの両親の二連続で……いっそ、ご報告する前にツルーネの両親にシアーガーデン公爵家へ来ていただいた方が良いでしょうか?
「そうか。なら、ライラックが一緒か。それなら安心だ。ライラック、今日はアルメリアを労ってやってくれ」
「アクシズに言われずともそのつもりだし、そもそも俺はいつもアルメリアを労っているぞ」
「はいはい。シスターファーストで結構結構」
「違う。アルメリアファーストだ」
「ライラックのシスターは私だけなんだから、シスターファーストであってるんじゃないの?」
「全然違う」
ライラックのこの細かいこだわりはなんなのでしょうか……。
そんな他愛ないやり取りをしていると、政務官の格好をされた男性が会釈をしてこちらへいらっしゃいました。
「アクシズ殿下、陛下がお待ちです。そろそろ移動を」
「わかってる。じゃあ二人とも、またな」
「ああ」
「はい。アクシズ殿下、本日はありがとうございました」
「そうだ、アルメリア」
手を振りながら、背中を向けられたアクシズ殿下が何かを思い出されたように振り返られました。
「どうかされましたか?」
「近いうちに今日の縁談の続きの場を用意するよ。花園でのこと覚えてるか? 楽しみにしてる」
「花園──?」
何のことかすぐに思い出せず、記憶を掘り起こしていると、アクシズ殿下が悪戯っ子のようにニッと笑われて、口を動かされました。
──あ、く、し、ず。
はっきりとした動きだったので、声が無くともアクシズ殿下がなんと仰ったのかわかりました。
それが、どういう意味なのかも。
──俺のこともアクシズでいいぞ?
そうでした。アクシズ殿下をお名前でお呼びするお約束をしていたのでした!
え!? つ、次にお会いした時に? それは、些か早すぎではないでしょうか?
「あ、アクシズ殿下! それは──」
「じゃあな。風邪引くなよ~」
「アクシズ殿下ー!」
もうしばしの猶予のお願いをする前に、アクシズ殿下は笑顔で去ってしまわれました。
「アルメリア、俺たちも帰ろう」
ライラックが私の手をくいくいと引いて、出口の方へ連れて行こうとしておりますが、私の足はすぐには動きませんでした。代わりに口が動きます。
「ライラック……」
「何?」
「どうしたら、ライラックみたいな鋼の心臓を手に入れられるの?」
「……は?」
ライラックはしばらくぽかんとした顔をした後、「俺の心臓はアルメリアと同じ血と肉でできてるぞ」と至極真面目に答えました。
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