散らない春のアルメリア~婚約破棄を決めた婚約者が物凄い誤解をしてました~

夢草 蝶

文字の大きさ
26 / 33
本編

第二十六話 次への期待

しおりを挟む
 降り続けた雨は止むことなく、今日の縁談は雨模様で終了いたしました。
 あの後、私はライラックとアクシズ殿下とは別々にドレスルームへ通され、そこで用意された代えのドレスに着替えてから警務塔の聴取室へ案内されました。
 目的は王宮への侵入罪と王族に対する暴行罪を立証する証言のためです。
 気を使ってくださったのか、私の担当者は物腰の柔らかな女性で、そのおかげか落ち着いて私の見たまま、ありのままの出来事をお話しすることが出来ました。
 一部始終を見ていた私が一番時間が掛かったようで、聴取室から出るとすでに聴取を終えたライラックとアクシズ殿下が待っていてくださいました。
 王太子が殴られた、という一大事はすぐに陛下のお耳にも入ったらしく、アクシズ殿下はそのおみ足で直接事情を説明しに行かれることになり、その場でお別れすることになりました。

「父上も案外せっかちだな。少しは可愛い息子を休ませてくれてもいいのに。見送りが出来なくてごめんな?」

「陛下のご命令であれば仕方ないだろう」

「お気になさらないでください。本来であれば私も共にご説明に上がるべきですのに、アクシズ殿下お一人にお任せしてしまい、申し訳ありません」

「あんなことがあった後で父上の顔なんて見たら、余計心労が溜まるぞ。今日はシアーガーデン公爵家の方へ帰るんだっけ?」

「はい。元々、縁談のご報告を兼ねて顔を見せる予定だったのですけど、色々ありすぎましたから恐らく今日は泊まりになると思います」

 そして始まるであろう婚約破棄の時のような両親の百面相を拝見することになるのでしょうね……。またシアーガーデンの両親とツルーネの両親の二連続で……いっそ、ご報告する前にツルーネの両親にシアーガーデン公爵家へ来ていただいた方が良いでしょうか?

「そうか。なら、ライラックが一緒か。それなら安心だ。ライラック、今日はアルメリアを労ってやってくれ」

「アクシズに言われずともそのつもりだし、そもそも俺はいつもアルメリアを労っているぞ」

「はいはい。シスターファーストで結構結構」

「違う。アルメリアファーストだ」

「ライラックのシスターは私だけなんだから、シスターファーストであってるんじゃないの?」

「全然違う」

 ライラックのこの細かいこだわりはなんなのでしょうか……。
 そんな他愛ないやり取りをしていると、政務官の格好をされた男性が会釈をしてこちらへいらっしゃいました。

「アクシズ殿下、陛下がお待ちです。そろそろ移動を」

「わかってる。じゃあ二人とも、またな」

「ああ」

「はい。アクシズ殿下、本日はありがとうございました」

「そうだ、アルメリア」

 手を振りながら、背中を向けられたアクシズ殿下が何かを思い出されたように振り返られました。

「どうかされましたか?」

「近いうちに今日の縁談の続きの場を用意するよ。花園でのこと覚えてるか? 楽しみにしてる」

「花園──?」

 何のことかすぐに思い出せず、記憶を掘り起こしていると、アクシズ殿下が悪戯っ子のようにニッと笑われて、口を動かされました。

 ──あ、く、し、ず。

 はっきりとした動きだったので、声が無くともアクシズ殿下がなんと仰ったのかわかりました。
 それが、どういう意味なのかも。

 ──俺のこともアクシズでいいぞ?

 そうでした。アクシズ殿下をお名前でお呼びするお約束をしていたのでした!
 え!? つ、次にお会いした時に? それは、些か早すぎではないでしょうか?

「あ、アクシズ殿下! それは──」

「じゃあな。風邪引くなよ~」

「アクシズ殿下ー!」

 もうしばしの猶予のお願いをする前に、アクシズ殿下は笑顔で去ってしまわれました。

「アルメリア、俺たちも帰ろう」

 ライラックが私の手をくいくいと引いて、出口の方へ連れて行こうとしておりますが、私の足はすぐには動きませんでした。代わりに口が動きます。

「ライラック……」

「何?」

「どうしたら、ライラックみたいな鋼の心臓を手に入れられるの?」

「……は?」

 ライラックはしばらくぽかんとした顔をした後、「俺の心臓はアルメリアと同じ血と肉でできてるぞ」と至極真面目に答えました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。

しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。 相手は10歳年上の公爵ユーグンド。 昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。 しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。 それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。 実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。 国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。 無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。  

夫に愛想が尽きたので離婚します

しゃーりん
恋愛
次期侯爵のエステルは、3年前に結婚した夫マークとの離婚を決意した。 マークは優しいがお人好しで、度々エステルを困らせたが我慢の限界となった。 このままマークがそばに居れば侯爵家が馬鹿にされる。 夫を捨ててスッキリしたお話です。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

侍女から第2夫人、そして……

しゃーりん
恋愛
公爵家の2歳のお嬢様の侍女をしているルイーズは、酔って夢だと思い込んでお嬢様の父親であるガレントと関係を持ってしまう。 翌朝、現実だったと知った2人は親たちの話し合いの結果、ガレントの第2夫人になることに決まった。 ガレントの正妻セルフィが病弱でもう子供を望めないからだった。 一日で侍女から第2夫人になってしまったルイーズ。 正妻セルフィからは、娘を義母として可愛がり、夫を好きになってほしいと頼まれる。 セルフィの残り時間は少なく、ルイーズがやがて正妻になるというお話です。

王家の面子のために私を振り回さないで下さい。

しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。 愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。 自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。 国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。 実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。 ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。 父親は怒り、修道院に入れようとする。 そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。 学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。 ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。

婚約者を交換しましょう!

しゃーりん
恋愛
公爵令息ランディの婚約者ローズはまだ14歳。 友人たちにローズの幼さを語って貶すところを聞いてしまった。 ならば婚約解消しましょう? 一緒に話を聞いていた姉と姉の婚約者、そして父の協力で婚約解消するお話です。

処理中です...