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第一章 魔王様、人間の王子に恋をする
第五話 始末書と訪問者
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サラサラと紙にペンを滑らせる音が室内に流れる。
淀みなく紙に文字を紡ぐイーラは文の最後にピリオドを打つと元気に立ち上がった。
「出来た!」
「書けましたか? 陛下」
「うん。はい、どーぞ!」
クラウスは手渡された紙を受け取って、目を通すと眉間を押さえて唸った。イーラが書いていたのは蛇の部屋の魔法道具を粉々にしたことに関する始末書だ。
「陛下・・・・・・毎回言っていることですが、もっと語彙力を身につけられませんか?」
クラウスが苦言を呈した始末書には流麗な文字でこう書かれていた。
『魔法道具を壊しちゃってごめんなさい。気をつけます。』
整った字体と内容の温度差に目眩がする。紙の半分にも満たないあまりにも簡潔な文章である。
「書き直しです」
始末書をイーラの鼻先に突き出して、再提出を要求する。
「えー・・・・・・面倒くさい」
「陛下」
唇を尖らせて不満を言うイーラをドスの利いた声で促すと、イーラは渋々羽根ペンを手に取り、新しい白紙の紙に再び文字を綴る。
その間にクラウスは始末書を書く前にイーラが片付けた書類に記入漏れや誤字などがないか確認する。
書類にはやはり流麗な文字が並んでおり、特にミスは見当たらない。
「こういうところはしっかりしているんですがね・・・・・・」
クラウスがぽつりと呟く。
ポンコツ魔王として魔族内で名を馳せるイーラだが、決して全てがポンコツな訳ではない。
本人はじっとしていなくてはいけないデスクワークを嫌っているが、不得手というわけではなく、一度本気でやろうと思ったら、ぱっぱっと片付けられるのだ。ただやる気がなかなか出ないだけで。
イーラは書くことが大体決まっている仕事上の書類は瞬殺できるが、自分で言葉を考えなくてはいけない始末書は大の苦手だった。
「クラウス~、書けた」
再び手渡された始末書には、
『魔法道具を壊してしまい、申し訳ありませんでした。二度とこのようなことがないよう気をつけます。』
「・・・・・・・・・・・・」
クラウスは思わず黙りこんだ。さっきのよりはマシになっでいるなっているが────
「書き直し」
「えー!」
「そもそも前回も二度としないと書いていたでしょう。二度は使えませんよ」
マシになったとはいえ、それは六歳児の反省文が、十歳の反省文になったくらいの差だった。
その内容は反省文の域を出ず、これを始末書として認める訳にはいかないだろう。
「うぅ~、私魔王なのになんでこんなことしなきゃいけないの?」
「魔王が問題行動ばかりしないで下さい」
机の上に頬を乗せながらブー垂れるイーラ。飽きたのか、羽根ペンの羽根をいじいじと触りながら、始末書を書こうとしない。
「陛下、書き終わらないといつまでもこの部屋から出られませんよ」
「それはやだ~! あっ! じゃあこれが書き終わったら人間界に行っていい?」
「いい訳ないでしょう」
イーラはまだ人間界に行くのを諦めていなかった。
「もうっ!」
眉を吊り上げて怒るイーラ。しかし、脳裏にギルベルトの顔が浮かんだ途端にふにゃふにゃとした恵未が浮かび上がる。
「ギルベルト君に会いたいなぁ。いや、直接会ったらあの神聖なオーラに浄化されそう。うん、柱の影とかから眺めたい。あわよくば声が聞きたい。ギルベルト君はどんな声をしてるのかしら? あの鏡は音声機能はついてなかったから・・・・・・きっと小鳥みたいに愛らしい声に違いないわ・・・・・・いえ、あの年頃ならもう声変わりしてるだろうからひょっとしたら落ち着きのある凛々しい声かも──ああ、ギルベルト君の声を保存して目覚ましにしたい・・・・・・」
「陛下。妄想が駄々漏れです。柱の影からとは・・・・・・完全に不審者なのでおやめ下さい。後、考えが変態臭いです」
クラウスがどうしようもないものを見る目でイーラを見る。
本当にギルベルト王子が気に入ったようだ。
そしてギルベルト王子に関する想像が変態的である。完全に盗聴する気である。
流石に変態の一言は聞き捨てならなかったのか、イーラは立ち上がってクラウスに掴み掛かった。
「誰が変態だ!」
その時、執務室の扉がノックもなく無遠慮に開かれた。
「変態がどうしたんだ? 魔王」
イーラとクラウスが同時に扉の方を向くとそこには一人の青年が立っていた。
クラウスとそう変わらない背格好の青年は紅と金のオッドアイを好奇心に細め、にやにやとした笑みを浮かべている。
黒いコートに包まれた体には至るところにジャラジャラと宝石の装飾がされており、その数は一見品がないように見えるが、青年の宝石にも劣らない派手な顔立ちが不思議とマッチしており、違和感を感じさせない。
「これは──何の御用でしょうか? 強欲の悪魔・ジュード殿」
クラウスが面倒くささ半分、警戒心半分でその青年の名を呼んだ。
呼ばれた青年──ジュードはその笑みを崩すことなく休憩の為に執務机の前に備えられたソファに腰を下ろした。
「ちょっと遊びに来ただけだ。で? 誰が変態なんだ?」
魔王である。
とは答えられないクラウスはとりあえずジュードに対してどこから取り出したのか、退魔用の塩を思い切りぶっ掛けた。
「ぶっ! か、辛! いきなり何するんだ」
「悪魔祓い」
「吸血鬼が悪魔祓いしようとすんな!」
げほげほと噎せながら訴えるジュードを華麗にスルーして、クラウスは第二撃発射体勢へと入る。
「待て待て! 食料は大切にしろ! なんで喧嘩腰なんだよ、お前」
ジュードの問いかけにイーラを何を言ってるのと言いたげな表情で言った。
「なんでって──それは貴方が私の敵対派閥の悪魔だからでしょう?」
淀みなく紙に文字を紡ぐイーラは文の最後にピリオドを打つと元気に立ち上がった。
「出来た!」
「書けましたか? 陛下」
「うん。はい、どーぞ!」
クラウスは手渡された紙を受け取って、目を通すと眉間を押さえて唸った。イーラが書いていたのは蛇の部屋の魔法道具を粉々にしたことに関する始末書だ。
「陛下・・・・・・毎回言っていることですが、もっと語彙力を身につけられませんか?」
クラウスが苦言を呈した始末書には流麗な文字でこう書かれていた。
『魔法道具を壊しちゃってごめんなさい。気をつけます。』
整った字体と内容の温度差に目眩がする。紙の半分にも満たないあまりにも簡潔な文章である。
「書き直しです」
始末書をイーラの鼻先に突き出して、再提出を要求する。
「えー・・・・・・面倒くさい」
「陛下」
唇を尖らせて不満を言うイーラをドスの利いた声で促すと、イーラは渋々羽根ペンを手に取り、新しい白紙の紙に再び文字を綴る。
その間にクラウスは始末書を書く前にイーラが片付けた書類に記入漏れや誤字などがないか確認する。
書類にはやはり流麗な文字が並んでおり、特にミスは見当たらない。
「こういうところはしっかりしているんですがね・・・・・・」
クラウスがぽつりと呟く。
ポンコツ魔王として魔族内で名を馳せるイーラだが、決して全てがポンコツな訳ではない。
本人はじっとしていなくてはいけないデスクワークを嫌っているが、不得手というわけではなく、一度本気でやろうと思ったら、ぱっぱっと片付けられるのだ。ただやる気がなかなか出ないだけで。
イーラは書くことが大体決まっている仕事上の書類は瞬殺できるが、自分で言葉を考えなくてはいけない始末書は大の苦手だった。
「クラウス~、書けた」
再び手渡された始末書には、
『魔法道具を壊してしまい、申し訳ありませんでした。二度とこのようなことがないよう気をつけます。』
「・・・・・・・・・・・・」
クラウスは思わず黙りこんだ。さっきのよりはマシになっでいるなっているが────
「書き直し」
「えー!」
「そもそも前回も二度としないと書いていたでしょう。二度は使えませんよ」
マシになったとはいえ、それは六歳児の反省文が、十歳の反省文になったくらいの差だった。
その内容は反省文の域を出ず、これを始末書として認める訳にはいかないだろう。
「うぅ~、私魔王なのになんでこんなことしなきゃいけないの?」
「魔王が問題行動ばかりしないで下さい」
机の上に頬を乗せながらブー垂れるイーラ。飽きたのか、羽根ペンの羽根をいじいじと触りながら、始末書を書こうとしない。
「陛下、書き終わらないといつまでもこの部屋から出られませんよ」
「それはやだ~! あっ! じゃあこれが書き終わったら人間界に行っていい?」
「いい訳ないでしょう」
イーラはまだ人間界に行くのを諦めていなかった。
「もうっ!」
眉を吊り上げて怒るイーラ。しかし、脳裏にギルベルトの顔が浮かんだ途端にふにゃふにゃとした恵未が浮かび上がる。
「ギルベルト君に会いたいなぁ。いや、直接会ったらあの神聖なオーラに浄化されそう。うん、柱の影とかから眺めたい。あわよくば声が聞きたい。ギルベルト君はどんな声をしてるのかしら? あの鏡は音声機能はついてなかったから・・・・・・きっと小鳥みたいに愛らしい声に違いないわ・・・・・・いえ、あの年頃ならもう声変わりしてるだろうからひょっとしたら落ち着きのある凛々しい声かも──ああ、ギルベルト君の声を保存して目覚ましにしたい・・・・・・」
「陛下。妄想が駄々漏れです。柱の影からとは・・・・・・完全に不審者なのでおやめ下さい。後、考えが変態臭いです」
クラウスがどうしようもないものを見る目でイーラを見る。
本当にギルベルト王子が気に入ったようだ。
そしてギルベルト王子に関する想像が変態的である。完全に盗聴する気である。
流石に変態の一言は聞き捨てならなかったのか、イーラは立ち上がってクラウスに掴み掛かった。
「誰が変態だ!」
その時、執務室の扉がノックもなく無遠慮に開かれた。
「変態がどうしたんだ? 魔王」
イーラとクラウスが同時に扉の方を向くとそこには一人の青年が立っていた。
クラウスとそう変わらない背格好の青年は紅と金のオッドアイを好奇心に細め、にやにやとした笑みを浮かべている。
黒いコートに包まれた体には至るところにジャラジャラと宝石の装飾がされており、その数は一見品がないように見えるが、青年の宝石にも劣らない派手な顔立ちが不思議とマッチしており、違和感を感じさせない。
「これは──何の御用でしょうか? 強欲の悪魔・ジュード殿」
クラウスが面倒くささ半分、警戒心半分でその青年の名を呼んだ。
呼ばれた青年──ジュードはその笑みを崩すことなく休憩の為に執務机の前に備えられたソファに腰を下ろした。
「ちょっと遊びに来ただけだ。で? 誰が変態なんだ?」
魔王である。
とは答えられないクラウスはとりあえずジュードに対してどこから取り出したのか、退魔用の塩を思い切りぶっ掛けた。
「ぶっ! か、辛! いきなり何するんだ」
「悪魔祓い」
「吸血鬼が悪魔祓いしようとすんな!」
げほげほと噎せながら訴えるジュードを華麗にスルーして、クラウスは第二撃発射体勢へと入る。
「待て待て! 食料は大切にしろ! なんで喧嘩腰なんだよ、お前」
ジュードの問いかけにイーラを何を言ってるのと言いたげな表情で言った。
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