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第一章 魔王様、人間の王子に恋をする
第六話 強欲の悪魔
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強欲の悪魔・ジュード。
力と娯楽と価値のあるものを愛する上位悪魔。
宝石や金貨といった輝くものを収集するのが趣味であり、そして、イーラが現れるまで魔王候補と目されていた七大悪魔の一角、強欲王の配下の悪魔だ。
七大悪魔はそれぞれ、強欲、傲慢、憤怒、嫉妬、色欲、怠惰、暴食の人間の欲を司っており、同じ欲を強く持つ悪魔を配下として従えている。
それぞれが強い力を持つ七大悪魔はいずれは誰かが魔王に就任するだろうと囁かれていた。千年前に先代魔王が消息を消し、とうとうその時が来たと眷属の悪魔たちは我が主君がと権謀術数、暴虐の限りを尽くした。
しかし、突然夜の森に現れた何かが玉座を掠め取っていったのだ。その何かこそが現魔王・イーラである。
故にイーラは悪魔たちと折り合いが悪い。今でこそ状況は落ち着いているが、就任直後は何度か暗殺されそうになったり、殺しあいに発展しかけたりとかなり揉めた。
悪魔たちは君主であるイーラではなく、主君である王に忠誠を誓っている。現在、イーラと悪魔の関係が安定しているのは単に七人の王がイーラに膝をついているからに他ならない。しかし、それすら気に食わない悪魔も存在する。
そして、ジュードはその軽薄な笑みには似合わず、悪魔の中でも主君に対する忠誠心が強い悪魔だった。
そんな悪魔の訪問に対してクラウスがピリピリとしたオーラを発するのは無理からぬことである。
「まぁまぁ、クラウス落ち着いて。別にこんなところで何か仕出かすほどジュードもアホではないでしょ」
いつの間にかジュードの手前のソファに座っていたイーラがクラウスを諌める。
「そうそう、そんな警戒するな。眉間に皺がよってそのまま取れなくなるぞ?」
「余計なお世話だ」
ジュードがからからと軽快に笑うのに比例してクラウスの機嫌が氷点下まで下がる。
体感温度が下がり、イーラはぶるりと身震いした。
「クラウスー、あったかい紅茶淹れてー」
「あ、俺も」
「かしこまりました」
イーラの頼みにクラウスは続き部屋になっている給湯室へと下がった。
クラウスの姿が見えなくなったのを見計らってジュードと向き合う。
「リードは元気?」
「ああ、大変健やかであらせられる。最近はガーデニングに嵌まっていらして、この間は東の森から金の薔薇の種を巻き上げてらした」
「ああ、東の森の賢者からクレームが来てたわ。別に花弄りするのは自由だし、略奪は悪魔の本分みたいなものだからあまり口出ししたくないけど、限度を考えてって伝えておいて」
「俺からそんなことを主様に言えるわけないだろう」
「魔王である、私からの命令よ。必要なら今警告書を書くけど?」
魔王であることを強調して言うと、ジュードの眉が僅かに動いた。ジュードもまた、イーラが魔王であることに心から納得していなかった。
しかし、納得いかないからと逆上して謀反を起こすほど浅はかではないのだろう。ジュードは伝えておきますと了承した。
(いまいち腹の底が見えない子ねぇ。ある意味裏表のないリードとは正反対。まぁ、根本にあるのは強欲だろうけど・・・・・・)
じーっと観察するイーラの視線が気になるのか、ジュードは少し身じろいだ。
「何だ・・・・・・?」
「いやー、ギンギラギンね」
「は? ギン・・・・・・ギラギン? ああ、宝石のことか」
イーラの視線は派手な金の耳飾りから下がって、黒いコートへと向く。金の鎖にありとあらゆる宝石がきらびやかに吊るされている。
「ずっと見てたら目が痛くなりそう。貴方、天使より輝いているわよ」
「やなこと言うなよ」
ジュードが嫌がっている間もイーラは眺め続け、ベルトに吊るされたある一つの宝石に目を止めた。
それはピンクダイヤを抱き抱えた銀の兎の装飾だった。少女が好みそうなデザインはジュードとは不釣り合いで直のこと目を引かれる。
「それ、可愛いわね」
「ん? この兎か? なんなら陛下に献上しようか」
ジュードがチェーンを外し、銀兎をイーラに差し出す。
「いいの?」
イーラが嬉しそうに訊ねる。外見同様に好みも少女らしいようだ。
「適当な貴族から頂戴したものだが、俺には少女趣味過ぎるからな。まぁ、俺は着飾るよりも収集の方を楽しんでいるが」
「そんなにジャラジャラつけて?」
「戦利品は見せびらかしたいだろう」
男の子の心理である。イーラはいまいち理解できない表情をしたが、銀兎を大切そうに握り締めた。
「ともかく、ありがとう。可愛いものは好きよ。大切にするわね」
「ああ、そうしてくれると嬉しい」
きゃっきゃっとはしゃぎながら兎を眺めるイーラは気づかなかった。その時ジュードが悪辣な笑みを浮かべたことに。
「ふふっ、可愛いわね~。ピンギンピカーノ」
「・・・・・・は?」
聞き慣れない言葉にジュードは図らずも真顔になり、怪しい笑みを見られずに済んだ。
「魔王、なんだそのピピン?」
「ピンギンピカーノ! この子の名前。ピンクダイヤモンドを持った銀ピカ兎だからピンギンピカーノよ!」
「・・・・・・」
コメントに困るネーミングであった。
力と娯楽と価値のあるものを愛する上位悪魔。
宝石や金貨といった輝くものを収集するのが趣味であり、そして、イーラが現れるまで魔王候補と目されていた七大悪魔の一角、強欲王の配下の悪魔だ。
七大悪魔はそれぞれ、強欲、傲慢、憤怒、嫉妬、色欲、怠惰、暴食の人間の欲を司っており、同じ欲を強く持つ悪魔を配下として従えている。
それぞれが強い力を持つ七大悪魔はいずれは誰かが魔王に就任するだろうと囁かれていた。千年前に先代魔王が消息を消し、とうとうその時が来たと眷属の悪魔たちは我が主君がと権謀術数、暴虐の限りを尽くした。
しかし、突然夜の森に現れた何かが玉座を掠め取っていったのだ。その何かこそが現魔王・イーラである。
故にイーラは悪魔たちと折り合いが悪い。今でこそ状況は落ち着いているが、就任直後は何度か暗殺されそうになったり、殺しあいに発展しかけたりとかなり揉めた。
悪魔たちは君主であるイーラではなく、主君である王に忠誠を誓っている。現在、イーラと悪魔の関係が安定しているのは単に七人の王がイーラに膝をついているからに他ならない。しかし、それすら気に食わない悪魔も存在する。
そして、ジュードはその軽薄な笑みには似合わず、悪魔の中でも主君に対する忠誠心が強い悪魔だった。
そんな悪魔の訪問に対してクラウスがピリピリとしたオーラを発するのは無理からぬことである。
「まぁまぁ、クラウス落ち着いて。別にこんなところで何か仕出かすほどジュードもアホではないでしょ」
いつの間にかジュードの手前のソファに座っていたイーラがクラウスを諌める。
「そうそう、そんな警戒するな。眉間に皺がよってそのまま取れなくなるぞ?」
「余計なお世話だ」
ジュードがからからと軽快に笑うのに比例してクラウスの機嫌が氷点下まで下がる。
体感温度が下がり、イーラはぶるりと身震いした。
「クラウスー、あったかい紅茶淹れてー」
「あ、俺も」
「かしこまりました」
イーラの頼みにクラウスは続き部屋になっている給湯室へと下がった。
クラウスの姿が見えなくなったのを見計らってジュードと向き合う。
「リードは元気?」
「ああ、大変健やかであらせられる。最近はガーデニングに嵌まっていらして、この間は東の森から金の薔薇の種を巻き上げてらした」
「ああ、東の森の賢者からクレームが来てたわ。別に花弄りするのは自由だし、略奪は悪魔の本分みたいなものだからあまり口出ししたくないけど、限度を考えてって伝えておいて」
「俺からそんなことを主様に言えるわけないだろう」
「魔王である、私からの命令よ。必要なら今警告書を書くけど?」
魔王であることを強調して言うと、ジュードの眉が僅かに動いた。ジュードもまた、イーラが魔王であることに心から納得していなかった。
しかし、納得いかないからと逆上して謀反を起こすほど浅はかではないのだろう。ジュードは伝えておきますと了承した。
(いまいち腹の底が見えない子ねぇ。ある意味裏表のないリードとは正反対。まぁ、根本にあるのは強欲だろうけど・・・・・・)
じーっと観察するイーラの視線が気になるのか、ジュードは少し身じろいだ。
「何だ・・・・・・?」
「いやー、ギンギラギンね」
「は? ギン・・・・・・ギラギン? ああ、宝石のことか」
イーラの視線は派手な金の耳飾りから下がって、黒いコートへと向く。金の鎖にありとあらゆる宝石がきらびやかに吊るされている。
「ずっと見てたら目が痛くなりそう。貴方、天使より輝いているわよ」
「やなこと言うなよ」
ジュードが嫌がっている間もイーラは眺め続け、ベルトに吊るされたある一つの宝石に目を止めた。
それはピンクダイヤを抱き抱えた銀の兎の装飾だった。少女が好みそうなデザインはジュードとは不釣り合いで直のこと目を引かれる。
「それ、可愛いわね」
「ん? この兎か? なんなら陛下に献上しようか」
ジュードがチェーンを外し、銀兎をイーラに差し出す。
「いいの?」
イーラが嬉しそうに訊ねる。外見同様に好みも少女らしいようだ。
「適当な貴族から頂戴したものだが、俺には少女趣味過ぎるからな。まぁ、俺は着飾るよりも収集の方を楽しんでいるが」
「そんなにジャラジャラつけて?」
「戦利品は見せびらかしたいだろう」
男の子の心理である。イーラはいまいち理解できない表情をしたが、銀兎を大切そうに握り締めた。
「ともかく、ありがとう。可愛いものは好きよ。大切にするわね」
「ああ、そうしてくれると嬉しい」
きゃっきゃっとはしゃぎながら兎を眺めるイーラは気づかなかった。その時ジュードが悪辣な笑みを浮かべたことに。
「ふふっ、可愛いわね~。ピンギンピカーノ」
「・・・・・・は?」
聞き慣れない言葉にジュードは図らずも真顔になり、怪しい笑みを見られずに済んだ。
「魔王、なんだそのピピン?」
「ピンギンピカーノ! この子の名前。ピンクダイヤモンドを持った銀ピカ兎だからピンギンピカーノよ!」
「・・・・・・」
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