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第二話 絵本と暇潰し
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ナイフィンが図書館へと踏み入ると、一瞬辺りがざわついたが、私語厳禁が原則の館内はすぐに静まり返った。
それでもチラチラと視線を感じたが、それくらいは許容範囲だとナイフィンは気にすることなく、空いている席を探し始めた。
(カフェテリアは飲み物やお菓子を食べながら勉強出来るのが利点なのですけれど、その分騒がしいんですよね。逆に図書館は静かですけど飲食物の持ち込みは禁止ですし。場所によって一長一短ですよねぇ)
二階に上がり、丁度四人掛けの机が丸ごと空いているのを見つけたナイフィンは、椅子に腰掛けると隣の椅子に学生鞄を置いて、勉強道具を取り出した。
(まぁ、参考書もありますし、カフェテリアで間食してから図書館に移動するというのをルーティンに組み込んでもいいかもしれませんね)
そんなことを考えながら、宿題の残りを消化していく。
迷いなく答えを書き連ねていくと、あっという間に問題は解き終わり、最後にミスがないかを確認する。
(特に気になる点はありませんね。今日は宿題が少かったから、大分時間が余ってしまいました)
机上に蓋を開いたまま置いた銀の懐中時計を見遣り、ナイフィンは迎えの時間までまだ間があると、時間を潰す方法を脳内で巡らせる。
(図書館ですし、無難に読書ですかねぇ)
とんとんとノートと問題集を整えて横に置いたナイフィンは、ずらりと並んだ背の高い本棚に目を向ける。
王立学園の図書館なだけあって、高そうな装丁のしっかりした本ばかりで埋め尽くされていた。
側面に『物語』と書かれたプレートが掛かっている本棚を見てみる。
「『竜と呪いの黄金』『アゼル王伝説』『七つの騎士物語』『エンディングタウン最後の日』──うぅん、余り興味を引かれませんねぇ」
本を読もうと思ったものの、読みたいと思えるタイトルに出会えなかったナイフィンは、困ったようにその場で腕を組んだ。
「あら」
ふと、視線を下に落とすと、最下段の隅も隅。
端っこに背表紙も剥げて色褪せ、誰からも忘れ去られていそうな程古ぼけた薄い本があった。
気になったナイフィンはしゃがんでその本を引き抜き、少し掠れたタイトルを読み上げる。
「『ティアラ姫の冒険』。へぇ、女の子が主人公の冒険譚みたいですね。珍しい」
この一冊には心をくすぐるものがあったのか、ナイフィンはぱらりと頁を捲った。
中身はどうやら、絵本のようだった。油絵のような重厚な色味の絵が紙一面を埋め尽くしている。
経年劣化のため多少黄ばんでいるが、それでも精緻で引き込まれるような美しい絵だった。
(綺麗ですし、内容も面白そう。絵本ですからすんなり読めますし、これにしましょう)
そう決めたナイフィンは、『ティアラ姫の冒険』の絵本を抱き抱えて立ち上がり、席に戻った。
机の上に絵本を広げると、ナイフィンは黙々と字と絵に目を通す。
『ティアラ姫の冒険』は、タイトルの通りにお姫様が主人公の冒険譚だった。
お姫様が幸福の石がはめ込まれたティアラを探しに行って、出会いと別れを繰り返して、様々な冒険をする。
時に危機に陥り、お姫様自ら剣を振るって状況を打開したり、知恵者から助言を得て謎を解いたり。
淑やかさとは程遠い、力強くて勇敢なお姫様。
だからこそ、次はどんなことが起こるのか、お姫様はどうやって試練を乗り越えるのかとわくわくする。
気づけばナイフィンは物語に熱中して、胸を踊らせながら頁を捲っていた。
普段は石膏で固めたように動かない口端が、今はほんの僅かに持ち上がっている。
しかし、次の頁を捲った瞬間、ナイフィンの顔はまた無表情に戻ってしまった。
「──頁が破かれている?」
ナイフィンが呟く。
そう、お姫様が最後の試練である洞窟を抜けた先にある筈の最後の数頁がごっそりと破り取られているのだ。
顔には出ないが、ナイフィンは唖然として、内心で落胆した。
苺入りシュークリームを食べていた筈なのに、肝心の苺が入っていなかったような残念な気分になる。
が、それ以前の問題にナイフィンは気づいた。
「学園の図書館の蔵書を破くだなんて──一体誰がこんなことしたのかしら?」
とにもかくにも。
見つけた以上は放置出来ないと、ナイフィンは立ち上がると『ティアラ姫の冒険』の絵本を抱えて一階の司書や教員のいる受付へと向かった。
それでもチラチラと視線を感じたが、それくらいは許容範囲だとナイフィンは気にすることなく、空いている席を探し始めた。
(カフェテリアは飲み物やお菓子を食べながら勉強出来るのが利点なのですけれど、その分騒がしいんですよね。逆に図書館は静かですけど飲食物の持ち込みは禁止ですし。場所によって一長一短ですよねぇ)
二階に上がり、丁度四人掛けの机が丸ごと空いているのを見つけたナイフィンは、椅子に腰掛けると隣の椅子に学生鞄を置いて、勉強道具を取り出した。
(まぁ、参考書もありますし、カフェテリアで間食してから図書館に移動するというのをルーティンに組み込んでもいいかもしれませんね)
そんなことを考えながら、宿題の残りを消化していく。
迷いなく答えを書き連ねていくと、あっという間に問題は解き終わり、最後にミスがないかを確認する。
(特に気になる点はありませんね。今日は宿題が少かったから、大分時間が余ってしまいました)
机上に蓋を開いたまま置いた銀の懐中時計を見遣り、ナイフィンは迎えの時間までまだ間があると、時間を潰す方法を脳内で巡らせる。
(図書館ですし、無難に読書ですかねぇ)
とんとんとノートと問題集を整えて横に置いたナイフィンは、ずらりと並んだ背の高い本棚に目を向ける。
王立学園の図書館なだけあって、高そうな装丁のしっかりした本ばかりで埋め尽くされていた。
側面に『物語』と書かれたプレートが掛かっている本棚を見てみる。
「『竜と呪いの黄金』『アゼル王伝説』『七つの騎士物語』『エンディングタウン最後の日』──うぅん、余り興味を引かれませんねぇ」
本を読もうと思ったものの、読みたいと思えるタイトルに出会えなかったナイフィンは、困ったようにその場で腕を組んだ。
「あら」
ふと、視線を下に落とすと、最下段の隅も隅。
端っこに背表紙も剥げて色褪せ、誰からも忘れ去られていそうな程古ぼけた薄い本があった。
気になったナイフィンはしゃがんでその本を引き抜き、少し掠れたタイトルを読み上げる。
「『ティアラ姫の冒険』。へぇ、女の子が主人公の冒険譚みたいですね。珍しい」
この一冊には心をくすぐるものがあったのか、ナイフィンはぱらりと頁を捲った。
中身はどうやら、絵本のようだった。油絵のような重厚な色味の絵が紙一面を埋め尽くしている。
経年劣化のため多少黄ばんでいるが、それでも精緻で引き込まれるような美しい絵だった。
(綺麗ですし、内容も面白そう。絵本ですからすんなり読めますし、これにしましょう)
そう決めたナイフィンは、『ティアラ姫の冒険』の絵本を抱き抱えて立ち上がり、席に戻った。
机の上に絵本を広げると、ナイフィンは黙々と字と絵に目を通す。
『ティアラ姫の冒険』は、タイトルの通りにお姫様が主人公の冒険譚だった。
お姫様が幸福の石がはめ込まれたティアラを探しに行って、出会いと別れを繰り返して、様々な冒険をする。
時に危機に陥り、お姫様自ら剣を振るって状況を打開したり、知恵者から助言を得て謎を解いたり。
淑やかさとは程遠い、力強くて勇敢なお姫様。
だからこそ、次はどんなことが起こるのか、お姫様はどうやって試練を乗り越えるのかとわくわくする。
気づけばナイフィンは物語に熱中して、胸を踊らせながら頁を捲っていた。
普段は石膏で固めたように動かない口端が、今はほんの僅かに持ち上がっている。
しかし、次の頁を捲った瞬間、ナイフィンの顔はまた無表情に戻ってしまった。
「──頁が破かれている?」
ナイフィンが呟く。
そう、お姫様が最後の試練である洞窟を抜けた先にある筈の最後の数頁がごっそりと破り取られているのだ。
顔には出ないが、ナイフィンは唖然として、内心で落胆した。
苺入りシュークリームを食べていた筈なのに、肝心の苺が入っていなかったような残念な気分になる。
が、それ以前の問題にナイフィンは気づいた。
「学園の図書館の蔵書を破くだなんて──一体誰がこんなことしたのかしら?」
とにもかくにも。
見つけた以上は放置出来ないと、ナイフィンは立ち上がると『ティアラ姫の冒険』の絵本を抱えて一階の司書や教員のいる受付へと向かった。
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