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はじめてのザリガニ釣り
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落ちていた枝にタコ糸をつけただけの釣竿を池に垂らす。
そのまましばらくじっとしていると、引きを感じて釣竿を持ち上げた。
「わっ、ほんとに釣れた」
「クリスちゃん上手ー」
「早くこのバケツに入れて!」
「は、はい! えっと、どうやって外せば」
「やったげる。気をつけないとハサミで挟まれちゃうよぉ」
そう言って、男の子の一人が慣れた手つきでタコ糸に括った餌に食いついたザリガニを掴んで、バケツへと入れた。すでに他の子たちが数匹捕まえていたため、バケツの中ではザリガニがザコザコと音を立てて蠢いている。
子供たちに遊ぼうと誘われて連れ出された私は、辺境伯家の近くにある池に来ていた。この池は池というよりも大きな水溜まりくらいの大きさと深さのため、子供たちだけで水辺で遊ぶ時はここで遊ぶように言われているらしい。
規模に比べて水棲生物も結構いるみたいで、誰かの提案でザリガニ釣りをすることになった。
魚釣りならしたことがあるけれど、ザリガニ釣りは初めてで、子供たちに教えてもらった。子供たちはよく平気でザリガニに触れるなぁ。私はあのハサミがちょっと怖い。
「けど、こんなに釣ってどうするの?」
飼育するにしても数が多すぎる気がする。
「茹でて食べるとおいしい」
「あ、食べるんだ・・・・・・」
ザリガニって食べられるんだ。初めて知った。
何なら、こんな風に子供たちと水辺で遊ぶのも初めて。
孤児院の慰問に行ったことがあるけれど、その時は外で遊んでも院のお庭だけだったし、ヤンチャ過ぎる子がいても、シスターが窘めてくれていたから、状況が違う。
子供っていうのは、大人の目がないとどんな子でも結構ヤンチャになる。
ヴィクトはやらかす時は人目を気にせずやらかすけれど、私も大人の目がない時はヴィクトに便乗してこっそり屋根に登ったり、川で泳いだりした。
もしバレてたら、その場にいなくても私付き侍女が解雇されていただろう。悪いことをした。
「持って帰らない分は戻すー」
男の子が持ち帰る分のザリガニを別のバケツに移して、元のバケツを倒すとザリガニたちはしゃかしゃかと池の中へと戻っていった。
「せっかく取ったのに戻しちゃうの?」
「ヴィクトお兄ちゃんがねー、せーたいけーが崩れるから、生き物は取りすぎちゃダメってー」
「なるほど」
「ザリガニ釣り教えてくれた時に言ってた」
「ヴィクトに教えてもらったの?」
「うん。引っ越してきた年の夏にね、ヴィクトお兄ちゃんが来て、教えてくれたんだよ。それで皆でやろうって、友達いっぱいできた!」
「それはよかったねぇ」
「うん!」
そう言えば、託児施設が出来て子持ちの夫婦が引っ越してくるようになったって辺境伯様が言ってたっけ。なら、こういう自然の多い場所での遊び方はあんま知らない子が多いのかな?
それでヴィクトが遊び方を教えたと。なんやかんや初対面でも一緒に遊べば打ち解けられるものだもんね。ヴィクトのことだから、それも計算ずくだろうし。やるじゃない。
素直に感心していると、今度はくいくいと肩口を引っ張られた。振り返ると、小さな束にした花を抱えている女の子がもじもじしている。
「どうしたの?」
「んと、クリスおねぇちゃんはお花のかんむり作れる?」
「花冠? 作れるよ」
「ほんと? じゃあ、教えて?」
「いいよ。そのお花使っていいの?」
「うん」
花冠の作り方なら、小さい頃におばあ様に別荘の庭で作り方を教えて貰ったから作れる。
「私もやりたーい! お花摘みたいから、クリスおねえさん、あっちのお花畑に行こっ」
「ダメだよ! クリスおねえちゃんはこれからぼくらと鬼ごっこするんだ」
「そんなの男子たちだけでしてればいいでしょ!」
「ちょ、ちょっと、二人とも落ち着いて──」
女の子と男の子が険悪な感じになってきてて、戸惑う。
喧嘩の仲裁とか苦手なのに、どうしたらー!?
私が慌てていると、喧嘩を端から見ていた大人しそうな男の子がとんでもないことを言った。
「じゃあ、クリスおねーさんが花冠の作り方教えながら、鬼ごっこしたらいいと思う」
「無茶言わないで!?」
私にそんな大道芸人みたいな真似を求められても困る。
「? ヴィクトおにーちゃんは前に、サッカーしながら肩車して、木登りして、お花の解説しながら鍵編みの仕方を教えてたよ?」
「それヴィクトにしか出来ないヤツ──!」
まずい。このままじゃ、ヴィクトがこの子たちの人類の標準になる。
何としてでも阻止せねば。
喧嘩している子達にじゃんけんで順番を決めることを提案しながら、私はそう硬く心に誓った。
そのまましばらくじっとしていると、引きを感じて釣竿を持ち上げた。
「わっ、ほんとに釣れた」
「クリスちゃん上手ー」
「早くこのバケツに入れて!」
「は、はい! えっと、どうやって外せば」
「やったげる。気をつけないとハサミで挟まれちゃうよぉ」
そう言って、男の子の一人が慣れた手つきでタコ糸に括った餌に食いついたザリガニを掴んで、バケツへと入れた。すでに他の子たちが数匹捕まえていたため、バケツの中ではザリガニがザコザコと音を立てて蠢いている。
子供たちに遊ぼうと誘われて連れ出された私は、辺境伯家の近くにある池に来ていた。この池は池というよりも大きな水溜まりくらいの大きさと深さのため、子供たちだけで水辺で遊ぶ時はここで遊ぶように言われているらしい。
規模に比べて水棲生物も結構いるみたいで、誰かの提案でザリガニ釣りをすることになった。
魚釣りならしたことがあるけれど、ザリガニ釣りは初めてで、子供たちに教えてもらった。子供たちはよく平気でザリガニに触れるなぁ。私はあのハサミがちょっと怖い。
「けど、こんなに釣ってどうするの?」
飼育するにしても数が多すぎる気がする。
「茹でて食べるとおいしい」
「あ、食べるんだ・・・・・・」
ザリガニって食べられるんだ。初めて知った。
何なら、こんな風に子供たちと水辺で遊ぶのも初めて。
孤児院の慰問に行ったことがあるけれど、その時は外で遊んでも院のお庭だけだったし、ヤンチャ過ぎる子がいても、シスターが窘めてくれていたから、状況が違う。
子供っていうのは、大人の目がないとどんな子でも結構ヤンチャになる。
ヴィクトはやらかす時は人目を気にせずやらかすけれど、私も大人の目がない時はヴィクトに便乗してこっそり屋根に登ったり、川で泳いだりした。
もしバレてたら、その場にいなくても私付き侍女が解雇されていただろう。悪いことをした。
「持って帰らない分は戻すー」
男の子が持ち帰る分のザリガニを別のバケツに移して、元のバケツを倒すとザリガニたちはしゃかしゃかと池の中へと戻っていった。
「せっかく取ったのに戻しちゃうの?」
「ヴィクトお兄ちゃんがねー、せーたいけーが崩れるから、生き物は取りすぎちゃダメってー」
「なるほど」
「ザリガニ釣り教えてくれた時に言ってた」
「ヴィクトに教えてもらったの?」
「うん。引っ越してきた年の夏にね、ヴィクトお兄ちゃんが来て、教えてくれたんだよ。それで皆でやろうって、友達いっぱいできた!」
「それはよかったねぇ」
「うん!」
そう言えば、託児施設が出来て子持ちの夫婦が引っ越してくるようになったって辺境伯様が言ってたっけ。なら、こういう自然の多い場所での遊び方はあんま知らない子が多いのかな?
それでヴィクトが遊び方を教えたと。なんやかんや初対面でも一緒に遊べば打ち解けられるものだもんね。ヴィクトのことだから、それも計算ずくだろうし。やるじゃない。
素直に感心していると、今度はくいくいと肩口を引っ張られた。振り返ると、小さな束にした花を抱えている女の子がもじもじしている。
「どうしたの?」
「んと、クリスおねぇちゃんはお花のかんむり作れる?」
「花冠? 作れるよ」
「ほんと? じゃあ、教えて?」
「いいよ。そのお花使っていいの?」
「うん」
花冠の作り方なら、小さい頃におばあ様に別荘の庭で作り方を教えて貰ったから作れる。
「私もやりたーい! お花摘みたいから、クリスおねえさん、あっちのお花畑に行こっ」
「ダメだよ! クリスおねえちゃんはこれからぼくらと鬼ごっこするんだ」
「そんなの男子たちだけでしてればいいでしょ!」
「ちょ、ちょっと、二人とも落ち着いて──」
女の子と男の子が険悪な感じになってきてて、戸惑う。
喧嘩の仲裁とか苦手なのに、どうしたらー!?
私が慌てていると、喧嘩を端から見ていた大人しそうな男の子がとんでもないことを言った。
「じゃあ、クリスおねーさんが花冠の作り方教えながら、鬼ごっこしたらいいと思う」
「無茶言わないで!?」
私にそんな大道芸人みたいな真似を求められても困る。
「? ヴィクトおにーちゃんは前に、サッカーしながら肩車して、木登りして、お花の解説しながら鍵編みの仕方を教えてたよ?」
「それヴィクトにしか出来ないヤツ──!」
まずい。このままじゃ、ヴィクトがこの子たちの人類の標準になる。
何としてでも阻止せねば。
喧嘩している子達にじゃんけんで順番を決めることを提案しながら、私はそう硬く心に誓った。
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