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【5】凍りつく宴会場
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「お義父様!」
宴会場の扉を開くなり、レアナは大声で最奥に座る義父を呼んだ。
室内はエキゾチックな内装になっており、入って直ぐの所に段差がある。その脇には靴箱。シューノイン公爵家の宴会場では靴を脱ぐのが決まりだ。
というのも、ティティア達のの祖父であるシューノイン公爵は大の東国好きであり、宴会場も東国文化風に改装したからだ。
靴を脱いで段差を上がると、そこには藺草を織って作られたタタミと呼ばれるカーペットが余り無くぴったりと敷き詰められている。
タタミ一枚分の広さを一畳と言うが、この宴会場は二百畳はある。そんな宴会場の奥。東方の言葉で言うなら、上座と呼ばれる席には既にシューノイン公爵が座っていた。
事情を知らないシューノイン公爵は、尋常ではないレアナの様子に目をぱちくりさせている。
「レアナさん、もう親族の者も集まって来ています。本家の人間がその様に大声を出すものじゃありません」
代わりに、シューノイン公爵の隣にいた上品な雰囲気の老婦人がレアナを窘める様に言った。
老婦人から注意を受けたレアナは大分威勢を削がれた様で、ぐっと口を噤み肩を落とした。
「申し訳ございません、お義母様」
レアナがしおらしく謝ると、老婦人は彼女を一瞥したが、レアナに続いて連れ立って宴会場へ入って来たティティア達に気づくと、直ぐに視線を其方へと向けた。
「ティティア、いらっしゃい。それにカティスも。レノルドとパーゼスも戻った様ね」
「はい。お久し振りでございます。おばあ様」
祖母に声を掛けられたティティアは嬉しくなり、直ぐに挨拶をした。後ろにいるレノルド達もティティアに続くように会釈をしている。
この老婦人こそ、シューノイン公爵の妻であり、ティティア達の祖母であるシューノイン公爵家の女主人公、シューノイン夫人だ。
いくら気が強く、プライドの高い母親達でも夫人に逆らう事は出来ない。レアナとナタリアも夫人に深々と頭を下げている。
「ああ、ティティア、カティス、よく来た。それでレアナはどうしたというのだ?」
シューノイン公爵も我に帰り、孫娘達を出迎えると、レアナに疑問をぶつけた。
「ええ、実はお義父様に至急お話ししたい事が──」
「母上。その話は後でしましょう。ミスタリア夫妻の到着もまだですし、他の親族の前でする話では──」
レノルドがレアナの言おうとしている事を察し、止めようと言葉を投げ掛けたが、言い終える前にその声を掻き消す声量でレアナは言った。
「何と! そこのパーゼスとカティスが事もあろうに、邸内で先程逢瀬をしていたのです! これは公爵家として只事では済まされません! お義父様、どうぞ適切なご処置を!」
「ちょっと!」
「あーあ・・・・・・」
経緯を赤裸々に話したレアナに、ナタリアを眉を吊り上げる。
ティティアはもう面倒臭くなってきて、ただ半眼で成り行きを見ていた。
その隣ではレノルドが頭を押さえているし、パーゼスとカティスはビクーッと飛び上がっている。
シューノイン公爵夫婦も、流石に予想外の言葉に目を僅かに見開いた。
そして、ちらほらと集まっていた親族達も。
賑やかで楽しい宴の舞台となる筈だった宴会場は、一瞬で寝耳に垂らした水も凍る程に冷え込んだ。
宴会場の扉を開くなり、レアナは大声で最奥に座る義父を呼んだ。
室内はエキゾチックな内装になっており、入って直ぐの所に段差がある。その脇には靴箱。シューノイン公爵家の宴会場では靴を脱ぐのが決まりだ。
というのも、ティティア達のの祖父であるシューノイン公爵は大の東国好きであり、宴会場も東国文化風に改装したからだ。
靴を脱いで段差を上がると、そこには藺草を織って作られたタタミと呼ばれるカーペットが余り無くぴったりと敷き詰められている。
タタミ一枚分の広さを一畳と言うが、この宴会場は二百畳はある。そんな宴会場の奥。東方の言葉で言うなら、上座と呼ばれる席には既にシューノイン公爵が座っていた。
事情を知らないシューノイン公爵は、尋常ではないレアナの様子に目をぱちくりさせている。
「レアナさん、もう親族の者も集まって来ています。本家の人間がその様に大声を出すものじゃありません」
代わりに、シューノイン公爵の隣にいた上品な雰囲気の老婦人がレアナを窘める様に言った。
老婦人から注意を受けたレアナは大分威勢を削がれた様で、ぐっと口を噤み肩を落とした。
「申し訳ございません、お義母様」
レアナがしおらしく謝ると、老婦人は彼女を一瞥したが、レアナに続いて連れ立って宴会場へ入って来たティティア達に気づくと、直ぐに視線を其方へと向けた。
「ティティア、いらっしゃい。それにカティスも。レノルドとパーゼスも戻った様ね」
「はい。お久し振りでございます。おばあ様」
祖母に声を掛けられたティティアは嬉しくなり、直ぐに挨拶をした。後ろにいるレノルド達もティティアに続くように会釈をしている。
この老婦人こそ、シューノイン公爵の妻であり、ティティア達の祖母であるシューノイン公爵家の女主人公、シューノイン夫人だ。
いくら気が強く、プライドの高い母親達でも夫人に逆らう事は出来ない。レアナとナタリアも夫人に深々と頭を下げている。
「ああ、ティティア、カティス、よく来た。それでレアナはどうしたというのだ?」
シューノイン公爵も我に帰り、孫娘達を出迎えると、レアナに疑問をぶつけた。
「ええ、実はお義父様に至急お話ししたい事が──」
「母上。その話は後でしましょう。ミスタリア夫妻の到着もまだですし、他の親族の前でする話では──」
レノルドがレアナの言おうとしている事を察し、止めようと言葉を投げ掛けたが、言い終える前にその声を掻き消す声量でレアナは言った。
「何と! そこのパーゼスとカティスが事もあろうに、邸内で先程逢瀬をしていたのです! これは公爵家として只事では済まされません! お義父様、どうぞ適切なご処置を!」
「ちょっと!」
「あーあ・・・・・・」
経緯を赤裸々に話したレアナに、ナタリアを眉を吊り上げる。
ティティアはもう面倒臭くなってきて、ただ半眼で成り行きを見ていた。
その隣ではレノルドが頭を押さえているし、パーゼスとカティスはビクーッと飛び上がっている。
シューノイン公爵夫婦も、流石に予想外の言葉に目を僅かに見開いた。
そして、ちらほらと集まっていた親族達も。
賑やかで楽しい宴の舞台となる筈だった宴会場は、一瞬で寝耳に垂らした水も凍る程に冷え込んだ。
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