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第一章 カースドナイト
第三話 悪魔との関係
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「ぐえー!」
クローシィの攻撃は見事にクリーンヒットし、シンは潰された蛙のような声を上げて部屋の壁を突き破り、隣室まで吹っ飛んだ。
「しまった。やり過ぎた」
クローシィ・ジャンプティ。
鴉の濡れ羽色の黒髪に瑠璃色の瞳。中性的な顔立ちと線の細い体躯から、騎士の制服を着ていなければ文官に間違えられることもあるクローシィは、見かけに寄らず腕力がある。
演習中で、鉄剣をロッカーに預け、演習に使っていた木剣も王女殿下の前なので、仲間に預けて来てしまった。
故に、今クローシィが出来る最大の攻撃は自身を使った渾身の蹴りであった。
勢いと自重を武器に、全力で対象に向かって飛び掛かり、加減もしなかった結果、塔の一画を崩してしまう程のパワーが出た。
壁を壊したことは流石に不味いと思ったらしく、クローシィは顔をしかめる。
一方、土煙にまみれたシンはごほごほっと咳き込みながら、痛む背骨を擦って倒れた上半身を起こした。
痛いのか煙が目に入ったのか涙目だ。
「いきなり何しやがるー!」
シンは腕をブンブン突き上げてクローシィに抗議したが、クローシィは構わず二撃目を叩き込もうとシンへと突っ込んで行く。
「うわわわっ、ちょっ! こいつ速っ! エミリー! こいつ止めて──」
「すごいすごい! いいわよ! クローシィ! そのままやっちゃえー!」
「エミリー! テンメェエエエエエェェェ!」
クローシィの進撃にエミーリアは顔を華やがせて声援を贈った。
シンはまるで背後から刺されたような顔で大声で悪態をつき、ギリギリでクローシィの攻撃をかわす。
(本来なら王宮にいる筈のない悪魔がいたものだから、つい攻撃してしまったが、この悪魔は王女殿下と何か関係があるのでは? しかし、それにしては俺が悪魔に攻撃すると王女殿下が嬉しそうにし過ぎる・・・・・・)
会話から二人に何らかの関係があることは明白だが、エミーリアは嬉々としてクローシィをシンにけしかけるように応援するし、そんなシンは絶叫しながら逃げ惑っている。ちょっとカオスな状態だ。
(何故か反撃もしてこないし、このまま倒してもいいのだろうか?)
いくらクローシィが腕力に自信があると言っても、本来なら素手で人が悪魔に敵う筈がない。
シン側が防戦一方ということに疑問を抱きつつも、王女殿下もああ言っているし、やり返してこないのならこのまま畳み掛けようとクローシィが跳躍し、宙で体勢を整えた時シンも本気で獲りに来たと本能的に察し、エミリーに向かって叫んだ。
「わー! わー!! わ゛ー!!! エミリー! エミリー! おいエミーリア!!! お前マジでふざけんなよ! 弱っているか弱い悪魔様にこんな真似してただで済むと──あ、これヤバ嘘嘘嘘です! ホントヤバいってマジで助けて俺様の契約者ていうか、俺様の体が消滅しても契約者の魔力を元に再生されるからどのみち最終的な負荷かかるのはお前だぞ────!!!!!」
「あ。そっか。クローシィ! やっぱやめやめ! ストォップ!」
エミーリアは思い出したように手を打つと、クローシィに向かって中断を申し入れた。
シンに特攻する寸のところでクローシィは体を捻って宙返りをし、勢いを殺してそのまま床に着地した。
「あー! 死ぬかと思った!」
「もう半分死んでるようなものでしょ、貴方」
「王女殿下、この者は一体?」
服についた埃を払いながら隣まで寄ってきたシンを、腕を組んで半眼で睨んでいるエミーリアにクローシィは訊ねる。
「悪魔」
「それは分かります。何故、悪魔が王女殿下と共にいるのでしょうか?」
「・・・・・・・・・・・・」
クローシィの問い掛けにエミーリアは苦虫を噛んだような渋面になり、口をへの字にして押し黙ってしまった。
悪魔とは人語を介しながらも人とは異なる魔族と呼ばれる者たちの種族の一つで、人を誑かし、契約を結ばせ、契約者の願いを叶える代わりに大きな代償を要求する特性がある。そのため、契約者は大抵がろくでもない末路を辿る羽目になる上、破滅するまでに周囲に災厄を振り撒くという非常に厄介な生き物だ。だからほとんどの国では悪魔との契約を禁じられており、害獣同様に見かけたら即対処が基本となっている。クローシィがシンを見て即座に攻撃に入ったのもそのためだった。
このような理由から、王女であるエミーリアが悪魔と共にいることはとても不自然なことであり、王宮に悪魔がいるということは、セーフティの掛かっていない銃をホルスターにしまって持ち歩いているような危険な事態である。
エミーリアは何とか誤魔化したいようだが、国を守ることを務めとするクローシィにはここで追求を止めることは出来ない。
「その者は先程貴女を契約者と言いました。王女殿下は悪魔と契約されたのですか? エストーン王国では悪魔との契約は禁じられています。我が国の場合は法ではなく、規則でですが──王女殿下が悪魔の契約者というのはあまり良いこととは言えません。陛下はご存知なのですか?」
「・・・・・・」
陛下と言った途端、エミーリアは片眉をピクリと痙攣させ、そっぽを向いてしまった。
立場上詰問する訳にもいかず、別の切り口で事情を聞き出そうとクローシィが考えていると、ぴょこりとシンが間に割って入り、クローシィの顔をじーっと凝視し出した。
「・・・・・・何だ?」
気になってクローシィが問い掛けると、シンは口元に手を当て考え込む仕草をしてから、
「お前──」
「だからお前は何なんだ!」
意味深に見つめてくるシンにクローシィは焦れて、そう訊き返した。すると、あっさりとした答えが帰ってくる。
「なんだ? 聞いてなかったのかよ? 言っただろ、俺様はエミリーと契約している大悪魔のシン様だ!」
「・・・・・・やはり・・・・・・」
自信満々の表情を浮かべて自身を親指で差してそう告げたシンに、クローシィが納得しかけた時、
「ちっが────う! そいつが! 勝手に! 私にとり憑いたの!!!」
エミーリアが怒りで顔を真っ赤にして、鋭い声で否定した。
クローシィの攻撃は見事にクリーンヒットし、シンは潰された蛙のような声を上げて部屋の壁を突き破り、隣室まで吹っ飛んだ。
「しまった。やり過ぎた」
クローシィ・ジャンプティ。
鴉の濡れ羽色の黒髪に瑠璃色の瞳。中性的な顔立ちと線の細い体躯から、騎士の制服を着ていなければ文官に間違えられることもあるクローシィは、見かけに寄らず腕力がある。
演習中で、鉄剣をロッカーに預け、演習に使っていた木剣も王女殿下の前なので、仲間に預けて来てしまった。
故に、今クローシィが出来る最大の攻撃は自身を使った渾身の蹴りであった。
勢いと自重を武器に、全力で対象に向かって飛び掛かり、加減もしなかった結果、塔の一画を崩してしまう程のパワーが出た。
壁を壊したことは流石に不味いと思ったらしく、クローシィは顔をしかめる。
一方、土煙にまみれたシンはごほごほっと咳き込みながら、痛む背骨を擦って倒れた上半身を起こした。
痛いのか煙が目に入ったのか涙目だ。
「いきなり何しやがるー!」
シンは腕をブンブン突き上げてクローシィに抗議したが、クローシィは構わず二撃目を叩き込もうとシンへと突っ込んで行く。
「うわわわっ、ちょっ! こいつ速っ! エミリー! こいつ止めて──」
「すごいすごい! いいわよ! クローシィ! そのままやっちゃえー!」
「エミリー! テンメェエエエエエェェェ!」
クローシィの進撃にエミーリアは顔を華やがせて声援を贈った。
シンはまるで背後から刺されたような顔で大声で悪態をつき、ギリギリでクローシィの攻撃をかわす。
(本来なら王宮にいる筈のない悪魔がいたものだから、つい攻撃してしまったが、この悪魔は王女殿下と何か関係があるのでは? しかし、それにしては俺が悪魔に攻撃すると王女殿下が嬉しそうにし過ぎる・・・・・・)
会話から二人に何らかの関係があることは明白だが、エミーリアは嬉々としてクローシィをシンにけしかけるように応援するし、そんなシンは絶叫しながら逃げ惑っている。ちょっとカオスな状態だ。
(何故か反撃もしてこないし、このまま倒してもいいのだろうか?)
いくらクローシィが腕力に自信があると言っても、本来なら素手で人が悪魔に敵う筈がない。
シン側が防戦一方ということに疑問を抱きつつも、王女殿下もああ言っているし、やり返してこないのならこのまま畳み掛けようとクローシィが跳躍し、宙で体勢を整えた時シンも本気で獲りに来たと本能的に察し、エミリーに向かって叫んだ。
「わー! わー!! わ゛ー!!! エミリー! エミリー! おいエミーリア!!! お前マジでふざけんなよ! 弱っているか弱い悪魔様にこんな真似してただで済むと──あ、これヤバ嘘嘘嘘です! ホントヤバいってマジで助けて俺様の契約者ていうか、俺様の体が消滅しても契約者の魔力を元に再生されるからどのみち最終的な負荷かかるのはお前だぞ────!!!!!」
「あ。そっか。クローシィ! やっぱやめやめ! ストォップ!」
エミーリアは思い出したように手を打つと、クローシィに向かって中断を申し入れた。
シンに特攻する寸のところでクローシィは体を捻って宙返りをし、勢いを殺してそのまま床に着地した。
「あー! 死ぬかと思った!」
「もう半分死んでるようなものでしょ、貴方」
「王女殿下、この者は一体?」
服についた埃を払いながら隣まで寄ってきたシンを、腕を組んで半眼で睨んでいるエミーリアにクローシィは訊ねる。
「悪魔」
「それは分かります。何故、悪魔が王女殿下と共にいるのでしょうか?」
「・・・・・・・・・・・・」
クローシィの問い掛けにエミーリアは苦虫を噛んだような渋面になり、口をへの字にして押し黙ってしまった。
悪魔とは人語を介しながらも人とは異なる魔族と呼ばれる者たちの種族の一つで、人を誑かし、契約を結ばせ、契約者の願いを叶える代わりに大きな代償を要求する特性がある。そのため、契約者は大抵がろくでもない末路を辿る羽目になる上、破滅するまでに周囲に災厄を振り撒くという非常に厄介な生き物だ。だからほとんどの国では悪魔との契約を禁じられており、害獣同様に見かけたら即対処が基本となっている。クローシィがシンを見て即座に攻撃に入ったのもそのためだった。
このような理由から、王女であるエミーリアが悪魔と共にいることはとても不自然なことであり、王宮に悪魔がいるということは、セーフティの掛かっていない銃をホルスターにしまって持ち歩いているような危険な事態である。
エミーリアは何とか誤魔化したいようだが、国を守ることを務めとするクローシィにはここで追求を止めることは出来ない。
「その者は先程貴女を契約者と言いました。王女殿下は悪魔と契約されたのですか? エストーン王国では悪魔との契約は禁じられています。我が国の場合は法ではなく、規則でですが──王女殿下が悪魔の契約者というのはあまり良いこととは言えません。陛下はご存知なのですか?」
「・・・・・・」
陛下と言った途端、エミーリアは片眉をピクリと痙攣させ、そっぽを向いてしまった。
立場上詰問する訳にもいかず、別の切り口で事情を聞き出そうとクローシィが考えていると、ぴょこりとシンが間に割って入り、クローシィの顔をじーっと凝視し出した。
「・・・・・・何だ?」
気になってクローシィが問い掛けると、シンは口元に手を当て考え込む仕草をしてから、
「お前──」
「だからお前は何なんだ!」
意味深に見つめてくるシンにクローシィは焦れて、そう訊き返した。すると、あっさりとした答えが帰ってくる。
「なんだ? 聞いてなかったのかよ? 言っただろ、俺様はエミリーと契約している大悪魔のシン様だ!」
「・・・・・・やはり・・・・・・」
自信満々の表情を浮かべて自身を親指で差してそう告げたシンに、クローシィが納得しかけた時、
「ちっが────う! そいつが! 勝手に! 私にとり憑いたの!!!」
エミーリアが怒りで顔を真っ赤にして、鋭い声で否定した。
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