機械仕掛けの異世界転生〜勇者をクビにされたオッさんですが異世界でヒーローやってます〜

ふるっかわ

文字の大きさ
5 / 23
1章 北の森のオーク

04 ブラボーの日常

しおりを挟む
~レッドドラゴンの関所襲撃より1ヶ月後、エスァール王国、交易都市ゴーホンの路地裏~

「こんな夜遅くに一人で出歩くなんて不用心なお嬢ちゃんだな、俺達と遊んでくれよ?朝までしっぽりとな」

仕事がいつもより遅く終わった私は近道をしようと普段通らない裏道を使った、それが失敗だった。

「こう見えて俺達は紳士だからよ、気持ち良くしてくれるならその可愛いお口でも構わないぜ」

下卑た笑顔の男の指が私の唇に触れた、吐き気がする、普段は気が強いと言われる私だけど怖くて声が出せない、2人組の男は剣を持っている、怒らせると何をされるか分からない。

「心配しなくても誰もこないぜ?夜になるとこの辺りに近づく人間なんて誰もいねぇからよ」

男が私の服に手をかける、イヤ!誰でもいいから助けて!!

「なんだお前…、グホッ!」

もう1人の男が何者かに殴り飛ばされて近くのゴミ捨て場まで吹き飛んで行った。

「何しやがる!お…お前は!?」

見た事もない様な形の白銀の鎧に包まれた男が立っていた。

「良かった、まだ何もされて無いみたいだね、すぐに助けるから」

鎧の男が私に話しかけた、楽器を鳴らした様な不思議な声だ。

「テメェが最近ウワサになってる野郎か!?カッコつけやがって!」

危ない!残された暴漢がいきなり斬りかかる。

「大の男が2人がかりで女性に乱暴なんて見下げたヤツらだな、牢屋で反省しろ」

鎧の男は振り下ろされた剣を片手で掴みポキリと折った、ありえない、そんな事ができる筈が無い。

「馬鹿な…、バ…バケモンだ!」

暴漢は折られた剣を投げ捨て一目散に逃げ出す…が。

「逃げられるとでも思ったか?」

暴漢の体がくの字に曲がって崩れ落ちた、いつの間に移動したのだろう?鎧の男は逃げ道に先回りしていたのだ。

「大丈夫か?怪我はない様だけど」

地面にへたり混んでいた私に手を差し伸ばす、金属のヒヤリとした感触がとても優しく感じられた。

「は…はい、大丈夫です、ありがとうございました」

「夜遅くに女の子がこんな所に来たら危ないよ、大通りまで送って行こう」

鎧の男は私を大通りまで連れて行ってくれた、大通りの灯りが見える、もう大丈夫だ。

「あの!貴方のお名前…は?」

つい今まで隣を歩いていた男はいつのまにかその姿を消していた。

「夢…?じゃないわよね?」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「…ってな事が昨日あったのよ!あのお方が最近話題になってる『白銀の騎士』様に間違い無いわ!コレは運命よ!運命!あのお方になら私の全てを捧げても良いわ!むしろ着払いで送りつける!聞いてるの?ローラ!ヨーグもよ!」

先程からテーブルをバンバンと叩きながら熱弁をしているのは冒険者ギルド受付嬢のミンクだ。

「聞いてるよ、無事で何よりだ、他のお客さんの迷惑になるから少し落ち着いてくれないか?はいコレ食後のコーヒー」

俺がコーヒーを差し出すと我に返ったのかミンクは辺りを見回し一礼した、顔が真っ赤だ。

「何も無かったから良かったけど夜の路地裏を女1人で歩くなんて自殺行為よ?ミンクは昔から危なっかしいんだから、幼馴染として心配だわ」

レッドドラゴンを倒しローラとトビィさんの住むゴーホンの街に到着してから1ヶ月程の時間が過ぎた。

俺はトビィさんの営む食堂兼魔道具屋『ブラボー』に住み込みで雇ってもらえる事となり帝国から追放された勇者だと言う事をトビィさん一家に告白した。

その時にトビィさんの奥さんのレイラさんにも『クロス』の事を伝えたが他言はしないと約束してもらえた、レイラさんはハーフエルフでローラと並んでいると姉妹にしか見えない、食堂の常連さんも2人を目当てに来る男性客が多い、この店の2枚看板娘だ。

「そんなに白銀の騎士様はカッコ良かったのかしら?ミンクちゃんの初恋ね、おばさん応援しちゃうわよ~」

厨房からレイラさんがチラチラと俺を見ながらミンクに話し掛ける、レイラさんさては楽しんでるな?

「おばさま…私頑張ります!初恋です!そして最後の恋にします!早速ギルドに捕獲依頼を発注しようと思っているところです」

マズい、今のミンクなら本気でやりかねない、お尋ね者になってしまう。

「お母さん!ミンク本気でやるわよ!?あんまり焚きつけないで頂戴!」

「あらあら、なんでローラがそんなに必死に止めるの?お母さんは親友の初恋は応援するべきだと思うけどなぁ?」

間違いない、この人は俺をオモチャにして遊ぶつもりだ、早く話題を切り替えねば。

「この街って結構治安が悪いのか?最近聞く白銀の騎士がかなりの人数悪党を捕まえたって話だけど」

クロスの試運転を兼ね時折夜の街をパトロールしているが2、3日に1回は昨日の様なならず者を見つける、街の規模から考えるとそうでもないのかも知れないが決して治安がいいとは言い難い。

「少し前からゼファール帝国の兵隊崩れがこの街に流れ込んできているのよ、向こうは魔物が多いから前線行きを嫌がって脱走する兵士が後を絶たないらしいわ、ギルドでも問題になってるの」

「なんでまたギルドが関係してくるんだ?治安維持は騎士団の仕事だろ?」

「冒険者登録する時に暴れる奴がいるのよ、魔力持ちがなんで最低ランクからの登録なんだってね、魔力持ってる人間が優遇されるのはゼファール帝国だけだってのに自分を特権階級だと勘違いしてるのね」

「迷惑なヤツらだ、やっぱりトビィさんに付いてこの国に来て良かったよ、魔力無しにとって暮らしやすい国だと思う」

「そういえばヨーグは魔力無しだったわね、この国はあんまり魔力の有無を重要視しないから移って来て正解だったと思うわよ」

ゼファール帝国は魔力至上主義の国だ、魔力持ちの人間の歪んだプライドが他国での自分の扱いが不当だと思わせているのだろう。

「それにしても受付嬢って大変な仕事だな、コーヒーもう一杯サービスするよ」

「ありがと、だから白銀の騎士様を捕まえて寿退職するの!絶対見つけてみせるんだから!」

ダメだ、ミンクの執念が再燃してしまった、周りのお客さんが苦笑いしている、ある日のブラボーの昼下がりは騒がしく過ぎていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...