乙女ゲームの世界でサポートキャラに恋をしたので、イケメン全員落としてみせます。

あみえ

文字の大きさ
108 / 112

105 幻影に手をふる

しおりを挟む





 頭の中にこびりついた、時成さんの死に際に、絶望感に襲われていた時だった。
 
 『由羅』と、私の名を呼ぶ、時成さんの声が聞こえた気がして…。

 考える暇もなく反射的に振り向いたそこには、白い霧の中、見覚えのある景色が広がっていた…。
 幻なのか、幻覚なのか…。そこには見慣れた部屋があって、すぐに旅館の時成さんの部屋だとわかった…。私の視線は慣れたようにいつもの場所へと移動すると、その先には、いつものように窓際の座椅子に座り、キセルの煙をふかす、時成さんの姿があった……。


「・・・っ…!」


 言葉が詰まる。目頭が熱い…。そんな私に、霧の中の時成さんはわずかに顔を傾けながら私を見ると、いつものように胡散臭い笑みを、にっこりと浮かべた…。

 

『由羅、君はーー…』

 

 口を開いた時成さんの声が頭に響き、無意識に一歩、前に進む。幻覚でも幻でもいい…。今すぐそこに行きたいと、思った時だったーー…。



『ーー本当に、アホなんだねぇ…。』


「・・・は?」



 しみじみと、かみしめるように呟いた時成さんの言葉に、私の口から乾いた声が漏れた。
 予想外の皮肉に、見事に思考が停止して、怒りや悲しみや、高ぶっていた感情がどこかに去ってしまったような感覚がして…残ったのは、どこか冷静にこの状況を俯瞰する思考だけだった。


 目の前にあったはずの時成さんや見慣れた景色は、いつの間にかサラサラと霧の中に消えていて…。猫魔が見せた幻覚なのか、私が勝手に見た幻だったのか、それがなんだったのかはわからないけど、落ち着きを取り戻した思考が私の固まっていた身体をゆっくりと動かし始める。


 そして同時にひとつ、確信したことがある。


 覚悟を決めるように大きく深呼吸をして、私はぐっと膝を伸ばし立ち上がると、守るように前に立つ3人の背中を横切った。

 猫魔を視線で捉えながら、一歩一歩と前に進み出る私に、3人が驚き制止の声をあげる。


「え、由羅さん!?」
「バカ由羅!お前なにしてんだ!!」
「由羅ちゃんさがってろ!」


 私が小さく笑い、大丈夫であることを伝えると、三人は納得のいかない顔をしつつも口を閉じる…。
 さらに一歩一歩と前へと進み、猫魔の眼前までくると、私は口を開いた。



「猫魔…」

『由羅』


 猫魔の声は直接頭に響く。時成さんとよく似たその声に…私はぐっと下唇を噛んだ。


「知っているんですよ、私は…。」

「あなたが何故生まれたのか、何故私や時成さんに執着するのか…その理由も…」

「だから。無駄です。時成さんの死体の幻覚も、もうきかない。私はもう…。時成さんは死んでいないと、わかっているから』


 射抜くように猫魔を見つめ告げた私の言葉に、猫魔の金色の瞳が細められ探るように私を見る。


「あなたは…、時成さんの残留思念を糧とした存在。だから時成さんなくして生きながらえることはできないはずです。」

『……由羅、それは半分正解で、半分はずれだ』

「え?」

『たしかに私は時成のただの思念…。だが、ある条件を満たし、思念の主体でである時成を私が食らえば、私が主体となり、空っぽの時成は必要なくなるんだよ』


 私は時成を殺せないわけではない。と告げた猫魔に愕然とする。

 ・・・ちょっと待ってよ。話が違う。
 だって、時成さんはそのために、猫魔とともに自分も消える必要があったから…だから消滅しようとしてたのに…。運命を共にしていないなら、時成さんはなんのために……っ。


『時成は、このことを知らないんだよ。知ったところでどうしようもできないだろうけど。』
「……ある条件ってなんなんですか…」
『いま、している事だよ。時成の近しい者の記憶から時成の記憶を消す事。つまり時成という人間が存在した事実を抹消することだ』
「だから、サダネさんたちの記憶を…」



『そう。だからね由羅。半分は正解だよ。たしかに私は“まだ”時成を殺すことはできない。』

『苦しいよね。辛いだろう由羅。君は優しいから時成に情がうつってる。だけど大丈夫。私が消してあげる。安心していいよ。洗脳は得意だから。』

『そして、時成を消したら私とずっと一緒にいよう。かつてのあの時のように、今度こそずっと一緒にいよう』



 ・・・あぁ、ふつふつと湧く怒りのせいで、体が震えているのがわかる…。頭の中に直接響く猫魔の言葉のひとつひとつが私の感情を逆撫でていく…。

 私は小刀を持つ片手に力を込めながら、猫魔をキッと睨みつけた。


「猫魔…。確かに私は、昔あなたの主人だった人と同じ魂をもっているのかもしれない…。でも、私はその人じゃない」


 私を見るその金色の瞳がわずかに細められ、その爪が鋭くとがりだすのがわかった…。
 猫魔…、あなたはとても愚かな鎖にとらわれているのだろう…。

 時成さんを殺し、人間として成り替わることができたとしてもあなたはきっと何もかわらない。

 
「洗脳なんて、意味がないんだよ猫魔」


 あなたは人間の感情というものの大きさをわかっていない。
 リブロジさんは自力で洗脳を解いた。
 サダネさんたちもきっと時成さんの事を思い出す。


 人を、心を、支配なんてできないんだよ。



「私は、あなたとは一緒にいられない」



ーギシャアアアア!



 めきめきと音をたてながら叫び、猫魔は巨大なバケモノの姿へと変貌していく。
猫魔の爪が振り下ろされたとき、グイッとナズナさんに腕を引っ張られ後ろに追いやられる


「このバカ由羅、下がれ!」
「下がりません!」


 庇うように前に出たナズナさんの前へと再び出れば、降ってきた猫魔の爪と私の小刀がガキンと掠める音が響く。
 僅かに触れただけなのに猫魔の力に押し負け、私はドサリと倒れた

 両手両足を猫魔の四肢て踏まれ、身動きができなくなる。


「っ由羅さん!」


 サダネさん達が動こうとした瞬間、猫魔の爪が私の喉元に添えられ『動けば殺す』と口にした猫魔の言葉に三人はピタリと動きをとめた…。


「あなたが、求めている人は、私じゃない…」
『違わない。由羅の魂はあの人と同じだ』
「…そんなものが欲しいわけじゃないでしょ猫魔。あなたはただもう一度あの人に会いたいだけ。」


 死んでしまったことを受け入れることができなかった…。
 かつての幸せを手放すことが怖かった…。

 だからあなたは、あの人の魂を…光を求めた…。
 あの人が最後に時成さんに託した魂の光を…

 その光を手に入れれば、もう一度やり直せると信じたから…。


 
 前世とか魂とか、正直言って、覚えてないし。
 私は私として生きてきた記憶しかない。

 同情しないとは言わない。
 
 だけどそれ以上に強く思うものが、私にだってある…。
 



「ねぇ、猫魔。」



 取り引きしない?






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

能天気な私は今日も愛される

具なっしー
恋愛
日本でJKライフを謳歌していた凪紗は遅刻しそうになって全力疾走してたらトラックとバコーン衝突して死んじゃったー。そんで、神様とお話しして、目が覚めたら男女比50:1の世界に転生してたー!この世界では女性は宝物のように扱われ猿のようにやりたい放題の女性ばっかり!?そんな中、凪紗ことポピーは日本の常識があるから、天使だ!天使だ!と溺愛されている。この世界と日本のギャップに苦しみながらも、楽観的で能天気な性格で周りに心配される女の子のおはなし。 はじめて小説を書くので誤字とか色々拙いところが多いと思いますが優しく見てくれたら嬉しいです。自分で読みたいのをかいてみます。残酷な描写とかシリアスが苦手なのでかかないです。定番な展開が続きます。飽き性なので褒めてくれたら続くと思いますよろしくお願いします。 ※表紙はAI画像です

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

処理中です...