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106 それがあなたの最後なら
しおりを挟むこの光は随分と永い旅を時成さんと共にしたのだろう。
かつての私の前世から時成さんへと継承され、時成さんとともに、長い永い時を経て、光はアネモネさんによって導かれ、私の元へとやってきた。
思えばそのせいで、この世界の歪みとなってしまったんだっけ…。
だけど、そのおかげで、瘴気を浄化する力を私にくれたのも事実…。
光が共鳴を求めているという時成さんの言葉に従い、共鳴を重ね、私の中にある光はだいぶ小さくなっているけれど…。
私には、前世の彼女が何を思うかはわからないけれど…。
今、選択できるのは…。
今、この時を生きている私だけだから…。
ねぇ、猫魔…。
「私の中にある光を、あなたに渡すから…。あなたが捕らえている時成さんのすべてを、解放して。」
猫魔の巨大な体の重みにに耐えながら、私は必死に猫魔を見つめた。
「もう一度、あの人に会いたいんでしょ猫魔…叶えるにはこれしかないよ」
『…それが、どういう意味か分かって言っているの?光は由羅と密接につながっている。共鳴以外で由羅の中から消すということは…君の魂の消滅と同義なんだよ』
・・・。そういえばそんなこと随分と前に時成さんが言っていたなぁ…。
「…それでもいいよ」
小さく息を吐き頷けば、猫魔がゆっくりと私の上から体を傾ける。痛みがなくなりほっとしたのもつかの間に、悲痛な声でゲンナイさんが叫んだ。
「っバカなこと考えるなよ!由羅ちゃん!!」
ゲンナイさんには、猫魔の声は聞こえていないはずだけど、その聡明な頭脳は私が何をしようとしているのか瞬時に理解したのだろう…。その荒げた声は優しいゲンナイさんにはなんだか似合わない。
いいんですよ。安心してくださいゲンナイさん。
私はもともとこの世界の人間ではないのだし、このままだと光も歪みのままでかわいそうだし…。猫魔とともに私も光も消えれば…世界はあるべき姿になるんです。
猫魔の呪縛から解放されれば光が消えても、きっと時成さんは生きられる…。
だって、時成さんはこの世界の人間だ。ただの人間に戻って、今度はちゃんと人として、皆とともに生きてほしい。
だから、みんな、時成さんのことよろしくおねがいしますね…。
「猫魔、約束して。必ず時成さんを…」
『わかっているよ由羅』
私はかの人に会えれば、それでいい。目を細めてそう呟いた猫魔の体からブワリと何かが放出されたと思えば、その瞬間から私と猫魔を中心に円を描くような結界が張られていた。
こちらに走ってきていたらしいゲンナイさんが、迫ってきたその結界に勢いよく体を打ち付け倒れるのと同時に、サダネさんとナズナさんが結界を破るためか武器を構えた。
体を起こし、猫魔の目の前へと立つと、顔だけを三人に向け私は小さく笑う。
「武器を置いてください。私は大丈夫です」
「こ、のバカ女!んなわけぇだろが!!」
ナズナさんがガンっと結界を叩き叫ぶ隣で、その視力で結界の流れを探しているだろうサダネさんにも私は制止の言葉をかけた。
「っ由羅さん、何を考えているんですか!?」
苦しそうに歪められたサダネさんの表情にこちらまで胸がしめつけられる。
「サダネさん、ゲンナイさん、ナズナさん。大丈夫です。これでこの世界の脅威はなくなって、本来の姿を取り戻しますから」
「…由羅ちゃん、ごまかすなよ。その本来の姿ってやつに、自分は含まれてないだろう?」
「はぁ!?どういうことだよ!」
「由羅さんが、いなくなる、ということですか…?」
まさかと驚愕するサダネさんとナズナさんに苦笑いがこぼれる。できることなら私も、このままこの世界で、みんなと、時成さんと、ともに生きていたい…。
だけどもう決めたんです。できることは、叶えられる願いは、限られているから…。
「みんなの大事な人は帰ってきますよ」
だから、私がいなくなっても大丈夫。と笑うと、ナズナさんが結界を殴る大きな音が聞こえてきた。
「ふざっけんなっ!!」
ガンガンと拳をたたきつけながらナズナさんが叫ぶ声に背を向けて、私は目を閉じ自分の胸に手をあてた。
自分の中にあるだろう光を取り出そうとしてみたけれど、私にそんなことできるはずもなく…眉を下げ目を開ければ、猫魔が私の手に自信の額をすり寄せてきた。
『手伝うよ由羅。』
あぁそうか。あなたは時成さんの能力も使えるんだっけ…。
お願い、と呟けば、私の体が淡い金色に包まれだした。何度か時成さんにされた覚えのある、自分の中を探られているような気持ち悪さも、今では懐かしくすら感じる。
一瞬息が止まるような苦しさのあと、私の胸から金色に光るビー玉のような光が浮き出してきて、この世界に来たとき以来のそれを目にした時、なんとも不思議な感覚に襲われる。
視界の端には、血の滲みだした拳を何度も結界へ叩きつけながら、真っ赤な目で涙を流しているナズナさんが見えて少し驚いた。あのナズナさんが泣いている…。というか、血出てますって、ナズナさんもうやめてください。
だんだんと希薄になっていく意識の中、サダネさんやゲンナイさんの頬にも涙が伝っていて、つられるように私の目にも涙がじわりと浮かぶ。
あと少しで…光は、完全に私の中から離れようとしていた。
「…サダネさん、ゲンナイさん、ナズナさん…」
呼びかける声は思ったよりも小さくて、だけどそんな私の声にもちゃんと気づいてくれたのか、悲痛な顔でこちらを見る三人に、私はにっこりと笑顔を見せた。
「時成さんのこと、よろしくお願いしますね。」
ちゃんと、見つけてあげてください。
「っわかった!わかったから…頼む、由羅ちゃんっ!」
「由羅さん!お願いです…一緒に家へ帰りましょう…っ」
「てめぇ、絶対に、許さねぇぞ由羅!」
むりやりにでもこちらにきて阻止してこようとする三人に、私はもうほとんど力の入らない手のひらを向ける。
ピタリと三人の動きが止まって私は小さく笑った。
「短い間だったけど、私この世界にきて良かった…。皆にあえてよかったです。幸せ、でした」
ありがとう。と最後ににっこりと笑顔を見せれば、私の胸から光が完全に浮かびあがり、猫魔の胸の中へと吸収されていく。
それと同時に、私の意識がプツリと切れる音がした。
(あぁ死って、こんな感じなのだろうか…。)
最期に、
一目でもいいから、
時成さんに会いたかった…。
10
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