乙女ゲームの世界でサポートキャラに恋をしたので、イケメン全員落としてみせます。

あみえ

文字の大きさ
4 / 112

04 王道王子様イケメン

しおりを挟む


 しばらく歩いていれば、突然ピタリと時成さんが歩みを止めた。
 すぐ後ろを歩いていたせいで、何の前触れもなく停止したその背中にぶつかりそうになったけど、なんとか足のつま先で踏ん張りそれを避ける。

 止まるなら一声かけてくれないものか、とジトリとした視線を送れば
 『トキノワ』と彫られた看板がある家の玄関を、ノックもせず我が家同然のようにガラガラと開けている時成さんに驚く。

 さきほどまでいた旅館ほど大きくないものの、一軒家にしてはそこそこに大きそうなその建物の玄関から「おいで」と手招きされ、私は恐る恐るその敷居をまたぐ。

 「ここ時成さんの家なんですか?」と聞いてみれば否と返され首を傾げる。
 確かに旅館に泊まっているのだから家があるのもおかしいけど…じゃあ誰の家なのか…


「サダネ、きたよ」


 玄関に腰掛け靴を脱ぎながら時成さんがどこにでもなくそう言った後、廊下の奥の方から誰かがこちらに駆けてきた。


「時成様。お待ちしてました」
「うん。おはようサダネ」
「おはようございます……あの、そちらの方は?」


 不思議そうにこちらを見てきたのは、やたらと顔面偏差値の高い若い男の人で…
 サラサラと透き通るような灰色髪に、切れ長の目に、筋の通った鼻、厚くもなく薄くもないバランスのとれた唇の横には、小さな黒子があり色気すら醸し出している…。


(なにこのイケメン!?)


 まるで子供のころ読んでいた絵本からとび出てきた王子様のようなその人に、口をぽかんと開けて呆然とする。
 こんなにも整った顔、テレビでもあまり見たことがないと見惚れていれば「紹介しようか」と時成さんが手のひらを上に向けて、男の人の方へ動かした。


「こちらはサダネという者でね。私の会社『トキノワ商会』の主な仕事をほぼ任せている」
「よろしくお願い申し上げます。」
「よ、よろしくお願い致します…」
「そしてサダネ。こちらはーー」


 手のひらをこちらへと動かし、私と目が合ったと思えば、時成さんはピタリとその動きを止める。
 なぜ止まったのか疑問を抱く前に、時成さんは思い出したかのように「そういえば」と頷いた。


「君の名前は聞いていなかったね」


 にっこりと胡散臭い笑みを浮かべ言われたその今更な言葉に、がっくりと体の力が抜けそうになりつつも、なんとか私は背筋を伸ばす。


「私の名前はーー」
「あぁちょっと待って」


 名乗ろうとしたところで、言葉を遮ってきた時成さんは、私の耳元に口を寄せると小声で話し出した。


「この世界に名字という概念はないからね。名乗るならどちらかにして」


 ひそひそと言われた驚愕の事実に驚きつつも、郷に入っては郷に従えというもので、それなら、とコホンと咳払いをひとつした。


「私の名前は由羅ゆらです。」


 名字と名前どちらかなら名前だろう、とそちらを選んだけど、こういう自己紹介で名字を名乗らないことになんとも違和感を感じるのは否めない。
 名乗ると同時に下げていた頭を戻せば、サダネさんは「では由羅さんとお呼びしますね」と丁寧に返してくれたあと「奥へどうぞ」と応接室のような部屋へ案内してくれた。


 広い和室に絨毯が敷かれ、柔らかそうなソファとローテーブルがひとつあるだけのシンプルなその部屋のソファに座り、サダネさんが出してくれたお茶を飲めば、自分の喉が渇いていたのだと気付く。


「時に由羅さんは、時成様とはどういうご関係なのでしょうか?何やら不思議な格好をしてますが…」


 「新しい商談相手ですか?」と聞くサダネさんに時成さんは視線を上にやる。

 どう説明するのか考えているのだろう時成さんの横で、改めて自分の恰好を見てやっぱ変だよね、と納得する。
 羽織を閉じているからスーツは見えてないはずだけど、そこから伸びているのはストッキング履いているとはいえ生足みたいなものだし、変な恰好であることは間違いない。
 不審に思われても仕方ない…。


「関係を説明するのはどうにも難しい、というか。とても面倒くさいね。サダネの思うままに解釈していいよ」
「「……」」


 潔いほどさっぱりと、説明を諦めた時成さんに、いい加減だなぁ…。と内心呆れる…。

この人会社の経営とか本当にできているのだろうか…、さきほどサダネさんにほぼ任せているとか言っていたけど、サダネさん的にもそれ大丈夫なのだろうか。
 見た感じとても若そうに見えるのに…実はやりての人だったりするのだろうか…


「よくわかりませんが…トキノワに新しく入社される方、なんでしょうか?」
「うん。それでいいよ」
「え!?」


 二人の会話に目を丸くする。

 なにを言ってるんだこの人たち…
 よくわからない世界のよくわからない会社に勝手に入社させるのやめてください。しかもこの男が経営者というだけでほのかにブラック臭がするのに…!

 そう思っていても、口に出すことがなかなか敵わない自分の意気地のなさに葛藤していれば、話は進み入社を拒否するタイミングを完全に逃してしまっていた…。


「それでサダネ。ここにナス子の着物がいくつかあったろう?この変な恰好の子に貸してあげてくれないかな」
「それは構いませんが…」
「着方はわかるよね」
「わかるわけないですよね」


 着替えておいで。と当たり前のように言ってきた時成さんに、ブンブンと手を横に振った。

 夏祭りで着るような浴衣ですら着方フワフワしてるのに、着物なんてわかるわけないじゃないですか!と訴えると…
 時成さんは、とても面倒くさい。という顔をした後「とても面倒くさいね」とそのまま口にした…

 言われたそれに申し訳なさと苛立ちが同時にやってきたけど、ぐっと抑えて「教えてください」と私は頭を下げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

能天気な私は今日も愛される

具なっしー
恋愛
日本でJKライフを謳歌していた凪紗は遅刻しそうになって全力疾走してたらトラックとバコーン衝突して死んじゃったー。そんで、神様とお話しして、目が覚めたら男女比50:1の世界に転生してたー!この世界では女性は宝物のように扱われ猿のようにやりたい放題の女性ばっかり!?そんな中、凪紗ことポピーは日本の常識があるから、天使だ!天使だ!と溺愛されている。この世界と日本のギャップに苦しみながらも、楽観的で能天気な性格で周りに心配される女の子のおはなし。 はじめて小説を書くので誤字とか色々拙いところが多いと思いますが優しく見てくれたら嬉しいです。自分で読みたいのをかいてみます。残酷な描写とかシリアスが苦手なのでかかないです。定番な展開が続きます。飽き性なので褒めてくれたら続くと思いますよろしくお願いします。 ※表紙はAI画像です

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

処理中です...