乙女ゲームの世界でサポートキャラに恋をしたので、イケメン全員落としてみせます。

あみえ

文字の大きさ
5 / 112

05 幾年と生きる

しおりを挟む


 「この部屋です」と着物がいくつかかけてある部屋に案内した後、サダネさんは出て行き、その部屋に時成さんと二人きりになる。

 所詮衣装部屋というものだろうか…
 色とりどりの着物や袴が、壁一面の戸棚にかけてあった。

 どれでも選んでいいのだろうか、と目移りしている私の横を通り過ぎ、時成さんらさっさといくつかの布を手にとり衝立にかけたかと思うと、自分は傍にあった椅子に腰かけた。


「じゃあまず、肌着から着てね。着る順にそこ置いたからね」


 もう自分の仕事は終わりとばかりに、後は口を動かすだけだ、という雰囲気を醸し出してくる時成さんに私は頷くと「じゃあ、あの。出て行ってください」と廊下を指差した。

 着替えるので、と付け加えれば時成さんは不思議そうに首を傾げた後、理解したように頷いてみせた。


「気にしないでもいいよ。幾年と生きる私にとって君の着替えを見たところでその辺の猫を見るのとなんら変わらなーー」
「私が気にするんです」


 何かとても失礼なことを言われた気がしたけど、私はその言葉を遮って時成さんを部屋からむりやり追い出し、戸をスパンと閉める。

 というか『幾年と生きる私』ってなに?見た目的にも私の少し上ぐらいの歳でしょ、と心の中で思っていれば、ふとそういえばと思い出す。
 その時々で滞在する世界が違う、とか言っていたっけ…。

 それってどういうことなのか未だにわからないけど…単純に見た目で年齢を判断はできない、ということだろうか…。


「あの、時成さんって歳いくつなんですか?」
「由羅の思う年齢で構わないよ」
「いや、そういうのいいですから」
「答えられないんだよ。自分でもわからないからね」
「え?」


 自分で歳が分からないなんて…それほどになるまで長生きってこと?
 え、どういうことそれって、もはや人間じゃないような…いやそもそも滞在する世界を変えることができる時点でもう怪しい。


「…もしかして人間じゃないとか言いませんよね?」
「由羅の好きに思ってくれていいよ」


 さっきとまったく同じような返事をされたけど、もう私はなにも言うことができなくなってしまった。
 とりあえず、この人が普通の人間ではないことは確かだ。
 今のところ危険はなさそうに見えるけど簡単に警戒を解くのは間違いかもしれない。

 時成さんのいる廊下からなるべく離れた部屋の隅で、戸を隔てながらもなんとか着付けを教わり、姿見を見てうんと満足する。

 少し不格好ながらも一人で形にすることはできた。
 着ていたスーツはどうしようかと迷ったけど畳んで隅の方に置いて部屋を出た。

 仕上げの途中で、もう大丈夫だろうと先に戻ってしまった時成さんはどこへ行ったのかと探す。
 とりあえず先ほどまでいた応接室に戻れば、中から聞いたことのあるような会話が聞こえてきた。


「ではこの商談は後日行うとして、こちらの書類のお目通しと…来週、卸に出す商品の確認をーー」


 ーあぁ、なんだろうこの会話…サダネさんが上司である時成さんに報告しているこの感じ…。
 ものすごく聞き覚えあるというか、凄く私のいたあの世界を感じる。

 そういえば私って無断欠勤になるのだろうか。
 カバンも靴も穴に落ちたときなくしたし、この身ひとつでこの世界にきてしまったからなぁ、と今更なことを考えながら、よみがえってくる社畜としての自分が、この部屋に入室することをためらっている…。

 なんだかとても入りづらい、と部屋の戸の前で止まっていると、「サダネ」と、時成さんが名前を呼ぶ声が聞こえた。


「顔色が悪いね」
「え…」
「最近はサダネの負担も増えたからね。ちょうどいいから由羅には小間使いとして働いてもらおうか」
「助かりますが、由羅さんはそれで良いんでしょうか」
「大丈夫だよここではないが侍女の経験はあるからね」


 ないですが?と心の中で否定を叫べど聞こえるわけもなく、話はとんとんと進んでいき…
 勝手に入社させられたばかりか、部署も勝手に決められてしまった…。


「じゃあ私は少し出てくるよ。サダネは由羅に教えてあげて」
「はい」


 スッと開かれた戸から、出てきた時成さんとパチリと目が合う。
 戸の前にいた私に、気付いていたのかそうでないのかわからないけど、時成さんは平然としたまま「そういうことだからよろしくね」とだけ言ってさっさと玄関へ向かってしまった。


「あの、本当に良いんですか…?」


 部屋から顔を覗かせたサダネさんに、心配げな顔で聞かれた質問に苦笑いを零す。


「何を言っても無駄だと、この数分で悟りました」


 時成という男と、まともな意思疎通ができた試しがない。
 この世界の説明も、あの人自身の説明もまだなのに、なにもわからない私をサダネさんに丸投げし、自分はさっさとどこかへ行ってしまう…。
 そんな男の元へと舞い降りてしまったのが運の尽きなのか…と、諦めのようなため息を吐く。


「相手があの時成様ではそうなってしまうのも分かる気がします」


 私が考えていたようなマイナスの感情ではなく、どこか尊敬を含んだサダネさんの物言いに私は大きく首を傾げる。
 まるであの人は凄い人だから、とでもいいたげな目をしているけど、あの人全部放置して丸投げしただけの、いい加減な男な気がするのは…私の気のせいなのでしょうか…。

 はたしてあの男のどこに尊敬する箇所があるのだろうか、とだいぶ失礼なことを考えながらも「まずこの家の案内をしましょうか」と歩き出したサダネさんにおとなしくついていく事にした。


 一階には台所と居間、さきほどの応接室などの他に生活に欠かせないものが一通りと、なにやら医務室と書かれた部屋まであった。

 応接室と隣接する事務室らしき場所までくると「由羅さんはこの机を使ってください」と立派な机をあてがわれる。


「サダネさんはこの家に住んでるんですか?」


 会社の事務所にしてはやたらと生活感があるものが多かったな、と思い聞いてみれば、サダネさんは間を置くことなく頷いた。


「ここはトキノワ本部の事務所なのですが社員の社宅も兼ねてますので。今は俺とあと一人ここに住んでますね。…おそらくまだ起きてると思うので、行ってみましょうか」


 二階になります、と案内されるがままについていきながら、まだ起きてると思う、とはどういう意味だろうかと考える。
 昼とはいえないまでも朝日が昇ってからだいぶ経つ。
 まだ起きてる、ということはこれから寝る予定なのだろうか…もしかしてこの会社は夜勤などがあって交代制とかなのかな。

 階段を上った二階の一室の前まで来ると、サダネさんはトントンとノックをして「起きてますか?」と声をかけ、中からくぐもったような返事が聞こえてきたのを確認すると、その戸を開けた。


 視界に飛び込んできたその部屋の中は、敷き詰められるように並ぶ本棚とその本棚から溢れたような本や紙が床に置かれ、壁から床まで一面書物だらけの、ほんの気持ち程度に足の踏み場が存在しているような空間だった。

 本の重さで床が抜けるのでは、と心配になるほどの予想外の光景に圧倒されていると、奥にある大量の本の山の一番上から…もぞもぞと動く物体と目が合った。


「おんやぁ?誰だろう。知らない女の子だな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

能天気な私は今日も愛される

具なっしー
恋愛
日本でJKライフを謳歌していた凪紗は遅刻しそうになって全力疾走してたらトラックとバコーン衝突して死んじゃったー。そんで、神様とお話しして、目が覚めたら男女比50:1の世界に転生してたー!この世界では女性は宝物のように扱われ猿のようにやりたい放題の女性ばっかり!?そんな中、凪紗ことポピーは日本の常識があるから、天使だ!天使だ!と溺愛されている。この世界と日本のギャップに苦しみながらも、楽観的で能天気な性格で周りに心配される女の子のおはなし。 はじめて小説を書くので誤字とか色々拙いところが多いと思いますが優しく見てくれたら嬉しいです。自分で読みたいのをかいてみます。残酷な描写とかシリアスが苦手なのでかかないです。定番な展開が続きます。飽き性なので褒めてくれたら続くと思いますよろしくお願いします。 ※表紙はAI画像です

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

処理中です...