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80 未知のそれ
しおりを挟む滝のように泣きじゃくっていた私の涙も収まったころ…
いまこの状況に、頭の奥からふと冷静な思考が顔を覗かせた。
時成さんの胸に顔をうずめ泣く私を、時成さんは優しく抱きしめ、宥めるように私の髪の毛を撫でている…。
自分の状態を理解したとたんに、心臓から広がる熱がのぼってきて、体中が熱くなった。
いたたまれない心地に、目を伏せ、そっと時成さんから離れれば、ギシリと座椅子が鳴いた…。
おそらく真っ赤になってしまっているであろう顔を隠すように俯きながら、少し離れた部屋の隅に正座をすると
時成さんがフッと小さく笑ったような声が聞こえてきて、次いではキセルに火を灯す音が聞こえてきた。
「落ち着いたようだね」
「……すみませんでした」
フー、とキセルの煙をふかす時成さんをちらりと見上げれば、その胸元には私の涙のせいであろう染みがあって申し訳なくなると同時に羞恥心に襲われる…。
「聞きたい事がたくさんあるようだけど…?」
聞かないのかな?と小首を傾げる時成さんに私はハッとして、ぐっと唇をかむと
顔をあげ、時成さんを少し睨む
「一体今までどこに行ってたんですか」
屋根裏にいると言っていたのに、その屋根裏の部屋も消えてたのはどういうことですか。と問い詰めると、時成さんは少しだけ天井を仰いだ
「…どこに、と聞かれると。答えられるようなものではないのだけど…。この世界の理を私はだいぶ崩してしまっていたからね。それを直すのに、私という存在を一度この世界からなくす必要があったんだよ。だから、どこにと聞かれると、どこかとしか返しようがないね」
「…………。」
よくわからない言い回しをする時成さんに、詳しくきいたところで、世界だなんだの話はきっと私に理解できるものではないのだろう…。
私は諦めのような息をはき、一番気になっていることを質問する
「体はもう大丈夫なんですか?」
見た感じは顔色は良さそうだけど…。
黒革の手袋がされた手の指は、相変わらずピクリとも動いていない…
「大丈夫だよ。回復したからね」
「本当ですか?」
「世界の修復に比べたら私自身の回復は難しい事ではないよ」
「でも、その指は…」
「これは仕方のないものだ。回復云々ではない」
「…本当ですか?なにか私に隠し事ないですか?」
この人は、平気で人に死と隣り合わせの実験を強いるくせに、いざとなれば自分を犠牲に私を助けてしまった人だ。
そして隠し事も多く。真意もわかりづらい…。
じっと探るように見つめる私に
時成さんは「本当に私はもう問題ないよ」とにっこり笑みを浮かべた
「由羅がリブロジを解放してくれたからね」
「それも、どういう関係があったんですか?」
「リブロジと猫魔が襲来したあの時、猫魔はリブロジの能力を使い、私に結界を放ったんだよ」
「え?結界?」
「どうやら猫魔は、私がこの世界のものではない事も知り得ているようだった。回復に私が退く事を読み、私に結界を放ち、この世界に帰れないようにされてしまっていたんだよ。だがその結界を由羅が破ってくれた。」
「私が?」
「由羅がリブロジを猫魔から解放したことで、猫魔にリブロジの能力を維持する事ができなくなり、結界は消滅した。そのおかげで、私はここに戻る事ができたんだよ」
「よくわからないんですけど…。猫魔は…他人の能力を使えるってことですか?」
アネモネさんの病室で交信してきたアレは、時成さんの能力だ。と私は思い出した
「そうかもしれないね…。さすがラスボスとでもいうのかな」
「…ゲームの話にしないでください」
じとりと目を据わらせると時成さんは小さく笑い、トンとキセルの灰をおとす
でもそっか…。どうやら私はちゃんと時成さんの役に立てていたらしい。「良かった…」と眉をさげた時、時成さんが座椅子から立ち上がった
キセルを座卓に置き、何故かこちらに近づいてきた時成さんは、正座する私の前に屈んだ
「な、なんですか?」
再びに近くなったその距離に、心臓がドキリと跳ねる
「よく頑張ってくれたね、由羅。」
「え…?」
「ありがとう」
ふわり、と。見たことのない優しい笑顔を浮かべた時成さんに
一瞬私の呼吸が止まる…。
(え、なにこれ…)
体は小刻みに震えだし、心臓がドクドクと暴れ、背中には大量の汗が流れる…。
「由羅?」
名前を呼ばれても、時成さんの顔を見ることができなかった…。
いや、正確には…見れるのだけど…もたない…。
「…随分と面白い顔になっているけど、どうしたのかな?」
小首をかしげ、不思議そうに私を見る、時成さんのその表情すら
愛しく可愛く見えてしまうなんて…今まではこんな風に思うことなんてなかったのに…!
こ、恋を…自覚したとたん…
こんなことになってしまうのか………。と私は激しく動揺していた
「と、ときな…は、離れ、てください…」
とりあえず、この至近距離はまずい。とゆるゆると手を前に伸ばせば
時成さんはあろうことか、伸ばした私の手をぎゅっと握ってきた。嘘でしょ勘弁してください
「どうも歯切れが悪いね。由羅は変な物でも食べたのかな?」
拾い食いもほどほどにね。と犬扱いしてくる時成さんは、何故か私の手を握ったまま、離れることもせず、もはや真っ赤になって固まる私をじっと見つめてきている
離れたいのに、離れがたい。よくわからないもどかしさに苛立つのに、心臓はうるさいし締め付けられるしで、もはやなにもわからなくなってくる…。
なんなんだこれ。自分が自分じゃないような…
「…由羅?」
ついにはぐるぐると回りだした私の視界に、時成さんがゆっくりとさらにその距離を詰めてくるのが見えた
ドッドッドッドと心臓が爆音で跳ね、目は回り、湯気が出てるのではないか疑うほどに顔があつい。
そして極めつけとばかりに、
コツン、と時成さんのおでこが私のおでこに触れた
(え・・・)
「…だいぶ熱いけど、熱でもあるのかな」
うーん、と考えている時成さんの顔が目の前にある…。
お互いの鼻が触れてしまいそうなそんな距離で、
じっと見つめられてしまえば、さらに症状が悪化するのは言わずもがなで
こちとら今まさに恋心を自覚したばかりなんですから、
そんな刺激の強いスキンシップは、お控えいただけないでしょうか…
「ふ、わ…ぁ…」
激しくなりすぎた心臓のせいか、熱くなりすぎた体温のせいか…
どちらにしても、元の原因は目の前のこの人なのだけど…
“恋”という私にとって未知のそれと対峙するには、私はだいぶ経験不足なようで
見事にキャパオーバーした脳がショートを起こし、HPがゼロになった私はその場にパタリと倒れた
壊れた機械のように、プシューという効果音を放ち気絶する私を見つめ
時成さんは、わけがわからない。という顔で、しばらく固まっていたらしい…。
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