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99 時成
しおりを挟む由羅から渡された本を見て最初に、僅かな嫌悪感を抱いた。
そんな感情を抱いた自分に驚きと違和感を覚える。
まるで吸い込まれるようにその本に触れ、表紙を捲れば、そこにはなんとも言い難い、虫唾の走るような文が綴られていた。
名もなき男を名乗る、一人の男の日常を綴った文章は、苛立ちさえ感じさせる平凡なもの…。
どうやら男は村で一番大きな商家の跡取りらしい。
抑圧的で自由のない自分の生まれに不満を感じながらも、責任もあり、出ようとは思っていない。だが、本心は自由を求めている…。
矛盾を感じている日々の中、男はあるひとりの存在と出逢う。
村で変わりものと言われ、避けられ、いつもひとりぼっちだった少女。
木々が生い茂る森の中、その少女はさまざまな動物達と戯れていた。
その動物たちもまた、彼女と同じように普通ではない特異な様子が見てとれる。
男はその場に立ち止まった。
村の中では見たことがないような笑顔で、動物達に接している彼女に、また彼女のことを愛おしそうに寄り添う動物達の様子に、
男は涙を流し、羨望を抱く。
どうか、自分も仲間に入れてくれないだろうか。
男の願いは振り向いた少女の笑顔でいともたやすく叶ってしまったようだ。
それからの日記は幸福に包まれているようで男が浮かれているのが文だけでも分かった。
(この男が本当に私なのか)
嫌悪すら抱く男に多少戸惑いながらもページを進めると、ある時から謝罪ばかりが綴られるようになった…。
なにがあったのだろうか…と一瞬頭で考えた時、見たこともない光景が私の頭にじわじわと浮かんでいく。
頭痛と吐き気を伴うその映像の中に私の意識は吸い込まれていき、痛みがなくなったと思えば見知らぬ村の中に立っていた。
まるで、日記の中に入り込んだようだ…。
目の前には、私とよく似た姿の“名もなき男”だろう人物が淡々と仕事をこなしている様子が見える。
そんななんでもない、いつもの日常の中だった。
突然に雷が鳴り、村に豪雨と地割れが襲う
避難する民の中に少女の姿がない事に気付いた男は、必死に少女を探し始めた。
行き着いた森の中で動物達に囲まれ倒れる少女を見つける。
災害に巻き込まれたのか…腹から血を流す少女の傍らに跪き絶望する男に、少女は懇願する。
『この動物達を、守ってください』
男は頷き、必ず守ると『約束』を交わす。
冷たくなった少女の体からは淡い金色に輝く光があふれると、男の胸の中へと引き込まれていった。
「あぁ、思い出した…」
そういうことか…。
過去とでもいうべき映像を見ながら、私は次第に理解し始めていた。
男と私の関係はなんなのか。
少女は誰なのか
光とは
動物たちとはーー…。
早送りのように過ぎ去る日々を眺め、自分の頭の中を整理していく。この男が日記に執拗に謝罪を繰り返していた理由が分かった…。
男は、約束を守れなかったからだ…。
普通ではない、特異な力を持つ動物達は…
1匹ずつ、男の前から姿を消した。
不当な輩に奪われたもの
無惨に殺されたもの
いつのまにか消えていたもの
最後に残ったのは、目立った特異ではない猫と鼠だけだった。
男は不甲斐ない自分に嫌気がさし、“生”を容易く手放そうとする。
見かねた鼠が男に問いかける。
『そんなにも後悔しているのならば、これから先を正していけるよう存在になったらどうか』
鼠は男の体と魂を、人ではないものへと作り替えていくーー。
ーーだが、猫が許さなかった。
世界から消えようとする男の思念を、猫は捕らえて離さず、自分の体に吸収してしまう。
気を失った男に鼠は僅かに顔を顰めながらも、猫に背中を向け、その世界から姿を消したーーー…。
残った猫は、後悔と憎悪の思念と混ざり、男の家を踏み壊すほどの大きなバケモノに変化していく。
これが、異形の始まりなのだろう…。
プツリと映像が途絶え、
気付けば私は真っ白な部屋にひとり立っていた。
はて、ここはどこだろうか…。
右も左も果てなどないような真っ白な空間を見渡す。現実味がないところをみると、ここは夢や精神の中とでもいうのだろうか…。
ふと背後に現れた気配。
まさかこんな形で対面するとは思っていなかったよ…と小さく笑みを浮かべゆっくりと振り向いた。
「私の思念だったのだね、お前は」
猫魔。と名を呼べば、先程映像に映った猫と同じように静かにこちらを見据える金色の瞳と目があった
「お前が鼠と混ざり、人ならざるモノになって逃げた事が私は許せん」
「……。」
「その体と魂を私に返せ。まがい物め。」
「お前はそれで、どうしたいのかな」
「私はやり直したい。異形達を集め、お前から魂と体を取り戻せれば、あとは、かの人を待つだけだったのに…」
「なるほど…。あの少女か」
思わず小さな笑みが溢れた。たしかに、動物達の中で猫が一番あの少女に執着している様子だったね。
「なのに貴様は、かの人から譲り受けた光を…魂を…!どこぞの娘にとられ、あまつさえ、その娘を使い私の異形たちを消滅させた…。」
「聞くけれど…。それはわざと気付かぬふりをしているのかな」
小さく笑みを作ったまま、憎々しく顔を歪める猫魔に一歩近づいた。
とても簡単なパズルだと思うのだけど、女々しいお前の事だ。保つために繰り返した悪行ゆえ、いざ彼女に逢うのが怖いのだろう…?
「その娘…由羅が、お前が焦がれている少女なんだよ」
ーぐわん、と脳が揺れる感覚がして、なるほど。この空間だと多少なりとも猫魔と私はリンクしているらしい、と気が付いた。
猫魔の動揺が、痛いほどに伝わってくるね…。
「お前が焦がれていた由羅が、お前を倒しに行くからね。首を長くして待っているといい」
消えていく空間に向かって告げれば、激しい頭痛と胸の痛みが私を襲った
あぁなんとも、不甲斐ないね…。
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