媚薬専門店を開いたら、ED騎士が釣れました。

金時ジュゴン

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1瓶目:ようこそ、ヴァニィ薬店へ

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―ついに来たな。私の天敵。

 小高い山奥の昼下がり。ヴァネッサはつい今しがた店内に入ってきた男を笑顔で迎え、

「その鎧。さる王国騎士団ともあろう方が、こんな山奥の貧相な小店になんの御用でしょうか?」

決して歓迎していない声色で尋ねた。

 貧相な、とは言ったが建物自体はそこまで古くはなく、木造建築特有のギィギィ音を立てる扉や木の匂いが気になるぐらいで、掃除も行き届いているのでそんな言葉をあえて使う必要はない。広くはないが人が一人住むには十分に立派な小屋であり、つまり僻みである。
 店に入ってきた男はフリーデン国王家の紋章が入った銀の鎧に身を包み、文句のひとつでも浴びせるぐらい強気でいないと気絶しそうな程の美丈夫だった。
 腰までありそうな美しい金髪を頭の高い位置で纏め、長めの前髪からはサファイアのごとく輝く碧眼がこちらを射抜くように見つめている。
 スラリとした上背に長く整った鼻筋、薄い唇と全体的に線の細い顔立ちがより美貌を際立たせていた。

(王国騎士がこんな綺麗な顔ってどういうこと…こんな顔の人達が国境で戦ってるって言うの…!?)

 城下町の駐屯騎士しか見た事がなかったヴァネッサにとって、騎士は皆むさ苦しい武骨な男だと思っていたので、内心信じられないという面持ちで驚嘆している。が、決して悟られないように足をふんばって仁王立ちして腕を組んでいた。顔だけはしっかり営業スマイルを維持。

「この店の"視察"に来た。何か事情があって届出が出せていないのであれば、速やかに登城を要請する」

 "視察"とはかなり柔らかい表現であり、要約するとこれ以上無認可で営業するなら店を潰すぞという警告というか脅迫である。
 朗々と答える美男騎士に気圧されないよう扉に目配せしながら頷き、

「承知しました。立ち話もなんですからこちらにどうぞ。表の方々も一緒に」

―そう、『他の騎士も連れてきているのは分かっている』と威嚇をした。
 おそらく2人来ているだろう。店の小窓から鈍く光る銀の鎧が見えている。
  
「…分かった。だが、私一人だけでいい。部下には表を任せている」

 表から襲撃されるのを警戒しているようだ。店の広さからして店内からの脅威は少ないと見ているらしい。
 ヴァネッサは紅茶と茶菓子をテーブルに持っていき、簡素な赤紫色のワンピースと店の制服であるエプロンの裾を摘んで一礼をした。

「申し遅れました。私、ヴァネッサ・ペイリーと申します」
「ペイリー……もしや、ペイリー商会の娘か?」

 席に着いて視線を落としていた騎士が驚いたように顔を上げる。ヴァネッサは黙って頷いた。

 城下町では有名だった、貴重な化粧品を取り扱うペイリー商会。
 独自で作った質のいい白粉や香水を売っており、4年前についに王城にも品卸しようと一家で馬車で向かっている道中、事故に遭う。
 両親と後継者になるはずだった兄は死亡。娘のヴァネッサだけ昏睡状態で生き延びた。王城への商談は破談になり、商会は閉業してしまった。
 世間ではそのショックでヴァネッサは姿を消したとされ、大出世するかと思われた商会の悲劇の事故として新聞を賑わせていた。

「まさかこのような店を開いていたとは。確かに言われてみれば捜索届に載っていた容相と一致している」

 ヴァネッサが姿を消した後、王国騎士団には捜索届が提出されていた。当時16歳だったヴァネッサには婚約者がいたのだ。その婚約者が提出したものによると、見た目は胸下まである焦げ茶のウェーブヘア、瞳は蜂蜜色で鎖骨から胸元にかけてホクロが2つ。確かにヴァネッサは全て一致している。

「しかしその婚約者はあっさり他の女性と結婚したでしょう?」
「…そうみたいだな」
 
 そのはず、商会目当てで自分に結婚を申し込んだ男だ。商会という金の当てがなくなった自分の事など、世間体の為に捜索届を提出しただけで、まるで悲劇の未亡人を演じて上手いこと次のご縁に繋げたのだろう。
 騎士はぐるりと店内を見渡した後、感心したようにこちらを向き、

「過酷とも言える環境の中で、たった一人で努力したのだろう。だが、何故届出をしない?この国は王都の認可無しで営業する店は不正を疑われ、取り潰しになる事は知っているだろう?」

意外にも心配混じりの声で尋ねてきた。

「えぇ、存じております。実は、深い事情がありまして…」

 ヴァネッサはそこで言葉を切り、

「…紅茶はお嫌いでしたか?」

先ほど淹れた紅茶をさりげなく勧める。

「あぁ、そういうわけではない。冷める前に頂こう。」

 怪しい女の正体が、不運の事故で全てを失った可哀想な娘だと知って警戒が緩んだのか、騎士は紅茶を一息に飲み干した。

―かかった。しかも一気に飲むなんて。

 ヴァネッサはほくそ笑みそうになるのを必死にこらえて鉄壁の営業スマイルを貼り付けた。

「お口に合いますでしょうか?」
「ん?いや、すまない。私は紅茶の善し悪しがあまり分からない。だが、ベリー系の香りは好みではある…」

 そう答えた騎士の動きが、ピタリと止まった。

「……っ?おい、何をした…」 

 みるみる全身が熱くなり、特に下半身に熱が集中しているのが分かる。

(あら?もう効果が?いくら一気飲みしたにしても早過ぎない?)

 少し疑問に思ったが、やるからには徹底的にやるしかないので、紅潮していく騎士殿に追い討ちをかけるように"特製の香水"をかける。

「っ!?なにをっ…!!」

 むせるような甘い匂いと共にくらぁっと襲いかかる酩酊感。必死に抵抗するも、椅子から滑り落ちるように膝をついてしまう。 

「毒か…!?お前、私にこんな事をしてどうなると思って…!」 

 視界が朧気になる中、剣の柄を握り女を睨みつける。だが、その間にも下半身、特に何故か股間への熱がずくずくと集中していき、意識が遠のきそうになる。

「外の騎士を呼んで頂いても構いませんよ?まとめて"実感"させるだけなので」 

 そこに女の笑顔はもう無かった。
 実感とはどういう事だと問う前に、騎士は意識を手放してしまった。
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