闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第0123話 報復開始

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重厚な雰囲気のホールに数人の影が座っていた。

その中には、蕭炎と深い関係にあるミュリも含まれていた。

ホールの一番端に坐っているのは、顔に陰りがある中年男性で、彼はテーブルを軽く叩いて会話を開始した。

「先ほど情報を得たが、今日出発させた探索隊のうち、2人小隊が中部魔獸山脈で消息を絶つという報告があった」

その中年男の声は少し沙哑だったが、部屋にゆっくりと響いた。

「父さん、おそらく魔獸の襲撃を受けたのでは? 魔兽山脈でそういうことはよくあるんだから」ミュリは笑いながら口を挟み、

「ミュリ、君はその男と戦ったことがあるのか?」

「あいつの実力なら、反射信号弾が発動する前に五星斗士2人を殺すのは不可能だ。

父さん、疑うことはないよ」

ミュリの呼びかけに、中年男は狼頭傭兵団の総長であるミュウと名乗った。

「魔獸襲撃なら多少痕跡が残るはずだが…

前線で待機していた傭兵がその2人隊の区域を捜索した結果、戦闘跡は発見されなかった。

崖から落ちたという可能性も考慮するが、それには未熟な傭兵しか犯さないミスだ。

つまり、誰かに襲われたと推測できる」

ミュウは首を横に振って淡々と言った。

「父さん、もしもあいつの仕業なら? 2人の実力が五星斗士だから、反射信号弾が発動する前に殺すのは不可能だよ」ミュリは首を傾げた。

「明日、慎重に捜索隊を派遣してみるか。

俺は些細な不審点も見逃せない性分だから」

ミュウの言葉にミュリは頷き、手を広げる仕草で同意した。

ホールを見渡すと、ミュウが石匣子について質問した。

「ミュリ、山洞から運んだ石匣子を開けたか?」

ミュリは眉を顰め、「鍵は蕭炎手中にある。

ロックメカニズムの専門家も呼ばせたが、成功する見込みはない」

ミュウは拳を握りしめ、目を細めて言葉を続けた。

「開けなかったら強制的に破壊しよう。

70万ゴールドコインと希少薬草が入っている可能性があるからな。

その前の人物の実力も相当だったはずだ」

ミュリは頷き、唾を飲み込んで質問した。

「父さん、小医仙についてどうする?」

「ミュリ、彼女が山洞で何を得たか知ってるのか?」

ミュリが首を横に振ると、ミュウは目を細めて手を振り、「今は動くべきではない。

あの娘は青山镇で有名だから、単独傭兵の反発を買うからな」

「それで万薬齋で放置か?」



ふふふ。

のんびり暮らすなんて、そんなに簡単にはいかないよ。

明日から流言を広めるんだ。

小薬仙が強者たちの遺物を得たと噂し、その遺物はおそらく玄階の斗気功法だ。

彼女は優れた医術を持つけど実力は弱い。

この世に善人ばかりじゃない。

貪欲な連中が彼女の手から遺物を奪おうとするだろう。

どうやってそれに対処するか、自分で考えろよ。

「いい手だと思うぜ。

もし万薬齋もその『遺物』で動揺したら、小薬仙の庇護網は崩壊するわ。

ハハ!その時は捕まえやすくって」

微かな頷きと共に、ムウスネが耳下の傷跡を撫でながら淡々と語る。

「小薬仙には脅威はないけど、私が最も心配なのは、あなたが口にしたあの二十歳の男だ。

彼はまだ若いのに斗者二星以上の実力があるんだから」

笑顔が途切れる。

ムウリが目を鋭く光らせる。

「この年齢で既にそんな強さか? 潜在能力は強いぜ。

特に二十歳の男は、少年らしくない落ち着きと、自身の実力を隠す術にも長けている。

もし生死の瞬間でなければ、誰もその真実を推測できなかったんだ」

耳下の傷跡に指先を当てて冷たく言い放つ。

「この潜在敵は成長する前に消し去る必要がある。

逆らえば後悔するわ」

山洞での経験を思い返すと、ムウリの指が震えた。

その敵は本当に厄介だ。

「私は探偵隊の規模を倍に拡張し、報酬も二倍にする。

必ず短時間でその男を見つけ出す」

狼頭傭兵団の幹部たちが顔を引きつりながら命令を受け取る。

瀑布の轟音と共に谷間に響く。

滝壺の湖畔で小炎は十本の巨大杭に苦々しく笑み、「薬老、本当にあの下で修業させようと思ってんのか?」

「正解よ」薬老が微笑む。

「地階級の技と玄階級の技は同じじゃない。

そのレベルを習得するには条件が必要だから」

「黒い重尺をくれ」

小炎が手を伸ばすと、薬老が背から取り出したのは奇妙な黒い重尺だった。



薬老は笑みを浮かべて尋ねた。

「本当の地階級の武技を見たことがあるか?見たいか?」

その言葉に反応したように、蕭炎の目が突然輝きを帯びた。

彼は頷くように何度も首を縦に振った。

薬老は漆黒の重剣を手に取り、ゆっくりと体を浮かせ始めた。

湖の中央まで移動した後、やっと停止した。

彼が見下ろすのは、水面から四五メートル上空にある巨大な滝だった。

その滝は銀龍のように輝く光を放っていた。

薬老は目を閉じて深呼吸し、数秒後に突然目を開いた。

その瞬間、蕭炎にこれまで見たことがないほどの圧倒的な気勢が周囲に広がった。

平静だった湖面が沸騰したように波立ちはじめた。

白い泡が薬老の足元から広がり、最終的に全体を覆うまで続けられた。

蕭炎は目を見開いてその光景を凝視していた。

今や薬老は以前のような穏やかな老人ではなく、鞘から剣を抜いたような鋭い存在感に変わっていた。

「この強さ…本当に地階級の実力なのだろうか?」

彼はつぶやき声で自問した。

薬老は黒い重剣をゆっくりと持ち上げた。

その剣面には、蕭炎が不思議に思った特殊な模様が赤々と光り始めた。

空間の歪みが周囲に広がり、薬老は低く唸るように叫んだ。

突然体が動いた。

残影が夕陽の中で浮かび上がり、蕭炎はその速度に驚愕した。

薬老の姿は巨大な滝の前で消えた。

彼は滝下に瞬時に移動し、その小さな存在感からも滝よりも圧倒的な威勢を放っていた。

滝からの風圧が老人の体に影響を与えることもなく、薬老は突然止まり、脚を踏ん張って体を180度回転させた。

重剣の光がさらに強くなり、蕭炎は目を細めざるを得なかった。

「地階級武技:炎裂砕波剣!」

その一声で空虚な谷間が爆発のように鳴り響き、熱い息吹が周囲に広がった。



「ドン!」

広大な湖の表面に、突然無数の水柱が天高く打ち上げられ、壮観な光景となった。

その間を縦横する赤い光が突然現れ、その行く手にある水柱はたちまち消え去り、代わりに漂うのは薄い霧だった。

「バチ!」

赤い光は疾風のように湖の上を駆け抜け、十メートルにも及ぶ波を引き起こし、奔流する滝壺に思い切り衝突した。

「ドン! ドン! ドン!」

連続する雷鳴が谷間を響かせ、岩壁から大量の断片が次々と落ちてくる。

両手で耳を塞ぎ、蕭炎はその攻撃の規模に目を見開いた。

しばらくしてようやく唾を飲み込み、視線を滝壺に向ける。

しかし今は霧で視界が遮られていた。

突然谷間から強風が吹き出し、水蒸気が急速に消散した。

その先には巨大な滝がゆっくりと姿を現す。

目を見開いて滝の顕然となった蕭炎はしばらく呆然としていたが、やがて目を閉じ口を吸い込み、頭の中で眩暈が広がった。

滝の後の石壁に、十数メートルにも及ぶ深さと三・四メートル幅の溝が切り出されていた。

その周囲には細かい亀裂が蔓延し、爬虫類のように岩肌を這い上がっているように見えた。

滝水は二十秒以上も停止した後、ようやく再び流れ始めた。

巨大な傷跡は少しずつ目立たなくなった。

「これが地階級の技か?」

胸元に手を当てて呼吸する蕭炎がため息を吐いた。

空を見上げると薬老がゆっくりと降りてくる。

彼の視線を受け止めながら、萧炎は驚きで顔を引きつった。

老人の指先が額に触れた瞬間、大量の情報が脳裡に流れ込んだ。

「炎裂水断尺、地階低級術。

大成すれば山を裂き波を断ち、手の動き一つで」

短い説明には莫大な力と狂気を感じさせる内容だった。

蕭炎は興奮で眩暈がさらに強まった。

薬老は玄重尺を地面に刺し、十本の巨大な杭に向かって首を横に振った。

笑顔で彼は説明した。

「今日から滝の激流の中で修業する。

いつか第十の杭まで三百回劈き水が出来るようになるまで、炎裂水断尺を使うことが出来る。

ただし、その術は一度しか使えない。

もし二度目を試みたら内臓に深刻な損傷を被り、今後の可能性にも影響が出る。

だから、緊急時以外は使うな」

最後の言葉には強い口調が含まれていた。

頷いた蕭炎は薬老と同じ視線で滝を見やった。

巨石に打ち付ける水の轟音に体を震わせ、苦く笑って言った。

「あの強力な衝撃力があれば、防衛もせずに突っ込むと即座に意識を失うんだろう」

「もしかしたらね」薬老は手を広げて笑みを作り、萧炎に向かって手を伸ばした。

「練習のときは『玄重尺』を身につけなければならない。

そして今後、あなたが使う『焰分噬浪尺』の力を発揮するには、そのものが必要だ。

それをなければ、この地階級の斗技の威力は三分の一になってしまう」

「それから、あなたの体中の回気丹薬も全部出せよ。

こういう練習では、そういうものは必要ないんだ。

あなたは自分の斗气回復に頼らなければならない」薬老は蕭炎の納戒をそのまま引き取った。

笑みながら言った。

蕭炎が薬老から奪われた全ての備蓄を見つめ、彼は口をゆがめて嘆いた。

そして瀑布下にある巨大な木杭に目を向け、頑として牙を剥いて見せた。

「小爺はこれまで何苦も経てきたぞ。

お前みたいな連中にやられるわけにはいかねー」

「地階級の斗技のために、死ぬ気だ!」

と咬みつけるように叫んだあと、蕭炎は衣服を脱ぎ捨て、巨石に俊敏に飛び乗った。

第一の木杭に向かって牙を剥いて跳び上がった。

「ドン!」

脚が木杭に触れた瞬間、水圧の強烈な衝撃で体全体を打ち飛ばされ、蕭炎は無情にも湖の中に沈んだ。

水面から顔を出すと、胃の中に入った湖水を吐き出し、「今日はお前との勝負だ!」

と叫んだ。

そのあと、再び巨石に飛び乗り、第二の木杭へと牙を剥いて突進した。

「ドン…」

「くそっ」

「ドン…」

「ちっ」

滝壺の巨石で薬老は坐り、頑として滝と張り合い続ける少年を見つめ、淡々と笑った。

その目には満足そうな光が浮かんでいた。



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