闘破蒼穹（とうはそうきゅう）

0300

第0338話 錯綜

薄い声が闇の中で消えなかった。

白装の男は冷たい目で、頑として抗っている青年を見つめていた。

さらに何も言わずに、掌を回すと、淡い色の斗気（どうき）が掌に集まり始めた。

その中に低く鳴る雷の音が混ざっている。

「雷属性の斗気か？」

銀色の斗気が発する低い雷鳴を聞いた瞬間、蕭炎は目を瞬いた。

この男が、彼の二つ目の兄である蕭烈と同じ属性を持つ稀少な斗気を持っているとは思いもよらなかった。

掌を動かすと、淡い青色の斗気が掌から湧き出てきた。

萧炎は平然として、白装男子を見詐まっているように見えた。

その目には驚きや怯みは一切ない。

「弱者は、彼女を守れない」白装男子は冷たい視線で、蕭炎に向けたが、彼の姿勢を変えなかった。

軽く足を踏んばると、体が一瞬で銀光となって闇を切り裂き、萧炎へ向かって疾走した。

その動きだけで空気中に雷鳴が響いた。

暗闇の中で、蕭炎の目は急速に開かれ、掌を握りしめた。

淡い青色の斗気が拳の中を吐き出し、蛇のように蠢くように動いている。

「白山！お前は何をしているんだ？」

銀光が闇を裂こうとしたその瞬間、突然金光が爆発的に飛び出した。

空中で銀光と衝突し、激しいエネルギーの嵐が周囲に砂石を吹き飛ばした。

その叫び声が響いた直後、蕭炎はため息をついて拳を開いた。

視線を上げると、白装男子が枝に飛び乗っているのが見えた。

そして楼閣から青衣の少女が現れ、すぐに萧炎の隣に立った。

彼女は眉を顰め、白装男子を見詐まっていた。

「大したことない。

ただ学弟と試合するつもりだったんだ」白山は冷たい視線で蕭炎を見てから、少女に向かって言った。

「薰（くん）がなぜこんなに急ぐのか？もし私が一撃すらも耐えられないのなら、内院選抜大会に出場資格もない」

「白山先輩。

私は貴方を敬っているから優しくしているのよ。

でもこれだけ無理やりやるのなら、もう我慢できないわ」少女は怒りを抑えながら言った。

その言葉に白山は顔色を変えた。

彼が薰（くん）と知り合った以来、少なくとも友人として接してきたはずなのに、今の口調には耐えられないと思ったのか、表情が暗くなった。

「男なら、後ろに隠れるな」白山は深呼吸して胸の悪さを抑え、萧炎を見詐まっていた。

彼の視線は冷たい笑みと共に向けられた。

「白山先輩！もう我慢できないわ！」

少女は顔を引きしめると、掌の中で金色のエネルギーを集めた。

白山が何度も蕭炎に挑んできたことは、彼女の許容量を超えてしまったのだ。



「薰子は後ろに立っている。

これらのことは自分で解決するべきだ」すると、突然掌が伸びて薰子の白い腕を掴んだ。

彼女は振り返ると、蕭炎の穏やかな笑顔を見た。

彼女の知り合いである蕭炎の性格から、こういう時はいつも真剣に取り組むことを知っているため、僅かに迷った後で頷き、一歩後退した。

「本当に打ちたいのか？」

萧炎が前に出ると、首を軽く回し、枝の上にある白山を見て笑みを浮かべた。

「あなたがそうなら、私は異存しない」白山は袖子を軽く弾いて冷たく言った。

いつも自分から距離を置いている薰子が、蕭炎に対して従順にしていることに、彼の冷静な心の中で不気味な感情が湧いた。

自分の容姿や実力、修業の才能など全てにおいて、この炎という男より上であるはずなのに、なぜか彼女は自分から距離を置くのか？

「私は異存する」

突然楼閣から冷たい喝破声が響き、白山の姿が飛び出した。

顔色が少しおかしくなっている白山が低い声で言った。

「白山君、こんな乱暴な真似は学院の規則に反している。

もし挑戦したいなら選抜試合で勝負すればいい。

夜中にやって来て、その行いは非礼だし、評判も損する」

連若琳先生も驚いて出てきた。

蕭炎は嘆息して首を横に振った。

今日はこの喧嘩はできないと悟り、斗気を体内に戻し、薰子の手を引きながら楼閣に向かって歩き始めた。

「萧炎、選抜試合で落とされてもいいのか？弱者は何も得られない。

そしてその時は、もう後ろに隠れずに出てこいよ。

私が認めたいのは、男らしい人物だからね」白山は二人の背中を見ながら淡々と言った。

突然風切り音が響き、暗闇から何かが白山の顔に直撃した。

白山はそれを察知し、指先で弾いた。

その破片は粉々になり、見るとそれは石のかけらだった。

「女のような弱みを見せない。

あなたこそ白山だ。

風物語の主人公もそうか？醋味を撒くのは上手だが、選抜試合で勝負しよう」

萧炎が冷たい声で言った。

その瞬間、白山は顔色を変えた。

蕭炎は振り返り、白山を見つめて憐みの目で見やった。

「おまえも帰れ」白山を見て若琳先生が嘆息した。

普段は冷静な彼がなぜか今日は蕭炎の前で浮躁になっているのは、薰子への思いが深いためだろう。

それ以外ではこんなに乱れるはずがない。

そう言い終えると若琳先生は楼閣に戻り、白山だけを残した。

白山は枝の上に立ち、夜風に揺られて顔色を変えながら、暗闇の中で一人ぼっちだった。



白山が枝の上で立ち、冷たい空気を深く吸い込みました。

拳をゆっくりと握りしめながら、彼はつぶやきました。

「まさか、そのために彼女のために自分をこんなに乱すとは……だからこそ、彼女は私のものになるべきだ。

蕭炎が選挙で勝利するようにしてやろう。

私が目指した女性が逃げ出すわけにはいかない。

あの優れた彼女は、蕭炎なんかにはふさわしくないんだ」

白山の顔色がようやく落ち着きました。

淡々と楼閣を見やり、足先を枝に軽く乗せると体を浮かせて降り下りました。

数回跳ねた後、闇夜の中に消えていました。

楼閣の窓辺で蕭炎は遠ざかる白い影を眺めました。

目を細めて冷たい光が一瞬掠め、背後にいる薰（くん）を見ると嘆息して首を横に振りました。

「ねえ、这两年过得还好吗？」

「うん」彼女は優しく頷き、炎の手を握り返しました。

窓辺で薔も座らせ、天井を見上げて星空を眺めました。

突然軽く笑いながら尋ねた。

「この二年間、どうやって過ごしたか知りたい？」

「うん」彼女は再び優しく頷き、炎の手を両掌で包み込みました。

薔の柔らかい長い髪を撫でるように手が伸び、暫く沈黙しました。

やっと声を出すと、当初ウタン城を出た後の出来事を、徐々に語り始めました。

その中には女性たちとの関係や異火など絶対に明かせない部分は曖昧に流し、事件の詳細は省略しました。

ウタン城を出て魔物の森へ、砂漠を越え墨家で騒ぎ起こし帝都へ。

薔が pharmacist大会で群を抜いて優勝した後、雲呂山宗へ行き、ナラン・ヤンに一対全宗門という状況で敗北させられました。

斗王級の強者を打ち負かし、さらに斗宗級の強者から逃げ出す……これら驚くべき出来事を薔は淡々と語りましたが、その言葉からは依然として危険な情景が伝わってきます。

窓辺に月光が降り注ぎ、青年と少女を薄い銀色の幕で包みました。

薔の話が終わるとしばらく静寂が続きました。

彼女の頭は薔の肩にそっと添えられ、彼女はもう大半を知っているはずなのに、再び聞くたびに胸が揺れ動きます。

この二年間、薔も苦労したのでしょう。

「炎君、次加瑪帝国に戻った時には、雲呂山宗はもう阻むことはできないわ」

暫くして薔は微笑んで優しく語りました。

炎は笑みを浮かべて天の涯に目を向けました。

二人から少し離れた壁の角で、若琳先生は壁に背中を預け、胸の起伏が緩やかに動いています。

彼女の顔には驚きの表情が凝り固まっていました。



炎の背後に残された場所は、やがて静寂に包まれた。

約十数分後、十数人の影が密林から突然飛び出し、長剣を手にした彼らは緊張しながら周囲を見回し、何の気配も感じなかった瞬間、ようやく息を吐き出すように肩の力を抜いた。

互いの目で会話するように視線を交わせば、皆が苦笑していた。

右手に握った待機用信号弾は、胸の中に収められるまで手放さない。

先頭の雲嵐宗の弟子がゆっくりと歩み寄り、長剣を振るうことで暗闇に浮かぶ不気味な紋様——符印を樹皮に刻んだ。

その作業を終えると、彼は振り返って皆目配信したように言った。

「ここはもう調べた。

次へ進むなら北西の魔獣山脈だが、そこには強力な魔獣が棲み、探り出すのは容易ではない。

やはり長老会に飛行部隊を動員する必要があるだろう」

彼は懐から笛を取り出し、唇に当てて短く吹いた。

その瞬間、細い角笛からは鋭利な音波が発せられ、それが渦巻きのように広がり、巨大な森全体に伝わっていくのだった。