闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

文字の大きさ
382 / 1,458
0400

第0406話 虎嘯山林を震わす

しおりを挟む
広い書斎の中で琥乾はゆっくりと閉じ始める壁を見つめながら、その場にいた蕭炎の五人を振り返り笑顔で言った。

「よし、お前の等の報酬も手に入れたことだし、二日間休んでから来なさい。

それから内院へ入るんだ。

あそこで苦労するぞ」

琥乾の笑みを見た五人は目配せを交わし小さく頷いた。

「そうだ、もう一度忠告しておく。

新人が初めに内院で古生にやられるのは、お前の等の拳が彼らより強いからだ。

だが内院に入る学生は外院時代の上位者ばかりで、修業天賦も高く、さらに内院独自の育成方法がある。

お前等新入生が彼らの進度を追いつくのは難しいだろう」

琥乾が五人の顔を見回しながら続けた。

「だから勧めしておく。

隙間時間を活用し協力せよ。

そうでないと……苦労するぞ」

「あいつらに腕を折られ殺されるわけ?」

琥嘉は白眼を向け他の四人も特に否定しなかった。

選抜試合上位五人組の誰もが実力を誇る存在だった。

「それはないさ、ここは学院だ戦場じゃない。

だが力で踏みつけられる感覚は嫌なものだよ。

お前等は皆意気地があるやつらだ」

琥乾が笑いながら首を横に振った。

「いいか、特に問題なければ帰れ。

二日後に来なさい。

あそこで内院へ案内する」琥嘉が口を開こうとした瞬間琥乾の顔が引き締まり五人に手を振って言った。

「副院長様ありがとうございます。

気をつけます」

蕭炎が小さく頷き琥乾に礼をし、薰と共に退出した後も他の三人はゆっくりと後に続いた。

「あの小坊主らは壁にぶつかるまで気がつかないんだろうな。

内院に入ればその厳しさが分かるさ。

そこには天才が溢れているんだ」

琥乾は椅子に座りテーブルを叩く指先を見ながら嘆息した。

蔵書閣で必要なものを得た後、次の二日間蕭炎は学院の広大な裏山へ入り偏僻な場所を探し出し、手に入れた二つの斗技を研究し始めた。

琥乾の言葉に特別に気にしていなかったが、胸中に芽生えた予感が彼を強く動かしていた。

一人ならともかく薰も一緒に入るのだ。

男として彼女を守り抜く必要がある。

しかし琥乾の言う通り内院には大陸各地から集まる天才たちがいる。

その中で自分が単身で活躍できるとは限らない。



**三千雷動**

「獅虎碎金吟」

下位地階と上位天階の二つの斗技。

一方は身を守る回避術、もう一方は相手を混乱させる音波攻撃。

これらを両方習得できれば、短時間で実力が飛躍的に向上するはずだ。

しかし二日間という限られた期間で両方の修練に成功するのは不可能だった。

そこで蕭炎はまず「獅虎碎金吟」に集中した。

この上位天階の術は「三千雷動」と比べて習得しやすい面があるからだ。

特に声波系の術は珍しいため、戦闘中に奇襲効果を発揮できる可能性が高い。

ただし「簡単」というのは「三千雷動」と比較した場合のことである。

上位天階という時点で普通の人間が習得するのは極めて困難なレベルだ。

特に蕭炎のような声波術に初めて触れる者にとっては、より大きな障壁となる。

葱や茂みで囲まれた小型の滝山。

その頂上から銀河のように流れ落ちる滝は轟音を立てながら岩盤に衝突し、水しぶきが四方八方に飛び散っている。

滝の下部にある岩場に立つ黒衣の青年。

彼の顔は真っ赤になり口を開けて獅子のような咆哮と虎のような唸り声を交互に出している。

その不気味な響きが山間を駆け回り、轟音と重なり湖面に波紋を広げている。

「吼、咳」もう一度顔を赤くして声を出すと蕭炎は激しく咳き込みながら唾で喉を潤し、苦しげに笑った。

「この鬼畜な声波術も本当に練習が大変だ。

一時間もやっただけで喉がガラガラなのに、これで攻撃になるのか?」

彼の声は前日より明らかに沙汰していた。

獅虎碎金吟を修練するためには相当な苦労が必要だったのだ。

「一日で虎吼と獅鳴を模倣できるようになったのは立派だ。

もっと練習すればいずれコントロールできるようになるだろう。

喉が痛むのも無理ないよ」薬老の笑い声が彼の心に響く。

「確かに毎日ずっと続けたいところだが、先生は三時間制限を設けていると聞いた。

その時間を超えると喉が壊れるかもしれないからな」蕭炎は痛みを感じる喉を掻きながら嘆いた。

「普通の人間ならそうだけど、私がいるんだから問題ないさ」薬老は満足げに笑った。



「先生、方法があるのか?」

聞けば蕭炎は驚いて尋ねた。

「昨日の夜に準備させた薬材は全部揃ったか?」

「はい。

那伽城の薬材庫は加麻帝国よりも豊富です。

必要な全ての薬材、子が用意しておきました」

蕭炎は頷いた。

「薬を出してみせ。

自分で作ってみろ。

その際、私は薬方を直接脳に伝える」

藥老の言葉が途切れると同時に、蕭炎の頭部が突然膨張したように感じた。

瞬間的に大量の情報を強制的に詰め込まれた気がした。

「氷霊護喉液——これは補助薬で、灼熱の痛みを緩和し、突然の高温エネルギーに喉を守る効果がある。

材料は氷霊葉、三花草、水系魔核」

藥老が笑いながら説明した。

「この小道具は私が以前研究したものだ。

これを使えば、声波斗技の時間制限から解放される。

精神力が続く限り、何度でも叫べる。

頑張れば『獅虎碎金吟』の門路も開けるはずだ。

私はまだ愚かではない」

蕭炎は目を丸くし、興奮して頷いた。

通常、声波斗技の練習時間は一日三時間だが、この薬を使えば連続数日間練習可能になる。

努力が報われれば『獅虎碎金吟』も掌握できると確信した。

この「氷霊護喉液」は丹薬にも届かない程度のものだが、蕭炎のような強力な魂魄感知能力を持つ者にとっては、作製は容易だった。

準備された薬材を手に取り、約30分後には二つ小さな玉瓶に入った淡い青色の液体が完成した。

「まあ、上出来だ。

制御力も向上している。

魂魄感知力があればこんな程度のことは簡単だね」

藥老は玉瓶を見ながら微かに驚きを含む表情で頷いた。

初見での成功率70%は優秀な成果だった。

「1時間ごとに一口飲めば、『獅虎碎金吟』の練習が可能になる。

運がよければその基礎を掌握できるかもしれない」

藥老は笑みを浮かべて続けた。

「三千雷動については今は手をつけない方がいい。

地階級の技は想像以上に難しいからね。

内院で再び機会を作ろう」

「了解だ」

蕭炎が頷くと、まず一つの玉瓶をポケットに入れた。

もう一つの玉瓶を開けて口に含むと、その瞬間氷涼な液体が喉に広がり、先ほどまでの灼熱感は即座に消えた。

「良い薬だ。

最後の時間で『獅虎碎金吟』を基礎掌握しよう」

蕭炎はその効果に驚きながらも、再び奇妙な叫び声を発した。

その声は周囲に広がり、飛瀑の轟音さえも遮るほどの威圧感となった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

【完結】平凡な容姿の召喚聖女はそろそろ貴方達を捨てさせてもらいます

ユユ
ファンタジー
“美少女だね” “可愛いね” “天使みたい” 知ってる。そう言われ続けてきたから。 だけど… “なんだコレは。 こんなモノを私は妻にしなければならないのか” 召喚(誘拐)された世界では平凡だった。 私は言われた言葉を忘れたりはしない。 * さらっとファンタジー系程度 * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...