闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

文字の大きさ
465 / 1,458
0400

第0489話 メデューサ女王再現

しおりを挟む
蕭炎がぼんやりと見つめる間に、巨大な鍾乳石の先端から薄い白い霧が湧き出てきた。

その白い霧の中では、鍾乳の尖端の光が徐々に強くなってきた。

光が揺れ動く中で、一粒の光を帯びた乳白色の液体が突然凝り固まった。

その滴は鍾乳の先端でわずかに震えながらも、やがて束縛から解放され、垂直に空中へと落ちていった。

最後には青石の頂部にある小さな凹みの中に静かに落下した。

鍾乳石が凹みを叩くと、その僅か二寸ほどの深さの乳白色液体の表面に波紋が広がった。

しかし一滴も液体は飛び散らなかった。

碧緑色の蛇のような凹みを見つめながら、蕭炎はふと気がついたように言った。

「この青石の凹みは、鍾乳から落ちる液体で自然に削り出されたものなのか?」

彼は手を伸ばして硬い青石を触り、その堅さを感じて驚嘆した。

滴水のように弱い力でも、このような凹みを作るにはどれほどの歳月が必要だろうか?まさに「滲みて石を穿つ」という言葉そのままだった。

「もし私が正しく覚えているなら、この乳液は一年かけて一粒しか凝縮できないはずだ。

こんな小さな凹みに満たすのに何年かかるのか……本当に自然の力は驚異的だね」薬老がため息をつきながら言った。

彼の経験豊富な目には、その光景にもかかわらず感慨が込み上げていた。

「一年一粒ですか?」

蕭炎は驚きの声を上げた。

「まさか先ほど無関係に見えた一滴の液体が、一年以上の純粋なエネルギーを集めたものとは……自然は本当に不思議だ」

「そうだろう。

これが『地心淬体乳』だと確信している」薬老は余裕の表情でその白い霧をちらりと見た。

連続して頷く蕭炎が、急いで納戒から玉瓶を取り出し、凹みの中の液体を注ごうとした時、薬老の突然の声に驚いて動きを止めた。

「これらの物は確かに貴重だが、ここにはそれよりもっとも希少な奇宝があるんだ。

鍾乳石の先端を見ろ」

「さらに珍しいものがあるんですか?」

蕭炎が目を丸くした。

「普通の人なら『地心淬体乳』を見つけた時、あなたのようにその滴自体に価値があると考えるだろう。

しかし彼らは最も貴重なものを捨て去っているんだ」薬老は皮肉めいた笑みを浮かべて言った。

恥ずかしげもなく笑う蕭炎は反論できなかった。

彼は本当に凹みの中の白い液体が最上級の宝物だと思っていたのだ。

「ここに来なさい」薬老が山中に倒懸した巨大な鍾乳石を見上げながら、萧炎を招いた。

その指示に驚いて紫雲翼を召喚し、慎重に追従する蕭炎。

二人は垂直に延びる百メートル以上の鍾乳石を登り続け、数分後には山頂に到着した。

そこから下方を見ると、巨大だった鍾乳石も蟻のように小さく見える。

周囲を見回すと、同じように懸垂する他の鍾乳石の微かな光が地底世界に明るさを加えていた。



薬老は周囲の鍾乳石を無視し、最も巨大な鍵盤石の先端に浮かぶ体を停めた。

ここは鍵盤石と山が接続する地点で、鍵盤石内部から薄い蛍光が漏れ出し、透明のように輝いていた。

非常に美しい光景だった。

蕭炎も翼を震わせて薬老の視線方向に近づき、何らかの異変を見つけることはできなかった。

口元を動かしたものの、言葉は出ずにいた。

「玉片はあるか?ここから優しく掘り進めよ。

力を入れるとこの万年かけて形成された鍵盤石が完全に破壊されるぞ」薬老の指先が鍵盤石上空で一振りすると、掌サイズの傷跡が現れた。

その傷跡をしばらく観察した後、ようやく蕭炎に向かって真剣な表情で言った。

話を聞いた蕭炎は疑問に思ったものの、頷いて納戒から上品な青色の玉片を取り出した。

斗気で表面を包み込み、薬老が指先で鍵盤石底部に描いた傷跡にそって慎重に切り込んでいった。

玉片は斗気の影響で鋭利になり、僅かな接触だけで水晶のような鍵盤石内部に没入した。

蕭炎は玉片を握りしめ、震えることなく薬老が指示した通り正確に傷跡を進めていくと、微かな「チリ」音が静寂の空中で響き続けた。

突然、「カラン」という音と共に玉片が円形の最後の一端を切り抜け、鍵盤石から円形の断片が剥離した。

蕭炎は素早くそれを掴み上げ、目を開けると強烈な光が飛び出した。

眩しさに瞬時に目を閉じ、反射的に翼を羽ばたかせて十数メートル後退した。

「ふっ、大丈夫だよ」薬老の笑い声が側面から響き、ようやく緊張を解いた蕭炎は再び光爆発地点を見上げ、眉根を寄せながら近づいていった。

巨大な鍵盤石に近づくにつれ、切り開かれた円形の口の中には翡翠色の粘性液体が浮遊していることに気づいた。

その液体は鍵盤石の中でゆっくりと流れ、円形の口付近だけに限定されており、一線も超えていなかった。

その翡翠色の液体から発せられる純粋なエネルギーは、下方の青石凹部にある地底精錬液よりも十倍以上濃厚だった。

咽喉が渇くほど唾を飲み込みながら、蕭炎は熱い視線でその液体を見つめ、「あれは何だ?」

と尋ねた。

「これが本物の『地底精錬液』さ」薬老は蕭炎の驚きの表情を見て笑みを浮かべて答えた。

「それじゃあ下の方のやつじゃないのか?」

蕭炎は信じられない様子で反問した。



「下のものも同様だが、それらはこの本体から流出したもので、希釈された『地心淬体乳』と呼べる。

大陸にはその名を知っている者もいるが、本当の『地心淬体乳』は鍾乳石と大地が接する点に隠されているのだ」

薬老は下の青石を指しながら笑って言った。

「これはこの天地の霊物が自分を守るための欺瞞かもしれない。

一般人なら見つけても、貴方のようにその『地心淬体乳』を取ってしまうだろう。

本当の宝は残しておくものだ」

薬老の説明に耳を傾けた蕭炎は暗に舌打ちした。

「こんなにも『地心淬体乳』には真贋があるのか……大千世界、本当に奇想天外なものばかりだ」

「本当の『地心淬体乳』は非常に脆い。

最も湿潤な玉器でなければ傷つける。

鉄器などを使うと、たった一点でも触れれば、何千年もかけて成り立ってきたこの『地心淬体乳』は即座に無意味な廃液になってしまう」

薬老が注意を促すように言った。

うなずきながら頷く蕭炎は額の汗を拭いながら暗に安堵した。

「幸いにも百科全書のような薬老がついてこなければ、貴方のように見つけたとしても、自分の無謀さで最後は手ぶらになるところだった」

「ではどうする?」

鍾乳石の中でゆっくりと流れている翡翠色の粘性液体を見ながら、蕭炎は薬老に尋ねた。

「玉器を使って取り出す。

決して直接触れない」

薬老が答えた

その言葉を聞きつけた蕭炎はすぐに頷き、納戒の中を探り始めた。

何とか半日ほど探した末、玉製のスプーンを見つけ出した。

薬師である彼にとって玉は最良の丹器なので、納戒には様々な玉器が保管されていた

慎重にその玉スプーンを鍾乳石の中に差し入れた蕭炎は腕を軽く動かしながら、瞬間的に大半の『地心淬体乳』をすくい上げた。

全てを取り出す寸前で薬老が突然声を出した。

「万事留め置きよ。

煉薬界には暗黙のルールがある。

天材地宝は根絶やしにしないことだ。

この『地心淬体乳』は極めて稀に成形するもの。

全て取り去れば、万年かけて成り立った鍾乳石も崩壊してしまうだろう。

だからこそ、少し温養させておくべきだ」

一瞬驚いた蕭炎は頷きながら少しだけ恥ずかしさを感じた。

「当時青蓮地心火を手に入れたときにも薬老が同じことをおっしゃった……貴方のような貪欲さだったのかと」

わずかに残した『地心淬体気』の後に玉スプーンを取り出し、鍾乳石の欠片を元に戻すと同時に強光は徐々に消え、またもや平静な姿に戻った

玉スプーンの中の翡翠色液体を事前に用意していた上質の玉瓶に入れると、その中で生き物のように流動する液体を見た蕭炎は大きく息を吐いた。

「これだけの苦労……ようやく手に入ったものだ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

【完結】平凡な容姿の召喚聖女はそろそろ貴方達を捨てさせてもらいます

ユユ
ファンタジー
“美少女だね” “可愛いね” “天使みたい” 知ってる。そう言われ続けてきたから。 だけど… “なんだコレは。 こんなモノを私は妻にしなければならないのか” 召喚(誘拐)された世界では平凡だった。 私は言われた言葉を忘れたりはしない。 * さらっとファンタジー系程度 * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

私が……王太子……のはずだったのに??

#Daki-Makura
ファンタジー
最愛と朝を迎えたら……城下が騒がしい……?? 一体……何が起きているのか……??

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

処理中です...