闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第0490話 約束

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山頂から降り立った蕭炎は青石のそばに再び足を下ろし、凹みの中にあった乳白色液体を見やった。

稀釈されたとはいえその効果は十分で、洗髪鍛骨(せんぱくかんこつ)の効果までは得られないものの身体への鍛錬効果も決して小さくなかった。

「この程度でも採取できるな。

今後の丹薬調合に使えそうだ」

頭上から藥老の声が響いた。

その言葉を聞いた蕭炎は頷き、納戒(ナガキ)から二つの玉瓶を取り出した。

慎重に乳白色の「地心鍛体液(ちしんかんたいえき)」を注ぎ込むと、二つ目の玉瓶も満タンになった瞬間、凹みの中の液体はほぼ半分近く減っていた。

残りの量を見やった蕭炎は一瞬考えた。

今後林修崖らが再び奪いに来る可能性もあるし、もし最後まで苦労して得られなかった場合「誰かが先に取った」と疑われてしまうかもしれない。

この場所を知っているのは自分と彼らだけだ。

韓月(ハンゲツ)が最初に発見した物だし、自分が無償で大きな利益を得たことを考えると、全てを奪い取るのは多少不自然ではある。

そのように思考した蕭炎は稀釈された地心鍛体液を納戒に戻し、そのまま来た道を駆け出した。

既に一度通ったため時間も短縮でき、二十分にも満たないで洞窟から出た。

翼を振って谷外へ向かうと、遠くの闇の中に七色の微光がちらつくのが見えた。

その輝きは雷のようなエネルギー爆発に似ていた。

その光を見ると蕭炎は安堵した。

震えるように羽ばたく体で黒い影となって夜空を駆け抜け、暫くすると谷口上空に現れた。

外の戦場を見るや驚いた。

谷口は完全に破壊され、平坦だった地面には巨大な凹みが無数に広がり、山壁から落ちた巨石が散らばっていた。

両側の森も一部崩れ、倒木で通路を半分塞いでいた。

戦場の中心では吞天蟒(トンテンパオ)が身を縮めて空高く這い上がり、七色の光を体から放出していた。

その圧力は周囲十里の潜伏する獣たちを震えさせるほどだった。

吞天蟒は依然として強大だが、蛇鱗に深い爪痕があった。

明らかに雪魔天猿(せつまてんえん)との戦いで互角の状態だったのだ。



目線が下方に流れた時、雪魔天猿の姿を目にした瞬間、蕭炎の顔に驚愕の色が浮かんだ。

その巨大な頭部から流れ落ちる鮮血は既に醜悪な外見をさらに強調し、体全体には強力なエネルギー衝突による傷跡が無数に刻まれていた。

以前は爍けたような猩紅色だった巨眼も疲労と畏怖の影が混ざり、明らかに衰弱した状態で戦意を失っていた。

一方、吞天蟒の軽微な傷害など些細なことだ。

この小体こそが上古異獣という名にふさわしい強さだったのだ。

その差異は明確であり、蕭炎は心の中で驚きの声を上げた。

彼の出現は両者の注意を集め、吞天蟒は興奮して舌先を見せつけたが、雪魔天猿は激昂した咆哮を発した。

蕭炎はその様子を見もせず、吞天蟒に向かって「小やつ、行こう!」

と叫んだ。

翼を振るうと同時に、吞天蟒は僅かな躊躇の後に尾を振り、七彩光華の中で体が縮小し、最終的に彼より先に消えていった。

夜闇の中、大小二つの影が山頂に降り立った。

蕭炎は谷間から視界から消えたことを確認すると息を吐いた。

吞天蟒の鱗片の輝きが若干暗くなったのは、先ほどの激戦による消耗だった。

彼は小首を撫でながら紫晶源を取り出し、「今日はよくやったぞ、お前の分だ」と笑みを見せた。

しかし吞天蟒は紫晶源を見ても動かず、妖艶な蛇目で蕭炎を睨んだ。

次の瞬間、冷たい声が響いた。

「貴様は本王をペット扱いにしたのか?」

その言葉には蕭炎の心臓を鈍く刺すような快感があった。

腹部の邪念が湧き上がった直後、彼は急激な寒さを感じて吞天蟒から目を離し、驚愕の声で叫んだ。

「メデューサ王!?」

その瞬間、吞天蟒の体が七彩光華の中で蠕動し、数秒後に妖艶な美女に変身した。



修長の姿形、衣服は適当に露出し、恰好胸元のふたつを隠すだけ。

下半身は太腿まで届く紫の革裙で、その下には口を渇かせるほど美しい丸みのある長い脚が露わになり、見惚れるような曲線が眩しい。

視線を上に移せば、白い蛇のような細腰が目に入り、蕭炎は心臓が一拍子止まった。

この女は男を狂わせるほどの妖艶な存在だが、その力を制御できないなら逆に彼女に食われてしまう。

彼の心が動くのは分かっているが、冷たい氷のような瞳孔から射す光を見た瞬間、その感情は消え無残に。

警戒と備えだけが残る。

最後に視線をその完璧な冷たい妖艶な顔面に向けた時、蕭炎は苦しげに笑みかけたが、声は嗄れていた。

「女王陛下、またお目にかかって光栄です」

この低能な挨拶は彼の緊張度を表すのに十分だった。

美杜莎女王への忌避感は雲山(うんざん)=云岚宗のトップよりずっと強かった。

「まあ偶然ね。

でも感謝して。

吞天蟒と雪魔天猿が戦って力を消耗させたおかげで、私はまだ抑えつけられていたわ」

蛇女は蕭炎を一瞥し、赤い唇の端に嘲讽的な笑みを浮かべた。

口角が緩むと、蕭炎は自分が耳を引っ張りたくなるほど恥ずかしさを感じた。

罪魁祸首は自分自身だったのだ。

「融灵丹の材料は揃った?」

蛇女の冷たい声が彼に向けられた。

彼は目尻を跳ねさせながら嘆息した。

そっちのことは全く手もつけられていなかった。

自分の身の回りでさえ忙殺されているのに、ましてや他人のために探すなど不可能。

時間があれば引き延ばすのが常だったし、もしすぐにでも揃えようとしても、この女が融灵丹を得たら吞天蟒の魂を融合させ、最初に犠牲になるのは自分だろう。

この蛇女は最初から彼への殺意を隠さない。

考えてみれば、美杜莎女王という尊貴な存在が、消炎(しょうえん)=蕭炎のペット兼番手として飼われている現状は、その誇り高き性質には耐えられないはず。

もし融灵丹と吞天蟒の魂の反動がなければ、彼女は既に彼を引き裂いていたかもしれない。

「戒子(けいし)の中の師匠よ」

黒い戒子から光が放たれ、戒子の中に浮かび上がる影が蛇女の前に立ちはだかった。

その存在は淡然と相手を見つめながら言った。



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