闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第0643話 出発

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内院から程近い深山の谷間には、かつては人跡も絶えていた偏僻な地が、今や多くの人々で賑わっていた。

皆の視線が最前列に立つ黒祝青年へと向けられ、彼の穏やかな笑みを包むのは、別れへの沈痛な空気だった。

「今日に出発するのか?」

蘇千は目の前の蕭炎を見やり、ため息をつきながら尋ねた。

「ふん、二哥(にいが)の準備も整ったからこそ、そろそろ出る時だ」

蕭炎は微かに頷き、偏僻な山間の面々をゆっくりと見回した。

暫くすると軽く笑みを浮かべ、「皆を集めたのは、内院で私の消息が広まる前に、磐門(ばんもん)の者たちが落ち込まないようにするためだ」と語った。

吴昊(ごうおう)と琥嘉(こか)らは黙って頷き、蕭炎の離別の知らせに胸を締められた。

「大長老(たいちょうろう)、この数年間、お世話になりました。

その恩義は決して忘れることはありません」

蕭炎は蘇千を見つめ、深々と頭を下げた。

「小坊主(こぼうず)よ、気をつけろ!『蕭門』のことは私が見張ってやるから、いずれ帰ってきた時には、変わらぬままに迎えよう」

蘇千は笑みながら彼の肩を叩き、「おーい!」

と声をかけた。

「諸君(しょくん)、三年間の付き合い、この情誼(じょうじ)は決して忘れることはない。

後で何か必要なら、私が生きている限り、加マ帝国(かまていこく)に駆けつける」

蕭炎が少し角張った口調で語り終えると、離別の哀愁を和らげる笑い声が響いた。

「萧炎、琥嘉と私は卒業後、斗王級(とうおうきゅう)まで上達したら、加マ帝国へ行くわ。

その時は力を貸してあげる」

吴昊は穏やかな表情で告げた。

「それでは、その時まで死なないように待っていてくれ!」

蕭炎が大笑いしながら返すと、突然木の葉を揺らす音と共に清冷な声が響いた。

皆が視線を上げると、樹上に立つメデューサ(美杜莎)の冷たい美貌が映り、思わずため息が出た。

彼女は蘇千ですら忌み嫌う存在だ。

「出発か?」

その声で蕭炎も笑顔を消し、「そろそろ行こうか」。

林炎(りんえん)、柳擎(りゅうけい)ら四人が背中に翼を広げ、空へと昇っていく。

「萧炎……」

最後に前へ出た蕭玉(しょうぎょく)が目を赤くして囁いた。



「ふふ、大丈夫だよ。

ガーマ帝国の一件を片付けたら、すぐに連絡するからね」

シャオヤンは笑みを浮かべながら頷き、そのまま颯爽と背中を向ける。

炎翼が一瞬で広がり、その身は緑色の影となって深山へと消えていった。

その後ろにメデューサやリンヤン、紫研ら五人が続く。

彼の姿が視界から消えた後、しばらくしてようやく皆が目を離した。

軽いため息が交わされ合う。

彼らは知っていた──シャオヤンがガーマ帝国へ戻る危険性は相当なものだ。

雲嵐宗は長年にわたってその地位を守り続け、底力は驚異的だった。

シャオヤンにメデューサ王のような強者がいても、完全な優位には至らないだろう。

今度の戦いは激しい龍虎争いになるに違いない。

勝敗は彼次第だ。

「大長老様、シャオヤンが成功するでしょうか?」

琥嘉が視線を引き戻し、低い声で尋ねた。

その問いかけに反応して皆の視線がスウチへと集まる。

「分からないよ……」

スウチはため息をついた。

「ガーマ帝国は排他的だからこそ、雲嵐宗だけが一大勢力になったんだ。

長い伝承を持つ組織だしね。

シャオヤンは才能はあるけど、基礎が弱すぎる。

今回は仲間を集めても、鹿死体は未定さ」

その言葉にウー・ホウらの顔色が暗くなる。

彼らもまた、いくら心配しても無力だった。

今の実力ではガーマ帝国へ同行しても足手まといになるだけだ。

「ふん、まあいいや。

結果はいずれ分かるさ。

もしシャオヤンが雲嵐宗を滅ぼせば、その名は西南大陸に広まるだろう」

スウチは笑みを浮かべて内院の方へと歩き出す。

その後ろでウー・ホウらは顔を見合わせ、沈黙のままついていく。

「小僧よ……今回は勝ち抜くか死ぬかだぜ。

全て、お前の腕にかかっているな。

いずれ良い知らせが聞こえてくることを願うさ」

森に入る直前、スウチは足を止めて再びシャオヤンの消えた方向を見やった。

黒角域、フウレン城から近い山頂では人影が蠢き、時折野獣の吼え声が響く。

「二番長様、蕭門の連中は集結しました。

この間収集した強者に三兄弟を加えると、八名の斗王級です。

残りはほぼ全員が要求通りの斗霊級で、特に多くが斗霊の頂点に近い実力者です」

その報告に男はゆっくりと振り返った。

彼の冷厳な表情から、フウレン城で強者を集めたシャオリだと分かる。

「よし……」

シャオリは頷いた。



話が途切れた直後、蕭厲の目線が山峰の斜面に向けられた。

そこには百を超える黒影が静かに並んでおり、その前に七人の人影が一直線に立ち並んでいる。

彼ら全員が斗王級の強者であることが、体から滲み出る圧倒的な気配で明らかだった。

斜面に集まった多くの人々は異様な沈黙を保ち、周囲に重厚な緊張感が漂っている。

そのせいで森林からの獣吼声さえも弱まっていた。

「天陰宗、羅刹門、狂獅幫の消息はどうだ?なぜまだ来ていないのか?」

目線を黒影から離し、蕭厲は眉根を寄せながら重々しく尋ねた。

姚大剛が返答しようとしたその時、空から女性の笑い声が響いた。

「咯っ、萧小哥は本当に急性ですね。

今回は黒角域を出るだけでも数ヶ月かかるんです。

準備不足だと帰ってきたら故郷まで略奪されてしまいますよ」

その笑い声と共に大群の破風音が続き、十頭以上の飛行巨獣が遠方から迫り寄せてきた。

瞬間で山峰に到着し、人々は樹々の頂上に錯綜するように降り立った。

その数は百人を超え、一人ひとりが強者であることが一目で分かる。

その後ろから三道の圧倒的な気配が迫ってきた。

彼らは斗気双翼を広げながら山峰半空に浮かび上がり、蕭厲の背後の編成を見回すと驚きの表情を見せた。

「萧小哥はやはり腕があるね。

一ヶ月余りでこれだけの強者を集められるとは」

蕭厲が笑みを浮かべると、「三弟が六品煉薬師という立場なら、この程度の呼び集めは当たり前だよ」とさらっと答えた。

その言葉に反応し、鉄鳥ら三人も目を見開いた。

「萧小哥の言う通りですね。

もし莽門主が六品煉薬師と公表すれば、単なる斗王級だけでなく、斗皇級まで蜂擁してくるでしょう」

「六名の斗王か?三位が黒角域で持つ立場を考えれば少なすぎる気がする」蕭厲は軽く笑いながら指摘した。

「萧小哥も我らが事情を考慮してくれないと。

黒角域とは違うからね、門派の精鋭を多く連れて帰れなくなる」

陰骨老が周囲を見回すと、「呵呵、蕭炎主君はまだ来ていないようだな。

万里遠征で云嵐宗などに立ち向かうとなると、主君不在では危険すぎないか?」

「三弟には伝えたはずだが……」萧厲の言葉が途切れた直後、空から軽快な笑い声が響き渡り、瞬間で山頂に到着した。

先頭を歩く黒衣青年は鉄鳥らを見やりながら微笑んだ。

「お待たせしました。

ご苦労です」

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