闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第0685話 風刹湮罡

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空に浮かぶ雲山が重撃を受けた直後、驚愕の視線を浴びながら急激に地上へと落ちていく。

しかし地面から数十メートル離れたところで足元を虚点し続けた結果、身体は再び安定した。

その頬には血痕が残り、恐ろしい表情も相まって、先ほどの猛然たる一撃の影響を如実に物語っていた。

「あれは……」

雲山をここまで狼藉させたのは誰か?という疑問が人々の胸中で駆け巡った。

次の瞬間、全員の視線が空高く黒袍の青年の傍らに浮かぶ薄い影へと集中した。

その虚幻な人影を見た途端、人々は驚愕と困惑を同時に顕わにした。

この突然現れた謎の強者について、彼らには何の記憶もなかった。

しかし加刑天や海波東らにとっては、彼が手を出した瞬間から喜びの表情が浮かんだ。

これは蕭炎が最も頼りにする底力であり、その師匠がようやく登場したのだ。

この謎めいた存在と組み合わせれば、雲山を倒すのは時間の問題だろう。

互いに視線を交わし合った人々は、相手の目から隠せない喜びを見つめながら、今日の戦いが彼らにとって有利に転じるのだと確信した。

蕭炎とその師匠が雲山を討ち取れば、雲嵐宗は自動的に崩壊する。

その後で再び勢力を復活させるのは難しいだろう。

一方、雲嵐宗の弟子や長老たちは心が沈んだ。

特に雲山が血を吐きながら撤退した瞬間、彼らの不安はさらに増幅された。

雲嵐宗の柱である雲山が敗れれば、組織全体への士気低下は計り知れない。

雲山はそんな周囲の感情など無視し、蕭炎の傍らに浮かぶ蒼老な影を死に物狂いに凝視していた。

暫くして血痕を拭き取りながら森然と告げた。

「かつてこの家伏の力が奇妙だと感じていたが、ようやくわかった。

その力量は貴方のものだったのか」

「私の学生よ」蒼老な影——藥老——は雲山を見下ろし淡々と言い放った。

「他人を侮辱する資格などない。

ただの斗宗程度なら、昔ならば一言でこの雲嵐宗を大陸から消してもよかった」

藥老の発言は決して虚勢ではなかった。

かつて彼が大陸にいた頃の声望は尋常ではなく、多くの強者と良好な関係を持ち、その中には自身と実力が拮抗する仲間も多かった。

雲嵐宗にいる斗宗級の存在など、当時の藥老にとっては眼中にもなかった。

「本尊?」

雲山の瞳孔が僅かに縮まった。

この呼び方は明らかに斗尊級の者だけが使うものだ。

つまり眼前の蒼老な影はかつては斗尊級の強者だったという事実を意味したのだ。



心の驚きが一瞬だけ続いたものの、すぐに薄れていった。

かつての薬老はどれほど強大だったかにかかわらず、今や魂体(霊体)として存在するだけであり、頂点時代の五分の一程度しか戦闘力を発揮できない。

それほど恐れる必要はないし、この人物は云山が手を出す前に誰かが取り仕切るだろう。

「区区の霊体など、こんなにも堂々と現れるとは何事か。

貴様が姿を見せたなら、今日こそ蕭炎と共にここに残す」

雲山(うんざん)は冷やかに笑った。

「それがどうした?」

薬老はゆっくりと答えた。

森白い炎が彼の周囲を回転しながらも、その目は動かない。

「ふっ、貴様などは誰かが片付けるだろうし、彼も貴様を迎えに待っているはずだ」

雲山は笑みを浮かべると掌を叩いた。

清澄な音色が空気を震わせた。

「鴻護法(こうごくぼう)よ、この人物はお前に任せる」

その言葉と共に雲嵐宗大殿から広がる黒い霧が天高く凝縮し、丈許りの深灰色の塊となった。

蕭炎と薬老はその黒い霧を見つめながら顔を引き締めた。

この野郎、やはり魂殿(こんてん)と手を組んでいたのか

「師匠……気をつけろ」

蕭炎が薬老に声をかけると、白炎の周囲で彼は頷いた。

その目は霧を見据え続けている。

雲台では雲韻(うんいん)も驚きの表情を見せていた。

この現象から何か悪いものだと直感したが、宗内でこんな存在を隠していたことに気付かなかったことが恐ろしかった。

急に変化が訪れたことで喜びを忘れていた海波東(かいはとう)らも顔色を変えた。

彼らは霧の異様さを感じつつも、その敵味方どちらにも属する存在であることを悟り、優位性が失われることを実感した。

「この野郎は一体何者だ?」

雲嵐家の斗皇級戦士を震わせた加刑天(かけんてん)が海波東に尋ねた。

「知らない」海波東は首を横向け、相手の斗皇級戦士に猛攻撃を仕掛けた。

「状況が変わった。

まずこの敵を倒し、雲山と対決しよう」

その言葉に加刑天らも頷き、全力で戦い始めた。

雲嵐宗の長老たちが次々と敗北していく中、死の直前まで反撃した者もいたが、それだけでは相手の損害は大きくならなかった。



たちまち、この混乱した戦場は異常に激しくなった。

黒い霧が人々の気配を無視し、陰険な笑い声を響かせた。

その声は鴉のような不吉さで空に広がり、次のように叫んだ。

「禁禁、藥塵、本当に自分で来てくれたのか?昔は逃げられたが、魂殿も大変だったよ。

今日捕まえたら、主様は喜ぶだろう」

「鼠の群れのような連中だ。

あの畜生・韓楓に手を出させたのは貴方たちか?その借りは今日は返すぞ」

藥老は冷たい目で黒霧と呼ばれる存在を見据えた。

その声には怒りと殺意が滲んでいた。

「あなたには**があるから、この護法も三分の怯みはあるが、魂体なら禁禁、我々魂殿は手段を尽くす」

黒い霧が収縮し、人々の視線を集めながら深淵な闇に包まれた人影となった。

その目に僅かに赤味が混ざり、暗闇から覗いていた。

藥老は目を見開き、掌に白く輝く炎を揺らしながら蕭炎に向かって言った。

「やはり云嵐家には魂殿の強者が潜んでいたようだ。

この状況ではあなたを助ける余裕はない。

あの護法は簡単な相手ではない。

私が出ても殺せない」

蕭炎は藥老の重い表情を見て、今日こそ全ての底力を出す覚悟を決めた。

「老師は云山に集中して。

云山は私が対処する」

藥老はため息をついた。

この状況は確かに危険だった。

「黒護法よ、藥塵はお前に任せる」

雲山は二人の緊張した表情を見て、陰冷な笑みを浮かべた。

「承知だ」

黒護法が頷くと、蕭炎は驚きで目を見開いた。

云山は軽く笑いながら言った。

「安心して。

息は残しておく」

「我々蕭家には魂殿が必要なものがあるのか?」

黒護法の言葉に反応し、蕭炎は心の中で考えた。

「あの玉のことか?父を捕まえたのもそのためか?」

ようやく事情が分かった気がした。

「この野郎たち」萧炎は拳を握り、異様な霧を見つめた。

黒護法はその視線を軽く避けて、手のひらから黒い鎖を放ち、蛇のように周囲に巻き付けた。

一呼吸後、彼は笑いながら腕を振った。

鎖は光速で雲山めがけ突進した。

動きを見た藥老も冷静さを保ち、炎を振り回して黒護法と衝突させた。

その瞬間、雲山の冷たい視線が蕭炎に向けられた。

「小汚い奴、今や誰も助けてくれないぞ」

蕭炎は鼻で笑った。

ならば自分から全てを賭けるしかない。



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