闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

文字の大きさ
878 / 1,458
0900

第0909話 血脈の威圧

しおりを挟む
薬材の力を完璧に融合させることが鍵となる丹薬調合は、魂魄力がその鍵を握る。

この精妙なバランス維持こそが、調合師の真価を決定する。

今回の不測事態は蕭炎の予想外だった。

彼は従来通り正確に手順を踏んでいたにもかかわらず問題発生した。

明らかにどこかで未掌握の要素が存在したのだ。

その原因を探ろうと目を凝らすと、青紅色の血液から狂暴な力が溢れ出ていることに気付く。

この血は調合要件を超える強さを持ち、龍血芝や骨霊果などの薬材では制御不能だった。

つまり血の力が過大で薬材の力量が不足しているのだ。

問題を理解したものの蕭炎の眉は解けない。

代わりに別の七級魔兽数体の精血を使うしかないが、彼には青紅色の血液以外の選択肢はなかった。

光の粒子を薬鼎へと導くと碧緑の炎が瞬時に融合を完了させた。

淡い藍色の液体が形成されると指先で落とすと、激しく沸騰する青紅色の血の中に溶け込む。

その液体の穏やかな力は即座に効果を発揮し、血液表面の鋭利な突起が収縮した。

しかし蕭炎の安堵は一瞬で消えた。

青紅色の血から微かだが圧迫感が漂い始めたのだ。

その威圧感が現れた瞬間、蕭炎の気力が阻害され、平静だった血液が沸騰を始め狂暴なエネルギーが増幅された。



突然に生じた変化は、場の全員の表情を一瞬で引き締めさせた。

血の中から滲み出る圧迫感が、蘇千らでも一時的な驚愕を覚えるほどだった。

「一体どうしたんだ?」

普段なら七階級モンスターが持つはずもないほどの強大な威圧感は、空の上にいる長老たちの顔を険しくさせた。

彼らは石台を見ながら小声で議論し合っていた。

蘇千と小医仙が目線を合わせると、二人の目に重苦しさが浮かんだ。

この圧迫感から推測すれば、この精血の主は生前非常に強大な存在だったに違いない。

もしかしたら八階級の超絶凶獣なのかもしれない——「炎がどこでこんな高等な魔児の血を手に入れたのか」

皆が驚愕する中、小医仙の隣にいた紫研は、その圧迫感を感じた瞬間に宝石のように輝く目の中に奇妙な紫色の光を宿していた。

炎の視線は青赤い血液の一滴を見詰めていた。

やはり問題はここにある——「当時モダンが言った通り、このモンスター生前は七階級最上位か八階突破クラスだったはずだが、その程度の存在でも一滴の精血からこんな圧迫感を出すのは不自然だ。

つまり『この獣は何か特別な身分を持つ』と」

炎の目に鋭い光が走った。

青赤い血液からは抵抗する力が伝わってくる。

それは血脈に宿る誇りそのものだった——「生前どれだけ強かろうと、今はただの一滴だ。

俺は絶対に制圧してやる」

炎の胸中で怒りが湧き上がる。

彼は冷たく笑みを浮かべると指先で一振りし、龍血芝が掌に現れた。

その手の上で炎が渦巻くと、それを飲み込み、次々と薬材が納戒から飛び出し火の中に投げ込まれた。

この血液の一滴の抵抗度は炎の予想を遥かに超えていたが、逆にそれがどれだけ凄まじいエネルギーを持っているのかが分かる。

もし無事に天魂融血丹を作れれば、その品質は非常に高いレベルになるだろう——「もし彼女体の中にそういう状況があれば、それは子供や娘のためかもしれない。

炎は完璧を目指す性質だから、作るなら最高のものを」

炎の掌の中の炎が渦を巻き、血色の液体が浮かび上がった。

「俺は絶対に治せないものとは思わない」

炎がその血色の液体を見つめると、指先で弾くようにして青赤い血液の中に飛び込んだ。

血色の薬液が青赤い血液に落ちた瞬間、その暴走する力が一時的に緩んだ。

しかしすぐに再び増幅され、炎の挑発に対する怒りを反映した圧迫感がさらに強まった。

そしていつしか炎の視界はぼやけ、薬炉から巨大な獰猛で膨大な獣頭が飛び出し、彼に向かって突進してきた——

虚幻の獣頭は現れなかったが、蕭炎の喉から低く唸るような音が漏れた。

その直後、彼は驚愕を隠せないことに気づいた──自分の霊力がわずかに削られていたのだ。

深呼吸を繰り返すうち、蕭炎の目にはさらに強い驚きが色濃くなっていく。

この驚愕の中にも、ほっとした気持ちがあった。

もし無謀にもその血を飲み込んでいたら、体中で暴れるような事態になっていたかもしれない──と。

薬炉での調合は、その忌まわしい血のせいで途絶えてしまった。

その圧迫感を追い出すことが出来なければ、この薬は永遠に完成しないのだ。

石台の上で蕭炎が険しい表情をしている様子を見た人々は、彼の今回の丹薬調合が重大な問題に直面していることを悟った──

「萧炎さん、その魔物の精血はどこから持ってきたのでしょう?こんな圧迫感を放つものとは……私が知っている中州の強大な魔族家族では、一族の全員が霊碑を持っていると聞いたことがあります。

その霊碑には一筋の残された魂が宿り、それが消えなければ本体の血脈は他人に奪われない──これは今の状況と似ているようにも思えるのですが……でもここは黒角域です。

なぜこのような霊碑を持つ魔物が現れるのでしょう?」

欣藍徼は眉をひそめながら、そう独りごちた。

蕭炎自身も、その忌まわしい魔物が中州の何らかの強大な一族に属するかどうか分からない。

今はただ、その青紅色の血で頭が痛むだけだ。

紫研の目から紫光がちらつくと、彼女は石台めがけて瞬時に移動した。

空間封鎖を無視して現れたその場で、蕭炎はため息をついた。

「丫头、今は丹薬を作ってくれる時間はないよ」

紫研は鼻を膨らませて答えた。

「あなたが使う薬では、その圧迫感を追い出すことはできない。

なぜならそれは血脈から来るものだから──この巨大な魔物の種族が何であれ、私の血液の方が強いと直感的に思うんだ!」

疑問の目で紫研を見つめる蕭炎は、ため息と共に笑みを浮かべた。

「分からないけど、これ以上放置しておくと薬が無駄になるだけだ。

もう諦めよう──」

彼は指先で紫意の血滴りを薬炉に導き、青紅色の血滴りの中に落とした。

その瞬間、天地が一時的に静寂になった。

すると蕭炎は驚愕を隠せないことに気づいた──青紅色の血から発散していた圧迫感が、沸騰する雪のように急速に消えていくのだ。

薬炉を見つめる彼の目には、さらに強い驚きが浮かんだ。

霊力でその内部を監視しているため、その圧迫感が消える過程で──天敵に対するような恐怖の気配も感じ取れたのだ。

数呼吸の間もなく、蕭炎を悩ませていた圧迫感は完全に消えた。

この劇的な変化を見て、小顔を満足そうにしている紫研を見たとき、彼はため息をついた──

「よくやったね」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

【完結】平凡な容姿の召喚聖女はそろそろ貴方達を捨てさせてもらいます

ユユ
ファンタジー
“美少女だね” “可愛いね” “天使みたい” 知ってる。そう言われ続けてきたから。 だけど… “なんだコレは。 こんなモノを私は妻にしなければならないのか” 召喚(誘拐)された世界では平凡だった。 私は言われた言葉を忘れたりはしない。 * さらっとファンタジー系程度 * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...