闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第0967話 分身鍛錬

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暗闇の森の中、篝火が薄い炎を放ち、その光は周囲百メートル以内の木々に赤みを帯びさせた。

篝火の側で蕭炎が膝を着き、顔に炎の光が映り込む。

彼の身体には薄紅色の薄幕が覆い、今は目を閉じていても眉心の炎印から微かな輝きが漏れ出していた。

暫くの静寂の後、蕭炎の目が突然開いた。

眉心から無形のエネルギーが爆発的に湧き出し、瞬時に彼の傍らに人影を形成した。

その分身は蕭炎と完全に同じ容貌で、透かすように篝火の炎を見えるほど薄い体躯だった。

「この分身の実力はまだ斗霊級程度だ。

凝縮期間が短いため、鋭い目を持つ者なら一瞬で底を見抜けるだろう」蕭炎が眉をひそめて囁くように呟いた。

脳内の修練法によれば、最初の段階は分身の凝縮である。

成功すれば次にその分身を鍛錬し、本尊と同等の実力を得るまで繰り返す必要がある。

確かに簡単そうだが実行は困難だ。

費天のような存在が何年もかけて分身を登堂級まで高めたのに大成にはまだ程遠く、今は初めて凝縮に成功したばかりではその距離は雲泥の差だった。

「修練法によれば、分身ができあがったら風雷の力を徐々に分身の中に組み込む必要がある。

この力で分身の霊魂波動を隠蔽すれば同時に防御と秘密保持ができる」蕭炎が分身を見つめながら思考する。

「つまり当時の費天の分身上にあった雷光はそういうものだろう。

風雷の力は分身の攻撃手段にもなり、威力は相当だが問題は……私が体内には風雷の力がないことだ。

三千雷動を修練した際に吸収した僅かな量では分身の鍛錬に使うのは到底無理だ。

どうすればいいのか」

そう考えると蕭炎は眉根を寄せた。

分身が風雷の力を得てない場合、陨落心炎のような霊魂攻撃を持つものと出会えば大変なことになる。

費天の分身の結末はその良い例だった。

「だが風雷の力どこから手に入れる? 当時苦労して雷雲から三千雷動に必要な僅かの量を吸収したのに……」彼が竹片を不意打ちで粉々に砕き、嘆息する。

この三千雷幻身は本当に頭を悩ませる課題だった。



「馬鹿野郎、風雷之力だけが唯一の鍛錬方法だと言ったのは誰が決めたんだ? それこそ一つの手段に過ぎない。

他のエネルギーでも可能さ。

貴方の体の中にある異火は、その風雷之力よりも遥かに強大なんだぞ。

特に隕落炎王(えんらくえんおう)を融合させれば、今後どんな霊魂を制圧する特殊なエネルギーと出会ったとしても、全く怯む必要はない。

そうすれば霊魂分身の唯一の欠点さえも補えるし、その力はフェイテン(ペイトン)の分身とは比べ物にならない」

蕭炎が頭を抱えた直後、天火尊者の厳格な声が突然ナノジャックから響き渡った。

「えっ…でも修練法典には風雷之力で鍛えるとあるじゃないですか。

他のエネルギーを使うと分身が壊れてしまうんじゃありませんか? しかも隕落炎王は霊魂そのものを直接傷つけるんです。

霊魂分身がそれに触れたら、一瞬で溶解してしまいますよ」

「世の中のことは危険を冒さなければ得難いものだ。

隣火尊者(りんかしゅうしゃ)は貴方の完全に制御下にあるから、いつまでたっても反撃するなどありえない。

鍛錬のバランスさえ保てば、ゆっくりと進めればいいんだよ」

天火尊者の冷静な言葉に触発された蕭炎は、瞬時に理解したようだ。

深呼吸を一つすると「確かに大量の風雷之力を集めることは難しい。

ならばより強力な異火を使うのも悪くない。

失敗すれば何の損もないし、成功すれば霊魂分身の最後の欠点さえも完全に補える。

今後の戦闘で大きな助けになる」

「それなら試してみよう」

決意を固めた蕭炎は眼差しを鋭くした。

天目山脈のエネルギー潮が開始されるまであと20日。

残り5~6日でこの山脈を抜ける予定だ。

その間、分身の進展が必要不可欠だった。

現在の霊魂分身はただの斗霊級程度で全く役に立たない。

指先で隣火尊者(りんかしゅうしゃ)を召喚すると、その炎が瞬時に消滅した。

眉心の霊魂海域へと意識を移すと、そこには虚ろな影が浮かんでいた。

彼は膝を折り、分身を見つめる。

海域の上空に蕭炎の影が現れると、その前に小さな光点が輝き始めた。

下方の霊魂エネルギーが動き出すと、分身が再び姿を現した。

分身が座るよう促すと、彼は深呼吸して隣火尊者(りんかしゅうしゃ)を掌に取り出した。

その瞬間、海域全体が波紋のように揺らぎ始めた。

蕭炎が完全に制御しているはずの隣火尊者(りんかしゅうしゃ)でも、霊魂エネルギーからは相当な距離を保っていた。



魂魄の海域の動きは、蕭炎には無関係だった。

掌を振ると、陥落心炎が飛び出し、眼前の分身を包み込んだ。

炎が分身に触れた瞬間、その虚ろな体が激しく震え始めた。

既に薄らいでいた身体がさらに急速に透明化していく。

「温度を抑える必要がある。

特定の温度帯に保つように。

静かに集中しろ。

外界からの干渉を受けないよう注意せよ。

貴方の制御力なら可能だ」天火尊者の重厚な声が魂魄空間に響く。

蕭炎は指先をわずかに動かすと、分身を取り巻く炎の輝度が急速に低下し、温度も次第に下がり始めた。

陥落心炎の熱さが衰えたことで、分身の震えはやや緩和されたものの、微細な動きは残ったままだった。

彼の意識は外界から切り離され、ただ炎の温度調整に没頭していた。

陥落心炎が冷却されるにつれ、分身からの反応が脳裡に伝わり、最適な温度を探るため高速で解析を繰り返す。

これは極めて困難な作業だった。

陥落心炎による鍛錬の進行と並行して、炎の温度調整が必要不可欠だ。

分身の耐性が上昇するごとに、炎の熱さも微調整しなければならないため、蕭炎は休む間もなくそのバランスを維持し続けた。

精神的な消耗は計り知れないものだった。

陥落心炎との連携に没頭しているうちに、疲労感がじわじわと湧き上がってくるのを感じた。

「この速度なら登堂まで二ヶ月はかかるだろう。

大成にはもっと時間がかかりそうだ。

三千雷幻身とは名うての難関だ」

地面から立ち上がり、蕭炎はため息をついた。

彼の目には疲労の色が滲んでいた。

「お前はまだ満足していないのか? 貴方の分身と比べれば、費天の分身の方が遥かに長い時間を鍛錬しているはずだ。

二ヶ月でその程度まで来たとは驚くべき進展ではないか」

納札から声が響く。

「そうかもしれないな…」彼は苦笑いを浮かべた。

「地妖愧を納め、北の森へ向かうぞ」

「出発しよう。

天目山脈は既に人で溢れているだろう。

十人の枠だが、これは斗皇への機会だ。

絶対に諦めない」

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