闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第1139話 黄衣の老人

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銀光が空間を引き裂き、天と地を貫く稲妻のように驚異的な速度で、黄易という名を持つ老者へと疾走する。

高速移動による空気の振動は低音爆発を連続させ、地面には無数の深坑が生じていた。

地妖人形の出現に黄易の表情が一瞬で引き締まった。

その身体から放たれる危険なまでの殺意を感じ取った瞬間だった。

『この若造が、こんな強力な人形を携えているのか!』

彼は素早く反応し、地妖人形の鋭い突進に対抗するため足元で空間を蹴り、連続跳躍で回避を試みる。

しかし地妖人形の速度はさらに速く、地面を踏むと大地が震え、無数の亀裂が生じた。

次の瞬間、その銀色に輝く拳は黄易の頭部へと直線的に迫り来る。

空気を切り裂く風圧で黄易の体が揺らぐ中、『轟!』という低音爆発が彼の耳元で炸裂した。

しかし黄易は冷静に両手を広げ、体内から火紅色の斗気を解放し、巨大な炎の炉を作り出す。

『蓋天化鼎!』と叫びながら、その炉を頭上高く掲げる。

炉が地妖人形の拳を受け止めようとする瞬間、驚異的な清脆音が響き渡った。

その衝撃波は地面から一層の土砂を剥ぎ取るほどだった。

『轟!』と炉が爆発し、黄易の体も同時に揺らぐ。

『くっ!』と苦しげに息を吐きながら後退する彼の足元では、炎の炉の残骸が無数のエネルギー粒子となって四方八方に飛び散った。

地妖人形は九星斗宗クラスでも互角に戦える存在だが、黄易は七星の実力。

硬直した衝突の末に炉は無数の亀裂を抱え崩壊し、黄易も苦しげに連続後退する。

『この凄まじい人形!』と驚愕の声が漏れる。

狼狽しながらも、初めて地妖人形との直接対決を通じて、その危険性を実感した黄易は深く息を吐いた。



足音が大地を踏みしめるようにしたたか、体勢を立て直す。

黄易は体内に湧き上がる血気の波を抑え込み、喉元に広がる甘酸っぱさと同時に口苦しさを感じていた。

自身が七星斗宗という実力を持つ者として、この若造がなぜこんなにも警戒し、身を守ろうとするのか疑問だった。

最初は、その小さな分だけ分け与えればいいと思っていた。

彼の目的は、ただでさえ些細なものを萧炎に渡せば済む話だ。

しかし理想と現実の乖離は激しく、現在の状況では、その小さな分さえも得られそうもない。

ましてや無事に脱出できるかどうかさえ疑わしい。

この瞬間、黄易は自身の欲望への後悔を覚えた。

体勢を立て直した黄易が地妖傀が再び襲いかかろうとする前に目を見開く。

『小友よ、これは老夫の過ちだ。

これで去る』と叫んだその声は、彼の決意を表していた。

今や、仲間を集めれば必ずこの若造に報復できると確信している。

話しながら黄易が先ほど蕭炎がいた場所を見やると、その影は既に消えていた。

『まずかった…』と叫び声が漏れる直前、背後から不気味な風が迫り来る。

彼は反射的に体を反らし掌を広げるが、掌の力は未だ十分でない。

「バキッ!」

拳掌が衝突する瞬間、黄易の掌はたちまち崩壊した。

その隙に拳風は泥鳅のように掌から逃れ、胸元に直撃する。

『プチ!』血を吐きながら黄易は百メートル近くも滑り、ようやく停止した。

息を整え、彼が吐き出すのは苦々しい血の塊だった。

怨毒の目で現れた蕭炎を見つめ、『小僧よ…お前は強かったな』と牙を剥いた。

『だが仲間が来れば必ず返す!』と叫びながら、指先から光を放ち、血で拳を作り上げる。

その血芒は瞬時に消え去った。

黄易の動作は慣れたものだった。

蕭炎も眉根を寄せ、『死にたいならどうぞ』と笑みを浮かべた。

『傀儡がいるからこそ強気だな』と黄易が牙を剥く。

その言葉に反して、萧炎は歩き始めた。

『次はどうする? お前も知っているはずだ』と穏やかに問いかける。



彼の笑みを見つめる黄易は警戒を強めながら急いで数歩後退した。

不満げな視線で近隣に虎視眈々と構えている地妖傀(ちようがく)を見やると、掌を握り空間石(かんスペクト)を手に取り---

「このままでは、この穏やかな若者に確実に殺される」

彼は疑いもなくその事実を受け入れた。

なぜなら、自分が同じ立場だったら同様の行動を取るからだ。

眼前の蕭炎(しょうえん)は決して善人とは思えない。

「小子よ、老夫はおまえの名を刻んだぞ」

「聖丹城で待っているわ。

丹会が終われば必ず生還より辛い目に遭わせてやる」

空間石を握った黄易(こういち)は突然それを粉々に砕き、周囲の空間が歪み始めた。

「もしも本当に勇気があるなら、名前だけでも残しておくれ。

老夫が知りたいのは、この敗北は誰の手で迎えたのか」

空間の歪みの中で黄易(こういち)が冷たく問うた時、蕭炎は笑みを浮かべ指先で納戒(なかい)に触れた。

「萧炎(しょうえん)」

その名前が耳に入った瞬間、身体がさらに歪んだ黄易の顔が硬直した。

この名は彼が丹域に入門した日に聞いたものだった。

ちょうど蕭炎と氷河谷(ひょうかく)との大戦があった日だ。

「くそっ、どうして最初からこんな凶星に遭わねばならないのか」

その思考が終わるや否や周囲の空間が強烈な吸引力を発し黄易の身体も引き込まれた。

消えた瞬間、蕭炎は彼の顔に悔恨の色があったと確信した。

地妖傀(ちようがく)を納戒に戻すと萧炎は笑みを浮かべた。

「七星斗宗など問題ない。

天蛇(てんじゃ)でさえ恐れないこの老いた奴が、まさか自分が標的にされるとは」

黄易の言う仲間については特に気にしない。

彼が結成できるのはおそらく斗尊級の強者ではないだろうから、蕭炎はその点も疑いようがない。

「丹界(たんかい)は確かに素晴らしい場所だが、ここに留まる時間は限られている。

薬単(やくだん)の三種類の天材地宝を手に入れるのが最優先だ。

もし何かで遅れたら丹会への参加が損なわれる」

そう言いながら丹界地図を取り出し、現在位置を確認した。

「その三つは地図上の赤い円印の場所にあるはず。

まずはそこへ向かうしかない」

少し考えた後、蕭炎は決意を固めた。

「地心魂髓(ちしんこんずい)の調和にはさらに稀少な薬材が必要だ。

この丹界ではそのようなものも入手できるかもしれない。

もし成功すれば、離れる前に霊境(りょうけい)に到達する可能性もある」

計画を立てた蕭炎は迷わず空高く上昇し、地図の赤い円印一つを選んで光速で駆け出した---

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