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第1305話 邙天尺
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夜明けの如く澄んだ月明かりが山々を包み込む。
その光は銀色の薄幕となり、古聖山脈全体に優雅な輝きを宿す。
中央部には古代の獣のような建築群が連なり、それぞれが燦然と灯火を放ちながらも、どこか懐かしい空気を纏っていた。
この数日間は古族にとって喜びの日であり、その祝祭の雰囲気が山々に満ちていた。
しかし頂上部の山峰では静寂が支配していた。
喧騒とは無縁で、隠士の住むような穏やかな空気だけが漂っている。
そこには白い影が優雅に佇んでいた。
その美しい目は遠くの灯火を凝視し、何を考えているのか分からない。
「まだ起きているのか」
突然林間から青色の影が現れた。
月明かりがその精巧な顔を照らすと、特に印象的な存在だった。
「ここが古族か……外と変わらないみたいね」白い影は首を傾げながら、ゆっくりと近づく青衣の女性を見やった。
「ユーリア」
「ここでは外よりも遥かに重圧があるわ。
皿脈の強さこそが彼らの誇りなのだけど……この古聖山脈は全ての古族民にとって聖地よ。
数年に一度、多くの人々が子孫と共に訪れる。
その中から皿脈を持つ者が出ることを願っているの。
しかし多くは失望するだけ……最近では皿脈が衰えたと知った親族が自殺するのを見たわ」
「強盛であれば当然犠牲も伴うものよ」ユーリアは黙って頷いた。
「ありがとうね」ユーリアは話題を変えようとしたのか、視線を向けた。
「ヤミ……最近よく見かけるけど大丈夫?」
「彼のそばで少しでも役に立てることが嬉しかったわ。
私はそれで良いのよ」
「でも黙っているとずっと無自覚なのよ」ユーリアは笑みを浮かべた。
「あなたなら知っているはずよ……美杜莎、つまり彩鱗のこと?」
「何を指すのかしら?」
ユーリアは星々を見上げながら問い返した。
その目には複雑な感情が宿っていた。
「やはり、彼の前で何も知らないふりをしているのは知っているのか?」
小医仙がため息をついた。
「古族の情報網はさすがに凄いものだ。
それに薰さんが今や古族の重鎮としての地位にあるからな。
口を開けば、あるいは不用意にさえしなくとも、彩鳞に関する情報を彼女のもとに届けられるだろう」
「それだけではどうする? 彼の前で激昂して彩鳞を斬り捨てろと言えるのか?」
薰は唇を尖らせて、ほんの少しだけ笑みを浮かべようとしたがすぐに諦めてため息をついた。
「実際、こんなことは頭痛ものだ。
他人ならこの機会に離れてほしいとか恨んでほしいと願うかもしれないが、自分自身はそれが不可能だと知っている。
ならばわざわざ苦しまない方がいいではないか」
薰が小医仙を見上げた。
「そのようなことなら、彼から直接言われるのを待つしかないだろう。
そうすれば私は意地悪にもほどがあることを言ってやれる。
花心な男には良い結果は訪れないようにね」
小医仙が薰を見る。
その頬に微かに残る憤りが、夫が浮気をしていると知った妻の表情を連想させる。
「話はこれで終わりだ。
明日は古族成人式だから、早く休もう。
いつまでも彼のそばにいてほしいわ」
薰の頬の憤りが消え、笑顔になった。
「あなたはどうする?」
小医仙が細い眉を上げた。
「どうするって……」
薰は長いまつげを震わせながら答えず、手を振って山腰の竹小屋へと向かった。
小医仙は薰の背中を見送り、眉根を寄せたが口を開かなかった。
軽やかな動きで追いかけていく。
初陽が天辺に現れた時、古聖山脈はたちまち賑わい始めた。
空には無数の人影が飛び交い、喜慶の太鼓の音が山頂を包み込んだ。
「ギィン……」
閉ざされていた部屋の戸がゆっくりと開き、整った着物に身を包んだ蕭炎が出てきた。
視線を庭に向けた瞬間、薰たちを見つけて頬を染めた。
「萧炎お兄さん、休んできましたか?」
薰は笑顔で近づき、玉の手で彼の衣の皺を整えた。
その優しい仕草は乙女らしいものだったが、他の古族の人々には女神のような存在として知られていたため、彼らは胸が締め付けられる思いになった。
蕭炎は笑って頷いた。
温かく柔らかな手の感触を感じながらもすぐに気持ちを切り替えて遠くを見やった。
「成人式が始まる時間だね」
「うん、行こう」
薰香が微笑んだ。
その手を振ると、体躯が大きく壮健な白い馬鹿鹿しい馬が山林から飛び出してきた。
その馬は雪白の翼を広げて空高く舞い上がり、人々の前に降り立った。
薰香が軽く跳ねるだけで、その馬の背に乗り込む。
蕭炎たちもすぐに乗せ、薰香が馬を撫でると、馬は鋭い鳴き声と共に翼を広げて光のように遠くの建物群へと駆け出した。
馬の速度は驚異的だった。
数分後にはその巨大な建物群に到着し、薰香の指示通り中央部でゆっくり降り立った。
薰香たちが周囲を歩くと、人々の視線が集中した。
薰香は無視して「行こう」と言い、古族の伝統的な広場へ向かう。
その広場には黒い甲冑の兵士が並んでいた。
彼らは鋭い目つきで周囲を見回していたが、蕭炎たちを見ては一瞬だけ視線を止めた。
薰香はそのまま中央席に進み、その後ろから金の甲冑の二人組が槍で止めようとした。
その音に薰香の顔が引きつり、「開け」と冷たく言い放ちた。
すると老者一人が笑いながら現れた。
「この区域は特別な場所です。
本族や招待された人だけが入れます」
「古謙、古虚! 貴様らは泥棒か? 我が学院の者がここに来ているんだぞ! お前たちも泥でできたのかと思ってたのに…」
その時突然「邙天尺?」
という声が響いた。
蕭炎と古謙・古虚が驚きを顕わにした。
その光は銀色の薄幕となり、古聖山脈全体に優雅な輝きを宿す。
中央部には古代の獣のような建築群が連なり、それぞれが燦然と灯火を放ちながらも、どこか懐かしい空気を纏っていた。
この数日間は古族にとって喜びの日であり、その祝祭の雰囲気が山々に満ちていた。
しかし頂上部の山峰では静寂が支配していた。
喧騒とは無縁で、隠士の住むような穏やかな空気だけが漂っている。
そこには白い影が優雅に佇んでいた。
その美しい目は遠くの灯火を凝視し、何を考えているのか分からない。
「まだ起きているのか」
突然林間から青色の影が現れた。
月明かりがその精巧な顔を照らすと、特に印象的な存在だった。
「ここが古族か……外と変わらないみたいね」白い影は首を傾げながら、ゆっくりと近づく青衣の女性を見やった。
「ユーリア」
「ここでは外よりも遥かに重圧があるわ。
皿脈の強さこそが彼らの誇りなのだけど……この古聖山脈は全ての古族民にとって聖地よ。
数年に一度、多くの人々が子孫と共に訪れる。
その中から皿脈を持つ者が出ることを願っているの。
しかし多くは失望するだけ……最近では皿脈が衰えたと知った親族が自殺するのを見たわ」
「強盛であれば当然犠牲も伴うものよ」ユーリアは黙って頷いた。
「ありがとうね」ユーリアは話題を変えようとしたのか、視線を向けた。
「ヤミ……最近よく見かけるけど大丈夫?」
「彼のそばで少しでも役に立てることが嬉しかったわ。
私はそれで良いのよ」
「でも黙っているとずっと無自覚なのよ」ユーリアは笑みを浮かべた。
「あなたなら知っているはずよ……美杜莎、つまり彩鱗のこと?」
「何を指すのかしら?」
ユーリアは星々を見上げながら問い返した。
その目には複雑な感情が宿っていた。
「やはり、彼の前で何も知らないふりをしているのは知っているのか?」
小医仙がため息をついた。
「古族の情報網はさすがに凄いものだ。
それに薰さんが今や古族の重鎮としての地位にあるからな。
口を開けば、あるいは不用意にさえしなくとも、彩鳞に関する情報を彼女のもとに届けられるだろう」
「それだけではどうする? 彼の前で激昂して彩鳞を斬り捨てろと言えるのか?」
薰は唇を尖らせて、ほんの少しだけ笑みを浮かべようとしたがすぐに諦めてため息をついた。
「実際、こんなことは頭痛ものだ。
他人ならこの機会に離れてほしいとか恨んでほしいと願うかもしれないが、自分自身はそれが不可能だと知っている。
ならばわざわざ苦しまない方がいいではないか」
薰が小医仙を見上げた。
「そのようなことなら、彼から直接言われるのを待つしかないだろう。
そうすれば私は意地悪にもほどがあることを言ってやれる。
花心な男には良い結果は訪れないようにね」
小医仙が薰を見る。
その頬に微かに残る憤りが、夫が浮気をしていると知った妻の表情を連想させる。
「話はこれで終わりだ。
明日は古族成人式だから、早く休もう。
いつまでも彼のそばにいてほしいわ」
薰の頬の憤りが消え、笑顔になった。
「あなたはどうする?」
小医仙が細い眉を上げた。
「どうするって……」
薰は長いまつげを震わせながら答えず、手を振って山腰の竹小屋へと向かった。
小医仙は薰の背中を見送り、眉根を寄せたが口を開かなかった。
軽やかな動きで追いかけていく。
初陽が天辺に現れた時、古聖山脈はたちまち賑わい始めた。
空には無数の人影が飛び交い、喜慶の太鼓の音が山頂を包み込んだ。
「ギィン……」
閉ざされていた部屋の戸がゆっくりと開き、整った着物に身を包んだ蕭炎が出てきた。
視線を庭に向けた瞬間、薰たちを見つけて頬を染めた。
「萧炎お兄さん、休んできましたか?」
薰は笑顔で近づき、玉の手で彼の衣の皺を整えた。
その優しい仕草は乙女らしいものだったが、他の古族の人々には女神のような存在として知られていたため、彼らは胸が締め付けられる思いになった。
蕭炎は笑って頷いた。
温かく柔らかな手の感触を感じながらもすぐに気持ちを切り替えて遠くを見やった。
「成人式が始まる時間だね」
「うん、行こう」
薰香が微笑んだ。
その手を振ると、体躯が大きく壮健な白い馬鹿鹿しい馬が山林から飛び出してきた。
その馬は雪白の翼を広げて空高く舞い上がり、人々の前に降り立った。
薰香が軽く跳ねるだけで、その馬の背に乗り込む。
蕭炎たちもすぐに乗せ、薰香が馬を撫でると、馬は鋭い鳴き声と共に翼を広げて光のように遠くの建物群へと駆け出した。
馬の速度は驚異的だった。
数分後にはその巨大な建物群に到着し、薰香の指示通り中央部でゆっくり降り立った。
薰香たちが周囲を歩くと、人々の視線が集中した。
薰香は無視して「行こう」と言い、古族の伝統的な広場へ向かう。
その広場には黒い甲冑の兵士が並んでいた。
彼らは鋭い目つきで周囲を見回していたが、蕭炎たちを見ては一瞬だけ視線を止めた。
薰香はそのまま中央席に進み、その後ろから金の甲冑の二人組が槍で止めようとした。
その音に薰香の顔が引きつり、「開け」と冷たく言い放ちた。
すると老者一人が笑いながら現れた。
「この区域は特別な場所です。
本族や招待された人だけが入れます」
「古謙、古虚! 貴様らは泥棒か? 我が学院の者がここに来ているんだぞ! お前たちも泥でできたのかと思ってたのに…」
その時突然「邙天尺?」
という声が響いた。
蕭炎と古謙・古虚が驚きを顕わにした。
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