闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

文字の大きさ
1,449 / 1,458
1500

第1501話 火の嬰児

しおりを挟む
「今回の閉関は、おそらく相当の時間を要した…」

炎で覆われた空を見上げながら、蕭炎は周囲を観察した。

この幻覚は閉関前のものと変わらぬように見えるが、彼は些細な違いを感じ取っていた。

「うん」そばにいた雪乃も小さく頷いた。

浄蓮妖火という異常な存在を封じるには時間が必要だ。

もしも二人で協力しなければ、決して制御できなかったはずだった。

「今は炎上さんのお力は相当なものでしょうね?」

雪乃が目を細めながら笑みを浮かべた。

「あの魂殿の主と再会したら倒せるでしょう」蕭炎は軽く微笑んだ。

その声には確信に満ちていた。

浄蓮妖火を融合させたことで得た恩恵は計り知れない。

彼自身が感じ取る限り、現在の実力は五星斗聖初期まで到達している。

閉関前の二星中期から三段階も跳ね上がったのだ。

その驚異的な進化にさえ、蕭炎は最初こそ信じられなかった。

斗聖という存在がどれほど強大かを知っている彼にとって、三段階の向上は並外れたものだった。

通常なら数十年かかるほどの成長を、浄蓮妖火の力でわずか数ヶ月で成し遂げたのだ。

この異常な進化を可能にしたのは、ランキング上位三に入るほど稀少な異火だけが持つ逆天の力だった。

その強大さは、他の異火と比べても類を見ないものだった。

「一人得道なら、犬も歩けば棒に当たると言いますが、今回は炎上さんのおかげで私も少し成長しましたね」雪乃が優しく笑った。

浄蓮妖火の融合過程で流れたエネルギーは彼女の身体にも流れ込んでいた。

現在の実力は五星斗聖には届いていないものの、四星斗聖後期までに到達していた。

この閉関での二人の得たものは羨望を誘うものだった。

雪乃の急激な成長を喜ぶ蕭炎だが、もしも一人で浄蓮妖火のエネルギーを吸収したならさらに強くなれたかもしれない。

しかし、その代償は死を意味していた。

雪乃が協力してくれなければ、彼は妖火に逆撫でされていただろう。

「体の中の異火…」

蕭炎の意識は最も重要なことに集中した。

すると驚愕すべきことに、体内に存在していた異火が全て消えていた。

この変化は彼にとって重大な打撃だった。

異火こそが彼の生きていくための基盤なのだ。

「炎上さん、どうしましたか?」

雪乃がその表情を見て心配そうに声をかけた。

しかし蕭炎はその呼びかけに応えられず、静かに体の中を探り始めた。

しばらくするとようやく、体内の奥深くで何か微かな存在を感じ取った。

「現れろ!」



蕭炎は掌を猛然と握りしめた。

その瞬間、彼の口から低く唸るような声が漏れ出し、掌の中心部から突然、鮮やかなピンク色の炎が爆発的に広がり始めた。

その炎の周囲には金粉のような輝きがちらつくように流動し、まるで黄金の粒子が舞っているかのようだった。

この異常な現象に周囲の空間が歪みを生じた瞬間、ピンク色の炎は突然動き出した。

その動きは人間の赤ちゃんのようにゆっくりと蠕動し、ついには半尺にも満たない小さな火の精(ひのかみ)へと変化した。

「イワァイワァ!」

その小さな火の精が現れた瞬間、ピンク色の炎でできた大きな目を蕭炎に向けて見つめ、ぷにっとした手足を伸ばして彼の掌に抱きつく。

その動きはまるで人間の赤ちゃんのように無邪気で、掌全体を覆うように何度も擦り寄せる。

「これは……」

蕭炎と薰(くん)が驚愕の目でこの光景を見つめる中、火の精は掌よりも少し大きい程度の体格ながら、まるでボールのような丸みを帯びた姿勢で立っていた。

髪型は逆上がりにしたような衝動的な髪型で、粉ピンク色の小さな布切れが首元から顔周りまで覆っている。

その額にはピンク色の蓮の模様を持つ炎の印があり、見るからに可愛らしい外見だった。

「イワァイワァ!」

蕭炎と薰がこの突然の変化に呆然とする間、火の精は掌を震わせながら不思議な声で叫び続けた。

その声は幼児らしく甘く、しかし奇妙な調子を持っていた。

「一体どうしたんだ?」

蕭炎はようやく状況を理解できず、掌に抱かれたままの火の精を見つめて尋ねた。

その問いかけに対して、薰も首を横に振りながら言葉を続けた。

「もしかしたら、あなたが体内で融合させた六種類の異火から生まれた新たな炎なのでは?」

蕭炎の体内には浄蓮妖火を含む六種類の異火が存在した。

それらが全て融合するという試みは、この世界でも初めてのことだった。

その言葉に頷くと、蕭炎は掌上の肉球のような触感に注意を向けた。

その柔らかさと滑らかな質感は人間の赤ちゃんとは比べ物にならないほどで、同時に彼は自分がこの小さな存在と特別なつながりを感じていることに気づいた。

「やはりこれは私の体内の異火だ……」蕭炎は重い表情で頷きながら考えた。

なぜこのような変化が起こったのかは分からないが、少なくともこの火の精は彼の体から生まれたものであることは間違いない。

「この子からは金帝焚天夫(キンテイフンテンフ)の匂いを感じるわ」薰はため息をつきながら囁いた。



「浄蓮の妖炎を煉化する際に、貴方の金帝天炎も関与していたため、その一部が私の体内に融合したのです」蕭炎は説明し続けた。

掌の上に髪飾りを結びつけた火の精を見据えながら、彼体内的五種異炎は浄蓮妖炎と完全に一体化している。

正確には、元々の五種類の異炎が浄蓮妖炎の中に吸収された状態と言える。

以前の五種類の異炎は数こそ多いものの、浄蓮妖炎との比較では力の差が明確だった。

異炎同士が融合し始めた時、それらは抵抗する余地もなく浄蓮妖炎に飲み込まれた。

もし蕭炎が事前に焚決で妖炎を制御していなかったなら、失敗の代償として何を味わうか分からない。

「ふふ、炎上さん、父から聞いた話ですが、異炎を煉化した後に形を取るものは極めて稀です。

この子は貴方の新種異炎の火精でしょう」薰が微笑んだ。

状況からは悪いことではないようだ。

蕭炎は頷き、何かを思い出したように口元を引き攣らせた。

「では今後相手と戦う際、仏怒蓮華をどう使うか?」

先ほど体内に呼び出した異炎が突然消えてしまったことに気づいていた。

これでは火蓮で戦う手段も失ってしまう。

「イワッ!」

蕭炎の言葉に反応した火精は目を見開き、掌に炎を集めて仏怒蓮華を瞬時に形成した。

「仏怒蓮華!」

その蓮華を見て蕭炎は目が点になった。

彼が考案した招式であり、他人が使うことはなかった。

しかし今この小物は手のひらで簡単に作り出した。

その速度すら創始者である自分が追いつけないほどだった。

「この子は貴方の武技まで盗んだようだわ」薰も口元を押さえながら笑った。

「イワッ!」

蕭炎の驚きに気付いた火精は満足げな表情を見せ、両手で蓮華を作り始める。

掌には二色の仏怒蓮華が連続して形成され、彼女の周囲を回転しながら浮かび上がった。

「十個の仏怒蓮華!」

その光景を見た蕭炎は深く息を吸い込み、一気に十個の蓮華を作り出す。

しかし今まで一度も成功したことがなかった。

これらは二種類の異炎で構成されているが、連続して放つ威力は相当だった。

「イワッ!」

さらに驚きを増幅させるのは、火精が手招きすると十個の蓮華が衝突し、瞬時に融合した点だ。

僅かな時間で巨大な蓮華が炎の中に現れた。

その約半尺ほどの粉紅色の美しい蓮華を見た時、蕭炎は胸を締め付けられるような感覚に陥り、息さえ苦しくなった。

「破滅蓮華」

深呼吸してから萧炎は囁いた。

この火精が融合させた蓮華こそが彼の最終手段、破滅蓮華であり、その威力は今までのどの蓮華よりも遥かに恐ろしかったのだ。

「今回は本当に宝物を拾ったわ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

ともボン
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

処理中です...