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第0015話「静かな葬式」
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十五章 静かな葬儀
「ご冥福を祈ります」
「どうかお見舞い申し上げます」
江遠は父に連れられ棺前に参り、短く立ち止まった後すぐに退出した。
江富鎮がため息をつきながら歩きながら言った。
「父が亡くなり母が監禁されている。
子供も可哀想だが、叔公と叔婆も苦労している」
十七婶の判決はまだ下っていないが、誰もが予測できるように十七婶が死刑にならなくても相当な期間服役するだろう。
二人の息子江楽は今や最も悲しみに暮れ最も傷ついた存在だ。
江家村は裕福だがこの事件に関してできることは限られている。
江遠はその光景を見たくなかったため礼堂を出てキッチンに戻り少し落ち着いてきた。
「十七叔さんの問題は節約癖が酷いんだよ」江富鎮は懐かしそうに言った。
「昔、村の条件が悪かった頃には肉汁すら捨てないような人だった。
その後小料理屋を開いたが実際には必要以上の投資だ。
彼の店は確かに儲かっていたが家賃や妻の労働費も考慮していないし初期費用も利息も計算していない。
土地収容で得た金で他人と共同経営を始め、投資を繰り返した結果損失が出た回数は計り知れない…十七婶が怒るのも無理ない」
「十七叔さんって太ってるよね」江遠が言った。
「残飯残菜を食べてるからだよ」江富鎮が鼻をつまんだ。
「金がないならともかく金があっても節約するなんて、十七婶が我慢できないのも当然だ」
江遠は十七叔について特に印象もないが父親の言う通りに卵炒めの技術を得たようだった。
「食べてみろ」父は牛肉の一片を江遠に差し出し塩を少し振った。
肉を煮るときに塩を入れると肉質が締まり耐食性が増す。
例えばモンゴル人は牛羊肉を煮る際に最初から塩を入れて重厚な味わいを得ようとするが、松軟な食感を好む場合は逆に塩を入れないのが良い。
江富鎮の牛肉は柔らかく崩れやすいのに噛んだ時の弾力も十分で江遠は頷きながら食べた。
「若者たちに一皿持っていけ」江遠が二切れ食べ終えた後、脂身が黄色を帯びた一皿を彼の手に渡した。
煮立てたばかりの牛肉は皿の中で上下に微動くように弾力があり心臓を軽く叩かれたような感覚だった。
江遠はそのまま広場に肉を持って行き、席を外す若い人々から歓迎された。
「焼き串があればもっと良かった」従妹甲が一口食べた後に新たな要求を出した。
「行くわ」彼女の男の同級生が即座に応じた。
「蟹があったらいいのに」従妹乙が連れ来た男の子を見ながら言った。
「行こっか」その男の子は口を拭いて走り出した。
間もなく江遠と若い連中たちの前に皿が山積みになり、彼らは自由に食べながら雑談しリラックスした様子だった。
すると江遠の携帯電話が鳴った。
従妹甲は彼女が口に入れた肉を二口で飲み込み「江遠お兄さん、死体があるんですか?」
と急かすように尋ねた。
江遠は笑って立ち上がり片隅に移動して電話を受け取った。
「江遠、あの故意傷害事件の容疑者を捕まえたのか?」
大隊長黄強民の声が耳に突き刺さる。
速やかに江遠は頷いた。
「指紋は一致しました。
システムに提出して専門家に再確認させています」
「専門家も認定した」黄強民が江遠の言葉を遮り、続けた。
「お前の仕事はそれでいい。
……よくやった」
大隊長の声は次第に遠ざかる。
江遠は「はい」と応じながら、電話を切る音と共に黒々とした空を見上げた。
二中隊と三中隊の刑事たちが青白市へ向かう途上、容疑者の家を捜索する一方で、その両親宅も徹底的に調べるよう指示されていた。
黄強民は既に書類作成を命じ、電話を掛け始めた。
見つからなければ二中隊と三中隊は直ちに発電所へ向かい、地元派出所との連携を密接にするよう指示されていた。
「二中隊全員起きろ!青白市へ急行だ!容疑者の家へ突入せよ!三中隊は両親宅を捜索しろ!厳重に調べろ。
私は書類を作成し、電話で連絡する」
黄強民が江遠の電話を切った。
江遠はスマートフォンをポケットに戻し、漆黒の空を見上げた。
二中隊と三中隊の刑事たちが深夜に出動したことを思うと、彼らの苦労が胸に重かった。
容疑者を捕まえれば即刻取り調べ、証拠を集める。
見つからなければ黄強民の指示通り発電所へ向かい、地元派出所との関係構築を最優先にするのだ。
「江遠お兄さん、あなたも出動するんですか?」
従妹の友人甲が串焼きを差し出すと、期待の目で見つめた。
江遠は串焼きを受け取り、一口食べた。
口の中に広がる味覚を楽しみながら答えた。
「いらないよ。
関係ない」
容疑者の家への出動という外勤作業には、人員不足か体力がある者が必要だ。
現在の江遠はその条件を満たさないようだった。
もちろん、現地調査や撮影といった業務も同時に行われるが、これらは刑事たちが兼任するものだ。
必要に応じれば指紋採取やDNAサンプル収集なども行う。
まるで馬を牛のように使い、牛を驢馬のように使っているようだ。
誰もが大変な労働を強いられている。
夜明け前。
清河市寧台県警刑事部二中隊と三中隊の警察官たちが二百キロ離れた青石市へ向かう車内で、地元派出所の警察官に媚びを売りつつ布陣や監視態勢を整え始めた。
江遠は十七世叔父の葬儀で集まった親戚一同と共に串焼きを食べながら抖音を見ていた。
深夜。
容疑者が帰宅するのを待つため、劉文凱が息を呑んだ瞬間、アドレナリンが駆り立てられ逮捕行動が始まった。
星々が輝き、風がそよぎ、草木が揺れる中、時折グラスの音や会話声が響く。
夜更け。
劉文凱と二三中隊の警官たちが寧台へ帰還する車内で、揺れに揺られ眠気に襲われながらも次の日の捜索作業を準備していた。
江遠はベッドで身を翻し、口元を引き締め、顔を引き締めていた。
夢の中では解けない難題が浮かんでいた。
結局、それは静かな葬儀だった。
「ご冥福を祈ります」
「どうかお見舞い申し上げます」
江遠は父に連れられ棺前に参り、短く立ち止まった後すぐに退出した。
江富鎮がため息をつきながら歩きながら言った。
「父が亡くなり母が監禁されている。
子供も可哀想だが、叔公と叔婆も苦労している」
十七婶の判決はまだ下っていないが、誰もが予測できるように十七婶が死刑にならなくても相当な期間服役するだろう。
二人の息子江楽は今や最も悲しみに暮れ最も傷ついた存在だ。
江家村は裕福だがこの事件に関してできることは限られている。
江遠はその光景を見たくなかったため礼堂を出てキッチンに戻り少し落ち着いてきた。
「十七叔さんの問題は節約癖が酷いんだよ」江富鎮は懐かしそうに言った。
「昔、村の条件が悪かった頃には肉汁すら捨てないような人だった。
その後小料理屋を開いたが実際には必要以上の投資だ。
彼の店は確かに儲かっていたが家賃や妻の労働費も考慮していないし初期費用も利息も計算していない。
土地収容で得た金で他人と共同経営を始め、投資を繰り返した結果損失が出た回数は計り知れない…十七婶が怒るのも無理ない」
「十七叔さんって太ってるよね」江遠が言った。
「残飯残菜を食べてるからだよ」江富鎮が鼻をつまんだ。
「金がないならともかく金があっても節約するなんて、十七婶が我慢できないのも当然だ」
江遠は十七叔について特に印象もないが父親の言う通りに卵炒めの技術を得たようだった。
「食べてみろ」父は牛肉の一片を江遠に差し出し塩を少し振った。
肉を煮るときに塩を入れると肉質が締まり耐食性が増す。
例えばモンゴル人は牛羊肉を煮る際に最初から塩を入れて重厚な味わいを得ようとするが、松軟な食感を好む場合は逆に塩を入れないのが良い。
江富鎮の牛肉は柔らかく崩れやすいのに噛んだ時の弾力も十分で江遠は頷きながら食べた。
「若者たちに一皿持っていけ」江遠が二切れ食べ終えた後、脂身が黄色を帯びた一皿を彼の手に渡した。
煮立てたばかりの牛肉は皿の中で上下に微動くように弾力があり心臓を軽く叩かれたような感覚だった。
江遠はそのまま広場に肉を持って行き、席を外す若い人々から歓迎された。
「焼き串があればもっと良かった」従妹甲が一口食べた後に新たな要求を出した。
「行くわ」彼女の男の同級生が即座に応じた。
「蟹があったらいいのに」従妹乙が連れ来た男の子を見ながら言った。
「行こっか」その男の子は口を拭いて走り出した。
間もなく江遠と若い連中たちの前に皿が山積みになり、彼らは自由に食べながら雑談しリラックスした様子だった。
すると江遠の携帯電話が鳴った。
従妹甲は彼女が口に入れた肉を二口で飲み込み「江遠お兄さん、死体があるんですか?」
と急かすように尋ねた。
江遠は笑って立ち上がり片隅に移動して電話を受け取った。
「江遠、あの故意傷害事件の容疑者を捕まえたのか?」
大隊長黄強民の声が耳に突き刺さる。
速やかに江遠は頷いた。
「指紋は一致しました。
システムに提出して専門家に再確認させています」
「専門家も認定した」黄強民が江遠の言葉を遮り、続けた。
「お前の仕事はそれでいい。
……よくやった」
大隊長の声は次第に遠ざかる。
江遠は「はい」と応じながら、電話を切る音と共に黒々とした空を見上げた。
二中隊と三中隊の刑事たちが青白市へ向かう途上、容疑者の家を捜索する一方で、その両親宅も徹底的に調べるよう指示されていた。
黄強民は既に書類作成を命じ、電話を掛け始めた。
見つからなければ二中隊と三中隊は直ちに発電所へ向かい、地元派出所との連携を密接にするよう指示されていた。
「二中隊全員起きろ!青白市へ急行だ!容疑者の家へ突入せよ!三中隊は両親宅を捜索しろ!厳重に調べろ。
私は書類を作成し、電話で連絡する」
黄強民が江遠の電話を切った。
江遠はスマートフォンをポケットに戻し、漆黒の空を見上げた。
二中隊と三中隊の刑事たちが深夜に出動したことを思うと、彼らの苦労が胸に重かった。
容疑者を捕まえれば即刻取り調べ、証拠を集める。
見つからなければ黄強民の指示通り発電所へ向かい、地元派出所との関係構築を最優先にするのだ。
「江遠お兄さん、あなたも出動するんですか?」
従妹の友人甲が串焼きを差し出すと、期待の目で見つめた。
江遠は串焼きを受け取り、一口食べた。
口の中に広がる味覚を楽しみながら答えた。
「いらないよ。
関係ない」
容疑者の家への出動という外勤作業には、人員不足か体力がある者が必要だ。
現在の江遠はその条件を満たさないようだった。
もちろん、現地調査や撮影といった業務も同時に行われるが、これらは刑事たちが兼任するものだ。
必要に応じれば指紋採取やDNAサンプル収集なども行う。
まるで馬を牛のように使い、牛を驢馬のように使っているようだ。
誰もが大変な労働を強いられている。
夜明け前。
清河市寧台県警刑事部二中隊と三中隊の警察官たちが二百キロ離れた青石市へ向かう車内で、地元派出所の警察官に媚びを売りつつ布陣や監視態勢を整え始めた。
江遠は十七世叔父の葬儀で集まった親戚一同と共に串焼きを食べながら抖音を見ていた。
深夜。
容疑者が帰宅するのを待つため、劉文凱が息を呑んだ瞬間、アドレナリンが駆り立てられ逮捕行動が始まった。
星々が輝き、風がそよぎ、草木が揺れる中、時折グラスの音や会話声が響く。
夜更け。
劉文凱と二三中隊の警官たちが寧台へ帰還する車内で、揺れに揺られ眠気に襲われながらも次の日の捜索作業を準備していた。
江遠はベッドで身を翻し、口元を引き締め、顔を引き締めていた。
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