国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

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第0025話「必死に拭く」

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擦った食器を拭き、ガラスを磨き、鏡を清掃し、光いものを拭き、粗いものに移る。

粗いものが終われば細かいものへと行き、細かいものが完了したら柔らかいものに手をかけ、最後は硬いものまで全て丁寧に処理する。

現場調査の業務は大まかには多様だが、詳細を見れば些細な作業が積み重なる。

警察関係者は事件解決は資源の蓄積によるものと語るが、その実態は現地調査期間中に顕著に表れる。

例えばDNAや指紋の採取だが、一般の人々は犯人が現場に残した痕跡を必ず発見すると誤解する。

しかし実際には、一定範囲内の全ての指紋やDNAを正確に検出できるような先進的な機器は存在しないのだ。

指紋の場合、可視性のある「顕性」や「塑性」と、特殊な手段が必要な「隠性」の三種類に分類される。

前者は肉眼で確認可能だが、後者は素材によって異なる手法を要する。

例えば粉塵法、線条法、煙熏法、化学反応法など多様な方法が存在し、それぞれの状況に適した手段を選択しなければならない。

そのため現地調査員や指紋鑑定官が一つの指紋を取得するには、まずその痕跡がどこにあるかを推測し、光学的観察や角度調整による目視検出、表面への息吹きによる確認など様々な手法で位置を特定した上で、ようやく粉塵採取やイオウ燻蒸法、硝酸銀反応などの化学的手法で採取に至る。

もし蜘蛛人が天井を這ったとすれば、現地調査員がその痕跡を見つけることはほぼ不可能だろう。

DNAの検出は指紋よりもさらに困難だ。

指紋ならある程度目視可能だが、DNAの場合、被害者の歯ブラシから採取する場合などは、実際には何らかの痕跡を目にすることはなく、あくまで推測に基づくものである。

例えばシャツやベッドカバーといった身近な物資にDNAが残っているかどうかは完全に推測に頼る。

現地調査の能力差はここでも顕著だ。

優れた調査員は犯人の行動パターンを想像し、痕跡を発見するためにはどこから手掛けるべきかを計画的に判断して粉塵採取を行うが、未熟な調査員は単にシャツやベッドカバーをそのまま持ち帰ったり、適当に切り取るだけの場合もある。

総じて参加人数が多く、技術力が高いほど、時間と労力をかけていればいるほど、証拠となる手がかりを見つける確率は上がる。

王鍾から見れば江遠の手法は優れているが、それは殺人事件の場合に限る。

窃盗事件ならそのような方法を取るのは現実的ではない。

DNA検査のコストは試薬単体で100元を超え、時間当たりの処理数も限定的だ。

生物サンプルがカビつくまで待たされる可能性もある。

「もう一度トイレを掃除しよう」と江遠が寝室の片付けを終えた頃、日は暮れ始めていた。

フ  王钟は頭をかいて物証袋の山を指した。

「明日に来よう。

これだけあると、実験室が狂っちまう」

江遠は説明する。

「この中で大半はDNA検出できないから試薬も使わないだろう。

殺人鬼は徹底的に掃除したんだ。

寝室の多くの場所の指紋を拭き取ってある。

被害者が大量出血したから、殺人鬼はトイレで洗濯やシャワーする時間があったはずだ。

トイレにDNAが残る確率が高い」

「小胡たちも同じ見解だ。

彼らは隅々まで拭いていた」

「あまりにも粗っぽい」江遠は死体検査の際、小胡たちの作業を注意深く観察していた。

現場調査員の技術は王鐘が指紋採取で得た最高評価「使える」程度だ

先ほどの数時間で江遠が見つけたいくつかの痕跡は事件解決にはつながらないかもしれないが、老厳と自分たちの「使える」能力不足を証明したに違いない

「あの……」門前のお爺さんが我慢できなくなった。

「帰らなきゃ食事だ」

「サインして帰っていいよ」王鐘もお爺さんの長居は想定外だった。

証人たちは三つ揃い、あるいは胡乱歩くか、あるいは根気がない

王鐘は彼らを教える気などさらさらない。

現場調査報告書を持ってきて署名のページを開き、二人に名前を書いてからドアを開け放ち、「今日見た聞いたことは裁判所や関係機関からの質問以外で口外しないように。

違反したら刑事罰が待っている」

二老人は不満げに「分かってる」と頷いた

王鐘も慣れたように頷き、ドアを閉め戻し、江遠と再びDNAや指紋の拭き取り作業に戻った

トイレの照明は暗いので作業がさらに手間取る

しかし江遠は熱心にこすり続けた。

犯罪現場調査LV4が向上したのは操作技術だけでなく認知水準も含まれていたからだ。

様々な犯罪理論は一つの真理を示している──犯人が現場で過ごす時間が長ければ、やることは多く、露呈する証拠も多い

今回の殺人鬼は犯罪現場を徹底的に掃除し、自分にシャワーを浴びたと見せかけているが江遠の解釈では、それこそ素人気質と過剰な自信の表れだ。

現代のDNA技術なら汗から個人情報を特定できる。

短時間でトイレを完全に清潔にするなど不可能だ。

少しプロフェッショナルなら少なくともトイレをビニールシートで覆い、そのまま持ち去り埋め立てたり焼却したりすれば漏れる証拠は少なかったはず

ただその場合現場にはテープや粘着痕が残るかもしれない……江遠も正直どこに殺人鬼のDNAがあるか分からない。

彼は若いし体力があるのでとにかくこすり続けた

擦る

擦る……

江遠はまだ初心者向けの興奮期にあり、犯罪現場検査レベル4スキルを手に入れたばかりだったが、実際に検査したのは眼前の一件だけだ。

当然のことながら、あれこれ試して練習していた。

現場検査のスキルにおいては技術固然是重要だが、細心さも欠かせない。

一方で体力・精力・集中力といった能力はさらに上をいく鍵となる。

薛懷義が武則天から失寵したのは、彼の経験と技術が増しすぎたからでは?明らかに違う。

同様に張氏兄弟も若く無謀で感情的だからといって失宠するわけがない。

王鐘が不足している点はそれだけではないが、彼は疲労感はあるものの江遠の熱意に引っ張られて何とか耐えている。

特にトイレの天井と角を丁寧に拭き始めた江遠は、逆に後ほどさらに丁寧に、確信を持って作業を進めていた。

この家は水回りが分離されておらず、トイレの面積も狭いため、シャワー時に水滴が壁や天井に飛ぶ可能性は高い。

短時間で完全な清掃ができるわけでもない。

問題はDNA採取できるかどうかだ。

血痕は洗い流されたり破壊されるかもしれないが、すべてのDNAを消去するには外行では不可能だった。

一般人が計画的に殺人をする場合、通常は関連スキルを事前に学ばない。

学んだとしても熱心に真剣に習得するとは限らない。

そのため、熱心で真剣に習得した警官がその人物を見つけ出すのは当然のことだ。

夜が更けると江遠と王鐘は荷物を持って警局に戻り、DNA実験室へ直行した。

現在ではDNAを直接犯罪解決に活用するケースが増えているため、警局の投資も増加傾向にある。

貧しい県である寧台でも補助金や政策の支援を受け、省庁が定めた基準通りにDNA実験室を設立していた。

この部署は警局の金食い虫だ。

3人編成の実験室だが、年間で警局予算の10%以上を消費し、度々増強される必要があった。

しかし王鐘が想定外だったのは、DNA実験室が大量の証拠袋を受け取っても異論を唱えなかったことだ。

彼らは江遠と王鐘が提出した生物サンプルを丁寧に検査することさえしなかった。

「DNAのベテラン警官がどうしてこんなにも好都合になったのかな」と言いながら、王鐘は江遠と共に法医事務室へ向かう。

その部屋では午後も終わっていなかったのか、吴軍はまだ資料を整理していた。

目をこすりながら立ち上がった吳軍はゆっくりと続けた。

「午後の時点で大隊長が怒っていたようだ。

問題は手掛かりがないことだ。

DNA実験室は貴重な時間を過ごせないからこそ、検材を送ってきてくれてありがたいんだ」

江遠は笑いながら返した。

「夜中まで働かないと無駄にしているのか?」

「大隊長も家に帰っていないよ」吴軍が答えた。

「何か見つけてくれないと、彼ら自身が再現現場調査に出動する羽目になる」

王鐘は江遠を見やりながら感嘆の声を上げ、「彼らが行っても無駄だ。

俺が言うんだから……一般の案件ならまだしも……」と続けた。

吴軍は王鐘の話を遮って言った。

「貴方だけがそう思うんじゃないよ」

「うーん……」王鐘は返す言葉もなく、自分の事務室に戻った。

江遠は満足げに机を片付け、そのまま法医事務室で行軍用ベッドを展開した。

騒音が一晩中続くと、徹夜勤務の警官たちも目覚めてしまうだろう。

「DNA検査で一致した人物が見つかり、劉隊長が連行に来た」

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