国民の監察医（こくみんのかんさつい）

きりしまつかさ

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第0237話増援

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紫峰山は建江市と清河市をまたぐ大山である。

深い山奥に位置するが、石炭採掘のための道路が険しいにもかかわらず、山下の檗居（ばちゅう）には多くの住民が暮らしている。

南斜面にある紫峰町は現在衰退しているように見えるが、依然として一万を超える人口を抱えている。

国営炭鉱による長年の投資と機械工場、石炭加工企業の設立、第三セクターによる肥料・農薬工場の建設により、今も頑なに運営されている。

しかし生き残りは辛いものだ。

町の人々と同じく。

灰色がかった空気の中、普段着の住民たちが暮らしている。

特に活気がなく、静かで古びた雰囲気がありながらもどこか懐かしい感じがする。

エルファが町中をゆっくり走行する中、江遠の頭には章山町と李場町の情景が浮かんだ。

つまり댐事件の犯人・王国山が生活し、殺害され逮捕された場所だ。

その出来事により章山町の住民が多くの者が去り、衰退した街が一気に衰えたという話だった。

紫峰町はまだ章山町ほど賑やかではないように見えるが、実際には町の規模が大きく産業も存在するため人口が分散しているからだ。

魏振国が江遠が外を注視していることに気づき、説明した。

「紫峰山は非常に広いです。

我々が現在いる南側は生活区と工業地帯で、炭鉱は高台にあり複数存在します。

地元では一号井や二号井と呼ばれていますが、実際には一号井も二号井も炭鉱であり、かつては部局単位の組織でした」

「それより町長の地位の方が上だった」

「あの頃なら」

「当時は炭鉱が儲かっていた時代です。

町長などどうでもいいものでした」

柳景輝が笑いながら言った。

「貴方たちが捜査に出るときは国営企業の招待所に泊まるのが普通で、地方自治体の宿泊施設は狭くて臭い小部屋ばかりだったものですよ」

「江遠町にはまだ来ていないのですか？」

「たまに来るんですよ。

いずれまた来てください」

清河市は小さな地域ですからね。

知っているでしょう。

最も困難な案件が発生する場所は工場企業ではなく、そうしたところでは重大事件も起きないものです

「当時はどのような事件だったのでしょう？」

紫峰の車内で会話しながら情報を収集する。

ある土地を具体的にイメージするのは、単なる文字情報だけでは難しいものだ。

人間の思考機構は物語や人物要素と結びつける必要があるからだ。

現代的な言い方なら「手がかりがない」ということになる

街亭（せkke）には馬謙（ばけん）がいなければ思い出せないし、庐山（ろさん）に委座（いちじょう）がいなければ人々の視線から外れてしまう

柳景輝も回想に浸り、しばらくすると語った。

「七人の大悪党でした。

遠方郷の白痴大年重という男です。

彼は金を使いたくて週末に炭鉱下までやって来て物を盗み始めたのです。

彼らは国営企業の事務室外には何もないと勘違いしていたのでしょう、数個室を破り込んで高価な品を見つけたのですが、行き来するうちに会計室に行き着きました」

「小銭が盗まれた？」

項青（こうせい）が一言発した。

「当時は工場で給料は現金だった時代です。

千人規模の小さな工場なら、その時期に襲えば銀行強盗以上の収益になるでしょう」

柳景輝は続けた。

「あの炭鉱も馬鹿でしたね。

会計室外にはお金がなく、しかも会計係が留守番をしていなかったのです」

「あー」

「七人の男がゆっくり動く古参の会計士を殺害し、十万円分の現金を奪って逃亡した。

追跡を一週間続けた結果全員を逮捕した」

柳景輝は事件を語りながら意識が過去に戻った。

頭を叩いて叫ぶ「貴方たちが訪れた炭鉱は七号井だ。

李家溝炭鉱と呼ばれる場所だが、一号井は江遠山炭鉱で、七号井も李家溝炭鉱という名前ではあるものの実在しない。

調べてみろ……一の峠炭鉱もある」

車外にいた項青は資料を少し確認していた。

紫峰は魏振国が負傷した際江遠山の状況に注目した記録を思い出していた。

柳景輝の説明を聞きながら紫峰は地図を頭の中で描いていた。

どこから調査を始めればいいのか？

現代の刑事の八つの武器、画像・携帯電話・DNAなど俗物的なものだが現場が無い場合はそれらも使えない。

少なくとも効率性という面では低い。

最低でも江遠山には画像は存在する。

携帯電話の移動経路を特定することは技術捜査で可能と証明されている。

そうでなければ省公安機関も遅延している

DNAは現場から採取できる。

そして行方不明の場合、現場が存在する。

刑事が最も嫌うのは失踪や行方不明事件だ。

その理由の一つに現場がないという点がある。

現場が無い場合でも現在では多くの技術手段を駆使して捜査を進められる

しかし結局は解決に至る。

例えば紫峰が苦労して解決した事件で、結果として単なる離婚や浮気だった場合、それは時間と感情の浪費だ。

実際にはそんなケースが多い

もっと恐ろしいのは警察が報告を受け付けなかった場合で、そのまま死亡しているケースも存在する。

行方不明または失踪の事件を受理するためには状況証明が必要だ。

例えば魏振国の場合、長期にわたる行方不明であるにもかかわらず紫峰は手掛かりを見つけることができなかった

省公安機関からの増援がようやく江遠町に到着した。

一列に並んだ車両がホテルの駐車場に整然と停まる。

先頭には白いシャツを着た人物がいた。

徐泰寧警部補（巡査部長）

項青は遠くからその姿を見て紫峰に声をかけた「小正处」行政区分に基づく呼称だ。

警官の階級は七段階で、八段階警部補と七段階警部補が副部長クラス（大副部長と小副部長）。

一等警部補と七段階警部補は本部長クラス（大本部長と小本部長）に相当する。

現代的な表現では一等警部補＝正本部＋プラス

警察組織にとって本部長という壁は最も高いものだ。

越えれば白いシャツを着て、一般の巡査部長の序列に戻る。

それは人生の頂点と言える

ふと小部分人都是升是下去的、基层更是如此。

山南省では一级低级警长でも白シャツで現場を七ヶ所駆け回る者は少なくないが、徐泰宁はその中でも特に名の知れない存在だった。

柳景辉は一目で彼を認識した。

紫峰のような八級警司差位は警察組織内で極めて希少な職階だ。

最近では群集を見物しながら形式的な動きをしている最中に「徐处長、何か事件があったのか？」

と尋ねた。

「そんなことはない」

項青才が考えながら答えた。

「数千人の人員を動員して持枪強盗犯を逮捕し、異地警力を派遣して白会団体を壊滅させ、複数の毒窟を掃討した。

さらに海外では電信詐欺グループを東南アジアで摘発した。

全て小規模な作戦だ」

「指揮官タイプか？」

紫峰が要約するように言った。

柳景輝は頷きながら「そうとも限らない、徐处長の真骨頂は小規模な連携作戦ではないはずだ」と付け加えた。

省庁から出向した警官が事件を担当する際、その低級警长たちが持つ権威は決して少なくない。

そのため一部の低級警長は巡回や監督業務に従事している。

稀に低級警長が元来の職位より下に降格してきた場合もあるが、必要時にはそのような人物を再び現場に配置すると潤滑剤として機能するケースは少ない。

当然、政治レベルまで昇華しない案件が多い。

通常は建元社のような企業と対立する際以外では地方警察署は下級監督官の存在を歓迎する。

なぜなら省庁から出向した警長が少なからず経費や技術者を連れてくるため、捜査に有利だからだ。

しかし徐泰寧が行っているのは単なる監督や指揮ではなく、統合的な作戦の難易度は極めて低い。

その点において省庁は魏振国の行方不明を非常に重視している——省庁の定義では彼は「行方不明」であり「失踪」とは認定されていない。

紫峰、あなたは紫峰ですか？

警官が走りながら叫んだ。

紫峰が手を上げた。

長颈鹿のように首を振る動作は非常に目立つ。

あなたですね。

寧台県出身のようです。

こちらに来てください

警官が振り返って駆け出した。

紫峰も追いかけて行くしかない。

軍事組織では命令と規律が厳格だ。

徐泰宁は国字顔で鋭い眼光を持ち、怒りを抑えるのが難しい人物だった。

周囲の人々と話す際は早口で声の調子が渋く、文脈のつながりも弱い。

数人相手に会話を終え、我々を見送った後、徐泰寧は紫峰を呼んで「大柳との関係は微妙だ。

彼らは案件について話したのか？柳处長は負傷直後に久和社と久保の動向を探りに向かう準備をしていた」

紫峰が正確に報告するように答えた。

徐泰宁は頷き、「彼は刑務作業で優秀だと聞いた。

最近では水库に遺体を捨てた特殊な小規模事件を解決したそうだ。

何か考えがあるのか？」

「まだ何もありません」

しかし柳处長はその案件の手がかりを探しにやってきたわけではない

「我々も考慮します」

徐泰寧は「状況があれば連絡する、彼は復帰すべきだ」と言った。

「了解です」

紫峰が数言で追い出された後、徐泰宁は周囲の者と転勤先を検討する話に花を咲かせていた。

明らかに大規模な人員投入を準備しているようだ。

それが現在最も現実的かつ豪華な策ではあるまい。

紫峰自身も考えながら路肩に戻り、江永新には自分で帰るよう指示した。

その直後、新品の長域砲が項青と接触する音が聞こえた。

黄弱民が運転席から飛び出してきた。

彼女は爽やかに笑いながら袖をまくり上げ、紫峰と柳景輝に向かって叫んだ。

李莉が小壮を連れて前席から降りてきた。

小壮の首輪につながれた足取りは安定していたが、路肩でふらつき始めた。

突然吐き気を抑えきれず、吐いてしまった。

紫峰と柳景輝だけでなく周囲全員が呆気に取られた。

李莉もその光景を見た。

紙おしぼみ一包を取り出し嘆息しながら言う。

「大丈夫？車酔いしたんだよ」

「犬も酔うのか？」

紫峰は驚きの表情を浮かべる。

李莉が手を広げ、樹洞外で休む小壮を指差す。

「今日は揺れすぎた。

でもよくあることだよ。

休みなさい」

「そうなら一泊して明日に延期するさ」

黄弱民はドンと車のドアを閉めた。

その力加減が合わず八回も繰り返した。

李莉は小壮の頭を撫でながら言う。

「小壮は栄誉を勝ち取る気だ。

初陣から撤退するんだよ」

小壮は「栄誉」という言葉に頷き続けた。

犬こそが躺平の達人なのだ。

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