国民の監察医（こくみんのかんさつい）

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第0243話 ゴミ分別 無料閲覧

江遠は自動的に防護服を着用し始め、再び作業に取り掛かった。

二具の死体と一具の死体は全く別の概念だ。

国内環境では一具の死体は通常の殺人事件である。

寧台県の場合、一具の死体が発生すればまず県警本部長と刑事課長が現れ、全員で動員され市警に報告する。

市警が資源を有効活用できる場合、例えば法医学実験室や指紋鑑定などの支援を行う。

法医の人員が多い場合は現場解剖のために臨時派遣することもある。

しかし二具の死体が出た場合、その事件は省公安廳（省庁）に報告されるレベルとなる。

スムーズに行けば良いが不手際に出れば省公安廳から指導班や技術専門家が現地入りする。

つまり一人を殺害した場合と二人を殺害した場合では捜査の難易度は雲泥の差がある。

例えば若いカップルや夫婦を一斉に殺害すれば省公安廳の専門家チームが関与する。

その際、現場の指紋・足跡・血痕乃至動画データなど全て省公安廳技術部門の支援を得られる。

要約すると一人と二人では捜査難易度が天壤の差がある。

さらに三親族を殺害したような滅門惨事の場合、公安部（部庁）の注意が集まる。

地方で採取できない指紋は中央省庁の実験室で容易に採取できる。

専属捜査班と警官が案件レベルによって態度を変えないわけではない。

例えば現在新たな一具の死体が出れば徐泰寧は帰宅を諦め、その事件で何か成し遂げなければならなくなる。

現状では第三具の死体が発生する可能性が高い。

新しく掘り出した死体パックは新しい死体袋に再包装され、牛法医が籠の中に半身を入れて吊り上げた。

旅行バッグの質感は特に優れておらず、水底で何年も埋まっていたため誰も引っ張って運ぶことはできなかった。

さらに吊り台の底部は平らではなく網目の鋼格子構造だったため、法医たちは動きながら死体が損傷する可能性を懸念し、既に分離した死体でもその時点で唯一の手掛かりとなると認識していた。

吊り台が上がると数名の法医が一斉に死体袋を受け取り平板車に乗せ、そのまま清河市へ搬送して解剖開始する準備に入った。

牛法医は全身泥まみれで最後まで籠から這い出された。

江遠が死体と一緒に同行するかどうか迷っていると王藍が呼び止めた。

「江遠、まずは現場検証を」と王藍はリーダーの前で言った。

「江遠の現場検証技術は法医界トップクラスだ。

解剖は他の者が先に進め、あとで見に行くように」

法医も現場検証が必要な場合がある。

特にその環境下では、法医が行う検証と現場調査員が行う検証は少なからず異なる。

江遠も意見を述べた。

「それなら君に任せる」

「大変だったね」徐泰寧は珍しく空き時間を作り、慰めの言葉をかけた

葉梁が笑いながら王藍とさらに坑道底へ向かった。

約10時間近くかけて坑道内の泥砂はほとんど除去され、コンクリート片も数個引き上げられた。

この小型の大型ダンプトラックはゴミを運びながらうなるように作業していた。

数十メートル下からの水圧でゴミが固まり、板状に一体化したため、掘削が困難だった。

王藍が江遠が上がってきたと見ると新たな区域を指示しつつ大声で言った。

「彼は外の遺体は柳景輝が犯したと言っているのか？」

紫峰山事件に関わる葉梁の供述は曖昧そのもの。

それが王国山が調査を止めることになった理由の一つだった。

「もしも彼女が共犯者でないなら……」葉梁はため息をついた

「タイヤ刺し傷の件か？」

王藍は即座に思いついた

「そうだ」

「タイヤ刺し傷の一件は単なる共犯者の可能性もあるかもしれない。

」王藍は類似事件を思い出していた

少人数殺人犯と欧米で描かれる連続殺人鬼は本質的には同じものだ。

多くの殺人犯は何かの利害関係から殺すため、共犯者を探す必要が少ない。

その場合、共犯者は偶然に見つかる可能性がある。

敵対する敵も友達ではないという概念と似ている

しかし共犯者がいれば、殺人が続くか、秘密を守るために一生悩むこともある

そのようなケースは解決しやすい

江遠は王藍の意図を理解していたが期待される答えを返さなかった

「それは新手だ。

柳課長のタイヤ刺し傷事件は丁寧に調べたはずだが犯人は非常に果断で冷静だった。

もしも当時柳課長が事故死していれば……」

葉梁は一瞬黙り込んだ後続けた。

「交通事故による火災や、現場が犯人の意図通りなら、再び放火した可能性もある」

王藍は急いで頷いた「つまり別の殺人犯と関連するのか？」

「柳景輝はまだ服役中だ。

私一人でまた事件を起こすことはできないし、他の共犯者もいない」江遠はそう言いながら続けた。

「だが君にその件を担当させれば葉梁の事件と結びつけるだろう」

「なぜ？」

王藍は興味津々だった「類似事件は解決策になる場合が多い」

「柳課長も並案化を考慮したはずだ。

私も短期間で解決できる自信がある」江遠の答えも同様に明確だった

紫峰町に来てから江遠が無意識に選んだ王国山の視点は、彼自身も気づいていなかったほどに類似していた。

江遠の記憶外では王国山の推理能力は極めて高い。

自分が一ヶ月かけても解明できなかった案件を、王国山は自分の思考路線で再検証すれば、暗号破読やヒントによる修正を考慮してもやはり一ヶ月程度で解決に至るだろう。

その案件を解決するためには江遠は「もう待てない」と感じていた。

現在最も急務なのは王国山の所在を特定することだった。

生者か死体を見つけることさえあれば、行方不明よりはマシだ。

江遠と王国山の手法は根本的に同じであるため、証拠に従って進むだけで辿り着けるはずだった。

並行捜査が試されるのは推理分析能力を測るからであり、それが江遠の得意分野でもあった。

王澜は葉梁の思考過程を部分的に理解していたが完全には同意できなかった。

しかし案件の責任者である徐泰寧が法医チームを指揮している以上、二人の会話は新たな突破口を開く可能性があった。

彼らは坑道を掘り進め続けた。

廃材や建築ゴミが次々と現れる中、夜間になってようやく小型のミニユンボが送られてきたことで作業速度が若干向上した。

その時灰色のビニール袋が発見された。

「待ってください。

取り出さないでください」江遠は遠目に確認してゆっくり近づいていった。

次の遺体袋が掘り出される際には、外側に装着されていることが明らかになり、周囲の人々もその推測を共有した。

専用のカメラで撮影する必要はない。

江遠は遺体袋と廃棄物の位置関係から熱心に分析し「廃棄物も写真に収め位置を特定しておこう」と述べた。

王澜が即座に反応した。

「そうですね、廃棄物は同一批で埋設された可能性があるため、これも検証対象です」

現在遺体そのものを見つけていないものの、前線からの情報によれば死者の身元を特定する情報は極めて少ない。

しかし死亡少年の身元を確定するのは非常に困難な一方で、身元が判明した遺体の割合は非常に大きい。

刑事事件での身元認定率に関するデータはないが、逆にその難易度を示す側面がある。

ある地域の万人塚では人類学者チームが特定区域の住民のみ対象とし検証を行ったが、それでも高い確率で失敗したという事例があった。

現場の法医たちは身元認定に役立つ要素を一つでも減らすことは不可能だった。

江遠は新たなゴム手袋を二重に装着して廃棄物の分析を始めた。

以前の拾荒老人事件で習得した「ごみ分別（LV4）」スキルを使い始めるが効率は低かった。

周囲の法医たちは証拠品の識別能力に優れていないものの、江遠の動作を見ているうちに次第に後ろについてくるようになった。