国民の監察医（こくみんのかんさつい）

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第0320話 親子

「一等功！お前は皆を置いて行ったじゃないか」長陽市刑捜の立功王・馬次郎洋は三次二等功という突出した実績で同年代に匹敵する者がいない。

だが一等功は獲っていない。

江遠が謙遜に答える。

「まさか一等功を取れるとは思ってもみなかった」

「どうして思いもしなかったのか、お前が解決した事件の一つや二つやで一等功をくれないなら、我々三等功組はどうなるんだ。

お前こそ一等功を獲るべきだ」

馬次郎洋は今度は三等功しか得られず江遠と会った時から冗談めかして言い出した。

江遠が笑う。

「馬大隊長の過剰な褒め言葉には恐縮です。

いずれ機会があれば協力したいですね」

その言葉は先ほどのものより少し大きかったが馬次郎洋は瞬きもせずに「当然だよ、我々大隊の実力は常にトップクラスさ軍功章を見れば分かるだろうな」

胸を叩く音が59戦車に装甲板をぶら下げたように響いた。

彼が今度三等功しか得られなかったのは妻がいなくなったことで実力が低下したことを示していた。

古来より家賃を払える程度の住宅を購入できる兵士こそが最強の兵士だった

「江遠！」

記者が通りかかった。

カメラを取り出し江遠に撮影し始めた。

さらにインタビューも要求する。

馬次郎洋らは羨望と嫉妬で笑いながら去った。

これは一等功の特典ではなく、若い巨匠江遠の特別待遇だった

江遠は記者を数言で追い払い出て行ったがまた止められた

余温書が呼び寄せたのは何トンもの記者たちで会議中は見栄え良く立派だが自由取材時には江遠らが不満を感じるほどだった

江遠は電話をしているふりをして緊急案件の口実を作り出てきた

車に乗った途端にようやくほっとした江遠はスマホを取り出すと微信とメッセージが数百件、未着電話も数個あった。

微信には私信以外で最も多かったのは江遠を祝うグループの紅白封筒（中国式電子年賀状）だった。

江富鎮が全世間に配るような勢いで送り特に「一家和楽」という家族グループでは彼の紅白封筒が半分近くを占めていた

普通の江家人は家賃に困ればこの機会を活かして本気で紅白封筒を争えば豊かな年越しができる

私信での紅白封筒も何画面分にもわたってあり江遠は手帳を取り出して記録し始めた

長陽市年度表彰大会

収入:一等功賞金2万円。

父の手土産1000円（息子が大きくなったから好きなものに自分で選べるように。

家賃以下なら私が負担する）。

おじいちゃんの手土産6666円（小遠は凄いね）。

三伯さんの手土産6万6千円（多額だと村役場で監視カメラ代を後日請求するから、この余分な部分は相談料として叔父に渡すように）。

三大伯さんの手土産1万円（江家はいつまでもあなたが頼りになる家族だ）。

花婆さん1万円（体調崩さないでね。

あなたがリーダーになったと聞いて、単なる戦士じゃなくてチームをまとめつつ無事に帰ってきてほしい）。

五伯さんの手土産5千円（お前は本当に立派になったな）、六婆さんの手土産3千円（頑張り賞）、七婆さん同様3千円（頑張り賞）、八婆さん2千円（頑張り賞）、九婆さん2千円（頑張り賞）。

江遠のノートが指を痛めながら書き進むと、後ろには途方もなく続くメッセージが。

例えば六婆さんが二度送ったもの：

六婆さんの手土産1万円（婆さんは読み字が少ないので一等功の凄さに気付かなかった。

本当に凄い！）、七婆さん同様1万円（お前さんが家で一日中話していたから、もう一度補ってあげる喜びを分けてほしい）。

二十一婆さんの手土産3千円＋6千円（最初は戦靴を買ってやろうと思っていたが、結局は手土産にした。

自分で備えもしておいた方がいいよ）。

今回は今までと違って、ほぼ全村から江遠へ手土産が送られたようなもの。

ただし個人ではなく家庭単位で送る形だった。

こう計算すると...

江遠は考えながらバッグの中のノートを取り出し、「江村家庭戸」というExcelファイルを開いた。

先ほどの手土産数を再度記入し、スマホに戻って一つずつ金額を追加していく。

江遠が気にしているのは金額そのものではなく感情だ。

村の人々からの関心と気遣いこそが重要なのだ。

例えば幼少期に百家飯を食べた頃、一皿の米をくれた家と二皿をくれた家は同じくらい大切だったように、今は閉ざした近所でもただ子供の世話で忙しいだけかもしれない。

腰痛めたらまた扉を開き、美味しいものを用意してくれるはずだ。

ただし江村が裕福になった後は規矩も増えてきた。

こうした礼儀正しさへの配慮はみんなが気にするポイント。

誰かがルールを守らないと疑われた場合、その家は訪問者が絶えなくなるだろう。

全ての手土産を受け取った後、さらに二度目の手土産も届けられたことで江遠は体調不良気味だったが、富士町からの電話がかかってきた。

「父さん。

」江遠がパソコンを置いたままドアを開けて車から降りた瞬間、富士町の声はまるで村や家の中での会話のように大きな音量で響いてきた。

「どこにいる？ 同僚と外で祝っているのか？」

富士町の声は電話越しにも迫力があった。

江遠はスマホを離して車の前で体を伸ばした。

「今大礼堂の方です。

みんなが仕事場へ手土産を送ってくれたんです。

パソコンに記録しています」

「そうだ、記録しておくべきだ。

あとでメールを送っておくれ。

返礼は返礼としてね」江富町が言い淀みながら、「君が元気になったらこの家に戻ってきてほしいんだ。

僕は君が買ったあの小さな家の下にいる」

「えっ、長陽市まで来たの？」

江遠は驚いたように尋ねた。

自分はまだ二日前まで家にいたはずだった

江富町は鼻を鳴らして、「君が今回一等賞をもらったと早めに言ってくれれば僕も見に来ただろう。

お父さんに祝賀会の観戦を頼むようにと言わなかったのか」

「それは……他の人の親も年老いてるからかな……」江遠はためらいがちに答えた

江富町「お前の父親はまだ若いんだよ」

「まあ、それもあるかもね」江遠は反論せず、「次回からはいいや。

次回一等賞を取ったら呼びに行くわ」

「そっちこそどうも」江富町がぼそりとつぶやいた

すると強舅の声が聞こえてきた「お前たち父子の会話、他の人に聞かせない方がいいよ。

知らない人は吹聴だと勘違いするし、知ってる人には腹立たしくなる」

父子共に笑い出した

江遠が車を発進させると、一刻も早く新居に戻ってきた

駐輪場に箱型トラックが停まっており、強舅と江富町は下見店の看板を見ていた

トラックの運転手であるためか、仲介業者は江富町を無視してしばらく眺めていた。

江遠を見てようやく「あーその家小さいから野菜倉庫を作らない？いや、まあいずれにせよ……牛一頭、羊一匹、鶏と鴨と鹅も少し……友人達を呼んで食事会を開いてくれないか」

江遠は父親の真剣な口調を感じ取り冗談ではないことを悟り、トラック後方に目をやると確かに生肉の牛、裸身の羊、尻尾が凶暴に見える鶏と鴨と鹅が入っていた

「まあ……」江遠は慣れたように頷き、「明日にしよう。

食事会を開く」

「明日ならいいよ。

手伝えるかもしれないからね。

休み？」

「今はチームビルディングも仕事時間だから、そうでないと怒られるわ」

「あー大鍋はあるのか？」

江富町が尋ねた

江遠は首を横に振った「僕はあまり料理しないんだ」

「そうか……大锅がないと手が出ないな。

電話をかけるよ」江富町はスマホを取り出し、郭厨に連絡した。

「オサカナさん、明日出張してきてください。

あー……僕の息子が長陽市にいるからね。

人数分用意してくれればいい」

江遠も王伝星に電話をかけた「明日仕事来て。

僕の家でチームビルディングするから住所を送るわ」