国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

文字の大きさ
333 / 776
0300

第0361話 まず話し合い

しおりを挟む
「犯人が庭に足跡を残した可能性はありますが、写真から見るとその痕跡が乱雑で、その後に侵入した村民や公務員が現場を破壊してしまったため分析が困難です。

再調査が必要ですが、有用な手掛かりがあれば回収できるかもしれません」

「窓やドアの損傷は見られませんが、実際の状況を確認しないと判断できません。

加害者が主人との打撃現場であるリビングルームから侵入した可能性が高いと考えられます」

「犯人が侵入し脅迫し主人が抵抗した後殴打され、階段下の老人部屋に運ばれた過程は迅速だったと思われます。

床に散らばる血痕からその速度を推測できます」

「被害者の足跡からは頭部損傷後に転倒しようとしたことが分かりますが、その後再び攻撃を受けたとみられます。

二度目の打撃は鉄槌によるもので、壁からの飛び散った血痕から犯人の身長が180cm以上、体重も重く経験豊富であると判断できます」

「加害者の狙いは頭部を攻撃する点から、殺人を計画していた可能性が高いです。

生存した赤ちゃんは脅威を感じなかったのでしょう」

「押し入れの捜索など犯人の行動から、最終目的が金品奪取だったと考えられます」

「現場からは有価な指紋や防御傷のDNA検出ができず、足跡も不完全で断片的です。

これは加害者が経験者であることを示唆しています」

江遠は一気に情報を列挙し、隣に座る唐佳は自動的にメモを取っていました

江遠が血痕分析学と足跡の知識を駆使して証拠を整理すると柳景輝の思考も徐々に明確になりました

「被害者の外側ドアが開いていた可能性があります。

加害者はそのまま侵入し、リビングルームで主人と遭遇したのでしょう」

「主人は殺害されるとは予想していなかったため、犯人と深い因縁や債権関係ではなかったと考えられます」

「上の階の老婦人や長男・主婦たちは打撃音を聞かず日常業務中だったのでしょう。

突然の侵入者に襲われたのです」

「彼らは最初殺害するつもりではなかったが主人の抵抗で誤って主人を殺し、その後一不做二不休で家族全員を殺したのか?あるいは最初から殺人を計画していた可能性もあります」

柳景輝と江遠が協力して犯罪現場の情景を描き出すも、単に写真だけではここまで分析する限界です

唐佳は数ページ分のメモを埋め尽くしました

「見てみよう」柳景輝が手を伸ばし、再び確認した後、江遠が言った『犯人は身長180cm以上で体重も重く、ハンマーの扱いに慣れている』という記述を線で囲んだ。

「まずは赤雍市に送ってみよう。

彼らは興味を持つだろう」

「了解だ」江遠はLV5の血痕分析とLV3の足跡学を組み合わせた解析報告書を提示したが、省庁レベルの専門家が出てもこれ以上の精度には至らないと説明した。

実際、血痕分析に実戦経験を持つ専門家は極めて稀で、その中でも赤雍市から借りられるほどの人材はさらに少ない。

柳景輝は推理派の刑事だが証拠や手がかりを重視するタイプであり、江遠の犯罪現場再現技術には特に興味を持っていた。

「まずは犯罪現場の再現をやってみよう。

その後現場に行って続きを進めればいい」

赤雍市。

窓辺に植えられたハーレンカズラは生命力が強く、タバコの吸殻が寄せ集められた花鉢から優雅な香りを放っていた。

袁奔はファイルをfaxし写真を送信した後、王伝星たちの手続きを手伝い終えた。

ハーレンカズラのそばでタバコに火をつけながら、彼は江遠の身分が確定した後の変化について考えていた。

刑事にとっては専門家は至宝だが特に実務で活躍する技術者となるとさらに希少だ。

各省を合わせても数えるほどしかおらず、省内で名を馳せるほどの人物も限られる。

王伝星がノックして部屋に入ると「皆さんいますか?」

と笑顔で尋ねた。

袁奔はタバコを吸いながら頷き、王伝星は彼の位置に近づいて煙草を渡した。

「お世話になりました。

手続きもほぼ終了です」

「問題ないよ」袁奔は笑みを浮かべた。

「本当に助かりました。

でも貴方の業務に影響が出ないようにね」

「小役だが、全滅事件はチーム全員の仕事だ。

今日は本来出勤しなくてもいい日だったんだ。

局長が指揮を執り支隊長も現場にいるから従うだけさ」袁奔は手を振った。

実際、彼の業務の一つは専門家との連絡であり、王伝星を通じて江遠と接点を持てるなら喜ばしいと思っていた。



ふとそう思った袁贲は低く言った。

「正直、この案件、一歩も進んでないんだ。

だから人を出すにしても、調べに行くにしても意味がない。

なぜなら、手がかりがないからだ」

袁贲は肩をすくめた。

「我々は先日近所の住民を全部調べた。

村中を回ったけど、何も見つからない」

王伝星は懐かしくもあり理解もしたので笑みを浮かべた。

「分かるよ、以前にもこんな状況があったんだ」「以前?」

「江隊に付いてからは減ったんだよ」王伝星が笑って言った。

「江隊はまず手がかりを絞り込んでから人を出すんだ。

大勢で捜索するなんてほとんどしない」

袁贲は軽く笑い、王伝星の話を三割程度信じた。

たまに楽な案件があることもあるけど、大部分はそうじゃない。

特に積年の未解決殺人事件となると、楽なものなどない

話している最中に王伝星のスマホが鳴った

王伝星が電話を取ると笑顔になった。

「江隊から分析があった。

メールで送ってきたので待ってろ」

「どんな分析?」

袁贲は興味津々だった

すると王伝星は画面を見せてきた。

短い一文にこう書かれていた。

『血跡の分析と足跡の判断から、犯行者の一人は身長180cm、体重が重く、ハンマーを巧みに扱う特徴がある』

いくつかの要素が袁贲の喉を渇かせた。

まだ広い範囲ではあるものの、未解決殺人事件以来、非常に貴重な手がかりだった

「これは江遠江隊による犯人のプロフィールですね?」

袁贲が尋ねた

王伝星は首を横に振った。

「プロフィールじゃないよ。

江隊も血跡の分析と言っているんだから、壁に付いた血滴などを見て判断したんだろう」

「ああ、我々の技術員も似たような分析をしているけど確信はない」袁贲が微かに首を傾げた

赤雍の専門捜査班が抱える問題の一つは、収集する情報が多すぎて手がかりを抽出できないことだった

王伝星を見ながら袁贲はためらいがちに言った。

「これが江隊の判断なら報告書にまとめる」

「江隊がやったんだから上げてみろ」王伝星も頷いた

袁贲がうなずき、電話を取って立ち上がった

しばらくすると袁贲が喜々しく戻ってきて王伝星に言った。

「我々の支局長は貴方たち江隊と話したいみたいだ」

「こちらも黄局から許可が出ている」王伝星も笑みを浮かべた

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】『80年を超越した恋~令和の世で再会した元特攻隊員の自衛官と元女子挺身隊の祖母を持つ女の子のシンクロニシティラブストーリー』

M‐赤井翼
現代文学
赤井です。今回は「恋愛小説」です(笑)。 舞台は令和7年と昭和20年の陸軍航空隊の特攻部隊の宿舎「赤糸旅館」です。 80年の時を経て2つの恋愛を描いていきます。 「特攻隊」という「難しい題材」を扱いますので、かなり真面目に資料集めをして制作しました。 「第20振武隊」という実在する部隊が出てきますが、基本的に事実に基づいた背景を活かした「フィクション」作品と思ってお読みください。 日本を護ってくれた「先人」に尊敬の念をもって書きましたので、ほとんどおふざけは有りません。 過去、一番真面目に書いた作品となりました。 ラストは結構ややこしいので前半からの「フラグ」を拾いながら読んでいただくと楽しんでもらえると思います。 全39チャプターですので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。 それでは「よろひこー」! (⋈◍>◡<◍)。✧💖 追伸 まあ、堅苦しく読んで下さいとは言いませんがいつもと違って、ちょっと気持ちを引き締めて読んでもらいたいです。合掌。 (。-人-。)

処理中です...