国民の監察医（こくみんのかんさつい）

きりしまつかさ

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第0381話車庫検証

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新築の車庫は明るく清潔だった。

この車庫は江村人専用で、高い天井と広い駐車場面積を誇っていた。

江村人が好む車や踏んだ跡が、実物としてここに展示されていた。

「七叔以外に誰か車庫に入った者は？」

江遠は頭巾と足袋を着用し、マスクと手袋を装着しながら尋ねた。

小さな事件でも、一つの手順も省略できないのだ。

江富鎮が考えながら答えた。

「三叔と村役場の人たち、お前のおじいちゃんたちが見に来たほか、三爺は孫を連れて散歩中に一度訪れたはずだ。

若い衆たちは酒を運ぶ手伝いに来たり、通りかかった人間も何人かいたようだ」

江遠は無言だった。

「牧志洋にリストを作成して」

「監視室の奴らが作ってくれる」

江富鎮は息子の指示に煩わしさを感じた。

「誰が出入りしたか、彼らは全て把握している。

彼らに訊けばいいんだ。

早く帰って鍋を返す必要があるからな。

今日は鴨の煮物を作ったし、牛肉の肋骨も入れてある。

豆腐と腸詰も煮込んだ。

あと一品、牛脂たっぷりの鍋料理を作ろうか。

若い連中は野菜をつけて食べられるようにするんだ」

一般的な証人でも、そう簡単に帰れるものではない。

しかし江富鎮がそう言い放った以上、江遠は何も言えなかった。

ただ「おやじさん、ゆっくり歩いてください」と丁寧に言った。

「分かった」江富鎮は手を振りながら新参の老人たちに紹介した。

「マスクをしているのは江遠だ。

今日は老七の事件で来ているんだ」

「老七も死んだのか？」

新しい老人が状況を掴めない様子だった。

「違いますよ、元気です。

老七は酒数箱を失くしたから、お前たちに捜索してもらいたいと言ったんです」

「老七は頭をなくしたんじゃないのか？これだけの人数が集まっているんだぞ」

老人はそう言いながらも興味津々で近づいてきた。

大半の人間は見物に来ていた。

節日前、中国人の血は錆びたように動かない人々が続々と階段を下りてきた。

監視室の項庚が駆け寄ってきた。

細身の彼は黄ばんだ指先と歯を見せて「後現代的なタバコ男」のような風貌だった。

江遠は再び名前を聞いた。

「コピー版の映像は？」

「持参しました」項庚はノートパソコンを開き、盗難の過程を再生させた。

「七叔が来たときから整理し始めました。

私は逆に調べています。

この男は約三日間連続で窃盗を行っていたようです」

「三日も？」

「はい。

初日一箱、二日目二箱、三日目二箱です。

七叔が昨日気づいたらしいですが、今朝は来ていないみたいですね…」項庚は手を広げた。

被害者が悟りの境地で、窃盗者もそれほどでもない。

江遠はノートパソコンに映る監視カメラの映像を見ながら、犯人が残した可能性のある指紋やDNAの痕跡を探し、ライトで照らしながら「建築作業員なら知っている人もいるはずだ」と尋ねた。

「雷という名前の人を老雷と呼んでいるらしい。

本名は王雷かもしれないが確信はない」項庚はため息をついた。

「この男は工頭が建築市場から連れてきた人で、身分証明書も取っていなかった」

寧台県のような小さな田舎町では、建築や建設業界でも相当数の日雇い労働者が存在する。

働く意欲がある者やその日の仕事がない作業員は、慣例的に決められた場所に看板を立てたり足を組んで待機したりする。

需要のある工頭や個人で請け負う建築主は直接声をかけたり価格交渉したりして合意すれば働かせる。

この方式は契約書も身分証明書も必要としない。

工頭や建主は姓だけ聞いて「〇さん」と呼んで作業を始めるのが普通だ。

労働者同士が知り合いかどうか、具体的な情報をどれほど把握しているかなどは不確かなものだった。

江遠は理解したようにうなずき「まずは指紋から調べてみよう」と言った。

これが殺人事件なら江遠は建築市場や周辺の小さなホテルなどに捜査を拡大するだろう。

現代では身分証明書が必要な場面が多々あり、交通系ICカードすらも例外ではない。

さらに比較的規律正しい会社が請け負うようなリフォーム業者なら身分確認を求めることもある。

結局のところ広範囲な捜査をすれば老雷の正体は判明するか、あるいは逃亡犯や前科者が見つかるかもしれない。

しかし明らかに江遠は七叔のために数ケースの酒を探すために数百人規模の捜査を動員するつもりはない。

彼はもうこの探偵作業に慣れているのだ。

彼至って工頭たちに問い合わせる人員も派遣しない。

二人一組の警官が一人を尋問するのに平均二時間かかるため、犯人の身元を特定するまで何人もの捜査が必要になるかもしれない。

江遠は指紋・DNA・映像で解決しようとしている。

他の警察官たちは現場に来ていても手を貸せないようだ。

現場検証が江遠の専門分野だから、王伝星らは車庫に入り込んで彼の作業を邪魔するだけだった。

柳景輝はなおさらのこと、犯人の顔写真が15インチの画面で14.5インチほど大きく表示されている。

それを撮影して指紋認証やデータベース検索にかけるなど不可能だ。

そのため来てくれた警察官たちはまるで巡回しているように手を組んだりポケットに入れたりして地下室をうろうこしていた。

根本的には彼らは現在の江村の人々と変わりなかった。

現場には叔父さん・おばさん・甥っ子・姪っ子たちが集まっていて、江遠の変わらない作業を見つめながらスマホを取り出した。

写真撮影や動画撮影をする人が続出し、すぐにみんなの友達欄は華麗な競争を繰り広げ始めた：

七叔のガレージが盗まれた。

警察が現場検証に来ていた。

村に小偷が現れたのか、何か事件と関連しているのか分からない。

ガレージから盗難があった後、七叔は姿を見せなかった。

無事でいてくれることを祈るばかりだ。

ガレージの改装業者が関わった事件らしい。

警察が大勢来ていた。

七叔が家から飛び出してきたとき、江村人のSNSは既に拡散されていた。

「肉を煮る間だけだったのに、一体何事か！」

七叔がガレージまで降りると、周囲の者たちを止めて笑いながらも煙草を配っていた。

ガレージ内は瞬く間に煙で満たされた。

「江遠さん、タバコどうぞ？」

七叔が近づこうとしたが、ドア前で止められた。

「もうやめと。

」江遠は体を伸ばしながら言った。

「そろそろ検証も終わるから、ガレージには入れないし、しばらく使えなくなりますよ」

「ここに置いていた酒は正月用だったんだ…まあいいか、追加で買ってこようかな」七叔は少し恥ずかしそうに続けた。

「実は連絡しなくてもよかった。

自分で警察に言えば良かったのに、お父さんが気を遣ってくれたんだ」

「大丈夫だよ」

「お父さんは最近よく話していたわ。

あなたが解決した事件がたくさんあって凄いってね。

この事件も解決したら叔さんから大きな封筒を渡すと言っていたわ」

「いえ、二万数千円の被害額です。

それに刑事として大金を受け取るのは不適切ですよ」江遠は慌てて断った。

江村人が言う「大きな封筒」は違法なものかもしれない。

七叔は笑顔で返事をせず、さらに呼びかけた。

「ガレージの酒を何箱か取り出してみんなで飲むのはどうかな」

「お父さんが準備しているよ」江遠が答えた

「それでは申し訳ない…あとで一盃だけ付き合ってもらえない？忙しいなら早く上がって飲みましょう！」

七叔は昔ながらの農作業中の会話方で江遠と談笑していた。

江村人は徐々に裕福になっていった。

特に最初の土地収用時には現金が少なかったため、四寧山麓の江村全体を現金で買い取ることはできず、村集体が観光地に投資する形を取った。

四寧山の建設と宣伝が進むにつれ、四寧山と台河観光地は全国的に有名になり、江村人の資産も爆発的に増加した。

特に毎年得られる入場料の配当金は驚異的な数字だった。

その後、江村人にも少しずつ差が生まれた。

例えば江富町のように貧乏を恐れた者は資金で事業を起こし、土地や工場を購入して再三の収用を繰り返すうちに資産が膨らみ、最終的には事業に興味を失うほどになった。

七叔のような昔から野心のなかった人々は、江村人の平均的な資産規模で、暴富した後の感情も平準化されていた。

江遠もそんな会話方には慣れていた。

話し合いながら作業しながら、穏やかで調和が保たれた。

ドンと唐佳のスマホが鳴った。

彼女は電話を受けて数言葉聞いた後、顔色を変え始めた。

通話終了後、唐佳が近づいてきた。

「江隊長、こちらから連絡がありました」

「何事ですか？」

江遠の表情が一瞬真剣になった。

まさかまた命案か？

唐佳は言った。

「この辺りの派出所から刑事部に連絡があったんです。

王雷という男が自首してきて、五ケースの酒を盗んだと言っていますが、それ以外には悪事を働いていないと主張しています。

殺人や分身術などもしていないようです。

すでに自首しているとのことです。

私は相手に微信を送り写真を送ってもらいました」

そう言いながら微信を開き、江遠に見せた。

「七叔のガレージから盗まれた酒ですか？」

江遠が尋ねた

「はい」唐佳は頷いた。

「王雷という男です。

この辺りで働いていたと記録があります」

「彼の住所を調べてください。

関係者への聞き取りもお願いします」江遠は指示した。

「分かりました」唐佳が答えた

七叔のガレージから盗まれた酒は、王雷という男によって回収された。

警察が捜査を進めた結果、彼は単にアルコール中毒で意識を失っていたことが判明した。

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