明ンク街13番地

きりしま つかさ

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第0045話「見合い」

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目覚めると、非常に心地よい満足感のある朝だった。

時計を見やると10時半。

普段より3時間遅い起床だが、昨日の過剰な夜生活を考えれば当然のことだった。

ベッドから起き上がり、ルートのベッドは既に空いていた。

折り畳まれたシーツが整然と並んでいる。

洗面所へ向かうと、歯ブラシを手に取りながら鏡を見やる。

最初の頃の違和感は完全になくなり、そこに映るのは若く美しい顔立ちはまるで自分が持つべきもののように思えた。

この家、そしてこの家の全ての人々が自分の家族であるという意識が無意識に植え付けられているようだった。

洗面所を出ると2階へ下りる。

マリー叔母はテーブルを拭きながら曲線美を強調する桃色のスカートを着ていた。

適度な豊かさと成熟した女性らしさが絶妙に調和し、光の薄い被布のように彼女の上半身を包み込む朝日は彼女を芸術作品のように見せていた。

階段でカルンは手すりに頬杖をついて叔母を見つめる。

白いシャツの首元が開き、耳たぶ近くに水気を帯びた髪が揺れている。

純粋な笑みが口角を緩め、全ての視線が欲望ではなく美への憧れで満ちていた。

叔母は背中からカルンの存在を感じ取り振り返った。

階段に立つ甥の姿は、インメレース家伝統的な優雅さと新たな穏やかさが融合した若者の風貌だった。

その様子は誰もが好意を抱くようなものだ。

「遅いわね」

「何か食べようか?」

朝食にはまだ早いし昼前にもなっていない時間帯だった。

カルンはキッチンへ向かい水を沸かすと卵を取り出し、塩少々と砂糖を入れて混ぜた。

沸騰した湯で玉子焼きを作りながら叔父の存在を尋ねる。

「お義父様は?」

「朝食は自分で済ませます」

「今日は福利施設の見学があるんだよ。

朝早くに保ルが車で迎えに行ったんだって。

おじいちゃんはその車に乗って火葬場を見に行ったみたいだ」

「あー」

カレンは碗を手にテーブルへと向かった。

『ロジャーダイアリー』の一面記事は前日行われたデモ行進と、元市長への非難を掲載していた。

印刷は昨晩から済ませていたため、今朝の修正は不可能だった。

しかし全てが今日で変わるだろう。

他の要素はさておき、フォードの失踪だけでも今回の市長選挙に巨大な石を投げ込む事になる。

その影響が元市長にとって有利か不利かは分からない。

もしかしたら「政敵を特殊手段で迫害する」という汚名が市の首長にかけられるかもしれない。

だがカレンはそれを左右できないし、全ての出来事を整理しようとも思わない。

面倒だからだ。

「カレン、ミナの担任教師から電話があったわ。

昼食時に家訪があるそうよ」

「えっ?」

カレンは驚いた。

家訪は放課後や休日で生徒がいる時に行うものではないはず。

今は授業中なのに教師が自発的に来るのはおかしい。

それに昼食時間に客を呼ぶのは、訪問者が食事の邪魔になる可能性があるため一般的に避けられる習慣だ。

「だからおばあちゃんは今日こんなに綺麗にしているのよ」

カレンは笑って言った。

「私は用事があるので外出するわ。

昼食時にミナの教師が来たら、あなたが対応してちょうだい」

「え?」

ミナは成績優秀でクラス委員長。

優等生の家庭訪問は「楽しい時間」のはず。

子供の教育ほど重要な事はない。

自分が中退したとはいえ、インメレーズ家は教育を重んじる伝統があるのだ。

だから…

「女教師?」

「ええ、ユーニス先生よ。

ミナの数学教師だわ」

「おばあちゃん」

「うむ?」

「私はまだ16歳で、正確には16歳に満たないのに、結婚相手を紹介されるのかい?」

「いいや、いいや。

まあ、ユーニス先生は19歳だわ」

幸か不幸かマリアおばあちゃんは「金のブロック」の比喩を知らなかったなら、あとで付け足すところだった。

カレンが額に手を当てて過去の記憶を探る。

レブルでは成年が15歳とされ、社会的に学業を続けない場合は結婚準備に入る習わしがある。

レブルでは早婚早産が一般的なため、マリアおばあちゃんは子供を早く産んだことで若々しい外見を保っているのだ。

ミナとレンテルもまだ若いのに…

「私は拒否できないのかい?」

「いいえ、それは不礼だから」

「分かりました。

それから着替える必要があるかな?」

「しなくてもいいわ。

初対面の時に最も自然な姿を見せた方が良いわよ」

マリアは甥の美しさに自信があった。

カレンは疑問を投げかける。

「おじいちゃんは知ってるのか?」



「はい、おばあちゃんが命令したんだ。

お姑さんと私が君に用意したのよ」

カレンは瞬きを返し、俯きながら卵羹を口に運びながら答えた。

「承知しました」

「それから朝の遺体が埋葬されてからは家政婦たちも休みになったわ。

おじいちゃんは昼間礼拝堂で、私もいないから君とユーニス先生の昼食は自分で準備してちょうだいね?」

「分かりました」

マリア姑母はテーブルに身を乗り出し、カレンの髪をかき上げてから拳を握り締めながら励ましの言葉をかけた。

「ユーニス先生はとても美しい方でヴェイン人。

家柄も貴族だし、雰囲気もいいわよ。

でも私は君に絶対できると信じてる」

あなたが持つ料理の腕と整った容姿で彼女を征服してちょうだい!

カレンはため息をつきながら答えた。

「十九歳の先生と十六歳前後の私、彼女は教師なのに私が中退生だから、きっと君を見る目は子供を見るようなものでしょう。

むしろ会ったら『おにーちゃん』と呼ばれるんじゃないかと思ってる」

マリア姑母が笑った。

「どの女も小さな馬を拒絶しないわよ」

レインブルートの方言で「小馬」という言葉はカレンが知っている「子犬」に近い意味だった。

「それに君からは若々しさを感じないわ。

特に病気から回復した後は」

叔父さんまで君より年上と見なすかもしれないわよ

「とにかく頑張ってちょうだい!」

「はい、精一杯がんばります」

畢竟おじいちゃんの命令だからね

マリア姑母はバッグを持って出て行った。

カレンが朝食を飲み終えると階段を下りて庭に出た。

今日は快晴で冬日が照らす穏やかな空気は特別な安堵感を与えた。

「ハイ、お嬢さん」

東の方からアルフレッドの声が聞こえた。

彼はインモーラス家とマーク氏家の柵を越えようとしていた。

「お嬢さん、マーク夫人にコーヒーをご馳走になり、彼女が作ったりんごパイを試食してほしいんです」

カレンはアルフレッドを見ながら言った。

「幸いマーク氏は不在だったわね。

君は危なかったわ」

「いいえ、マーク氏は家にいて私よりマーク夫人の方が熱心に迎えてくれたわ」

「そうか……それこそ危険だわ」

「お嬢さん、モリー様が昨日の春巻を絶賛してくださり、あなたにお礼を伝えたいと」

「本当に食べたのかしら?」

「ええ。

彼女は人食いでもしないわよ」

「そうね」

「それに夫人は今日家政婦全員に休みを与えると言っています」

「それなのに君はなぜここにいるの?」

「お嬢さんに何か手配が必要かどうか確認したくて」

アルフレッドが停まっている門前の限定版サントランを指しながら続けた。

「お嬢さん、私は全て準備してありますよ」

「ウェディングドレスは予約しましたか?」

「まだですが、必要なら午後に届けますよ」

「あなたは本当に暇ですね」

「はい、なぜなら私は常に貴方様の世話になる方法を考えているからです。

それにあの数学教師さんのお顔が気になりますわ。

彼女は今日どのような大チャンスに直面するのかと」

「ますます胡散臭くなってきたわ」

「壁画を描く機会なんてそう滅多にないものよ」

「今日は終わったわアルフレッド、休んでいって。

例えば貴方のラジオ局で夜の台詞を慣らしてみるといいわ」

「それなら準備はできています。

今晩の『ロージャーテストリー』の台本は料理の話です。

貴方様の調理技術は私に新たな世界を開いてくれたので、貴方様の腕前をシリーズ化する予定です

まずは簡単なものから始めましょう……冷菜」

「まだ終わらないのかしら?」

「はい、貴方様」アルフレッドが車の鍵を取り出す。

「貴方様、車を置いておいてもよろしいですか。

美しいお嬢さんとドライブするなんてロマンチックなことでしょう。

そのロマンスの濃さは車の価格に比例しますわ」

「必要ないわ」

「はい、偉大なる貴方様はそんな些細なもので演出する必要などないのです。

私が凡庸だったのでしょう」

アルフレッドが礼を述べてサンタランに乗り込んだ

カルンがため息をついた

部屋に戻るとき

マクスウェル夫人が隣の庭園に立ってアルフレッドの車を見送っていたのが見えた

そして

マクスウェル氏も階段でアルフレッドの背中を見ていた

彼のドッグマインドを無視すれば

その魅力は否定できないわね

特に昨晩電話を受け取るジェスチャーと、男アナウンサー特有の深い優雅な声色が印象的だったわ

カルンがアルフレッドのように真似した「『ロージャーテストリー』へようこそ。

放送局長カルン・インメレースです」

「ふふふ」

真似を終えるとカルンも笑った。

リビングに戻りお茶を淹れソファに座ると棺材リストを見始めた

前世の彼はお金を貯めて家を買う準備をしていた頃、常にマンション情報を漁っていたものよ。

暇さえあれば見ていたわ。

止まらなかったわ

この世では棺材を見る習慣がついた。

価格比で考えれば棺材の方が明らかに優れているからね

お茶を手にすると

「貴方は準備しないの?」

「びっくりさせたわ」

いつの間にかプーアルが頭上に這い寄ってきていた

「美しいお嬢さんがご自宅にお越しになるのに、調理上手な貴方が棺材図鑑を眺めているなんて。

つまり貴方は既に彼女と一緒に入れる棺材のデザインを選んでいるのかしら?」

「どうして私の声が酸っぱいように聞こえるのかしら」

「えっ?私?冗談でしょう!貴方様はどれだけ大きいか知っていますか?貴方様はどれだけ大きいか知っていますか?」

「健全な男性なら猫のサイズなど評価しないわよ」

「…………」プーアル

「お前は俺の目にはただの子供だ、いや、ディスも俺の目には子供なんだよ」

「うん」

「ただ心配しているだけさ。

今はふんだんな昼食を運命のために用意すべきだと思う」

「そういえばプール、ユーニスさんは祖父が決めたのか叔母さんが決めたのか?」

「知らないわ」プールは考え込んだ、「でもディスならきっと知ってるはずよ」

「あとは家と繋がりがあるのかどうかってことね。

つまりインメレース家やヴェーン人、貴族だということは?」

「ああ、そういう意味ね。

それなら繋がってるわ」

「そうなのか?」

「ええ、普洱はあまり外に出ないのよ。

ディスが出かけるときは連れて行かないし、あの晩のような状況も滅多にないもの」

「インメレース家のことは普洱も詳しく知らないわね。

ディスが知ってるのか、お父さんお母さんが知ってるのか? 誰が断定できるでしょう」

「ディスは昨晩留学について考えるようと言ったわ。

普洱はあの晩のディスを死に体の如きものだと思ったのよ」

「まあその通りさ」

「何か起こったのか、例えば神降儀式の件で?」

「ディスがお前を殺す前提じゃなければ間違いはないはずよ。

全ての関係者は情報を漏らさないわ。

ホーフェン先生も死に絶えそうになってるけどね」

「この月に何度か病危通告があったでしょう? でも毎回救われてたんだから」

そう言いながらプールは金毛犬を見やった。

「老ホーフェンが死なない限り、この愚かな犬はうちでずっといるんだろう」

「もし老ホーフェンが死んだら、この犬はうちのペットとしてずっと居候するんじゃない?」

プールは爪で目を覆いながら言った。

「あーあ、この犬が家庭のペットの文化水準を下げてるわ。

本当なら、本物の犬といる方が普洱の方が格式高いのに」

「まあまあ、前に漬けた酸菜が出来たから普洱のために酸菜魚を作ってあげようか」

「え? あなたとその方の昼食も酸菜魚なの?」

カレンは首を横に振った。

「昼食は適当に済ませるわ」

「つまり普洱だけのための料理なのか?」

「うん」

昨晩の普洱は本当に良い子だった。

普洱が家で口うるさいのはいつものことだけど、外ではちゃんと大人しく協力的になるのよ

「邪神を讃める!」

「ふーん」

茶を飲み干すとカレンは階段を上がりキッチンに入った。

普洱はコンロのそばに這い寄り調味料の小瓶をカレンの方へ押し出すように爪で動かしていた。

「こんなに魚の作り方があるのに、どこから学んだのかしら? あなたが作る料理も色々なスタイルがあるわね」

「邪神は食事の神様ですか?」

カレンは適当に答えた、「たぶんそうよ」

「じゃがいもの食べ物とは何か?」

プールが尋ねた

「お前のような奴と似てる」

「あなたはごまかしてるわ」

「実はね、食事の場合は清潔ささえ保てば味覚の違いなんて上下関係にはならないわ。

それにその上にさらに豊かさがあれば理想的でしょう。

いくらおいしいものでも飽きるものですよ」

「パートナーみたいな?」

「比喩が不適切ね。

パートナーと共に老いるのは発酵食品が熟成する過程と似てるの」

「例えばディスを子供からおじいちゃんに育てたように?」

「あなたとディスはパートナーなの?」

カレンが笑った

「ははあん、誰がそんな馬鹿なことをするか。

彼は魚を作らないんだもの」

「もうすぐ完成よ。

もう少し煮込んであげるわ。

それからコーヒーを用意しておきましょう?」

「いいえ、今日はスープで十分です」

「そうね。

じゃああなたに代わりに皮を剥いてちょうだい」

カレンが二粒のニンニクをプーへと投げた

プーは爪を伸ばし前足で軽く叩きながら困惑した様子で言った

「猫の爪で……ニンニクを剥かせる?」

「うん、あなたがこれからも魚を作ってほしいならね」

「わかったわ。

やってみる」

プーが爪でニンニクを剥ぎ始める

カレンは一方で小麦粉を準備し始めた

「昼ご飯は何にするの?」

「油そばよ。

昨日疲れたから今日は炭水化物を摂りたいの」

すると外から車の音がした

「来たわ!」

二階の窓際にプーが顔を出し、未完成のニンニクを口にくわえながら叫んだ

カレンも揉みごねしながら近づいてきた

玄関にはタクシーが停まっていた

その直後

黒いロングドレスに髪を肩まで伸ばした女性が降りてきた

「黒の服で婚活……彼女も強制されたのかしら」プーは爪でニンニクを剥きながら叫んだ「生ニンニクを用意しておいで!」

その女性はタクシー代を払った後運転手に礼を言い車が去り、こちら側の門に向かって振り返った

造化の奇跡のような整った顔立ちと高身長。

黒ドレスが引き立てる間近未来系の美しさで、幼くも見せる甘えたたずまいと一歩大人になったような佇まいが混在していた

ある人の美は称賛に値するものがある

ある人の美は言葉では言い尽くせないものがある

ニンニクを剥ぐプーが動きを止めた

揉みごね中のカレンも動きを止めた

その女性は門を開けるかどうか迷っているのか、中を見ようとしているのか。

一階に誰かいないか確認しているのか

「カレン、認めざるを得ないわ。

彼女は私が人間だった頃のあなたと比べてほんの少し劣るだけ」

「プー」

「え?」

「昼ご飯を一緒に食べよう」

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