明ンク街13番地

きりしま つかさ

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第0051話「偉大なる……邪神様」

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「リンダは宗教画の構図や表現、そしてその背負う意味にずっと魅了されていた。

彼女にとってそれは美であり、その美しさに没頭していた」

「これは神を具体化する方法だ。

天から降りたような存在が雲の上から地上へと引き下ろされるように」

「我々は彼らを人間の思考で理解し解釈できる」

カレンは頷きながらソファに座った

未完成の絵画を見つめる彼の視線には明らかに圧迫感があった。

狂気の教皇、消滅した光の神教会……前紀元から本紀元の上半期まで巨無覇的存在だった

秩序神教など新興教会は初期こそ自らの「神話」の中に光の神を登場させることで正当性を得た。

その正統性の高さが窺える

祖父からレントに送られた本の中、『秩序の光』以外は他の宗教の概説書だった。

そこには光の神の影が至る所に存在した

カレンは多くの教会資料を読み進めるうちに、光の神の印象が前世の「乾隆皇帝」に近づいていくことに気付いた

各地の民謡では乾隆が江南巡幸時にその名を賜ったとされる。

本業より小吃探訪で忙しいイメージ

この光の神も同様に神事はせず、新たな神々を昇格させたり秩序神を覚醒させたり、深淵の神を悪魔鎮圧したり大地母神と共に地裂け封じたりとあらゆる場面で関与し救済する

「太陽の下には新しいことはない」

西洋人像独立平等高学歴プラスハッピーエデュケーション、西洋人はアジア人が全て細目の目をしているという固定観念。

実際は自分が着けたフィルターが現実を歪めているだけ

個人や家庭、町村単位で見れば違いなどないのに「正統性」の概念に縛られるのは自己中心的だ

現在の大教会は威厳と信者を誇示し神権解釈や自らの真神擁護に全力を尽くすが創業時は全員が仲間割れもした。

しかし富を得てからは「装い」を学び、時代や距離があれば自然とその仮面を受け入れられる

ディスが秩序神を「娼婦の子」と評したのは二重性への皮肉だった

意識が現実に戻る

画面の中の狂気の枢機卿を見つめると、その印象がさらに深まった。

光の神教は巨大な変故で元気がなくなり衰退期に入ったが、本当の崩壊を招いたのは現在の正統教会だった。

彼らは自らの「神話叙事」に光の神の存在部分を修正しつつ、光の神教を完全抹殺し再興不可能にするため必死だった。

「君は何か感慨があるのか?」

ピアジェがカーレンの向かいのソファに座った。

「リンダもこれらの宗教画を見つめることで長時間過ごすことが多く、表情は君と全く同じだ」

「そうかね」カーレンは笑みを浮かべた。

「ただ思考するだけでも面白い。

神々は人間が作ったものさ。

その高貴な神性を剥ぎ取ると、中身はやはり人間性で満ちている」

「神々は人間が作ったもの?」

ピアジェはその言葉を噛みしめた。

「意外だね、君がそんな見方をするとは」

カーレンは自分が誤ったことを悟った。

この世界には真の神々が存在するのだ。

アルフレードやモリーさん、あるいは祖父ディスさえも証明している。

この世界には超自然的な力が干渉し運転している。

だがカーレンは先ほどの発言を撤回したくなかった。

無神論者の定義が正しいと彼の意識の奥底では信じていた。

葉公好龍でも撒き散らす子供でもなく、光の神が目の前に立っても袖を捲って脈診するような堅実な無神論者だった。

「そうだね、ある興味深いケースがあるから話してみよう。

名前は伏せておくよ」

「了解だ」

ピアジェは会話を再開させた。

次に二人が専門的な業務の議論に入った。

病状を基盤に原因分析し発展過程を考察し治療方針を検討するという、興味深い作業だった。

カーレンも前世の症例を持ち出しピアジェと共同で研究した。

ピアジェは妻が亡くなった後学校から休職しており手荒れが続いていた。

カーレンは自分が「死んだ」という設定になって強制的に専門を変更させられていた。

二人の会話は次第に深まり調和していった。

気がつけば三時間近く経っていたがまだ終わる気配がなく、腹も減ってきた。

「リンダを呼んで食事を準備させてくれないか?」

ピアジェが立ち上がろうとした。

カーレンは彼の肩を抑えた。

「僕が作ってみよう」

ピアジェが一瞬ためらった後笑顔で言った。

「いいわね」

まずピアジェ宅の電話でマリーおばあさんに連絡。

自分がピアジェ家にいることを伝え、初めてのデートなのに夜更かししないように注意を促した。

相手側は損得勘定するわけでもなく、むしろ逆に見下すかもしれないが。

電話を終えるとカーレンはキッチンに入った。

面倒なので料理はせず卵焼きを作り大きなサンドイッチ二つを作った。

さらにピアジェの冷蔵庫から牛乳一ケースを取り出した。



ふたりはソファに向かい合ってサンドイッチを食べながら先ほどの会話を続けた。

話が盛り上がると、ついグラスを上げて牛乳で乾杯する。

気がつけば午前二時になっていた。

皮ヤジェは図書館で一冊の資料を探し求め、カレンはデートに明け方まで費やした。

ふたりは最初ソファに座って話していたが、次第にそれぞれソファに横になりながらも会話を続けた。

最後には誰かが相手の返事を待てなくなり、ついでに自分も目を閉じて寝てしまったようだ。

ぼんやりと意識の中では、

カレンは身辺が冷たくなった気がして、毛布を探そうとした。

ソファにあったはずなのに触覚が当たらず、我慢できずに目を開けると、階段の上から人皮のようなものが「下りてくる」のが見えた。

カレンはその存在を認識したが、特に恐怖を感じなかった。

最近こういう体験が多いせいもあれば、皮ヤジェとは親しい関係にあるため、自分の身近な人の死体には抵抗感がないのかもしれない。

彼は声も出さず、その姿を見つめていた。

すると、目の重さに耐えられなくなりまた眠りについた。

しばらくして誰かが軽く肩を叩いて起こすと、

「カレン様、ここでは風邪ひきそうですね。

客室は準備ができております」

リンドアの穏やかな笑顔が見えた。

向かいのソファに皮ヤジェの姿はなかった。

カレンにとってリンドアが自分の中の人格か異魔の存在かは関係ない。

重要なのは、彼女が自分を傷つけようとはしないという確信だった。

その理由は明確ではなかったが、何となく信じていた。

「分かりました」

体が冷え切っていたので、客室に移動した。

リンドアが先導し、二階の部屋に入った。

「こちらです。

ベッドは準備してあります」

「ありがとうございます」

カレンは服を脱ぎベッドに横になり、毛布で身を包んだ。

隣には茶とお菓子のトレイが置かれていた。

「お茶はこちらに置いておきます。

夜中に喉渇いたらどうぞ」

「承知しました」

リンドアが部屋を出てドアを閉めた後、カレンは体勢を変えながら眠りについた。

深い眠りの中では、遠くから古い音楽と人間の声の歌い上げが聞こえてくる。

その響きは薄れかけていて、眉をひそめれば消えるほどだった。

これは夢ではなく、呼びかけのように感じられた。



砂浜を歩くような気分だった。

遠方に篝火パーティーをしている人々がいる。

参加するか、引き返すか、あるいはずっと離れた場所で寝続けるか。

カレンは歩いていった。

彼はまだ感じ取れない敵意を感じていたからだ。

むしろ招き入れるようなものだった。

ピアジェが自分にコーヒーを勧めてくれたように。

真摯で自然な出来事だった。

すると、自分が暗闇の場所に立っていることに気づいた。

「うおーっ!」

と叫び声と共に、向こう側に無数の火把が点滅した。

はい、火把だ。

向こう側の光源のおかげで空間の立体感が一気に現れた。

崖だった。

カレンは一人きりでこちら側に立っていた。

人々と火把は全て向こう側にあった。

両サイドの山々は高く、星を見上げることはできなかった。

ここは峡谷の中か、あるいは山体の中にいるのかもしれない。

すると、向こう側の崖壁に無数の火把が増えていく。

その間には深い谷間があり、そこから蛍のような光が昇ってきていた。

穏やかで神秘的な光を四方八方に広げていた。

カレンは向こう側の崖壁に裸身の奴隷たちを見た。

彼らは斧と彫刻刀を持って岩を削り出していたり、石を運んでいたりした。

紫の長袍を着た人々もいて、彼らは刷毛を持ちながら顔料で色を塗っていた。

谷間の蛍が一定の高さまで昇ると、向こう側の崖壁にカレンの視界の中に色彩が現れた。

最下部には足があった。

その上には太腿、膝がある。

その足の横には「野獣の死骸」が転がり、さらに無数の人間が頂礼を捧げていた。

野獣の死骸も人間も非常に小さく、巨人の爪先ほどのサイズだった。

これは進行中の作品だ。

宗教画だ。

そのような高さを持つ存在は神々しかいない。

だからこれは「真神が地上に降臨する」という壁画なのだ。

「うおー…………えっ…………」

リズムのある叫び声がまた響き渡った。

人々は統一されたリズムで叫び始めた。

紫の長袍の人たちはそれに合わせて踊り出した。

「うおー…………えっ…………」

奇妙で抑揚のある音が谷間に広がり、その回音は新たなメンバーのようにこの旋律を強化した。

「ぱち!」

「ぱち!」

「ぱち!」

人々は足で地面を踏み鳴らし、統一された拍手を始めた。

古風なダンスを踊り出したのだ。

次の瞬間、彼らは全員が一斉にこちら側のカレンが一人きりで立っている深淵の方へと向き直った。

カレンは混乱した。

彼は暗闇の中で黙って観察する「外見者」だったはずなのに、今や注目を集める存在になっていたのだ。

しかしすぐに気付いた。

自分は勝手に思い込んでいただけだったのだと。



深い闇から巨大な女性の頭顔が現れた。

彼女は巨人のように昇り立つように見えたが、実際にはただ深淵に蹲んでいたものが立ち上がっただけだった。

その髪は一本一本の蔓のように伸びていて、光輪が一輪一輪と流動していた。

先ほど飛び散った蛍は彼女の身体の一部だった。

完全に立ったとき、

背後に立っていたカルンは、偉大な存在による無形の圧迫を感じた。

それは直接的な小ささであり、冷たい精神的圧迫でもあった。

書物から読むと、古代人が神々を崇拝するのは封建的で未開化に見える。

だがその巨大な姿が眼前に現れたとき、膜拜したくなる衝動は直感的に湧く。

膜拜とは景仰や尊崇ではなく、

逃げ出す勇気がないときの唯一の選択肢だった。

彼女の左手はゆっくりと持ち上がり、左手には池が存在していた。

その池には様々な色が渦を巻いていた。

右手も同様に持ち上がり、右手には巨大な変色羽毛があった。

右手で左手を探り始めると、

無数の色彩が散らされ、飛び散った蛍は再び群れとなって舞い始めた。

右手はさらに崖壁(彼女の体高を超える)を触り始める。

壁画の内容はより具体的に詳細化されていった。

男性神の姿がその「揮洒」によって徐々に形を成していった。

彼女は神ではないが、壁画の作者である。

同時に神でもある。

なぜなら奴隷と紫袍の人々が膜拜していたからだ。

神という名は統一された呼び名だ。

モルフ氏の書斎で見たミルズ教の女性信者と同じように。

海島の売春婦が海神の恋人ミルズを信仰するように、壁画の職人や奴隷たちは自分たちの神を作り出すこともできるはずだった。

人々は地震災害を恐れて大地母神を呼び出し、

出航時に風浪を避けるために海神を呼び出し、

闇を追放して光を求めるため光明神を呼び出し、

秩序と規則を願うから秩序神を呼び出す。

神は必要とされるときには現れる。

最後に、彼女は崖の頂上に太陽を描いた。

その光が万丈の輝きとなって空谷全体を包み込んだ。

カルンは反射的に顔を腕で覆ったが、

目を開けるとベッドルームの窓外には眩しい日差しがあった。

彼はまだピアジェ家の一室に横たわっていた。

「ふう……」

それは恐怖や驚愕ではなく、感動的で壮大な夢だった。

カルンは冷えたお茶を手近に置いたカップから大口で飲んだ。

そして、

固まった。



彼は天井の壁に目を向けた。

普通の照明器具ではなく、むしろその上には何らかの作品が存在するように見えた。

台灯だけが部屋を照らす暗さの中で、昨夜気づかなかったことに気付いた。

「あれは夢の中の深淵峡谷と同じだ」

壁に描かれたのは崖の裂け目だった。

しかし壁面には「真神壁画」や紫袍の画師たちの姿がなく、巨大な女性像も存在しなかった。

皮相的な解釈だろうか?

「昨日は眠りながらその壁画を見ていたのか?」

カレンがベッドから起き上がり服を着る。

ピアジェも髪型を整えながら出てきた。

「シャワーが必要ですか? リンダは私の体を洗ってくれたわ」

「手早く済ませます」

「当然よ。

リンドラはゲストには決して失礼しないの。

私が何度も言っているように、我が家に来る友人は特別なのだから」

「そうです」

カレンが水を流す音が盥洗室で響く。

新しい歯ブラシと折りたたまれたタオルがあった。

「昨日はよく眠れましたか? 長時間話しましたね」

「はい」

「久しぶりにこんなに楽しい会話をしたわ。

あなたの考え方は私の知っているよりも先進的だったのよ」

カレンが歯を磨く最中に、夢の中の巨大な女性の手が脳裏に浮かんだ。

「グランドパピルスの本で読んだ小教団のことだ」

夢の中で感じていた違和感は、その教会の存在と関連していた。

壁画を描く職人たちが信仰する「壁神教」のことだった。

彼らは神話を記録する史官のような存在だった。

洗顔を終え、タオルで顔を拭う。



カレンは鏡の前で、背後に伸びるピアジェに向けた。

「ピアジェ、リンダは本当にベリーティスト教信者なの?」

「えっ? どうして急にそんなことを聞くの?」

「なぜならベリーティスト教以外にも、火葬を主張する小さな教会がいくつかあるからだ。

例えば壁神教もそうだ。

彼らの信者は灰を壁画の色材にするのが通習だからね。

その灰は神との霊的交流をより深く表現できると信じているんだ」

「そうか……」

ピアジェは頷いた。

「リンダはベリーティスト教信者よ」

「ああ」

二人が顔を洗い終えると、一階のテーブルに朝食が並んでいた。

ナイフやフォークも用意されていて、おそらく昨晩牛乳を飲みすぎたことを知っていたからだろう。

水だけが入ったグラスが置かれていた。

カレンとピアジェは席につき、朝食を食べ終えると、カレンがナイフとフォークを置く。

「リンダに感謝します」

「ふふん」ピアジェが笑う

「私は帰ります」

「えーっと……ここにプレゼントの箱があるわ。

リンダが用意したあなたへの贈り物よ。

受け取って」

「はい、ありがとうございます」

「じゃあ送る必要はないわ」

「君はいつもそう言うのね。

本当の友達ならそんなことはないわ」

カレンがプレゼントを受け取り車に乗り込むと、シートベルトを締めた。

エンジンを掛ける直前、

カレンは一瞬ためらったが、

結局プレゼントを開けた。

中には色鉛筆が入っていた。

「これは重い贈り物だ」

カレンはしばらく呆然としていた

その下に手紙があった。

カレンが取り出すと、封筒の裏面には『尊敬なるカレン様』と書かれていた。

「私は長らく私の夫をこんなにも喜ばせる機会を見たことがありませんでした。

あなたが彼の友人であることを心から感謝いたします

本来はあなたへの絵画という形で真摯な贈り物を作ろうと考えていたのですが、残念ながら私は3時間も絵具室に座っても筆を執る気にはならなかったのです。

なぜならば、あなたの人生の画筆はあなた自身の手にあるものであり、誰かが代わりに描くべきものではないからです

私ができることは新しい色鉛筆をお贈りすることだけでした

最後に、あなたが私の夫と友人になったことへの深謝を申し上げます

偉大なる邪神様」

カレンはしばらく手紙を見つめていた。



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